【異世界転移400年目 ・日目】
デミウルゴス……もとい、ヤルダバオトが南部で『ゲゲル』をやってる間、私は、というか『空中庭園』サイドは何も特にやることがないので、現在私は拠点に戻ってゆっくりしてます。
戻った日の夜は、お預け食らってて辛抱たまらんって感じになってたマーレがさっそく夜這いかけて来たので、久々にガッツリやってたっぷり受け止めました。いやあ、立派なエロガキに育ったなあ、マーレってば……。
結果、当然のように翌日妊娠したので、そのまま産んで……残念ながら今回もハズレ。
で、今日はその翌日。出産直後なのでひとまずゆっくり休んで様子を見る期間です。
部屋でゲームしててもいいんだけど、せっかくなのでちょっと外に出ることに。
と言っても、『空中庭園』の中には違いなくて……『練武郭』で、頑張って修行してる子供達の様子を見に来ただけなんだけどね。
私が見に来ることってたまにしかないから、皆、緊張して動きがぎこちなくなっちゃったり、あるいは逆にいいとこ見せようとやる気出して燃えたりしてた。
はいはい皆、無理はしなくていいからいつもどおり適度に頑張りなねー。
見かける子達をそれぞれ応援してあげつつ、奥の方に進んで、私が様子を見に来たのは……何を隠そう、最近この『空中庭園』の仲間として、そして私の子供として新たに加わったあの子……アンティリーネのところである。
今あの子、四六時中ここに入り浸って鍛え直してるって聞いたもんでね。様子見に来た。
もともと戦うのも結構好きな子で、自分と対等以上に……どころか、普通に自分より強いのがわんさかいるここが気に入ってたみたいなの。思いっきり体を動かせるのが嬉しいらしくて。
で、やってきたのは、『練武郭』の奥にある、
その訓練スペースの一角に目をやると、ちょうどリーネが、教官役を買って出ている子と組手をやっているところだった。お互いに訓練用の武器で、リーネは鎌を使ってる。
と、私が見つけた直後、リーネも私を見つけて……ぱあっと顔を輝かせて笑みを浮かべた……その瞬間、
「こら集中!」
「ふぎゃん!?」
教官役の子……っていうかオルガじゃん。彼女が振りぬいた訓練用の刀が直撃。きりもみ回転して吹っ飛んじゃった。あーあ、痛そう。
ぶっ飛ばされた後、きりもいい所だからってことで休憩に入ったリーネ。
現在、休憩室に場所を移し、売店でさっき買ってあげたドリンクを飲みながら、『今日はこんなことがあった』『誰誰と仲良くなった』『こんなことができるようになった』と目をキラキラ輝かせて、すごく楽しそうに話してくれている。
その姿は、まるで小さな子供……それこそ、小学生くらいの女の子が、学校であったことをお母さんに話して聞かせているみたいだった。
見た目がそれよりずっと大きい、20歳いかないくらいにしか見えない女の子なので、ちょっと違和感あるけど……私的には全然気にならないから大丈夫。かわいい子である。
というか、リーネのこの様子は、本当に彼女が精神的に子供になっちゃった……いわゆる『幼児退行』の可能性が高い、と個人的には思っている。
今までの400年間で、何度か見たことあるんだけどさ。
こういうのって、幼少期に虐待を受けていたとか、貧困が原因で小さい頃から働いていたとかで……『子供でいることができなかった』『親にちゃんと甘えることができなかった』子に多いんだよね。
きちんとした、健全な子供時代を経ずに大人になってしまった、ならざるを得なかった子が、大きくなった後、きちんと甘えられる相手ができた時とか……ふとした拍子に、心が子供に戻ってしまうことがある。
まるで、許されなかった子供時代を取り戻すかのように。
だいたいは一時的なものだし、別に何か人格的に悪影響があるとかでもないので、心配することはない。むしろ、こうしてきちんと甘えさせてあげる方が、彼女の精神衛生的にはいい……って、経験則でよく知ってる。
あ、もちろん、私が子供をないがしろにした結果として、そういう子ができちゃったとか、そういうのはないよ? 皆、きちんと愛情を注いであげてます。
その子供達がね、外からお嫁さんとかお婿さんを迎え入れた時に……つらい過去を持ってる人だったりすると、『空中庭園』で、新しい、優しい家族に囲まれて、幸せで平和な日々を過ごす中で……まれにそうなっちゃう子がいた、ってだけ。
