オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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本人達より周囲が早く気付く(あるある)

 

 

 ことの次第をアルシェから聞いた『フォーサイト』の面々は、念のため、エオンが勤めているという魔道具店について調べた。

 目的はわからない、予想もつかないが、もしも彼がわざとアルシェの家の近くに引っ越してきたのだとしたら……という懸念もあったためだ。

 

 もっとも、今言った通り、そうだとしても目的は不明。

 アルシェの実家……フルト家が貴族だった頃ならまだしも、今のアルシェと仲良くなったところで、言っては悪いが特に旨味はないのだ。

 それこそ、魔法詠唱者としての腕前でさえ、エオンが大きく勝っているのだから。

 

 そして、簡単に調べてみた結果としても、『どうも偶然らしい』という結論に落ち着いた。

 

 魔道具店自体は、帝国にもう何十年も前からある『老舗』と言っていい有名店だった。なんなら、ヘッケラン達も名前くらいは知っていたくらいである。それなりの高級店であるため、行ったことはなかったが。

 

 そしてエオンが……新しい用心棒兼技術者が来たのも、本当にごく最近。

 

 店が手配した家……アルシェの家の近所の邸宅を買ったのも、ごく最近。

 仲介した口利き屋が勧めた候補の中から選んだらしく、狙ってアルシェの家の近くに来たという可能性もこれで低くなった。

 

 確実にそうと決まったわけではないが……どうやら本当に偶然だったようだ。

 事実は小説よりも何とやら。ヘッケラン達は、ひとまず『そういうこともあるんだなあ』くらいに考えて納得することにした。気にしすぎても、こちらが気疲れするだけだと考えて。

 

 

 

 それからしばらく、エオンは特に怪しい所もなく、普通にアルシェの家の『ご近所さん』として暮らしていた。

 

 アルシェから見たところ、エオンが自宅と店舗のどちらにいるかは半々のようだ。

 店舗で用心棒兼技術者として仕事をしている時もあれば、自宅にこもって何かしている――おそらくは工房で、マジックアイテムの制作や研究だろう――時もある。

 

 時々気晴らしに散歩をしている様子を見ることがある。以前行った公園地がその散歩コースの1つのようで、アルシェやその妹達もたびたびそこで会うことができた。

 あの美味しいお菓子をくれた人ということで、妹達からもエオンは好かれていて、散歩で会うと『お菓子の人!』と嬉しそうに駆け寄っていく。

 

 エオン本人が嫌がらない、邪険にしないこともあってか、妹達はあっという間に懐いてしまい、時々ベンチに座るエオンにじゃれついていったり、『私達とちがーう』などと言って、エオンの長い耳を触ったり引っ張ったりしていることもあった。

 苦笑しながら『やめてねー』とやんわり引きはがすエオンに対し、アルシェは毎度肝が冷える思いである。エオンが気さくだから許されているものの、彼はアルシェよりもはるか高みにいる強大な魔法詠唱者なのだ。怒りを買ったらどんなことになるかわかったものではない。

 

 何かあるたびにアルシェが割と必死で謝っているのだが、エオンは『いえいえ』と特に気にしていない。

 

 曰く、母親に似て(・・・・・)子供は割と好きらしく、このくらいで気分を害することはないから安心してほしい、とのことだ。

 むしろエオンとしても、魔道具の作成やら何やらで行き詰っているときのいい気分転換になると言って、歓迎して遊んであげているくらいだった。

 

 いくらかは建前かもしれないが、そう言ってもらえてアルシェはホッとしていた。

 エオンに遊んでもらって楽しそうに、嬉しそうに妹達が笑っているのを、幸せそうに眺めている……というのが、最近のお決まりの風景になりつつあった。

 いつしかアルシェは、エオンに会う時、最初のうちほど緊張することはなくなっていった。

 

 人間、慣れる生き物だということなのか……相変わらず感じ取れる力の奔流に身をこわばらせることこそありつつも、普通に会って話すこと自体は、もう、彼女の中では日常の一部だった。

 

 

 

 そんなある日のこと。

 

 何時も通りに、と言っていいくらいに、散歩の途中で会って話すのが当たり前になっていた2人(時々4人)であるが……雑談の最中、エオンがアルシェにこう切り出した。

 

「そうだ、アルシェって一応今、本業は請負人(ワーカー)なんだよね? あの時に会ったあの4人がお仲間、って感じで」

 

「? そうだけど……それが?」

 

「もしアルシェ達に依頼をしたい場合って、窓口が誰とか決まってる?」

 

