「どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!?」
バァン! と、
テーブルが壊れるのではないかと思うほどに強く叩きつけられた、レメディオスの平手。
テーブルのみならず、会議室全体が揺れたのではないかと、会議参加者のほとんどが思った。
しかしそれを、『乱暴だ』とか『恫喝的で野蛮な態度だ』などと指摘する者はいない。
会議冒頭で述べられた、ここ南部の現状が、それだけ悲惨なものだったからだ。
レメディオスがそういう態度に出てしまっても責められないと、南部の貴族達ですら思ってしまうほどに。
(まあ、実際姉さんの言う通りだしね……南部貴族が、自分達の腐敗や気のゆるみを『放っておいた』からこそ、いざという時に対応できずにされるがままになって、こうなってるわけだし)
レメディオスの隣で聞いていたケラルトも、耳と頭が痛むのをこらえながら、はあ、と隠そうともせずにため息をついた。
(件の悪魔による殺人ゲーム『ゲゲル』……それはまあ、不運としても、こんなにもあっけなく亜人達に突破を許し、というか混乱してたにしても初動が遅すぎるわよ! 中央から国境へ援軍が到着するまでにどれだけ時間がかかって……しかも結局守り切れずに突破された上に、それまで各個撃破されるって何の冗談!?)
国境付近から『亜人が襲ってきた』『とても止めきれない、至急援軍を』という要請が届いてから、実際に中央が動き出すまでがまず長すぎた。
それから援軍が編成されるまでが、そしてその援軍が出発するまでがさらに長すぎた。
北部に亜人被害が集中していた結果、南部が起こしていた深刻な『平和ボケ』と、それによる対応の拙さが、最悪のタイミングで露呈してしまったのである。
実際は今ケラルトも思案したように、『ゲゲル』による混乱に加えて、ラストが行っていた破壊工作も大いに影響し、貴族達の動き出しが致命的に遅れてしまったという事情もあるにはあるのだが……それを差し引いても、彼らの『平和ボケ』は問題だった。
それがなければ、事態はもう少しマシだったことは間違いないのだから。
普段からそれなりに備えていれば、通常よりも遅くなるのは仕方ないとしても、いざという時に
中央からの援軍は間に合わなかった。
援軍が到着する前に国境は突破され、そこに勤めていた兵士達は蹂躙され、多くは『無言の帰宅』すらできなかった。
さらにその後、遅れに遅れてのこのことやってきた援軍は、勢い高らかに進軍する亜人の軍団と『国内で』遭遇。
『国境までは戦闘はないだろ』と油断しきっていた彼らは、別に不意打ちでもないのに大いに動揺して勝手に総崩れになり、そのまま亜人達に撃破されてしまった。
その援軍として向けられた戦力が、『まずはこれくらいで様子を見よう』という判断で編成された中途半端な量であったことも災いした。
彼らの頭の中に、『戦力の逐次投入は愚策』という言葉はないらしい。
本当に勘弁してほしい。ケラルトは大きなため息をもう1つついた。
北部はこれよりも規模の大きい進軍をつい最近まで耐えていたというのに、この短期間でなんだこのざまは。
(……悪態をつくのは後ね。今は一刻も早く、この状況をなんとか立て直さないと。そのためには……)
どうにかこれ以上ため息をつくのをこらえることに成功したケラルトは、会議室に集っている面々を見回して話し始める。
特に、つい先ほど到着した、漆黒の鎧をまとった男と、純白の鎧をまとった美女……を、それぞれの中心にした一団に、気取られない程度に、しかし大きく注目していた。
「現状は非常に深刻と言わざるをえません。先日、我ら北部の援軍が国境付近に到着し、どうにか国境を再度封鎖しましたが、既に多くの亜人が入り込んでしまった後でした」
「わ、我々も精一杯やっているのだ! しかし、このような常ならざる災厄が重なったことがそもそもの不運で、決して我らの責任では……」
「あぁ?」
言い訳をぶった切って差し込まれる、レメディオスのドスの効いた声。
必死で保身に走る南部貴族を、一瞬で黙らせるには十分な迫力だった。