そんなわけで、リーネは今ちょっと『大きい子供』になってるので、小さい子を相手にするつもりでこうして甘やかしてあげてるわけ。
なお、話したいだけ話した後は、膝枕をねだってきたので、お望みどおりに私の膝を提供してあげてます。
……こらこら、別に寝てもいいけど、変な姿勢で寝ると後で体痛くなるぞ。よしなさい。
そんな私とリーネの様子を、こっそり遠巻きに見ている者達がけっこういっぱいいる。
だいたい全員私の子供達で、男も女も入り交じって、もの言いたげな視線を向けてきている。私と、膝の上でご満悦なリーネに対して。
視線の内訳は……『お母さんを独り占めしてずるい!』『僕・私も膝枕してほしい!』って感じの視線が7割。『私もリーネちゃん甘やかしたい!』『新しく加わった家族がかわいくてつらい』っていう感じのが3割かな。母性にあふれた子がけっこういっぱいいるようで……。
うちの子達はホント皆仲が良くて……一度家族になったが最後、『孤立する』ってことがまずない環境なのはホント頼もしいと思うよ。母親ながら。
もちろん個人的にそりが合わないとか、仲良くできない子もいるだろうけど……その逆に、放っておいても仲良くなれるほど相性がいい、趣味が合う子とかも、ほぼ確でいるからね。
新しいお兄ちゃんやお姉ちゃん、弟や妹に囲まれて、じっくりゆっくり、この幸せな時間を存分に堪能しなさい。
【異世界転移400年目 …日目】
昨日、リーネが今『練武郭』に入り浸ってるって書いた時に、『鍛え直してる』っていう言い方をしたと思う。それについてもちょっと説明しておこうか。
ただ単に、訓練してる、とか、鍛えてる、じゃなく、こういう言い方にした理由を。
リーネは元々、レベル90近い強さを持っていて、間違いなくこの世界でも最強クラスの実力者だった。
けど、私達プレイヤーから見ると、まだちょっと改良の余地がある仕上がりだったんだよね。
レベルがカンストしてないのもそうだったけど、それ以前に……『ビルド』がさ。
恐らく、彼女の母親が彼女を鍛える過程で、とにかく戦闘に適した能力を手にできるような鍛え方をしたんだろう。そのせいで、確認した彼女のステータスは、手っ取り早く強くなれそうな
けど、それは私みたいなカンスト勢から見ると……率直に言って非効率的というか、無駄が多い職業構成だったんだよね。
この
この職業とこの職業は相性が悪い、とか。
そういう定石がぜんぜんなってない組み合わせ方だったの。
もちろん、レベルが高いからそれでも問題なく今までやってこれたんだろうし、そもそもこの世界の人達に、そういう……『ビルド』を細かく意識して自他の育成を行うことなんてあまりないだろうし……仕方ないと言えば仕方ないんだろうな、と思う。
それでも、せっかく素質あるのにもったいないな……って思ってた。
なので、あくまで提案って形にした上で……リーネに『もしもっと強くなりたいなら、私が手伝ってあげるから、『鍛え直して』みる?』って聞いてみた。
そしたらリーネは、すごく前向きというかノリノリで、むしろ食い気味に『やる!』って。
リーネからしたら、今よりもっと強くなれる=今の自分じゃ食らいつくこともできない、カンスト級の兄弟姉妹達――オルガとかシーナとか――とも戦えるようになるかもしれない、っていう点に加え、『新しいお母さんに強くしてもらえる、一緒に訓練できる』っていう点がすごく魅力的だったと。
私という新しい母親に育ててもらって、新しい自分になれるチャンスだからと。燃えると。
……少し穿った見方をすれば、これも彼女にとっての、『前の母親を否定する』的な行動の1つなのかもしれない。彼女の中で、未だに前の母親は、悪い意味で大きな存在なのかも……と、ちらっと思った。
けど、だとしても大した問題じゃない。そんなもの上書きして忘れてしまえるくらいに楽しい思い出を、これから一緒に作っていけばいいだけの話だ。
すぐにそう思い直して、『じゃあどんな感じにしたい?』って、一緒にビルドを考える作業に移りましたよ。
