オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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今回はちょっと、前回に続き、箸休め的な話です。
書きたかったから書いただけという……あんまり深く考えずにご覧ください。


何が出るかな? 何が出るかな?

 

 

 ある日のこと。

 

「アインズさん、この後、ちょっとお時間よかったりします? 見せたいものがあるんです」

 

「? 構いませんが……何です、見せたいものって?」

 

 息抜きに『空中庭園』を訪れていたアインズに、ラストがそう切り出した話。

 なんだかウキウキしているように見えるその様子に、『何か面白いことかも』と、アインズも内心期待しつつ尋ねると、

 

「実は、うちの子達がちょっとすごいアイテムを見つけてきましてね……アインズさん」

 

 

 

「一緒に……ガチャ回しません?」

 

「は? ガチャ?」

 

「はい」

 

 

 

 その数分後。

 アインズとラスト……それに、それぞれのお供達は、『練武郭』の中でもかなり大きな闘技場に場所を移していた。

 

 今日、ナザリックからは、アルベドとセバスが同行している。それに加えて、この空中庭園に『お相手』の仕事のために滞在中のマーレとシャルティアも合流していた。

 全体的に戦闘能力が高いように見えるのは、決して気のせいではない。

 

 一方ラストは、いつものデミアに加え、ヤマト、トール、アカネを連れている。

 さらに、子供達の中から選んで何人か連れて待機させていた。こちらも戦える者が多い。

 

 先程はわけのわからない誘いに『???』になってしまったアインズだったが、その後の説明を聞いて、数倍驚かされることとなった。

 そして今、『それ』を目にするのを、今か今かと待ちわびている。

 

 期待に応えるため、ラストは虚空に穴をあけて手を突っ込み……『よっこいしょ』と、一抱えある大きな、『葛籠(つづら)』を取り出した。

 重くはないようで、軽く持ち上げていたそれを、足元に置き、アインズ達に向き直る。

 

「それが……例の?」

 

「ええ、先日新しく手に入った……世界級(ワールド)アイテム、『雀の葛籠』です」

 

 およそ一週間前になる。

 

 この『空中庭園』から地理的にそこそこ近い、『アレフガルド都市国家連合』……を、構成する国の1つ、『グランゼドーラ王国』。

 その領内の一角に、また1つ、ユグドラシルから来た『ギルド拠点の残骸』が見つかった。見つけたのは、都市国家連合と『竜王国』を主に活動の場としている、ラストの子供や子孫達からなる冒険者チーム『ロトの紋章』である。

 

 その内部に、忘れ去られたように置かれていたのが……この世界級アイテムだった。

『竜王』はもちろん、普通の冒険者やワーカー、盗掘者などにも奪られることなく……積み重なっていた埃の量からして、それなりに長い期間放置されていたようだった。

 

 ……もっとも、そこはかなり大きな『都市型』のギルド拠点……の、残骸だったので、単に自然POPするモンスターに阻まれて誰も入れなかっただけかもしれないが。

 なお、もちろんここはラスト達『空中庭園』が制圧している。今後、何らかの形で有効利用していくことになるだろう。

『グランゼドーラ王国』もまた、彼女の息がかかっている国の1つである。問題はない。

 

 そして、問題の『雀の葛籠』だが、このアイテムが持つ効果は、『世界級』の中でも一風変わったものになっている。

 戦闘に有利な効果を発生させるようなものではなく……今さっきラストが言ったような、いわゆる『ガチャ』のような効果がある。

葛籠(つづら)』という名前とその見た目の通り、開けることができるのだが……中から何が出てくるかがわからないのだ。

 

 少し話は変わるが、『舌切り雀』という童話をご存じだろうか。

 長いので色々省くが、優しいおじいさんと、意地悪なおばあさんが出てくる話で……物語のラストでは、おじいさんとおばあさんが、それぞれ『大きい葛籠と小さい葛籠、どちらを選びますか?』と尋ねられる。