 不意打ち気味に飛んできたそんなセリフを聞いて、びくっ、と身を震わせて反応してしまうアルシェ。

 心穏やかな時間に、少なからず荒事やら何やらが絡む『本業』の話を持ってこられて驚いた。

 今まで一切……最初に会った時以外は、そういったことを口にしてこなかったエオンの口からだったので、特に。

 

 アルシェが無意識に、エオンと、ウレイリカやクーデリカと過ごす時間に、ワーカーとしての自分を持ち込むことを避けていたため、というのもあるが。

 

 しかし、聞かれたのならば答えないわけにはいかない。

 

「一応、それでもかまわない。普段は依頼を持ってくるのは、ヘッケランかロバーだけど、最終的にはいつも、4人で話し合って受けるかどうか決めることになるから。でももちろん、仕事として私達を雇うなら、報酬はもらうけど……」

 

「それはもちろんわかってるよ。僕……というかうち(・・)としても、無報酬で誰かに仕事を頼むなんてブラックな真似はしようとは思わないからさ。そんなことしたら僕が怒られちゃうし」

 

 言いながらエオンは、懐から――と見せかけてアイテムボックスから――取り出した紙とペンを使い、さらさらと何か書き記していく。

 横からアルシェが覗き込むと、どうやら今言った、『依頼』したいことの内容のようだ。

 

 ごく簡単にまとめられたそれを、エオンはほんの数十秒ほどで書き終え、アルシェに渡した。

 

「これ持ってって、依頼を受けてもらえるかどうか検討してもらえるかな? もし興味あるなら、後日店で、詳しい話を聞かせてもらえると思うから」

 

「……わかった。話してみる」

 

 言いながら、受け取った紙に目を通すアルシェ。

 書いてある内容は、なるほど、自分達請負人(ワーカー)に向いてそうな内容の依頼だった。

 依頼人は、今の言い方からも察することができたが……エオン個人ではなく、彼が勤めている魔道具店の方。『おおよそ』と前置きして書かれている報酬額は……かなり魅力的な数字だった。

 

 近いうちに返事をすることを告げて、その日は別れることになった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 それから数日後。

『フォーサイト』4人が集まっての打ち合わせで話し合った結果、エオンからの……もとい、魔道具店からの依頼を受けることに決まった。

 

 依頼内容は、試作品のマジックアイテムや魔法の武具のテスター。

 今度、店で商品として売り出すつもりで現在開発中のアイテムを、実際に身に着けて、あるいは使ってみて、その感想をまとめて提出するというもの。

 

 期間は、今回は(・・・)一週間。

 帝都を出てどこかしらに赴き、現地にいる野生のモンスターと戦って実際に使って性能を試す。

 

 なお、もちろん依頼の過程で知ったいかなる商品情報や技術に関することについても守秘義務の対象となるため、他言は許されない。

 

 請負人(ワーカー)に依頼する事柄としてはかなりシンプルで良心的、ないしまともな内容であると言える。以前にも述べた通り、ワーカーへの依頼は、違法すれすれ、あるいは違法そのものだという内容のものもあるのだからして。

 逆に、これについてアルシェが持ち込んだ時、ヘッケランは『こんなぬるい依頼でいいのか?』と裏を疑ったくらいである。もちろんアルシェを責める意図はないが。

 

 最終的には、報酬が非常に魅力的だったということもあり、うけることに決まった。

 

 そして、その当日。

 

「それじゃ、今日はよろしくお願いしますね」

 

「おう、任せてくれ。しかし、妙な縁もあったもんだな。まさかこうしてまた、しかも今度は依頼するされるの立場で会うことになるなんてよ」

 

「そうですね。まあ、僕としては腕利きのワーカーチームに縁があって助かったと思いましたが」

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。なら、期待を裏切らないように頑張らねえとな」

 

 軽い調子でそう返しつつも、油断はせず、笑顔の下で逐一エオンの反応をうかがいながら話すヘッケラン。

 請負人(ワーカー)として依頼に取り組むときにはいつも徹底していることだ。無法な依頼も多く受けるだけに、時には依頼人から思わぬ悪条件を突きつけられる、などということも起こりうるのがこの仕事のつらい所である。

 たとえ、チームでのかわいい妹分が持ち込んできた依頼であっても、それは変わらない。

 

「ちなみに、興味本位なんだが……聞いてもいいか?」

 

「はい、何でしょう?」

 

「何で俺達だったんだ? 別に何か後ろ暗い事情があるわけでもないようだし……普通に正規の冒険者とかに依頼してもよかったと思うんだが」

 

「あ、大丈夫です。そっちはそっちで依頼してるんですよ。ただ、なるべくいろいろな立場の人に使ってもらったデータがほしくて。皆さん以外にも……冒険者とか色んな人に頼んでます」

 

「ああ、なんだそうなのか。となると、俺達以外のワーカーにも?」

 

「いえ、ワーカーは皆さん達『フォーサイト』だけですね。今のところは」

 

 雑談のように軽い調子で色々なことを聞き出し、確認していくヘッケラン。

 エオンの方も、特に隠そうとかごまかそうとしている様子はなく、聞かれたことに1つ1つ普通に答えてくれるので、依頼自体に不審な点は特になさそうだ、とヘッケラン達は見つつあった。

 

 その、途中。

 

(……ん?)

