これは、少し時を遡った時期。
アルシェ達『フォーサイト』と、ラストの子供であるエオンが関わりを持ち、後に婚約する2人が徐々に絆を育んでいっていた……ちょうどその頃に、舞台裏で起きていた出来事である。
【異世界転移400年目 ㎗日目】
突然だが、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国は、ここ数年、毎年戦争をしている。
毎年のようにではなく、毎年決まった時期に戦争をしている。
毎度、帝国側から何かしらの理由をつけて王国に宣戦布告がなされ、王国がそれに応じる形で……カッツェ平野を戦場として、両国の軍がぶつかっているそうだ。
そして適度に戦った後、適当なところで双方撤退し、なあなあで終わりになる。そのまま、敵対関係にあり続けてもう何年にもなるんだってさ。
なんでこんなことをしてるのかと言えば、帝国のすごーく気の長い作戦によるもの。将来的に、王国を滅ぼして併合し、自分達の国にしてしまうためのね。
前提知識として、王国は戦争の時とか、有事の際には平民を徴兵して兵隊にして戦わせる……いわゆる『徴兵制』を取っている。
そのため、普段から訓練とかしてない素人が、貸し与えられた武具で形だけ整えて『行け!』って言われて突っ込んでいくわけで……ぶっちゃけ、とても戦力にはならない。
一方、帝国はきちんとした専業兵士を抱え込み、普段から訓練させて、さらにカッツェ平野やトブの大森林で魔物相手に戦わせて実戦経験も積ませている。
王国の『武装市民』とは比べられないくらいに、きちんと戦力になるように仕上がっている……というのは、言うまでもなくわかるだろう。
けど、ここで問題になってくるのは、個々の兵士の強さ以上に……王国の兵士が、普段は平民、さらにその多くを占めるのが『農民』だってことなんだよね。
彼らはその身分の通り、本来は農作物を作って税として国に納める(その多くは悪徳貴族のやばい税率で)、国の食糧庫を支える縁の下の力持ちなわけだが……そんな農民が、毎年この時期……収穫前の大事な時期に、戦争に行かされて大勢死ぬことになるのだ。
そうすると、彼らの損失は王国の生産力そのものを直撃する。農作物を収穫できず、税として集まる食料は減る。
また、翌年以降の作付けにも影響が出る。人手が減ってるから、作付けの時点で前年より規模が小さくなってしまう。
そして、その年にもまた、収穫前の時期に戦があって、人が減って……
これを何年も繰り返した結果、徐々に王国の生産能力はボロボロになってきている。
しかし恐ろしいことに、王国の愚かな貴族達は、これに気づいていない。
いや、生産量が減ってることには気づいてるんだけど、それが『危機的状況』だとわかってないのだ。
農民達に対し、『生産量減らすな! もっと働け!』って鞭を入れるだけ。働き手が減ってしまったことに対する補償も何もなく、それどころか目を向けることすらせず、ひたすら搾り取ることしか考えない。
……これ、帝国以上に王国の敵は自国の貴族連中だってのがよくわかる図だよなあ……あらためて。
なお今年は、『ゲゲル』のおかげでクズ貴族が大量に死んだので、そういう無法統治を働くバカは去年よりも減ったわけだが……それが気休めにもならないくらい、もう王国はボロボロである。
そもそもからして、帝国から今年も届くであろう宣戦布告をどうにかする方法はないわけで……結局今年も同じように、戦争に付き合って国力を削られることしかできないわけで……。
歴代の王と貴族達が積み重ねてしまった、数十年分の負債による、悲しいほどの無力。
おそらくはもう数年後にまで迫っている滅びの時を、座して待つしかない。
……まあ、一応それを回避する策は用意してあって、その準備を着々と今進めてるんで……楽しみにしててね。あと数か月くらい。
ま、それも今回の戦争には間に合わないんで、今年もいつも通りやってもらうことにはなるんだけどね。
【異世界転移400年目 ㏈日目】
今日、王国と帝国の戦があった。
ナザリックではそれを、撮影用のしもべを飛ばして撮影・中継させて、『円形闘技場』で鑑賞会開くんだってさ。この世界における、国家間の『戦争』がどんなものなのか見るために。
私もその鑑賞会に『よかったら一緒に』って招待されてるので、デミアとカリンをお供にお邪魔して、見せてもらった。
あと、今こっちに滞在してる、マーレとシャルティアも一緒に。
で、見た感想なんだが……率直に一言。
『つまんねえ……』
これに尽きる。
私だけじゃなくて、カリンもデミアも、アインズさんをはじめとしたナザリックの面々も、ほぼ全員コレで感想は一致してたと思う。
だって、ひねりも何もない……ただ軍と軍をぶつからせるだけの単純な戦いだったもの。
強いて言うなら、帝国の方が多少、陣形いじったり伏兵使ったり、魔法詠唱者を投入してドカンと大ダメージを与えたりした場面もあったんだけど……そのくらいだ。
例年こんなもんらしいけど、目新しさも何もない、ただのぶつかり合いだった。
ま、帝国からしたら、この戦いは敵将を討ち取るとかじゃなく、生産力=国力を削るためのものなので、派手に大勝ちするためにリスクを背負う意味はない。だからこういう、極力味方の消耗は抑えつつ敵を減らす、っていう戦い方になったんだろうけどね。
そして、相変わらず王国の残念さが際立つ一戦だったな……
戦争について『専門家』と呼べるような者がほとんどいない、形と数だけの軍隊だと、こういうことになるのか……って、ある意味勉強にはなった、か?