 

 欲のないおじいさんは、小さい葛籠を選び、お土産にもらって持ち帰った。その中には、財宝がたくさん入っていた。

 一方、欲深なおばあさんは、大きな葛籠ならもっと多くの財宝が入っているだろうと考えて、大きい方を選んだが、開けると中から化け物がたくさん飛び出してきて、驚いて気絶してしまった。

 

 要するに、『人に親切にしなさい』『欲張ってはいけない』という内容の、子供向けの童話なわけだが……『雀の葛籠』が、この童話がモチーフになっていると言われている。

 このアイテム、プレイヤー1人につき1回だけ、葛籠を開けることができるのだが……開けた者のレベルと『カルマ値』によって、中身が変わるのである。

 

「それじゃ、試しに……うちのヤマトに開けさせます。ヤマト、お願い」

 

「わかりました。では、失礼します」

 

 そう言ってヤマトが一歩前に進み出て……葛籠を開ける。抵抗もなく、すんなり開いた。

 その中には……

 

「おぉ……すごい」

 

「これは……さすがは『世界級アイテム』だな」

 

 中から出てきたのは、財宝の山。

 それも、金銀財宝や宝石というような、ただ高価なだけのものではなく……ユグドラシルプレイヤー、それもカンスト級であるアインズやラストをして『価値がある』と言えるものだった。

 

 希少金属のインゴットや、その他いくつもの貴重な素材、さらには、モンスタードロップ限定のはずのレア装備までいくつも入っていた。

 それら全てをヤマトが外に取り出す――中身を取り出せるのは、葛籠を開けた者のみである――と、ひとりでに葛籠は閉まった。

 

 これが、カルマ値が『善』の者が開けた時の効果。レベルが高いほど、カルマ値が善方向に大きく伸びているほど、レア度の高いアイテムが大量に入っていて、そのまま手に入れられる。

 ただし、何がどれだけ入っているかはランダムである。

 

 ヤマトは100レベルのNPCであり、カルマ値は善寄りの200。それを参照した結果がこれだ。

 思いがけず、ユグドラシル時代でも手に入れるのにそこそこ苦労しそうなアイテムをいくつも手に入れ、ホクホク顔のプレイヤー2人。

 

 なお、今回手に入れたアイテム等は、基本的には開けた者が所属するギルドが手にすることになっているが、場合によっては交渉の上トレード可能とする、と事前に決めていた。

 今回はヤマトが開けたので、ひとまずそれらの財宝はラストと『空中庭園』のものである。

 

「では今度は、『悪』寄りの場合を試してみるとしようか……マーレ、開けてみるのだ」

 

「わ、わかりましたっ!」

 

 今度は、カルマ値-100で、『中立~悪』に分類されているマーレが葛籠を開ける。

 それをアインズ達は……先程とは違い、警戒し、身構えて見ていた。

 

 葛籠が開くと……先程とは違い、中から光があふれ出し……その光がおさまると、先ほどまではいなかったはずの、何体ものモンスターがそこに現れていた。

 どれも、レベルは70を超える……この世界基準で言えば、国すら滅ぼせるであろうモンスター達。それが複数。獰猛そうに牙をむいて戦意をたぎらせ、ラスト達を睨んでいた。

 

 しかし、この結果がわかっていたラスト達は……開けたマーレも含めて、すぐさま戦闘態勢に入る。

 アルベド――なお、鎧とバルディッシュ装備で完全武装である――がアインズを、ヤマトがラストを守る位置に立ち、セバスとシャルティア、トールは前衛で戦うために前に出る。アカネとマーレ、デミアはそれぞれの主のそばについた。

 

 互いに臨戦態勢を取った直後、モンスター達の咆哮と共に戦いは始まり……

 

「まあ、レベル70かそこらじゃこんなもんですよね」

 

「一瞬でしたね」

 

 すぐに終わった。

 数がいたとはいえ、100レベルのプレイヤーとNPC複数、それも前衛後衛にバランスが取れている面々を前に、70程度では普通に話にもならない。

 

