オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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ラブコメは全然関係ない外野から見物してるのが一番面白い

 

 

【異世界転移400年目 ★日目】

 

 信奉者エルフの残党、最後の生き残り達の抹殺と回収を、ナーベとトガが完了してくれた。

 これでようやくあの国の周辺も静かになったってわけだな……よかったよかった。

 

 そっちはそれでいいとして。

 

 彼女達も合流した冒険者チーム×2の方は、こないだも書いた通り、予定通りに何の問題もなく悪魔達を倒し続けている。

 適宜『間に合わなかった……』的な感じで、今後の聖王国の運営に邪魔ないし有害なクソ貴族を『ゲゲル』で処分しながら。

 

 無駄に入り組んだ利権や、法律の抜け穴に守られてる悪徳貴族を掃除するには、やっぱり純粋な暴力が一番だな。

 

 こっちの方も問題ないとして、だ。

 ……残るは、聖王国のカストディオ姉妹が率いる部隊と……それに同行している『天然もののラブコメ主人公』こと、カルウィン君についてである。

 

 いや、ここ何日か見てたんだけどさ……すごいなこの子!?

 本当にそういう星の下に生まれてるだろってくらいに、怒涛の如くラッキースケベを引き起こすんだけど。毎日。しかも1日に複数回。

 

 戦闘中に使った暴風を起こす魔法で敵を怯ませたのはいいけど、近くに来ていたケラルトさんの方にその余波が行って、ものすごい豪快なスカートめくりが発生。

 めっちゃ恥ずかしそうに赤くなってぷるぷる震えて怒ってたケラルトさんに睨まれてたり。

 

『私が鍛え直してやる、剣を取れ!』『いや、俺魔法職なんですけど!?』みたいな感じで始まったレメディオスさんとの稽古の最中、疲れ果てて立ったまま気絶したカルウィン君が、慌てて受けとめようとしたレメディオスさんの胸に突撃、指をひっかけて胸元をはだけさせた挙句にその谷間に顔を埋まらせたり(なお意識なし)。

 

 宿の階段で転んでケラルトさんを巻き込んで一緒に転がり落ちて、とっさに彼女をかばったはいいものの、下の階まで落ちた時にはなぜかケラルトさんがカルウィン君の顔の上に座っちゃってて柔らかそうなお尻の下敷きになってたり。

 

 夜中、トイレに起きたレメディオスさんが寝ぼけて部屋を1つ間違えて、隣に泊まっていたカルウィン君の部屋に入って同じベッドにもぐりこんでそのまま寝て……翌日同時に起きた2人が『!?!?!?!?』って感じになってたり……。

 なお、部屋の鍵はちゃんとかけてたんだけど、レメディオスさんが馬鹿力で無理やりドアノブをひねって破壊して入ってた。弁償。

 

 その直後にケラルトさんが、『起きたらなぜか姉がいない+隣から姉の声が聞こえる』ってことで行ってみたら、1つのベッドの上にいるカルウィン君とレメディオスさんを見て『うそ……でしょ……?』って感じになってたり。まあその後ちゃんと誤解は解けたけど。

 

 こないだお風呂で裸を見たお詫びにってことで、ケラルトさんとレメディオスさんの雑用を1日任されてた日に、レメディオスさんが何も考えずに洗濯も任せた結果、下着も手洗いされることになってケラルトさんが真っ赤になって恥ずかしそうにしてたり。

 なお、レメディオスさんは特に気にしてなかった。やっぱそういうの平気な人?

 

 戦闘中に敵の弓矢が、しかも毒矢がお尻に刺さって負傷してしまったカルウィン君を助けるために、レメディオスさんが『大丈夫か見せてみろ!』ってその場で引っ張り倒して『ちょっ、待っ、やめ……』と抵抗するカルウィン君の下半身の衣服をはぎとって傷を確認し、思ったより深かったのでケラルトさんを呼んで治療してもらおうとした。

『仕方ないわね』って駆け付けたケラルトさんは、下半身裸で姉の脇に抱えられてるカルウィン君というとんでもない光景を見て絶叫してしまっていた。そらそうなる。

 

 そんな感じで、『よくもまあここまで』と感心させられるほどのラブコメ展開を引き起こしていて……それでいて仕事はきちんと真面目にやってるから、嫌悪感を抱かれたりするまでは行っていないっていうね……。

 この3人、ずっと見てられるレベルで面白いわあ……。管狐から送られてくる映像クリスタルがお宝ばっかで最高。

 

 まあ、このまま見てるのもそれはそれでいいんだけど……そろそろ作戦を次のフェーズに移す頃合なんだよね。

 

 当初の予定では、この後、カストディオ姉妹の方に、モモン達と運悪く出会わなかった(という設定の)強力な悪魔を差し向けて遭遇させ、窮地に陥った彼女達を、モモンが駆けつけて救う……という、典型的なマッチポンプ演出を考えていた。

 

 もちろんそのままでも面白そうなんだけど……せっかくカルウィン君っていう、予定外の面白いキャストがいるわけなので、ちょっとアレンジを加えてみることにした。

 

