【異世界転移 100年目】
一世紀。
医療技術が発達したリアルでも、富裕層のごく一部がそのくらい生きられるかどうか……ってくらいの長い時間を、私は、気づけば生きていた。
私が、この転移後の世界に来て、『ラストにゃんにゃん』になってから……100年経ったんだなあ……。
100年経っても、私の美貌は変わらない。異形種だから寿命は存在しないってことはわかってたけど、それでもこうして目にしてみると、すごいなって思う。
もし私があのままリアルにいて、人間のままだったら……40~50年も生きられればいい方だっただろうし。
ブラック労働と環境汚染で、平均寿命、どんどん短くなってたはずだから。
私の見た目は変わんないけど、反対にこの100年間で変わったことも当然ある。
まず、周辺地域の探索がさらに進んだ。
といっても、コレは転移後30年くらいでほぼほぼ完了してたんだけど……周りの状況の方が結構頻繁に変わるからさ。あったはずの国が数年後には滅んでたり、何もなかったはずのところに新しく国ができていたり……
新興、滅亡、合併、分裂……割と短期間で忙しく変わるので、その都度更新して資料をまとめていく必要があったっけ。
『図書館島』の司書達にはだいぶ頑張ってもらったな……。
ああ、『図書館島』ってのは、アカネの管理する『遊享郭』にある施設の1つで、古今東西色々な本……小説から資料まで数多くの書籍データが収められている図書館だ。何でか湖の中にある島に作られていて、ダンジョンみたいに下に下に深く続いて広がっていっている。
ギルメンの1人が気合入れて作った場所なんだけど……ナザリックの『
そのため、あっちと同じように、『
そんな感じで、リアルタイムで状況を更新しつつ周辺地域の情報は集めて把握してるんだけど……特にそれらの国々と国交を結んだりとかはしてないんだよね。
どの国も、あらゆる意味で微妙過ぎて、関わる旨味がないから。
まず、軍事力は論外。最高幹部どころか、レベル高めの傭兵NPCを1人放り込むだけで余裕で滅ぼせる程度しかない。付き合う旨味が一番ない。
経済力も決して魅力的とは言えない。国としてそこそこありはするんだろうけど……別に私達、お金に困ってないし。『税収』が今圧倒的に黒字だし……そもそも外から物資とか手に入れなくても、『空中庭園』内部の施設で生産から消費まで全部やれるから、経済交流を必要としてない。ある意味、ここもアーコロジーみたいなもんなのだ。
それに、ユグドラシル金貨と、今この世界で流通している一般的な金貨を比べると、価値が倍くらい違うみたいなんだよね。
金の含有率だけを見ても、現地の金貨2枚で、ユグドラシル金貨1枚分の価値しかないし、装飾の細かさとか技術的な付加価値も考えたら、もっと差が酷くなる。
人口、ないし労働力……は、さすがに外の国が勝ってるんだろうけど、うちはそんな、何万人も何十万人も働き手が必要なわけじゃないからね。
それに、労働力が必要だったら、アカネにゴーレムでも作ってもらえば、一般人10人分くらいの働きは軽くこなせるし数も簡単に揃うからな。これも旨味とは言えない。
唯一魅力ないし価値と呼べなくもないものといえば、歴史とか情勢とか、そのあたりの情報を記録してる(かもしれない)ところ、かな……でも、結構頻繁に興ったり滅んだりしてるから、そういうのが期待できる、ある程度以上に歴史がある国っていうのがそもそもないんだよな……。
少なくとも、このへんには
比較的近くに最近まで1つあったんだが……そこも滅んじゃって、大小いくつもの都市国家みたいなのに分裂しちゃったしなあ。
そんなわけで……転移から100年も経っているっていうのに、私達『ニューコロロ空中庭園』は、未だに外の世界とほとんど関わりを持っていません。一方的に調査して情報を仕入れている程度で……ほぼ全ての営みを、ギルドホーム内部で完結させている。それで何も困らない。
……もっとも、私達が外部と関わりを極力持たない理由としては、『必要がない』の他にももう1つあるんだけど……これについては、後で。
他に以前と変わったこととして……例によって『城下町』の様子かな。
転移後半世紀時点よりもさらに難民を迎え入れたのに加え、これもまた例によって、私が産んだ子供達もさらに増えて住み着いているので、さらに人口が増えて……今では、3万人をちょっと超えたくらいになった。