 今見た通り、『雀の葛籠』を、カルマ値マイナスの者が開けると……レベルとカルマ値に応じたモンスターが出現して襲ってくるのである。

 

 しかし、これはただマイナスの者にとって損で、『財宝』がもらえるカルマ値プラスの者だけが得というわけではない。

 葛籠から出現したモンスターを倒すと、通常よりもかなり多くの経験値を取得できるのである。

 

 同じ種族、同じレベルのモンスターをユグドラシルで普通に野生で倒した時と比べると、その差は数倍にもなる。さすがは『世界級アイテム』と言える大盤振る舞いであろう。

 ただし、アイテムや金貨は一切ドロップしない。

 

 なお、今回戦った面々は、全員レベルがカンストしているか、そうでなくともNPCなので成長はしない。ゆえに、せっかくの経験値はこのままだと無駄になってしまうのだが……そこは抜かりなく準備してある。

 アインズがマーレに持たせている、ナザリック所有の世界級アイテム『強欲と無欲』により、今のバトルで得た経験値はきちんと回収済みだ。今後、経験値消費を要するアイテムや魔法を使う際に有効活用されることだろう。

 

 カルマ値善の者が開ければ、貴重な素材や強力な武器といったアイテムの数々が手に入る。

 カルマ値悪の者が開ければ、強力なモンスターが出現し、倒せば大量の経験値が手に入る。

 これが、世界級アイテム『雀の葛籠』である。

 

 

 

 その後、アインズ達は、色々な面々に『葛籠』を開けさせて遊んだ。

 

 カルマ値-500で『極悪』のアルベドが開けた時は、レベル80を超えるモンスターが何体も現れた。

 当然戦って倒すわけだが、この世界ではほぼできない、そこそこ手ごたえのある戦いが久々にできて、アインズ達としてもいい刺激になった。

 

 アルベドやシャルティアとしては、主であるアインズをその身で守り、ともに戦うことができたということもあり、複数の意味で素晴らしい時間を過ごすことができて、とても機嫌がよくなっていたようだった。

 程度は違うが、もちろんマーレやセバスも同様である。

 

 さらに、アインズがナザリックから追加で、ユリ・アルファ(カルマ値150 善)を呼び出して開けさせると、これまたレアなアイテムがいくつも出て来た。

 ただ、ヤマトには数値とレベルで及ばないためか、先ほどよりも若干ダウングレードしてしまったようだったが。

 

 さらにその後、ナザリックの中でカルマ値最高峰の300『極善』を誇るセバスが開ける番になった。

 

 が、ただ開けさせるのではなく……『どうせだから』とラストが提案し、開ける前に、超位魔法『オシリスの裁き』を使用した。

 

 この魔法は、魔法の影響範囲内にいる者のカルマ値を、一時的に倍増させる効果がある。

 これにより、セバスのカルマ値は600にまで上昇した。そして、その状態で『葛籠』を開ける。

 

 中から出てきたのは、なんと……

 

「ちょっ……こんなんアリなんですか!?」

 

「いやっ、まあ……実際出てきちゃってるわけですから、アリ……なんでしょうね……」

 

 カンストプレイヤーであり、長くユグドラシルを遊んでいた2人からしても『超』が付く希少な金属素材……『ヒヒイロカネ』が入っていた。

 もちろんそれだけではない、他にもいくつもの希少な素材やアイテムがいくつも出てくる。『伝説級(レジェンド)』の装備さえも、しかも複数入っていた。600もの善方向のカルマ値と、『葛籠』の性質が組み合わさった結果は、想像以上の大盤振る舞いだった。

 

 挙句の果てには……

 

「「いやコレおかしいだろ!?」」

 

 大量の財宝を取り出し、最後に中に残っていたものを『これは……?』とセバスが取り出し……それを目にしたアインズとラストの声が揃った。

 その剣幕に『びくっ』とちょっとさすがに驚いたセバスの手には……銀色の、3つの星のマークが刻まれた指輪があった。

 