 

 会話の最中、ところどころで……エオンの視線が、ヘッケランの斜め後ろにずれる時があることに、ヘッケランは気づいた。

 そちら側にいるのは、イミーナと……アルシェだ。

 

 なんとなく気になって、ちらっと横目でそっちを見る。不自然にならないように、立ち位置をわずかに変えて……目の端でそちらを見られるようにして。

 

 こう言ってはなんだが、アルシェは普段、仏頂面で気難しそうに構えていることが多い。

 

 彼女の家の『事情』を知っている今であれば、そんな苦労の中に置かれていればそういう表情になっても仕方ない、と思えるが。ふとした拍子に家のことや借金のこと、いつまでも変わらない両親のことが頭に浮かんで、眉間にしわが寄ってしまう、と前に言っていたし。

 なお、彼女が貴族だった頃、帝都の魔法学院に通っていた頃はどうだったのかは知らない。彼女の仏頂面が、元々のものなのかどうかも含めて。

 

 そのアルシェが……ほんの僅か、普段の彼女を知っている自分達だからこそわかる程度にではあるが……口元に笑みを浮かべていた。

 視線の先には……自分が今話しているところである、依頼人(エオン)が。

 

(……ん? んんん?)

 

 反射的に、その横にいるイミーナに目をやる。

 彼女もちょうど、横にいるアルシェの表情の変化に気づいたようで、『んんん?』な顔になって、目だけを動かしてエオンとアルシェを交互に見ているところだった。

 そして、これまた同じことを考えたようで、ヘッケランと目が合う。

 

(え? これってアルシェもしかして……?)

 

(いや落ち着け、まだそうと判断するのは早い)

 

 ただの『仲間』よりも幾分親しい間柄にあることを抜きにしても、驚くほど正確にアイコンタクトで情報をやり取りした2人。全く同時に、こくり、とうなずいた。

 そのもう1つ横で『?』になっているロバーデイク(位置が悪くてアルシェの表情が見えない)が、情報を共有してもらえるのは、もう少し後の話であった。

 

 どうやら、この依頼の最中に確かめたい、気になることが……もう1つ増えてしまったらしい。

 ヘッケランは、降って湧いた面白そうな疑惑ないし展開にも気を向けながら、今日から一週間を楽しもうと心に決めるのだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 依頼自体は何も問題なく進んだ。

 ヘッケラン達は、事前に聞いていた通り、帝国領内のあちこちを回りながら、そこにいる野良のモンスター達と戦い、貸与された武器やアイテムを実際に使って性能を確かめていった。

 

 そのどれもが、それなりにベテランと呼べるような経歴を持っている彼らであっても、驚くような性能を持っていた。

 

 敵の魔法攻撃に対する抵抗力が大きく上がるタリスマン。

 敵の頭にクリーンヒットさせると、アンデッドだろうと確率で『気絶』するメイス。

 同じアイテムを装備している者同士以外には声が聞こえなくなる耳飾り。

 飲むと、一定時間体力が回復し続けるポーションや、一定時間疲労しなくなるポーション。

『武技』を使うための集中力や精神力の回復を早めるバングル。

 弦を引いている時間が長いほど『ため』ができ、威力が上がる弓。

 外がどれだけ寒くても、雨風が強くても、中の空間を快適な温度に保つ野営用テント。

 作った料理の温度を一定に保つ保温機能付きの鍋。

 水を入れて起動させると数十秒でお湯を沸かせるマグカップ。

 生ごみを放り込むと自動的に脱水の魔法で乾燥させ、体積を減らし悪臭も大幅減できるごみ袋。

 

 予想以上に多くの物品を試すことになり、『どこにこんなに持ってたんだ!?』と驚いてばかりのフォーサイトだったが、『容量と重量を無視して大量に収納できる袋』というアイテムを一緒に紹介された。そんなのもあるのか、しかもそれも作ったのか、と重ねて驚いた。

 