 ここ数週間、色々とドタバタなやり取りを繰り返しているうちに、カストディオ姉妹と彼の間の距離がだんだん近づいてる気がするんだよね。

 度重なるラッキースケベについては色々思うことはありつつも、交流や共闘の機会の多さゆえに、お互い『悪い奴じゃない』『むしろ信頼はできる』ってことに気づいてるんだろう。

 

 だったらせっかくだし……ちょっと彼を利用してみようかな。

 悪いようにはしない……むしろ、超お得というか、実入りのいい結果にしてあげるからさあ……私達の遊びに付き合ってよ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「何だ、これは……!?」

 

 次なる亜人の潜伏先に到着したレメディオス達は……そこに広がっている惨劇を前に、絶句していた。

 

 そこにあったのは、ぐちゃぐちゃに叩き潰された死体の山。

 原型をとどめているものが1つとしてない、凄惨極まりない、赤黒い血と肉塊が散乱している、凄絶な光景だった。

 

 恐らくは人間だったであろうものもあれば、自分達がこれから討ち取るはずだった亜人のそれと思しき死体もある。損壊がひどすぎて、どこまでが何の死体かがわからないが。

 あまりの光景に、率いて来た神官や聖騎士の何人かが、耐え切れずに嘔吐してしまったほどだ。

 

 その惨劇の中心にいたのは……身長4mはあろうかという巨大な鬼だった。

 筋骨隆々の肉体。裸の上半身にしめ縄のような飾りを巻き付け、下半身は和装の戦装束。手には巨大な金棒を持ち……その首から上は、獰猛そうな顔つきの、牛の顔になっていた。

 

 それを見たレメディオスは、『ミノタウロス、か?』と呟いていたが、それは間違いである。

 

「……何だ、貴様らは?」

 

 人の体に牛の頭という特徴はそれに通じるものがあるが、その正体は、『妖怪』カテゴリーのモンスター『牛頭(ごず)』。

 亜人のカテゴリーに含まれるミノタウロスとは違い、こちらは異形種であり……レベル等同条件下の戦闘能力や狂暴性といった、脅威度においてはこちらの方が上となる。

 

 そして、この時点ではまだレメディオス達は知る由もないが……この『牛頭』こそが、今回のゲゲルの挑戦者であった。それまでの挑戦者と違い、ゲゲルで殺す人間の条件がやや特殊であったため、モモン達の警戒網に引っかからず、レメディオス達と遭遇してしまったのである。

 

 にらみつける視線と共に、地の底から聞こえてくるような、低く、空気を震わせるような声が響く。

 それだけで気の弱い者はたじろいでしまいそうな迫力。しかし、先頭に立つレメディオスはひるむことなく、腰に挿していた聖剣を抜いて構える。

 

「これをやったのは貴様か……亜人だけならまだしも、人間も一緒に……何のためにこんな惨いことをした!?」

 

「……それを聞いてどうする? 俺の『ゲゲル』だ……貴様らには関係あるまい。少し来るのが遅かったことだしな……」

 

「『ゲゲル』ですって……!? さてはあなた、亜人じゃなく……悪魔ね?」

 

 言い当てたケラルトに、一瞬じろりと視線が向くが、すぐに興味なさげにそっぽを向く牛頭。

 

「貴様らに用はない。見逃してやるからさっさと帰るがいい」

 

「ふざけたことを……亜人でなかろうと、聖王国の民に仇なす怪物を、このまま見逃すと思うか! カルカ様の国に仇なす悪鬼は、この私が討ち滅ぼす!」

 

 言うが早いか、レメディオスは地面を蹴って駆け出し……聖剣サファルリシアを、牛頭の首元めがけて振るう。

 悪を断ち切る最強の刃は、隙だらけの首元に吸い込まれるように命中する。そのまま首と胴体を泣き別れにし、また1匹、この国を脅かす悪が討伐される…………かと思われた。

 

 しかし、

 

 

 ―――ガキン!

 

 

「何っ……!?」

 

 レメディオスの剣は、牛頭の首元に直撃した。ガードらしいガードもされることなく。

 にも拘らず、その固い毛皮と重厚な筋肉に阻まれ……一寸も傷をつけること叶わず、止まってしまった。

 

「…………」

 

 鬱陶しそうに視線だけをよこしてレメディオスをにらむ牛頭。

 その視線には、苛立ちこそあるものの……敵意らしいものがないのを、目が合ったレメディオスは悟った。

 

 つまり今、自分はこの悪魔に……敵としてみなされていない。

 それほどに『なめられている』のだと理解し、怒りと屈辱で頭に血が上る。

 

「……ッ……おぉぉおおぉぉっ!!」

 

 裂帛の気合と共に咆哮し、肉薄した状態から連続攻撃を叩き込むレメディオス。

 単なる斬撃だけではなく、武技『斬撃』や『剛撃』を織り交ぜた、よどみなく襲い来る嵐のような攻撃。その全てが、牛頭に叩き込まれ……しかし、全く効いた様子がない。

 

 牛頭は、一回も反撃どころか防御すらすることなく、時には眼球や喉元といった急所をも狙って繰り出されるレメディオスの攻撃を、全て受け止めた。

 