「『流れ星の指輪(シューティングスター)』だと!? 課金ガチャ限定のはずのアイテムまで出てくるのか!? 『世界級アイテム』で、なおかつランダム要素とはいえ……さすがにバランスぶっ壊れすぎだろう……」

 

「……最後だから運営がはっちゃけた設定をこっそり追加して、それがこの世界に来てそのまま適用されてるとかですかね……? ……案外ありそうで怖いな」

 

 アインズ自身も持っている――ただしそれは、『鈴木悟』のボーナス全額つぎ込んでようやくガチャで当たった――秘宝のお目見えに、否応なしにテンションが上がる2人。

 それ以外にも数多のレアアイテムを手にして、アインズはホクホク顔である。

 開けたセバスも大いに褒められ、表情は変えずにいたものの、声音から嬉しそうな感情が割とわかりやすく伝わってきていた。

 

 そして……もう1つの確認事項。

 今しがた使った『オシリスの裁き』のおかげで、元々カルマ値-500で『極悪』だったアインズの数値は、-1000になっている。

 

 この状態で『葛籠』を開けた場合、果たしてどれほど手強い敵が現れるのか……。

 

 今回も念のため、アルベドやセバスといった面々が油断なく構えて待機する。

 いざとなれば、『練武郭』にいるラストの子供達……特に『親衛隊』の面々が加勢に入れる。

 

 万全と言っていい状況で、アインズは『葛籠』に手をかける。

 中からあふれ出す光。次いで現れる、いくつものすさまじい存在感のモンスター達。

 

 軒並みレベル90を超える強力なモンスター達が現れ、闘技場に降り立った。

 

 予想の範囲内なので、慌てず対応するアインズ達。

 先の『流れ星の指輪』の時のぶっ壊れ反応からして、もしかしてレイドボス級が出るかもしれないと身構えていたため、案外普通に何とかなりそうでほっとしていた。

 

 ……が、その中に混じっていた1匹のドラゴンを見て、あることに気づいたラストが『ん!?』と目を見開いた。

 

「アインズさん!? アレって……あの、奥にいるドラゴン、イベント限定の……」

 

「え? あ! ホントだ、イベントボスの……超低確率だけどテイムできる『ミドガルズオルム』! え、もしかしてアレ……シャルティア!!」

 

「は、はいっ!?」

 

「大至急ナザリックに戻ってアウラを呼んで来い! それとコキュートスもだ! ちょっとばかり大仕事になるぞ!」

 

「かしこまりんした、アインズ様、しばしお待ちを! アルベド、しばし任せんしたえ!?」

 

「言われるまでもないわ、私がアインズ様に指一本触れさせませんとも……ご安心くださいねアインズ様、どうかこのアルベドより前にお出になりませぬよう!」

 

「う、うむ。期待しているぞ。よし、では……『ミドガルズオルム』以外のモンスターを殲滅の後、アウラが来るまで遅滞戦闘! 合流後は適度に弱らせてテイムを試みる! ナザリックの戦力を大きく強化できるチャンスだ、各員、奮励努力せよ!」

 

「「「はっ!!」」」

 

 

 

 その後、アインズの指示通り、他のモンスターを全て倒してから、アウラが来るのを待って『ミドガルズオルム(激レアモンスター)』のテイムを敢行。

 何度目かのチャレンジの後、無事に成功し……アウラのしもべに、期間限定イベントの存在ゆえに、本来はNPCに持たせることができなかったはずの、強力なドラゴンが加わったのだった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 ちなみに、その後。

 アインズ達が『やり切った感』『いい汗かいた感』を出してながら、皆で仲良くナザリックに戻っていった後になるが……ふと思いついたラストは、『葛籠』を持って練武郭の別な訓練スペースに足を運んでいた。

 