一世紀も経っているので、最初期に住み着いた人達のほとんどは旅立ってしまっているんだが……それでもなお増えた。外から迎え入れて増えたし、彼らもまた結婚して子供産んで、それを繰り返して、何世代にもわたって健全に人口増加している。
そしてそれにより、『税金』の収支は……言うまでもなく圧倒的に黒字である。
転移50年目の時点でそうだったんだから、さらに人口が増えればそりゃそうなる。
おかげで、『ダグザの大釜』みたいな、使うのにコストを要するギミックもためらいなくいくらでも使うことができるし、『空中庭園』全体の防備やトラップもコストを気にせず使える。侵入者対策はもちろん、魔法その他に対する防諜対策もばっちりだ。
なお、今言った通り、私の子供も増えたんだが……ここ最近(って言っても数十年単位)で増えた子供の中には、NPC相手に作った子じゃない子もいる。
『たまには気分を変えて、人間とか相手にしてみたいな~』とか考えて、受け入れた難民の中から適当な、よさそうなのを見繕って一晩『火遊び』したこともある。
また、これもここ最近のことだけど……ようやくミルコとヤマトから『まあこのくらいできるようになればいいんじゃない?』と外出許可が下りた。
そのおかげで、護衛の同行は必須+ステータス隠蔽効果のある装備を付けたうえでだけど、私も外に出て調査とか冒険なんかに参加できるようになった。そんなに頻繁にじゃないけど、いい気分転換になる。
聞いてた通り、魔物も人も全然弱いから、『過剰な準備だったかなあ』とは思ったけど……まあ、用心なんていくらしてもいいものだしね。
……で、その外出した時に、たまにだけど、よさそうな男がいたら……これも『火遊び』的につまみぐいしちゃったりとか……その時、気分次第で子どもも作って産んじゃったりとか……。
そんな感じで、NPC以外の人間とか亜人相手に子供を作って、それがさらに『城下町』の人口増加につながって……なんてことも多々あった。
……あと、そんな感じで『空中庭園』以外の人を相手に子供作った時って、クリムをはじめとした、庭園内部の『竿役』のコたちの嫉妬とか、面白くなさそうな視線がすごくかわいくてね……。
その後に『指名』して寝室に呼んであげると、すごく張り切っちゃって、すごく燃えるんだよね……それ込みで最初から最後まで確信犯で楽しんでます。
やだ、私ったら悪女♪
ところで、さっきちらっと言った気がするんだけど……私達が外部とほとんど関わりを持たないのには、理由があるって言ったじゃん?
そうする価値がない、っていう以外に、本命の理由が。
率直に言ってしまうと、それは、他のプレイヤーや、それと同等の存在……『
私達がこの世界にやって来てから、そろそろ100年が経つ。
『300年前』の六大神に、『200年前』の八欲王。そして、100年前の私達……おそらくこの世界には、100年周期でユグドラシルからプレイヤーやギルド拠点がやってくる。
この100年間での調査で、どうもギルド拠点らしきものが他にも存在していることもわかったしな……『空中都市』だっけか? 八欲王の拠点だったとか何とか言われてるようだが……もし本当なら、あそこは今、主であるプレイヤーがいない状態で放置されてることになる。
都市型だからコスト管理は『比較的』楽ではあるけど、外からの金貨の供給なしで、果たしてどのくらい維持費が持つか……200年前から放置されてるなら、とっくの昔に『ギルドホーム』としては崩壊していてもおかしくない。
つまり、私の予想では、その『空中都市』とやらは、元ギルドホーム、現『ギルドホームとして使えるダンジョン(占有者なし)』というような状態……だと思う。あくまで予想だけど。
そういう場所、他にもありそうだな……探してみるのもいいかもしれない。
話がずれたけど、100年だ。私達がここに来てから、100年。
つまり、そろそろ次のプレイヤー達が来るかもしれない。そしてそれを、事情を知る『龍王』達が警戒している、ないし、待ち構えているかもしれない。
これも前にも思ったけど、多くの同族を殺戮し、この世界を滅茶苦茶にした『八欲王』を、そしてそれと同類のプレイヤーを、龍王やそれに近しい者達はよく思ってはいないだろうし……私達のこの拠点も、その存在を知られたら襲われるかも。