「この期に及んで言い訳とはいい度胸だな……平時に聞き分けが悪く、嫌味交じりの手紙を送ってくる程度ならまだしも、いざという時に守るべき民を守ることすらできず、聖王国を窮地に陥れることになった責任も感じていないのか、無能共が」
「い、いくら聖騎士団長殿と言えど、我らに対してそのような物言いは……」
そんな精一杯の虚勢が通じるわけもなく。
「……すまんケラルト、私は耳がおかしくなってしまったようだから、代わりに聞いて教えてくれないか。こいつらは今、私に殴られたいと言ったのか?」
「次に腑抜けたことを言ったように聞こえたら、剣を抜いても構わないと言っていたわ。姉様」
普段は姉を抑える側に回ることが多いケラルトだが、本当に非常時……少なくとも、南部の連中の保身のための言い訳を聞いている暇などないのは間違いない。
現に国家存亡の危機である現在、無能な味方は本気で処刑に値する害悪である。
さすがにこの場で斬り殺すのはないにしても、何らかの形で『排除』する必要があるなら、大義名分がある今、ケラルトは得意分野である謀略を躊躇する気はなかった。
会議が進まないのは本気で困るため、そこから先は、ケラルトはヤジや言い訳を無視して話を前に進めた。適宜、姉という暴力装置をちらつかせながら。
現状、やるべきことは大きく3つ。
今も攻めてきている亜人達からの国境の防衛。
国内に入り込んだ亜人達の迅速な捕捉と討伐。
それとは無関係に悪魔がやっている『ゲゲル』への対処。
国境の防衛には、何をおいても兵士の数が必要になる。
亜人の攻撃を食い止めている間に、地属性の魔法を使って砦を修復し、これ以上亜人達が入ってこれないようにしなければならない。
そのための兵力は南部諸侯に負担させるのはもちろん、必要に応じて北部からも支援を出してあてなければならない。
対して、国内へ入り込んだ亜人達への対処は、規模以上に機動力が必要だ。
亜人達の潜伏先を見つけた後、また逃げたり雲隠れしてしまう前に強襲・殲滅する必要がある。迅速に行動し、時間をかけずに討伐するための力が必要になる。
機動力に加えて、戦闘力もだ。敵地まで歩みを進めた者達……おそらくは部族の長かそれに近いレベルの強者がいるだろう。取り巻き達を指揮して襲ってくるであろうことも考えれば、指揮能力もある者が精鋭を率いてことにあたる必要がある。
そして、それ以上に機動力と戦闘力が求められるのが……悪魔達の遊戯『ゲゲル』への対応である。
いつ、どこで、どのように始まるかもわからない殺人ゲームを警戒し、情報が入ったら即座に飛んでいく。そして相手をするのは、なみの冒険者や兵士では到底太刀打ちできない強力な悪魔。
重要になるのは、今言った通り、何を置いても機動力と戦闘力。連れている兵士の数が多くなれば、それだけ動きも鈍くなる。ここに充てるべきは、単独あるいは少数精鋭で、強力な悪魔を討伐できるほどの、圧倒的な『個』である。
状況を整理した上で、ケラルトは1つ1つの課題に答えを出していった。
「まず国境の守りですが、これについては、防衛のために必要な兵力及び、城壁の修復に必要な資材及び人材等については南部で負担していただきます。諸侯に通知を出し、早急に出せるだけの人員を集めていただきます」
会議室にいた諸侯は何か言いたそうだったが、筋は通っているため何も言えない。
自分達がの管轄のエリアで不備を起こしてしまったのだから、その補填を自分達が行うのは当然としか言えない。平時であればごねていたかもしれないが、今そのようなことを言っていられる状況ではないのは、さすがに彼らにもわかっていた。
その上さらに、今回の『防衛失敗』『援軍失敗』に際して発生した死者や負傷者に対する補償なども南部として負担しなければならず、どうにか破産を免れた者達も含めて、この先の領地運営に響いてくる出費を受け入れるしかなかった。
おまけに、それらの指揮を執るのは、北部から派遣されてきた指揮官となった。
これにはさすがに異論が出たものの、今回の体たらくを見て『南部には任せられない』ということで、聖王女に加え、自分達が推している王兄・カスポンドも加わった連名で、その旨を認める書状がしたためられていたため、南部諸侯達は何も言えなかった。