 そこでは丁度、ゼルエルの監督の元、幾人かの子供達が、召喚したモンスターを相手にした実戦形式での訓練に励んでいるところだった。

 

「お、お姉ちゃん……ちょっと飛ばしすぎじゃ……い、一旦休憩させて……」

 

「飛ばしすぎなものか、お前は普段からだらけて訓練をさぼっているんだから、このくらいでちょうどいい。でなければ腕が錆びつく一方だからな。わかったら位置につけガヴリール、次行くぞ」

 

「いや、マジ疲れてるんだって……! ちょっとくらい休憩しても……ね、ダムストーもそう思うっしょ? 疲れたよね!?」

 

「えっ!? え、ええとええと……そ、そうですね、私もちょっと疲れちゃったかもしれません……あの、ゼルエルお姉ちゃん、ちょっとだけ休憩とか……」

 

「そうは聞こえないんだがな……別に息も乱れていないし。だがまあ、そこまで言うなら……仕方ない、15分休憩にするか。水分補給をきちんとしろよ」

 

「……っし!」 ← ガッツポーズ

 

 そんな様子を見て、ラストが『お、いたいた』と近づいていったのは……普段は練武郭(ここ)にはあまり来ず、もっぱらインドアでゲームやら何やらに興じている面々……ガヴリールとダムストーである。

 今日も今日とて、『たまにはきちんと体を動かせ』と、ゼルエルに連れ出されて訓練に参加させられているようだった。

 

 休憩に入ったばかりだった2人だが、近づいてくるラストを……自分の母親にして、この庭園の支配者の姿を見ると、さすがに驚いてベンチから立ち上がろうとする。

 が、『そのままでいいよ、楽にして』とラストが手で制した。

 

「これはお母さま……こんなところでどうしました?」

 

「うん、ちょっとね。ちょうど今、ゼルエルが2人を連れ出してしごいてたなって思い出して……もしよかったらコレ使ってみたらどうかなって」

 

「コレ、とは……先日見つかった『雀の葛籠』ですか?」

 

「カルマ値マイナスの奴がコレ開けると、経験値的に美味しいモンスターが出てくるから、修業にちょうどいいんじゃないかと思って。ガヴリールってたしか、カルマ値マイナスだったよね? 天使なのに」

 

「ええ、恥ずかしい限りですが……-200です」

 

「あ、ごめんお母さん。こないだ測ったら変わってて、-250になってた」

 

「悪化したんかい。まあでもいいや、そのくらいの数値なら……ガヴリールが開けたら、2人の修行にちょうどいいモンスターが出てくると思うんだ。今言った通り経験値美味しいからレベルも上がりやすいと思うし、どう?」

 

「えー……強い奴と戦うの面倒……」

 

 遠慮も何もなく不満を口にするガヴリール。

 ラストとダムストーは苦笑するが、ゼルエルは『こいつはまた……!』というような表情になり、気の強そうな目がさらにつり上がっていく。

 

 数秒後には、姉+教官権限で『やれ』という言葉が出てくるであろうことは明白。

 だがその前に、ラストが『まあまあ』と割り込む形で口を出した。

 

「そう言いなさんなガヴリール。あんたもダムストーもやればできるんだから。せっかく、磨けば光る才能がきちんとあるのに、ぐーたらして錆付かせちゃったらもったいないぞ?」

 

「いや、私は別に強くなれなくてもいいし、あんまそういうの興味ない……なるとしてもネトゲの中のキャラだけで十分だし……」

 

「全くもー……ダムストーは?」

 

「ぅえっ!? わ、私はその……ど、どっちかって言えば、ガヴちゃんとかと遊んでる方が好きです……訓練も、そんなに嫌じゃないですけど、好きでやる感じでもないかな……って」

 

 恐る恐る、という感じで言うダムストー。彼女も彼女でインドアかつ、積極的に前に出るタイプでもないので、ガヴリールよりはまし、という程度には消極的だった。

 