 試した中で、ヘッケランが特に気に入ったのは、攻撃するたびにわずかだが自分の体力や疲労度を回復できる剣だった。特殊な魔法を込めてあり、相手の生命力を吸収しているとのことだ。

 ただし、『生命力』を吸収している、奪っているわけなので、それを持たないアンデッド相手では効果を発揮しない、という弱点もあったのだが。

 

 手に持つ2本のうちの片方をそれに持ち替えて戦っていた時には、普段よりずっと疲れにくい、いつまででも戦い続けられそうだと子供のように興奮して感動していた。

『よろしければ店でお買い求めくださいね』とエオンに言われ、同時に、発売時にはこのくらいの値段になる見込みだ、と額を聞かされたが……さすがに相応(・・)の額だったため、とても手が出ないと肩を落としていたが。

 

 イミーナは、弓矢は自分が使い慣れたものが一番だと言っていたが……野営の際に快適に過ごせるテントや寝袋、調理器具などをむしろありがたがっていた。

 遠征で人里から離れた山や森の中、遺跡や洞窟に入ることもある身の上だが、そういった場所で快適に過ごせて、心身ともに疲労を残さず次の日の朝を迎えられるというのは、彼女には非常に魅力的に思えたそうだ。

 

 イミーナの場合、野伏(レンジャー)として一党の目や耳となる場面が多く、また弓矢による狙撃などにおいても、集中力が重要となる場面は多い。楽をしたいという感情もなくはないが、チーム全員の安全を担うものとして、ぜひとも持っておきたいアイテムばかりだった。

 

 神官戦士であるロバーデイクは、ヘッケランと同様に前衛もそれなりにこなすものの、やはりその重要な役割は仲間の支援や回復である。ゆえに、それらを補助するアイテムを魅力的に思った。

 特に感動したのは、『集団標的(マス・ターゲティング)』の効果を持ったロザリオだった。

 これを媒介にして魔法を使うと、その名の通り、本来なら単体を対象とする『軽傷治癒』や『敏捷強化』などの一部の魔法や技能を、一度に複数対象に同時に使うことができる。

 

 対象を増やした分、魔力などの消費も大きくなるのだが、それでも短時間で多くの味方を強化したり癒したりできるというのは魅力的だった。しかもその魔力の消耗も、ロザリオの効果である程度軽減してくれると来ている。

 ぜひとも欲しいと思ったロバーデイクだったが、店売りでの値段を聞き、ヘッケランが欲しがった剣以上の高値――効果を考えれば当然ではある――に、苦笑して肩を落とすしかなかった。

 

 そしてアルシェは、やはり魔法詠唱者としての力を高める装備の数々に目が行っていた。

 一定時間魔法の威力を高めるポーションや、詠唱速度を速めるアクセサリーなど……あるかないかで依頼における生存率が大きく変わってきそうなレベルの品々に、まるで玩具を目の前にした子供のように目を輝かせ、『本当に使っていいの!?』と、興奮を隠しきれない様子で。

 

 どれもこれもお気に召したようだったが、特に気に入ったのは、身に着けるだけで低位の魔法を使えるようになるアクセサリーの数々だった。言ってみれば、一度限り魔法を発動できる『巻物(スクロール)』の強化版のようなアイテムである。

氷球(アイスボール)』や『電撃球(エレクトロスフィア)』、『次元の移動(ディメンショナル・ムーヴ)』や『天使召喚(サモン・エンジェル)』など、アルシェ自身が使えない魔法でも装備するだけで使えるようになる。

 ただし、自分が覚えていない魔法は通常よりも魔力を消費する上、自分が到達している位階以上の魔法を使うことはできないという制約があるが。

 

 それでも、戦闘中に取れる手段が増えるというのは魅力的極まりないものであるし……使っているうちにその感覚を覚えて、自分が習得するための『経験資料』にすることもできる、というのが何より魅力的だった。

 実際アルシェは、それまで使えなかった、個人単位かつ短距離限定の転移魔法『次元の移動』を習得している。アクセサリーに頼って何度も使っているうちに、『こういう感じで使うのか』という感覚を頭と体で覚え、アクセサリーなしでも成功させたのだ。

 彼女にとって、この依頼を受けて本当によかったと思える瞬間だった。

 

 なお、これらのアイテムにはもう一つ、繰り返し使うと、刻み込まれている術式が劣化・摩耗していき、やがて使えなくなってしまう点だ。

『繰り返し使える』という売り込み文句に早くも反する点が露呈してしまったわけだが、実際に使っていたアルシェに言わせると、

 