反抗しようにもそんな力や余裕はなく、したところで孤立してこの先終わるという未来しかない。
ことここに至っても状況のわかっていない南部諸侯に現実を突きつける形で、まずは国境付近の守りについては話がまとまった。
続いて、聖王国内部に入り込んでしまった亜人達についてだ。
「放置しておけば民の犠牲が増え続けますから、迅速な捕捉と殲滅が必要になります。これについては……私と姉様が、聖騎士団と神官団を率いて当たるのが最良と考えます。よろしいですか、姉様?」
「無論だ! カルカ様の国で蛮行を働く、薄汚い亜人共……1匹残らず聖剣の錆にしてくれる!」
聖王国の敵をうち滅ぼす剣たる聖騎士と、それを支援する神官。その精鋭である部隊を、姉妹揃って歴代最高峰と言われる指揮官が率いて対応する。
カストディオ姉妹の勇名は、北部のみならず南部にも大きく轟いているだけあり、平時には邪魔に思えていても、この場面においては頼もしい。
そして、最後の1つ。
「だがケラルト。私とお前がどちらも亜人討伐にあたるとなると……悪魔はどうするのだ? 南部の諸侯の私兵達だけに対応を任せるのか?」
「いえ、現状何ら有効な対応ができていない以上、それは厳しいでしょう。かといって、現在国軍から動かせる中で、それだけの力の持ち主はいません。ですのでここは……」
そこまで言ってケラルトは、会議室の卓の、少し遠い位置に座っている一団に、あらためて目をやった。
彼らは、少し前に到着し、ほとんどその足でこの会議に出席してもらった……国外から来た冒険者達である。
魔王ヤルダバオト出現の報告を受け、リ・エスティーゼ王国からはるばる来てくれた……2つの冒険者チーム。階級はともに、アダマンタイト級。『漆黒』と『蒼の薔薇』。
「殺人ゲームを行う悪魔への対処は……王国において、以前にもその事件を解決した実績のある、冒険者の方々にお願いしたいと考えております。ご了解……いただけますでしょうか」
出方をうかがうような視線を向けてくるケラルトと、その横で、『当然受けるよな?』とでも言いたげな視線を向けるレメディオス。
それらを受けて、2つのチームを代表して口を開いたのは……漆黒の英雄こと、モモンだった。
「無論だ。そのためにこうして来させてもらった。正式に『依頼』を受けてきたのはもちろんだが……王国で、数多くの民の命を奪い、涙を流させた蛮行を……見過ごすわけにはいかないからな」
それに同調するように、『蒼の薔薇』のリーダー、ラキュースもこくりとうなずく。
その目には、二度とあの悲劇を繰り返させないという、固い決意、強い意志が見て取れた。
レメディオス・カストディオは、いわゆる『猪武者』ではあるが、一方で非常に勘が鋭く、信頼できる人物とそうでない人物を本能で見分ける――しかし根拠と説明能力に乏しいためあまり他者に信じてはもらえず、いい顔をされない――特技がある。
その勘が、ラキュースは信頼できる相手だ、と言っていた。目を見てわかるその意志の強さも、単なる肩書だけの貴族の道楽ではないことを悟らせるもので、内心で『ほう』と感心していた。
一方で、
「ふん……本当にお前に、魔王とやらを倒せる力があるのか?」
その勘が、なんだか胡散臭い、という警鐘を鳴らしている相手……モモンに対して、胡散臭いと言わんばかりの態度を隠そうともしなかった。
直後、瞬間湯沸かし器のような速さで立ちあがって何か言おうとしたナーベを、両脇からキリトとトガヒミコが抑えて黙らせる。
視界の端でそれを見ていたモモン……アインズは、『ナイス!』と心の中で称賛しつつ、
「ふむ……それはどういう意味かな?」
「言葉のとおりだ。王国からはるばる来てくれたことには感謝するが……どうもお前が、そんな恐ろしい悪魔と戦えるような騎士には思えなくてな」
(……単なる言いがかりか? それとも、直感的に俺が戦士職としてレベルが高いわけではないとわかってるのか……いや、っていうかどっちだとしても、初対面にこんな喧嘩売るようなこと言ってくるか普通……)
社会人としての経験から、なんだかめんどくさい取引先との打ち合わせの時に似た空気を感じ取り、ひそかにげんなりし始めていたモモン。