何せ、陣形も何もなく、ただ『突撃』とか『守れ』とか、そのへんの指示しか出せずに……数に頼んで押し込むだけの戦い方だった。
そんな単純なやり方ばかりなので、これまた簡単な戦術1つで裏をかかれて、帝国の伏兵とか魔法詠唱者の部隊とかに横っ腹を殴られて大ダメージを受けたりしてた。
たまに、おそらくは平民達からなる歩兵の部隊を囮に、貴族家の子飼と思しき騎兵達が横から襲い掛かろうとしたり、敵を包囲して叩こうとしてたんだけど……全然うまくいかず、逆にそれを読まれて、その本命の戦力の方を散々に帝国に叩かれてたし。
アインズさんのそばでみていた武人・コキュートスが『何ト無様ナ……』って呆れてた。
うちのカリンも『こんなものは戦争じゃなく、ただの大きい子供が凶器をもってやる喧嘩』とのことで、酷評塗れでした。
最終的に、また王国が結構な兵力を失ったところで(なお帝国の損失数はその10分の1以下である)、今年もなあなあで終了。
王国は今年も、貴重な働き手を無為にあの世に送り、生産力にダメージを受けるのでした。
そして、今回の鑑賞会の全体通しての結論としては、
『この戦いを参考にしてはいけない』
こんな、身もふたもない感じにまとまりました。
……いや、ごもっともだけどね。
あー……限りなく得るものがゼロな時間だった……。
【追記】
昼間のアレが期待外れだった分……ってわけじゃないけど、夜、マーレを部屋に呼んでの『運動会』がだいぶ燃えました。
どうやら、数週間ぶりにナザリックに帰って、アインズさんやデミウルゴス、そして姉であるアウラとも会って、色々話して……何言われたのかはわかんないけど、一層やる気になったっぽくて。
『ぼ、僕も強い子が生まれるように頑張りますから……ラストにゃんにゃん様もお願いします!』って、やる気マシマシで頑張ってくれちゃったんだよね。
私としても気分が乗って嬉しくなって、それに応えて頑張っちゃって……日付が変わるくらいまでハッスルしちゃった。
あー、これはまたデキたかもなあ……明日は休みかな。
【異世界転移400年目 Hz日目】
予想通りまた妊娠してたので、『花園』にこもってささっと産んだ。
今回は男の子だった。かわいいし大切に育てるけど、残念ながら『万魔の母』ガチャとしてはハズレです。
なのでうちで引き取らせていただきます。
それはそれとして、最近ちょっと悩んでることがあります。
いや、別に何か深刻なものじゃないんだけど……ちょっとうざい連中がいてさ。
スレイン法国っていうんだけど。
スレイン法国と、エルフの国こと『ヘイムダール王国』は、今、関係改善を進めてるところだっていうのはもう周知のことだけど……表向きはいい顔して国交を進めておいて、裏で……あの手この手でこっちの、ヘイムダール王国の内情を探ろうとしてきてるんだ。
ユリーシャの実力を知ってるがゆえに、密偵とかを潜入させて探るのは無謀だと思ってだろう。行商人とかを装った諜報員っぽいのを滞在させて、噂話を集めたり、あちこちで情報を買おうとしたり……って感じで。
さらに、同じようなのが『エルヘヴン共栄圏』にも現れている。こちらも黒幕は法国だっていうのは、既に裏が取れてる。
しかし、これらの密偵の目的はどうやら、国家としての弱みとかを探るためじゃなさそう。やっとの思いで正常化しつつある国交を、またしてもご破算にするつもり……とかはないわけだ。
どうもスレイン法国、ここ最近各国が、というか世界全体が揺れ始めつつあることを悟って、『もしかして『揺り返し』がもう来てるんじゃないか』とあたりをつけて探ってるっぽいんだよ。あっちこっち見境なく。
喧嘩売ってるわけじゃないけど、それはそれとして知りたいことがあります的な。
その国が隠してても探ります的な。
……まあ、仮にも『人類の守護者』を標榜してるわけなので、人類救済につながりそうなことなら、多少強引にでも情報すっぱ抜いておきたいんだろうね……それで色々される側はたまったもんじゃないけど。
『神』ないし『ユグドラシル』関連じゃなくても、知られたくない機密だって一緒に色々すっぱ抜かれるかもしれないし、もしかしたらそれも『ついでだから持っとけ。今後何かに使えるかも』的にネコババされるかもしれないし……
『エルヘヴン共栄圏』もそういうのにさらされてるということで、アインズさん達ナザリックとしても『あいつらどうにかなんないのかな』って考え始めてる様子。
……こういう形で、その『神様』の不興を買ってるかもしれない、っていう想定はしてないのかね……連中。
仮に『揺り返し』が起きてたとして、プレイヤーが表に出てこないのは、慎重に世界を調べてるとか、そもそも関わる気がないとか、そんな感じの理由があるからだろう。……実際、今までの私達だってそうだったわけだし。