そんなわけで今、リーネは……よりよい職業ビルドに変えて力を手にするため、アイテムを使って経験値を消費し、一度わざとレベルを下げて職業の一部を手放して、新たに職業を厳選した上で取得して、育てて……って感じで、文字通り『鍛え直して』いるところなのだ。
今のリーネのレベルは、だいたい50ちょっと手前くらい。レベルダウン前の半分くらいにまで下がっている。
強さで言うとだいたい、クレマンティーヌ(今40レベル台中盤)と割といい勝負になるくらいにまで弱体化している。数週間前までの彼女とは、比べるまでもなく……弱い。
それでも彼女は今、すっごく生き生きして修行に打ち込んでいて、指導にあたっているヤマトや他の教官役の子達曰く、『すごい勢いで技術や知識を吸収して強くなっていっている』とのこと。
職業や、それに付随したスキルの大部分は失ったけど、それまでに会得していた技術や『武技』を忘れることもなかったわけだし、成長スピードもそりゃ早いわな。
しかも本人がやる気満々で取り組んでるから、なおさら上達も早い。
鍛練に付き合う立場の子達の方が参っちゃいそうなくらいだ。
さっき、『クレマンティーヌといい勝負ができるくらい』って言ったと思うけど、実際に2人が訓練で戦った時には……きちんといい勝負にはなったものの、リーネが『もう1回!』『もう1回!』『もう1回!』『もう1回!』『もう1回!』『もう1回!』『もう1回!』『もっかい!』『もう1回!』『もう1回!』『もう1回!』『もう1回!』『……!(無言の圧力)』って感じで、際限なく模擬戦を吹っかけてくるせいで、クレマンティーヌが『あいつ何とかして!』ってガチの悲鳴上げて音を上げるくらいでさ……。
思わず『誰かリーネに疲労無効のアイテムとか渡した?』って確認しちゃったくらい。
でも誰も渡してなかった。つまり素である。怖い。
……まあ、子供って、こと遊びに関する限り、スタミナ無限にある生き物だからな……。
ハングリー精神があるのはいいことだし、とりあえず……オーバーワークにだけは気を付けて、応援してあげるとしますか。
彼女の成長度合いや仕上がり具合によっては、宝物庫の中に眠っている、レア職業取得用のアイテムを使わせてあげるのもアリかも。
そう遠くない未来、これまでの彼女がかわいく見えるくらいの、すさまじい戦士が誕生する予感が、今からしている。ああ、楽しみだ。
【追記】
それはそれとしてリーネ、まだ幼児退行中なので甘えてくる。かわいいから全然かまわないけども。
今日は新しいスキルを習得したお祝いってことで、一緒に過ごしてご飯食べに行った後、城―――『煌皇郭』で一緒にお風呂にも入った。
当然女湯なので、今日はマーレとの混浴や、その後のアレコレはなしです。ごめんね。
そしてその後、私の部屋で一緒に寝た。
広いベッドだから、2人並んでも全然余裕で、狭さとかは全く感じない。……そもそもこのベッド、普段から『2人以上で使う』機会が多いからね……。
リーネってば、今日あったことや明日したいことを、寝る瞬間まで……よくそんなにしゃべることあるなって感じで話し続けていて……このまま朝まで寝ずにしゃべってるんじゃないかってちょっと思った。
けどちょうどそのあたりで、急に瞼が下がって眠そうになってきて……あっという間に寝ちゃった。
子供ってこういうとこあるよね。さっきまで元気だったのに、疲れたと思ったら即座に体が寝に向かって、一気にすとんと落ちるの。
寒くないように、きっちり肩まで布団をかけて上げて、一緒に寝ました。
【異世界転移400年目 のヮの日目】
思う存分甘えて満足したんだろうか。アンティリーネの幼児退行がようやく終わった。
完全に子供って感じになってたわけなので、後から思い返してちょっと恥ずかしそうにして、赤くなってたな……その様子もまたかわいかったんだが。
しかし、割とすぐに切り替えて……というか、『子供が親に甘えて何が悪いの?』って感じで、開き直って受け入れていた。
あの時の自分は、幼い頃にそうありたかった自分で、過去の自分の悲鳴だったんだと思うから……恥ずかしいは恥ずかしいけど、否定はしない、ってさ。うん、それでいいと思うよ。
なお、『また甘えたくなったらよろしく』だってさ。ウィンクしながら。
全くもう……大人になったんだか子供のままなんだか……いや、全然子供でいいけどね?