彼の代わりに反論したのは、蒼の薔薇の中でひときわ小柄な、仮面の魔法詠唱者……イビルアイだった。
「初対面だというのに随分な物言いだな……恩着せがましくするつもりはないとはいえ、王国からそれなりに苦労してこの地にやってきた我々への第一声がそれか」
なお後ろの方で『イビルアイも割と初対面の人相手に失礼なことあるけどな』『人のふり見て我がふり直せ』『おまいう』と、3人ほど小声で陰口をたたいているのが聞こえて来て、ちょっと反応しそうになったイビルアイだった。うっさい。
対してレメディオスはというと、なんら悪びれる様子もなく、
「それに関しては今言った通り感謝していると言っただろ。だが、こちらとしても聖王国の民の命がかかった事柄なのだ。気になってしまった以上は聞いておかんわけにはいかん」
そう言って、今一度モモンに向き直り、悪びれもせずはっきりと聞いた。
「モモンと言ったな。お前は……お前なら本当にその、魔王ヤルダバオトとやらを倒せるのか?」
「ふむ……」
それに対して、モモンは顎に手を添えてしばし考える。
「……難しい質問だな」
「何だと!? まさか貴様、自信がないなどと言うんじゃないだろうな!?」
苛立ちを隠そうとする気配もなく、身を乗り出して聞いてくるレメディオス。
一方、味方側に立っていたラキュースやイビルアイ、ガガーランも『えっ!?』という反応をして、驚いたような目をモモンに向けていた。
しかし直後、イビルアイだけは何かに気づいたようで、『……ああ』と納得したような呟きをこぼしていた。
双子の忍者は、驚いたのかどうかはわからないが……どうやらイビルアイと同じく、モモンが言ったことの意味に気づいたようだ。
「いや、すまん、言い方が悪かったな。自信がないわけではない。『ゲゲル』の阻止を目的として呼ばれ、それに応えてこの地に赴いた身として……いかなる悪魔が相手でも、この剣を持って断ち切り、民を守ってみせる。その自信はあるのだが……」
「だが……何だ?」
「ヤルダバオトに関しては……戦いになれば倒せる自信はある。しかし……奴はそもそも、我々の前に姿を現さない可能性が高いと思ってな」
「? どういうことだ。魔王がお前と戦うのを恐れて逃げ出すとでもいうのか?」
「そうではない。これは……『ゲゲル』そのものの性質の問題だ」
そこまで聞いて、ラキュースとガガーラン、それにケラルトも『あっ』と気づいた顔になった。
「知っていると思うが、確認の意味も込めて一応簡単に説明しよう。『ゲゲル』というのは、悪魔が既定の条件に沿って、狩猟のように人間を殺していくゲームだ。これを成功させた悪魔は、主催者である魔王の力によって、自分の力を大きく引き上げられる。より強い悪魔になれる儀式としての側面を持っているわけだな。一方で、失敗した場合は命を落とすというペナルティが発生する」
ここまではいいか、と尋ねるモモン。
レメディオスを含めて、聖王国側の全員が頷いたのを見届けてから、続ける。
「問題は、この『ゲゲル』に参加するのは、魔王が参加を認めた悪魔であり……魔王本人ではないという点だ。そして、魔王ヤルダバオトはこの主催者だ。つまり……ヤルダバオト自身は『ゲゲル』のために表舞台には出てこない可能性が高い」
「王都の時は、魔王自らが提案したエキシビションマッチの意味合いで、私達と戦っただけでしたからね……盲点でした」
「つまり……魔王ヤルダバオトは、裏で糸を引いているだけで、この聖王国にいないのですか?」
「いや、主催者である以上、この国にはいるだろう。しかし、『ゲゲル』の挑戦者……すなわち、現場で我々と戦うことになる悪魔は、その部下達ということになる。率直に言って、魔王とは戦いはもちろん、遭遇する機会すらない可能性が高い」
そこまで聞いたケラルトは、南部諸侯に『民を殺している悪魔達の中に、魔王本人はいたか』と確認するが……それを確認できた者は誰もいなかった。
殺人を行っている悪魔の目撃情報ならいくつもあったものの、その中には……『漆黒』と『蒼の薔薇』が戦ったヤルダバオトと一致する特徴の者はいない。やはり、別な悪魔達だけが、挑戦者として参加し、軍や私兵と対峙していたのだろう。