それを、無理やり探し出されて引っ張り出すような真似されたら、そっちの方が怒られるだろうし……というか探られるだけでもだいぶ不快な気分になるのに。
ナザリックの会議では、当然のごとく『ムカつくから滅ぼす?』的な意見も出たらしいんだけど、アインズさんが『あの国は国交を結んで利用してる最中だから、少なくともすぐには消さない』って言って止めてくれてた。
しかし、探られてるのは不快だし普通に無礼だから、何かしら対処は必要だろう……ってことになった。
私としてもそれは同意見。
探られて痛い腹は…………大いにあるので(おい)、ぶっちゃけ諸々探ってほしくないでーす。
で、それに関してアインズさんと、あとデミアやデミウルゴスといった知恵者枠も一緒に会議して、対応を検討したんだけど……最終的に、デミウルゴスがいい案を出してくれた。
これが上手くいけば、法国は当分、諜報どころじゃなくなると思われる上、その隙をついて私達の方から色々とさぐることもできるかもしれない。
法国については、中枢の情報対策が中々厳しくて、あんまり探れてないんだよね。
その案っていうのは、人道とか道徳ってもんを16万8千光年のかなたに投げ捨てている、悪魔らしい、割と血も涙もない案なんだけど……まあ、ギリギリコラテラルダメージってことで。
大量殺戮とかするわけじゃないから、アリってことにします。……結構な数の犠牲者は出ると思うけどね……。
なお、実行するに際して、うちのデミアが技術協力することにもなりました。
さらに、スキル使用要員ってことで、アインズさんと私も直々に協力します。
参加する面子がかなり豪華だ……作戦自体は単純だけど、ここまで力を入れてやったら、さぞかし法国、大騒ぎになるだろうな……。
まあでも、さっきも言ったけど身から出た錆、コラテラルダメージってことで。
……それに、だ。
この機に乗じて、可能であれば調べたいことがある。
結構前のことになっちゃうけど、シャルティアが洗脳された件。
クレマンティーヌからの情報で、『傾城傾国』を持ってるとわかっている法国は、あれの最重要容疑者なのだが……決定的な証拠ってものを手に入れられてないので、まだ『疑い』どまりである。
それに関する何かの証拠――もちろん、犯人が法国なのであれば、だけど――を探す助けにもなると思う。
それでもし、法国が犯人だと確定したら……アインズさん、どうするんだろ?
めっちゃ怒ってたし、法国滅ぼすとか言っても不思議じゃない。
でも一応今、法国とヘイムダール王国が国交結んでるんだよね……。
相互に安保条約結んでるわけじゃないから、法国が攻められてもヘイムダールが助けるまではしなくていいんだけど……せっかく手に入れたラインなのに、滅ぼすのちょっともったいない……。
いやでも、シャルティアを洗脳してアインズさんにつらい思いをさせたのがマジで法国なのであれば、私にとっても許せない対象ではあるから、お仕置きするなら全然止めはしないし、なんなら私だって何かしてやりたい気分になりもする。
けど、滅ぼすってなると……ううむ……損得勘定もそうだけど、無関係の一般市民とかも殺しちゃうのかな……って思うと、どうしても全開ノリノリで『やれ!』とは言えない気分……。
何かいい塩梅というか、いい方法ないかなあ……生まれたことを後悔するレベルでお仕置きしつつ、無用な犠牲は出さない的な……難しいな……。
……というか私達、改めて見返してみると……法国から迷惑かけられすぎじゃなかろか。
ほら、アインズさんが転移後すぐに遭遇したっていう、カルネ村襲撃とガゼフ暗殺未遂の件も、法国の聖典部隊が黒幕だったし。
エ・ランテルで起こったあの一件も、首謀者のカジットもクレマンティーヌも法国出身だったし。法国自体は絡んでないのかもしれないけど、管理不行き届きっていうのはあると思うの。
これでシャルティアの件も法国の仕業だった日にゃ……諸々合わせて、立派に報復する理由になる気がする……。
まあでも全部コレ、結局、法国が犯人だったら、っていう仮定の話なんだけどね。
とりあえず今は、やたらめったら密偵で探られてることへの報復として、ナザリック主導の報復作戦の準備を進めますかね……。
ええと、たしか……『空中庭園』の保管庫に、高レベル用の『パワードスーツ』があったっけな……ちゃんと動くかどうか確認させないと。
Q.
なんで『ワーカー侵入事件』が帝国と王国の戦争より後なの? 原作より遅くない?
A.
この世界線では『アインズがフールーダに働きかけてナザリックに侵入者を送らせる』というマッチポンプをしていないからです。
既にラストという協力者がいるので、情報、資源、資金、技術、その他諸々においてフールーダを協力者として取り込む旨味が特段なかったので。
結果、フールーダ含め帝国は自力でナザリックを発見するまでその存在に気づかず、侵入事件は原作よりもかなり遅くなり、戦争が終わった後になりました。