 それを聞いてしかし、ラストは別に苛立ったり呆れたりすることもなく――そもそもこの2人がこういう性格だというのは聞くまでもなく知っていたため――『そっかー』と、ごく普通な調子で呟く。

 呟きながら、虚空に手を入れて何かを取り出した。

 

「それは残念だなー、せっかくこういうものを私、今日たまたま持ってきてたんだけど……」

 

「「?」」

 

 取り出した『何か』……手のひらに乗るくらいの大きさの、箱に入っているそれを不思議そうに見る2人。角度が悪くてよく見えない。

 が、ラストの隣にいるゼルエルには普通に見えていたので、その『パッケージ』を覗き込み、

 

「? お母さま、これは……ゲームですか? ええと……『ゼ〇ダの伝説 ティアーズオb……」

 

 

 ―――ばっ! ← ラストの手からゲームをひったくろうと飛び出すガヴリール

 

 ―――ごすっ! ← それを超速反射で叩き落してラストを守るゼルエル

 

 

「いっ、でぇ……っ!?」

 

「いきなりお母さまに何をする気だバカ者……!」

 

「初手で奪いにくるんじゃないよおバカ……まあ、奪われたとしてもコレ、残念ながら空箱だから中身入ってないんだけどね」

 

「あ、ああああああの、おおおおおお母さん!? そ、それ……テ〇アキン……え、ブレ〇イの……あの神ゲーの続編の!?」

 

「いででで……お母さんそれっ、サルベージいつの間に成功してたの!?」

 

 とびかかってこそ来なかったものの、ダムストーもダムストーで目の色が変わっている。

 ガヴリールもどうにか復活し、未だラストの手にある(ただし空箱)ゲームに目が釘付けだ。2人ともわかりやすく『やりたい!』『遊びたい!』という目になっている。

 

 ラストは知っている。『前作』である『ブレスオブ〇ワイルド』を、ガヴリールは800時間、ダムストーは1000時間以上やりこむほどにどハマりしていることを。

 その続編であるコレ(存在自体は、図書館島にあるゲーム情報誌で知っていた)がデータバンクの中からサルベージされるのを、2人がめっっっちゃ楽しみにしていたことを。

 

 自らもゲーマーであるラストには、2人の気持ちはよくわかる。というかラスト自身もブレワイはやりこんでいたので、それはもうよくわかる。

 なので、邪険にはすることなく、その気持ちを受け止めた上で……

 

「大丈夫、ちゃんとこの後遊ばせてあげるから。ただ、そうだねー……ゼルエルの訓練、予定だとあと1時間半くらい続くわけでしょ? でも……この中から出てくる奴に勝てたら、経験値もどっさり入るし、今日はもう終わりってことでもいいかもしれないね?」

 

 その続き……『早く終わればその分早く遊べる』を口にするより先に、ラストが持っていた『葛籠』をひったくるように受け取って、ガヴリールはそれを開けた。

 あふれ出す光、出現するモンスター達。

 

 やれやれ、とでも言いたげな目でそれを見届けたラストとゼルエルが、モンスター達のターゲットにならないように闘技場の端の方に寄る。

 そして迅速に始まる戦い。ファイッ。

 

 ガヴリールとダムストーは、どちらも魔法詠唱者で、かつ、メインで使う武器は弓矢である。

 つまりは遠距離タイプであるため、本来であれば守ってくれる前衛が必須なのだが、ここには2人しかおらず、何体もの高レベルモンスターの攻撃を止めてくれる者がいない。

 

 が、2人は即座に魔法やスキルを使い、前衛となる眷属モンスターを呼び出して対応していた。

 色々あって割と見慣れた『憤怒の魔将(イビルロード・ラース)』と、それに匹敵かそれ以上の堅牢さを誇る『門番の智天使(ケルビム・ゲートキーパー)』が、モンスター達の猛攻から2人を守る。

 しかも、ガヴリールが魔法で何重にも支援を飛ばしているので、堅牢さはさらに増している。

 