「そのくらいの『限界』はあってしかるべき。全然気にするようなことじゃない。『巻物』以上に、自分の魔力の限り新しい手札を使える装備というだけで破格」

「それに、私のように『感覚をつかんで習得する』ケースもあるし、割り切って『新しい魔法を習得するためのきっかけ』になる点を強みとして売り出す手もある」

「なんなら、『レンタル』という扱いで値段を抑えて貸し出すのもいいかも。今言った手順で『習得』した場合、アクセサリー自体はその魔法詠唱者には無用の長物になるから。……その人の方針や、習得する能力、向上心によるけど」

 

 そう聞いたエオンは『なるほど!』と目から鱗が落ちたような表情になり、しかし次の瞬間には嬉々としてアルシェのアドバイスを形にするべく、メモを取り始めた。

 店に帰った後、運用について検討するのだろう。

 

 それ以外にも、エオンは依頼の間、同じ魔法詠唱者であるアルシェとのやり取りが一番多かった……というように、ヘッケラン達には見えていた。

 そしてアルシェも、一見するとわかりにくいものの、いつもの仏頂面で無機質な態度とは違い、よく笑い、感情を表に出しているように見えた。

 

 となれば当然、こんな風に思えてしまっても仕方がないわけで。

 

「ヘッケラン、ロバー。アルシェと彼って、やっぱり……?」

 

「どう見てもそうだよな……いやでも、表面上は普通に、依頼人とワーカー……あるいは、仲のいい知り合いみたいにやり取りしてるっぽいぜ。どっちも」

 

「隠そうとしている……いや、違いますね。おそらく、2人ともそこまで意識、ないし自覚はしていないのでは?」

 

「あぁ、ありそうだな……エオンの方はともかく、アルシェは理屈っぽいとこあるから、自分で自分がどう思ってるとか、どうしたいとか、態度や行動で示すの苦手かも知れねえ……」

 

「……まあでも、急かしたりはやし立ててもいいことないし、見守っていてあげましょ」

 

 3人の視線の先で、また今もアルシェとエオンは、今回試したアイテムの使い方や改良案について、意見を述べあっていた。

 なお、距離が近い。1つのアイテムを2人で覗き込みながら話しているので、仕方なくはあるのだが……自分達『フォーサイト』の仲間でもあんな風に近づいて話したりはしないのでは、と思うくらいに近い。気づいていないのだろうか、2人とも。

 

 と思っていたら、不意にエオンが『ん?』とでもいうようにばっと後ろを振り向いた。次いで、左右や上空に目を向ける。

 もしや敵か、と思ったヘッケラン達が、同じようにして周囲を警戒するが……特に何も出ない。

 

「……すいません、勘違いだったみたいです」

 

「はっはっは、いやいや、何もなくてよかったさ」

 

 笑って気にしない旨を伝えるヘッケラン達だったが、エオンは謝りつつも、今一つ、納得できていないような表情になっていた。

 

(……今確かに、見られてる感覚が……もしかして……)

 

 

 ☆☆☆

 

 

 同時刻。

『ニューコロロ空中庭園』内部、『煌皇郭』の一室にて。

 

「ちょっとちょっとちょっとぉ……なーによコレ、エオンってば! なんだかおもしろいことになってるんじゃないの!?」

 

「ど、どうかしたんですか? ラストにゃんにゃん様?」

 

「ああ、ごめんねマーレ。いやあ、暇つぶしに、帝国で頑張ってるうちの子の様子見ようかなって思って、『遠隔視の鏡(ミラーオブリモートビューイング)』で見てたんだけど……何よ何よ、なんだかよさそうな雰囲気の女の子と一緒にいるじゃない!」

 

 ラストは『聞いてないぞー!』などと声を上げつつも、怒っているとかでは全然なかった。

 むしろ、喜んでいる。大歓喜している。面白がっている。

 

 400年前にこの世界に降り立って以来、エオンをはじめとする幾人もの家族を、『神人』を産み落としてきた大妖怪が、気まぐれに覗き込んだ鏡の中の……1人の不憫な女の子に、ロックオンした瞬間である。

 

「盛り上がって参りました! 『伝言(メッセージ)』! カリン、聞こえる!?」

 

『ええ、聞こえてるわよ。どうしたの、何か用事?』

 

「近い将来私の『家族』になるかもしれない女の子発見! 先手を打ってどんな子か調べておきたいから、情報部から何人か選んで押さえといて! いつでも動けるように!」

 

『はいはい。全くもう、声だけでわかるくらいに生き生きして……まあでも、将来『身内』になるなら身辺調査は必須だものね。わかったわ。さしあたって……エイダの体が空いてたわね』

 

「おお、凄腕女スパイ! まあそのへんは任せるよ、よろしくねー!」

 

 

 

 

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