「言ってしまえば、『ゲゲル』に興じる悪魔達を片っ端から倒してしまえば、それ自体を乗り切ることはできる。前回はその際、魔王自身が『このままでは収まりが悪い』と言って特別なゲームを提案してきたわけだが……今回もそうなるかはわからん。挑戦者である悪魔だけを退治して、ヤルダバオト本人はそのままいなくなる……という可能性もあるな」
「ふ……ふざけるな! これだけの騒ぎを起こしておいて、民を傷つけ命を奪って、ことが終わればただ逃げるというのか! そんなことを……認めるわけにはいかん!」
「いや、そりゃ俺達としても、そんなことになったら業腹だがよぉ……」
「認める認めないと言われてもな、向こうから出て来んことにはどうしようもあるまい」
カッとなって怒鳴るレメディオスに対し、ガガーランとイビルアイがなだめるように言う。
……この女聖騎士はちょっと取り扱いがめんどくさいということに薄々気づきつつある。
一方で、薄々気づかれつつある、ということに気づきつつあるその妹、ケラルトは、
「……今回に関しては、悪魔を倒して『ゲゲル』被害を防ぎ、この殺人ゲームを終了させることができれば……ヤルダバオトに関しては、必ずしも討伐という結果は求めません」
「ケラルト!?」
「姉様、私も同じ思いです。聖王国の……カルカ様が愛する国の民達を傷つけた者を、その首魁である魔王を許したくはありません。しかし、そればかり追っていられるほど、私達には時間も人手も余裕がないのです。ですから、弱腰と言われても仕方ありませんが、被害が出ないのであれば、それはそれでよしとしましょう」
「ぐぅ……」
「……ご理解、感謝する。代わりにというわけではないが……もし奴が出て来た時には、今度こそ必ず……この手で討ち滅ぼしてみせよう」
そう、力強く言い切ったモモンに、ケラルトは無言でうなずくことで『お願いします』という意を示し……レメディオスは、何か言いたそうにしていたものの、ケラルトに諭された手前、ひとまず収めることにしたようで、席に座り直していた。
それからしばし、細かいことを話し合って決めて……その日の会議は終わった。
今後、北部から来た聖騎士団と神官団は、亜人の捜索及び討伐を担って、南部を走り回ることになる。
同時に、『漆黒』と『蒼の薔薇』を主軸とした冒険者達は、主に悪魔との戦いに身を投じることになる。『ゲゲル』が始まった端から駆けつけて悪魔を倒し、民への被害を最小限に抑えるために。
ただ、必要に応じて聖騎士団や神官団とも協力する機会もあるだろうが。
それぞれ決して楽とは言えない戦いになるのは明らかだが、悲観していられるだけの余裕すら、今はない。
各々、決意と覚悟を決めた目をして、会議室を後にしていった。
その、数分後。
「さて……後は我々は、出てきた悪魔を1匹1匹掃除していくだけの簡単な作業……になるな」
「はい。悪魔の出現場所やタイミング、標的とする人間のルールについては、逐一デミウルゴス様から連絡をいただく予定でおります。なお、この後最初の『ゲゲル』は、ここの隣の町で、2日後の予定とのことです」
「距離としては、徒歩でも馬車でも1日前後という程度なので……発生の報告を受けてから動くとして、1~2人死んだところで止められそうですね。もっと早く止めたければ、何か理由をつけて明日中に動き出す必要があると思います」
「ふむ……理由か。何かあるか?」
「王国でのゲゲルをダシにするのはどうですか? 人口規模の大きな都市に被害が集中していたことを挙げて、この南部でも同じようなことになるんじゃないかと予想して、中央に拠点を構えることにした。その途中で補給のために立ち寄った町で、たまたまゲゲルが起きた……みたいな感じで」
「ふむ……矛盾なく聞き入れられそうだな。よし、それで行こう。明日出発する……と、いけないいけない。『蒼の薔薇』にも意見を聞いて決めないとな」
盗聴防止その他防諜関係の魔法を使った上での、モモン達の会話。
シナリオ作りに最初からかかわっている以上当然なのだが、どうしようもなく楽勝なムードの中で、緊張感なく普通にくつろいでいた。
そんな彼らにとって、実はこの先、予想外な出来事がいくつもおこる作戦の運びになるのだが……それをまだ、彼らは知らない。