今は、上手いこと隠せてるけどね……多分。
だから、特に今この時期……だけでなく、その前後も含めて、他国とかかわりを持つなりなんなりして『目立つ』のは避けたい。
どこからどんなふうに、私達の存在が『龍王』に露見するかわかんないから。
他国と関わるとしても、『ニューコロロ空中庭園』としてではなく、何のバックもない個人としてにするか、他に何かペーパーカンパニー的なものを用意して、足がつかないようにした方がいいと思う。
むしろ、『ニューコロロ空中庭園』としてどこかと接触することは、未来永劫しなくていいと思っている。その存在の痕跡は、なるべくどこにも残したくない。
城下町に住まわせている難民達に、『二度と外には出られない』って言ってあるのも、情報封鎖のためだし。
けどそれでも、未来永劫外の世界と全く関わらずにいるってことは無理だろうし、むしろそれは逆に危険だと思う。
小学校で習った知識の中にあったっけな……いつかの時代のどっかの国は、外との交流を断ってしまった結果、技術的によそより大幅に遅れて国力そのものに大きな差がついて、その後しばらく大変な時代が続いたって。
目も耳もふさいでただ閉じこもるんじゃなく……きちんと油断せず向上心も保って、世界に目を向けて情報を集め続けて技術も取り入れて、その上でこちらの存在は悟らせない。
それが、健全かつ安全に組織を運営・維持していくための最善策だと私は考えている。
少なくとも、外と関わっても問題ないと判断ないし確信できるようになるか、何かの理由で外と関わらざるを得なくなるまでは。
自分でも言ってて『ややこしいし難しそうだなあ』とは思うけどね……。
ともかく、ここから数年くらいは特に気を付けて、ここの存在を察知されないようにしつつ……可能であれば、外の情報を集めたい。特に、『龍王』関連の、誰がどう動いた、何と戦った、とかの情報を。
八欲王の時代から200年経った今も、龍王が『プレイヤー絶対殺すマン』的に動いてるのかどうか……そして、その実力はいかほどか。他のプレイヤーやギルド拠点の存在も含めて、知りたい。知っておきたい。
前々から話してたことではあったけど、今度の全体会議で改めて議題に挙げよう。ざっと10年くらいかな……調査関係もなるべく静かにやるようにしつつ、広く浅く、『異物』の存在を探ってみよう。
☆☆☆
結論から言えば……ラストにゃんにゃんの懸念は大いに正しかった。
幼稚が過ぎる精神性に似合わぬ強大な力とアイテムによって、この世界を壊し、穢す大罪人。その同郷とあれば、同じことをしない道理はどこにもない。
現に……ラストたちは調べ、知ることはできなかったものの、彼女達が危惧した事態は、世界のどこかで実際に起こった。起こっていた。
今回の『揺り返し』によって、プレイヤーとギルド拠点がまた、この世界に現れた。
それを察知した『
世界を穢す者にその存在を許さないと言わんばかりに、蘇生すらできなくなるまで殺し、無慈悲に、完全に消滅させた。
その後は、そのプレイヤーが持っていた『秘宝』を奪った後、どこかに去って行ったらしいが……幸運にも、その龍王を含むその他のいかなる存在も、今回の『揺り返し』にかかる警戒の中で、『ニューコロロ空中庭園』の存在を察知することはできなかった。
痕跡を残さないよう、存在を察知されないよう、細心の注意を払っていたのに加えて……拠点の存在を隠蔽するために使っている
ギルドやクランの拠点に設置して使うタイプの世界級アイテムで、起動させると常にコストを消費するようになる代わりに、いかなる方法を用いても外部からその存在を感知できなくなる。
マップに映らなくなるし、探知の魔法を用いてもその存在を確認できず、中を覗き見ることはおろか、遠景からすらその影も形も見ることはできない。
たとえ世界級アイテムを使っても、その隠蔽をはがすことはできないのだ……一部の『お願い』系のアイテムは別として、だが。
さらに、外部から魔法や物理、あらゆる攻撃を飛ばしたところで、その攻撃は拠点を素通りしてしまい、何者もそれを傷つけることはできないという……『無敵』と呼ぶにふさわしい、チート級の性能を持っていた。
ただし、このアイテムには欠点が2つあった。
1つは、先に述べたように、使用中常に一定のコストを消費し続けること。
