オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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「狐:気楽に話せる友達って精神衛生上マジ重要ですよね」「骨:ほんそれ」

 

 

 ここは、竜王国が王都……王城の中の一室。

 玉座の間……ではなく、そこからほど近い位置にある。応接間。

 

 女王・ドラウディロンは、そこで……普段、兵達に見せているそれとは全く違う、だらけて疲れ切った姿をさらしていた。

 応接間には、彼女の本性や形態(・・)についてよく知る宰相以外にも、招き寄せた客人が一緒にいるにもかかわらずだ。

 

「あ~……腹立つ。ビーストマン共めぇ……本っ当にあいつら、こっちの都合なぞおかまいなしに襲ってきおって! ここ最近ちょっと大人しかったから、その間に国内のあちこちに視察と慰問に行こうと思ってた矢先! 中止になってしまったではないかあ……!」

 

「仕方ありますまい。連中にこちらの都合を考えてもらえるわけもないですし……襲撃はありましたが、被害らしい被害はなかったのですから良しとしましょう。事情が事情ですから、民達も理解してくれておりますよ」

 

「それはそうじゃけどぉ……私が残念なんじゃよ! くぅっ! 本当なら今頃、視察先でゆっくり天然温泉に浸かって、美味な料理に舌鼓を打って、ご当地名産の地酒とか飲んでおったはずじゃったのに……!」

 

「お気持ちはお察ししますが……そんな風にご自分のご都合で悔しがることができる現状の余裕を喜ぶことにしましょう? 民に被害が出ていたら、それどころじゃなかったんですから……ね? ほら切り換えて」

 

「いやそれはもちろんわかっておるけどもな……」

 

「おい……そろそろいいか」

 

 見かねて、という調子で……ため息交じりに声をかけて来た者が1人。

 先程も触れたように、この応接(・・)間には、女王と宰相以外にも、今日招いた客人がいる。

 

 今の今までほぼほぼ放っておかれていたことを『不満だ』とでも言うように、わざとらしくため息をまた1つ。

 

 ドラウディロン女王の向かいのソファに座っているのは、黒い長髪と気の強そうな目つきが特徴的な美女だった。幼女の姿を取っている女王とは対照的に、その体は、出るところは出て締まる所は締まった、『ないすばでー』な造形に仕上がっている。

 

「人のことを、それもその襲撃を撃退した立役者を呼んでおいて随分なものを見せてくれるじゃないか、ドラウ。別にその幼女フォームを生かした殊勝な演技でねぎらってくれてもいいんだぞ」

 

「幼女フォーム言うな……勘弁してくれドロニア、せっかく素の自分で愚痴をこぼせる相手しかおらんのじゃから、力抜いてぶーたれるくらい大目に見ろ……。というか、今更お主相手に何を取り繕う必要がある。何十年来の仲だと思っとるんじゃ……そこにいる宰相より長いじゃろ、お前、私との付き合い」

 

「それはわかってるし……いやまあ確かに、実際お前に今更『よくがんばってくれたなドロニア殿! この国のみんなを守ってくれてほんとうにありがとう!』なんて言われたらそっちの方が……うん、鳥肌立ちそうだな」

 

「やめんかその気持ち悪いくらい似てるモノマネ……っていうか魔法で声変えとるじゃろ! おい宰相、必死で笑いをこらえとるんじゃない。……オープンに大笑いしろとも言っとらん!」

 

「ストレスのなさそうな職場で何よりだなここは」

 

「そうじゃったらよかったんじゃけどなあ! はあ……余計に疲れた。まあとりあえず……今回は助かった。ありがとうドロニア、そこは素直に礼を言わせてもらう」

 

「ああ……どういたしまして」

 

 ドロニア・ルフラン。竜王国を拠点とするアダマンタイト級冒険者チーム『モンスターズ』の一員である女性。

 魔法詠唱者(マジックキャスター)であり、自らも戦えるのに加え……『サモナー』や『人形遣い(パペッティアー)』等の職業(クラス)を持つ彼女は、自らが使役した、あるいは作り出したしもべ達を操り、戦わせ、前衛を任せたり、物量で圧殺するようなやり方を得意とする。

 

 そして、何十年も前からこの地で活動している彼女は、ドラウディロン女王と旧知の仲であり……早い話が、女王が素の自分を出して話すことができる、数少ない存在だった。

 先の会話からも分かる通り、ドラウディロン女王の今の姿が『本来の姿』とが違うということも知っている。

 

 今のこの謁見……とも呼べないような雑談は、今回、ビーストマンの急襲を受けた都市を、たまたま近くにいたドロニア達『モンスターズ』が撃退してくれたことへの感謝を伝えるための場だった。

 

「一応『モンスターズ』全員で来てくれって言ったはずなんじゃが……残りのメンバーは?」

 

「『パス』だそうだ」

 

「仮にも一国の女王からの呼び出しをおんどれらァ……!」

 

 具体的には、と続けるドロニア。

 