 その間に飛び回って炎の矢と雷の矢を放ち、敵モンスターを射抜いていく2人。

 

 たった2人で放っているとは思えない、その機関銃のような矢の雨が、1体、また1体とモンスターを仕留めていく。

 その手際を、『おー』と感心しながら見ているラスト。隣にいるゼルエルはあきれ顔だ。

 

「本気を出せばこのとおり強いんですが……全く、『宝の持ち腐れ』という言葉がこれほど似合う者達も珍しいといいますか」

 

「まあ、何にどれだけ一生懸命に打ち込むかは人それぞれだからね。彼女達がいいなら私は別に、何も文句言うつもりはないんだけど……それでも『鍛えれば伸びるのにもったいない』って思っちゃうのは……親としてのエゴなのかなあ。親心、で片付けちゃうのはちょっと卑怯な気がする」

 

「そうしてきちんと向き合い方を考えていただけている2人は幸せ者ですよ、十分に」

 

 ふと視線をやると、範囲攻撃に切り替えた2人が、残ったモンスターを削っていっているところだった。1体1体倒すのではなく、前衛が健在である間に、怯みを狙いつつ満遍なくダメージを与えている。

 しかし、さすがに多数のモンスターの攻撃にさらされ続けて限界が来たのだろう。残り数体を倒しきる前に、魔将と智天使は消滅した。

 

 が、そのタイミングまで織り込み済みだった2人。

 モンスター達の視線がこちらを向いた時には……ガヴリールが『魔力譲渡』でダムストーに自分の残りの魔力を受け渡しているところだった。

 

 そこに襲い掛かろうとするモンスター達だが、その瞬間、ガヴリールが使ったスキル『死せる勇者の魂(エインヘリアル)』により、全身が純白のガヴリールの姿をした分身が現れる。

 その分身が前に出て、散弾銃のように矢の弾幕を放って足止めするのに加えて、ダムストーがさらに『影縫いの矢』を放ち、敵モンスターの動きを妨害して支援。

 

 そうして時間を稼ぐ間に……準備は完了した。

 ガヴリールの魔力はぴったり空になったが、それによってダムストーの方に必要な(・・・)だけの魔力が満ちた。

 

「よし……決めろ、ダムストー!」

 

「わかりましたっ!」

 

 そして、空高く飛びあがるダムストーと、巻き込まれないように離れるガヴリール。

 限界を迎えた『死せる勇者の魂(エインヘリアル)』が、役目を終えて消滅した瞬間……

 

 

「これで……終わりです! 大災厄(グランドカタストロフ)!!』

 

 

 超弩級の破壊の奔流が、全てを消し飛ばし、戦いを決着させた。

 

 

 

「ガヴリールは私と同じ『熾天使(セラフ)』です。加えて、純魔法職の私と違い、『ワルキューレ』などの近接の職業(クラス)も修めているため、ある程度なら接近戦も行える……。加えて、ゲームで鍛えたとかいう、戦場全体を見渡し、味方の戦力を把握して上手く使う戦術眼もあることですし、本来ならば、それらの扱いをもって軍を率いる立場にも立てる器なのですがね……」

 

「ダムストーの方は『最上位悪魔(アーチデヴィル)』の上に、私から『傾国の悪女』と『ワールド・ディザスター』の2つを受け継いで生まれてるし……おまけに、私の『万魔の母(エキドナ)』に近いことができる『悪魔公爵(デーモンロード)』まで持ってるんだから……燃費は悪いけど弱いはずないってのにね。あの弱めのメンタルというか、自信のなささえどうにかなればなあ……」

 

 今、ものの数分でガヴリールとダムストーが駆逐したモンスター達は、まぎれもなく国の1つや2つは滅ぼせるレベルの災厄であった。

 それを『早くゲームやりたい!』という動機で迅速に掃討して見せた、前途有望な娘達に、あきれつつも笑顔になってしまうラストだった。

 

 

 

 

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