もう1つは、一定の距離まで近づかれて肉眼で目視されてしまうと、隠蔽が通じないことだ。
徒歩ででも飛行ででも、その距離まで直接近づいてしまえば……普通に確認できるようになる。
そして、目視できる距離までくれば、攻撃も当たるようになる。このアイテムによる拠点の守護が無敵なのは、あくまでその存在を知られていない間だけ。
そのため、ギルド戦など、最初からそこにギルドがあることがわかっていて攻めてくる場合、遠距離から攻撃や偵察をされる心配がないという点以外は、何ら意味を持たない……玄人プレイヤーにとっては微妙なアイテムなのだ。
だが、Wikiやら何やらが存在せず、彼女達『ニューコロロ空中庭園』の存在も居場所も誰も知らないこの世界においては、『隠れ潜む』という一点において、間違いなく、これほど頼りになるアイテムは他にない。
支払うコスト……ユグドラシル金貨も有り余っているため、ラスト達は24時間365日、このアイテムの力で拠点を隠し続けた。
そして最終的に、『今回の『揺り返し』で来た者は全て死んだ』あるいは『生かしておいても問題ないほど無力な者だけだ』と龍王達が結論付け、警戒を終えるまで、隠し通したのだった。
☆☆☆
【異世界転移 108年目】
恐らくだけど、どうにか今回の『揺り返し』はやり過ごせた、と思う。
最近知ったことなんだけど、『知っている』者達の間では、100年周期のプレイヤー出現のことを『100年の揺り返し』って呼んでるらしい。これからは私もそう呼ぼう。
『100年目』が来てからしばらく、大陸のあちこちでプレイヤーと思しき存在が確認されたり、ギルド拠点らしきものが現れたり……という、ほぼ噂レベルだけど、そういう情報を手に入れることができた。
それらの中には、ここ数年の間に滅んだり殺されたりといった末路を辿ったものもあれば、その後の動向を知ることができなくなったものもある。
その最中に、『龍王』と思しき存在が姿を現して暴れたという目撃情報も、ごくわずかにだけど、いくつかあってね……おそらく、そういうことなんだろうね。
それ以上詳しくは知ることはできなかったけど。調べたら逆にこっちが気取られそうで。
そういった『騒がしい期間』が、ここ最近でようやく終わったように感じる。
噂レベルでも、プレイヤーやギルド拠点、そして『龍王』の存在を知ることができなくなった。
たぶん、今回の『揺り返し』に伴って起こる騒動や、それに対する警戒期間みたいなのが終わったんだろうな。
もちろん、だからって油断して存在を気取られるようなことにはなるつもりはないけど……ようやく今までと同じようにか、それよりもちょっとだけ大胆に、手を広く伸ばして色々と動くことができそうだ。
そうなると……だ。
前々から考えてた、やりたいと思ってたことが1つあるんだよね……。
話は変わるんだけど、ここから程よく離れた場所に、とある1つの国がある。
人間種によって運営されている、大きくも小さくもない国家なんだけど……中央集権かつ、いい具合に腐敗してるようなんだ、その国。
カリンに言わせると、『このままいくと、そう遠くない未来に内側から崩れ落ちるか、外から侵略されて、いずれにしても滅ぶ』という見込みだそうだ。
そんな国を見つけて何をするのかって?
またその国の、圧政悪政に苦しんでいる人達を攫って『城下町』に入れる……っていうのは、今回はしません。
あれは、ほとんど忘れ去られてるも同然の集落の人達だったから攫っても大丈夫だったんであって、国に紐づいてる人達を攫うと面倒だからね。苦しんでる人達だけど、今回は救わない。
……むしろ、さらに苦しめちゃうようなことになる……かもしれないな。やろうとしてることがことだから。
暗君の悪政で元から腐っていて、何もしなくても滅ぶ見込み。
だから、多少壊すなり引っ掻きまわしても、罪悪感とか別に抱く必要もなさそうな……好きにいじって壊してもよさそうな国。こういう、都合のいい国が現れるのをずっと待ってた。
確かこの国、10年くらい前に、当時そこにあった大国が崩壊してできた、いくつもの都市国家の中の一つ……だったな。上手いこと国としてまとまらなかった、権力を得て堕落しちゃったのかな?
まあ、どうでもいいけど……そういうことなら、有効活用、させてもらおうかな。
……前々から、一度やってみたかったんだよなあ……リアル『傾国の悪女』プレイ。