「テリーは新しいモンスター配合の考案中で忙しいからってパス。エミルはマルタと都市国家連合でデート中、ネモは『そんなことよりバトルだよ!』って言ってどっか行った。スグリは一応来る予定だったんだが、姉が急に体調崩して看病で来れなくなった。ケータは数量限定のメロンパンが食べたいから朝から並んで買うって。タケルは別件で遠出してて元々合流が間に合わん」

 

「すがすがしいほど遠慮なく自分の用事優先しよるなお前ら……。スグリはまだわかるが……あと、タケルもまあ仕方ないか……ん? ルカはどうした?」

 

「あいつはチームを抜けた。実家の都合で公職に就くことになってな。冒険者には『国の政治には関わらない』っていう不文律があるから、今のままだと都合が悪かったんだ」

 

「そうか……」

 

「まあ、普通に今も時々遊びに来るから、皆、別に寂しそうにはしていないがな」

 

 その後しばし雑談するドラウディロンとドロニアだったが、ひょんなことから、今現在竜王国がスレイン法国とヘイムダール王国から軍事支援を受けている点に話がいった。

 

「その支援のおかげで、前よりも俄然国境付近の防衛が楽なんだろう? そうなると……そろそろ私達『モンスターズ』もお役御免かな?」

 

「いや、まて、それは困る! 情けない話なのを承知で言うが、竜王国(うち)単独では国の防衛を十全にやるにはまだ力が足りておらん。特に、防衛戦で一番強いのはお主ら『モンスターズ』じゃから、できれば……」

 

「引き続き我々がいた方がいいと? もちろん、報酬さえもらえれば、我々としては構わんが……本来、国防っていうのは冒険者の力を頼らず、国の正規軍でなんとかするものだろう。いやまあ、種族的な能力差が大きいビーストマンを相手にそれが難しいのはわかるが……」

 

「もちろんそれはわかっておる。今ちょうど、軍事支援のおかげで多少余裕ができとるから、少しずつ軍備の強化を進めてはおるんじゃが……あの支援、1年で終わってしまう契約じゃろ? それまでに強化を完了できるかっていうと……どう考えても間に合わんのじゃよ」

 

 はあ、とため息をつくドラウディロン。幼女の姿であることを除いても、国の未来のために知恵を振り絞ってできることをやり続けている女王は、ひどく疲れているように見えた。

 その後、何か言いたそうにドロニアをじっと見て……

 

「なあ、ドロニア」

 

「断る」

 

「まだ何も言っとらんぞ」

 

「大体わかる。大方、『正式に竜王国に仕えないか?』とかだろう。生憎と、宮仕えする気はない。……もう何十回もやってるだろ、このやり取り」

 

「じゃよなあ……なら、国から依頼……あるいは委託して、国の戦力としてのモンスターを育ててもらって、それを買い取る、というのは?」

 

 チーム『モンスターズ』の特徴として、全員が『サモナー』や『ビーストテイマー』など、モンスターを操って戦う系統の職業(クラス)であることがあげられる。

 それぞれのやり方で強力なモンスターを育てたり、強力な使い魔を召喚または作成できるスキルを習得し、戦闘になった場合はそれらを呼び出して戦わせる(もちろん自分達も戦うが)。その際、1人が複数のモンスターを呼び出して一斉に戦わせるため、広範囲を一斉に攻撃したり防衛する……集団戦闘が得意なのだ。

 

 高度に統率されたモンスターの軍勢。ビーストマンの軍勢を相手にするドラウディロンとしては、ぜひとも欲しいところではあるが……

 

「それもお断りだ。私達の技は、あくまで自分達の相棒や仲間を育てるためのものだ。畜産業者の真似事をする気はない」

 

「そうか……なら、無理強いはできんな」

 

 どうしようかな~……と、力なくまたため息をついているドラウディロンに対し、しばし視線をやっていたドロニアだったが……ふぅ、と小さく息をついたかと思うと、

 

「……これは独り言なんだがな」

 

「?」

 

「ヘイムダール王国による竜王国への軍事支援は確かに1年で期限切れになるが、もしそれを延長する、あるいは『自分も国交を結んでそこに加わりたい』っていう国が出てきたら……真面目にそれをうけることを検討するべきだろうな」

 

「……? ドロニア、それは一体どういうことだ?」

 

「ん? 何だいきなり、私はただ独り言を言っていただけで、お前には何も話してはいないぞ、勘違いするな」

 

 しらじらしいどころではない物言いをしてくるドロニア。

 話すつもりはなさそうだと悟り、ドラウディロンは『そうか』と言って引き下がる。すると、ドロニアは『独り言』の続きを話し始めた。

 

「『ヘイムダール王国』や『エルヘヴン共栄圏』の発足に始まり、今、大陸各地で大きく時代が動いている。その波が竜王国には及ばないと考えているのなら、それは甘い考え方だ……波に乗れるか、波に飲まれるか、どうなるかはその時になってからの判断次第だろう」