とまあ、そんな感じでリーネが大人メンタルに戻ったわけだが、だからって訓練への熱が冷めることはなく、むしろより一層力を入れて鍛え直してます。
重ねて言うけど、数か月後が楽しみだ。
リーネの話はこのへんにしておくとして……聖王国の方、そろそろ動くみたい。
今あそこでは、『北部が亜人の襲撃で大変!』みたいになってたところで、南部が『支援してほしかったら頭下げろ、出すもん出せ』みたいに調子に乗ってたところだったんだが……その南部で、かの悪名高きヤルダバオトが『ゲゲル』を始めてしまい、各方面に被害甚大でガッタガタになってしまった。
このへんで一旦私の破壊工作は終わりでいいな、ってことで帰って来たんだっけ。
で、それからさらにしばらく経った今だけど……ゲゲルのせいで南部はすっかり勢いをなくしてしまった。『評議国』との密約もパーになり、この先の発展を見越して色々な投資(という名の暴挙)を行った貴族達は、そのほとんどが破産確定かその一歩手前。
揃いも揃って、FXで有り金溶かしてしまったような顔になっているそうだ。無惨。
しかしそこにさらなる災難が襲い掛かる。
なんと、北部で暴れていたはずの亜人達が、どういうわけか南部がガタガタになっていることを察知し、『あっちの方が攻めやすそうだぞ』と標的を変えたらしい。
油断しているところを突如として攻め込まれてしまい、慌てて迎撃するも被害甚大。しかも少なくない数の亜人達に突破を許し、国内へ侵入されてしまうという大失態となった。
なお、追跡や現在地の把握などは上手くいっていないそうです。
このわきの甘さは、私の破壊工作のせい……だけじゃないだろ絶対。
亜人被害は主に北部のことってことで、自分達には関係ない、対岸の火事だって言って気を抜いてたツケだ。
こうして、北部と南部の立場はあっという間に逆転。
投資失敗(自爆)×他国との内通発覚×ゲゲル大盛況×亜人総攻撃という、泣きっ面に蜂と蛇と毒蜘蛛とカメムシも来たくらいの悲惨な状況に転がり落ちていった。
しかもまだ落ちている最中で、どこまで落ちるのか見当もつかず、自力で止まれる見通しも立っていないときた。
コレはさすがに北部も、『亜人あっち行って助かったー』なんて言ってる場合じゃなくて。
『南部どうにかしないとあっちの方から聖王国滅ぶ!』って感じになってしまった。
さんざんこっちをあおってきた挙句、自分達は満足に防衛すらできずに国を危機にさらしている南部に対して、『いい加減にしろ!』と内心で毒づきつつも、放っておくわけにもいかないので、兵を派遣して支援することを決めましたとさ。
もちろん、諸々高く売りつける形でね。
まあ、ここまでだいたい私達の……というか、デミウルゴスの読み通りなわけだが……1つだけ、彼も予想していなかった点があった。
南部に攻め込んだ亜人達の中に、エルフが交じっていたのである。
ただのエルフじゃない。『ヘイムダール』の件の時に、捕縛を逃れて逃げ出した、『信奉者』の生き残りだ。
こんなところにも逃げ延びてたのか……全く、無駄にしぶとい連中だよ。
祭り上げる王様ももういないってのに、何を意固地になって……単にうちの子が気に食わないだけか。やれやれ。
国を去ってどこか遠くで静かに暮らすだけなら、別に見逃してやってもいいのに……どうしてこう、こいつら、行く先々に現れるかね。
しかし、何の目的で亜人達と一緒に行動なんてしてるんだか……こないだ、エルヘヴン共栄圏で捕縛した連中みたいに、資金を集めてテロでも画策してるのかな?
それとも、泣き王(誤字にあらずwww)のために代わって世界征服を成し遂げようとして、手始めに今回のことに便乗して聖王国を落とそうとした?
まあ、何でもいいか。こうして私達の前にまたのこのこ出てきちゃった以上……末路は決まったようなもんだし。
さて……そろそろ私達の、というか、『英雄』達の出番だな。
少し前、一部の南部の貴族達が、『魔王ヤルダバオト』がかつて王国で猛威を振るい……しかしそれが、ある英雄によって撃退された事実を思い出し、助けを求めて文を出していた。
それがそろそろ、王国の冒険者組合に届くころだ。
そうなればついに……かの魔王と互角に戦った、『漆黒の英雄』の出番である。