 

「………………」

 

「なお、うちのルカが引退後に就職したのが、何を隠そうそのエルフの国『ヘイムダール王国』の行政府だが……今の話はそのルカがこないだの飲み会で愚痴こぼす感じで言ってたことをぽろっと話してしまったとかそういうんじゃなく、裏取りも何もしてないただの噂っぽい何かなのであまり気にしないようにな」

 

「わざとらしいわ。全く……悪いな」

 

「ふん……聞こえんな。ああ、なんだか栗のケーキが食べたくなってきた、次に来た時のお茶請けはそれでいいぞ」

 

「宰相。王都で一番の菓子職人に、モンブラン、ホールで注文出しておいてくれ」

 

「承知しました。ですが、モンブランをカップじゃなくホールって聞いたことないですが」

 

「特注で作らせろ。多少金かかっても構わんから」

 

 ドロニアもドラウディロンも、目を合わさないままに交わされる言葉、ないし、情報交換。

 いい年をした女達の、不器用な友情がそこにあった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ラスト。ドロニアから報告が上がって来たわ。ドラウディロン女王に色々吹き込んで意識させることに成功したってさ」

 

「了解、デミア。これで後は、タイミングを見計らってユリーシャから竜王国に書状か何かを出してもらえばいいか。ドロニアには、友達利用しちゃうような真似をしてごめん、って謝っとかなきゃね」

 

「別にいいんじゃない? これで竜王国が救われるのは事実なんだし……あの子もなんだかんだでドラウディロン女王が助かるならそっちの方が安心でしょ。ま、誰に似たんだか偏屈な天邪鬼気質に育っちゃったから、素直には言わないでしょうけどね」

 

「天邪鬼、か……」

 

 奉告ついでに、何時も通り軽口で雑談していたデミアとラスト。

 ラストは、にこにこ笑っているデミアをじっと見て、

 

「……あんたじゃないことだけは確かね。あんた、欲望から何からほとんど隠さず、ごまかしもせずに言うし」

 

「案外ラストなんじゃない? けっこう素直じゃない、ツンデレなところあったりするし」

 

「えー……自覚ないんだけど」

 

 ドロニア・ルフラン。種族……『魔女』。

 彼女は、『ニューコロロ空中庭園』の支配者であるラストと、その側近中の側近、大魔女デミアの両方の血を引く、数世代後の子孫である……という素性を持つ。

 

 彼女がご先祖様の頼みでぽろっとこぼした『独り言』は、後に、竜王国を今の窮状から救い上げるきっかけとなり……歴史に記されることこそないものの、女王にとってかけがえのない『悪友』であったとして、限られた者達の記憶の中にしっかりと記憶されることとなるのだった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 また、別な日。

 場所は……スレイン報告中枢部。

 神官長たちが集い、この国の、そして人類の未来のための話し合いを行う……『最高執行会議』の場にて。

 

 話し合われていたのは……今朝飛び込んできた、ある奇妙な報告について。

 強大なモンスターが現れたとか、そういう『凶報』の類ではない。しかし、ともすればそうなりかねない可能性を秘めた一大事には違いない。

 

「皆、報告の内容については知っているな?」

 

「ああ、もちろんだ。しかし……本当なのか? にわかには信じがたいのだが……」

 

「間違いないわ。内容が内容だったから、私が直接現場に行って確認しました。……確かに、なくなっていた(・・・・・・・)わ」

 

「なんということだ……一体誰が、何の目的でこんなことを……!」

 

 頭を抱える神官長達。

 彼らの耳にとどいていた奉告とは……『盗難』の被害に関する知らせだった。この神都の中、神殿ほどではないが、それ相応に警備が厳重なある場所で、あったはずのものがいつの間にかなくなっている……という事件が起きた。

 

 いつの間にそれが起こったのか、誰の仕業なのか……何もわからない。

 しかし、何せ盗まれたものがものである。あきらかに、よくないことが起こる前触れであるというのは……神官長達全員に共通の認識だった。

 

 盗難の現場は、国営墓地。

 その最深部……神殿関係者、その中でも特に高位の者達だけが立ち入ることができる区画。

 

 盗まれたのは……そこに安置されていた亡骸の1つだった。棺ごと、持ち去られていた。

 副葬品などは盗まれていない。なくなったのは、亡骸だけである。ゆえに、単なる墓荒らしである可能性はないと言ってよかった。

 

 しかしだからこそ、その亡骸がなくなったというのは、尋常の事態ではない。

 それを使って、誰が何を企んでいるのか……考えないわけにはいかないが、考えるのも恐ろしいと言えた。

 

 

 

 何せ、なくなったのは……およそ100年前の時代を生きて戦っていた……元・漆黒聖典第一席次だった女性の亡骸。

 

 すなわち、『番外席次』……『絶死絶命』こと、アンティリーネ・ヘラン・フーシェの母親の亡骸である。

 

 

 

 

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