「はあぁぁっ! 【聖撃】!!」

 

 とどめとばかりに、一層の気合を込めた咆哮と共に繰り出される一撃。

 斬撃と同時に、聖剣サファルリシアの、日に1度だけ使える、魔を打ち滅ぼす力を乗せた光の刃が、胴体を薙ぎ払う軌道で繰り出され……無抵抗の脇腹に突き刺さり……

 

 ……刺さっていかずに、止められていた。

 他の攻撃と一切変わらず、肉の鎧に食い込むことすらなく。

 

「……っ……バカな……!?」

 

 己の切り札すら使ってなお、傷一つつけられない、目の前の悪魔の桁違いの頑丈さに愕然とするレメディオス。

 それを後方から見ていた妹のケラルトや、姉妹が率いて来た部下達、そしてカルウィンもまた……信じられないものを見る目で、目の前の光景を見ていた。

 

 レメディオスは今まで、多少苦戦することこそあれど、亜人相手に無敗の強さを見せつけ、歴代最強の聖騎士の名は伊達ではないことをその身で示していた。

 あらゆる亜人や魔物を断ち切って見せていたその剣が……通じない。

 

 そしてここに来て……刃が放つまばゆい光を不快に感じるように、うっすらと目を細めた牛頭が……体ごとレメディオスに向き直る。

 その瞬間、レメディオスの直感が、これまでで最大級の警鐘を鳴らした。

 

 反射的に彼女は、その場から飛びのいて後ろに下がり……

 

 

 

 ―――ガ ン !!

 

 

 

 目にもとまらぬ速さで振りぬかれた金棒の一撃が……レメディオスを打ち据えた。

 

 ただ腕を振るっただけにしか見えない、たった一撃。

 しかし、その一撃を受けたレメディオスは……自分が敗北したことすら知ることなく、意識を手放していた。

 

「お前が……何を、討ち滅ぼすだと?」

 

 白目をむいて、頭……いや、体中から血を流して倒れたレメディオスを、さっきまで以上に信じられない目で見るケラルト達。

 

 牛頭の金棒は、そのまま……次はお前らだと言わんばかりに、彼女達の方を向いた。

 

 

 

 それから、およそ丸1日経った頃。

 どうにか回復したレメディオスが目を覚ました時……そこは、『牛頭』に遭遇した場所から近い、ある町の宿屋だった。手当をされて、そこに寝かされていた。

 

 そして、そこには……最愛の妹の姿はなかった。

 

「……どうなった?」

 

「は、はい?」

 

「あの後どうなったのだ!? ここはどこ……いやそれはわかるからいい。奴はどこへ行った!? なぜ……なぜケラルトがいない!? 報告しろ今すぐに!」

 

「は、はっ! 直ちに!」

 

 ケガ人とは思えないレメディオスの剣幕に押されつつも、部下の聖騎士は1つ1つ報告していく。

 

 あの後、牛の頭の悪魔は、レメディオスを救おうと立ち向かっていった聖騎士達を金棒の一撃で蹴散らし……しかしそれ以上こちらに攻撃してくることはなく、つまらなそうに去って行った。倒したレメディオスにとどめを刺すようなこともなかった。

 

 ケラルトの指示で、負傷したレメディオスと聖騎士達を回収し、近くの町……つまりここに運び込んで静養させることを決めた。

 

 しかしその道中、おそらくは待ち伏せていたのだろう。

牛頭(ごず)』ではない、彼らがよく知る、本物の『牛頭人(ミノタウロス)』が出現し……手負いのケラルト達に襲い掛かった。

 

 その戦いで、戦えないどころか意識がないレメディオスをかばい、逃がすために、ケラルトやカルウィンを始めとした者達が殿(しんがり)を務めて戦った。後から追いついて合流するから、先に町へ行っていてくれ、と言って。

 

 そして、レメディオス達を抱えた一団が町にたどり着き、宿を取って……既に半日以上が経過している。

 ケラルト達は……来なかった。

 

「…………っ……!」

 

 感情そのままに部下を叱責しそうになったのをどうにかこらえるレメディオス。

 彼らもまた、ケラルト達を助けたかったはずなのに違いはない。責めても何にもならないとわかっていた。歯を食いしばって怒声を飲み込み……続きを促す。

 

「ケラルト達が、どこに行ったかは……わかっていないのか。ミノタウロスに、連れ去られたのか?」

 

「現在、全力をもって捜索中であります……」

 

「そうか……他に報告は」

 

「はっ。補足のような形になりますが、行方不明者の内訳について。神官団のケラルト団長と、聖騎士団より4名、神官団より3名、それと……」

 

 

 

「……冒険者の、カルウィン・ヴィスコンティ殿が、現在消息不明であります」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

(さて、どうする……)

 

 某所。

 暗く、涼しい……を通りこして若干肌寒い、洞窟の中。

 

 そこには、ミノタウロス達が拠点として使っているらしい、地下遺跡があった。

 

 かなり古いものであるため、彼らが作ったわけではないだろう。おそらく、国内に進入したミノタウロス達が、洞窟内に偶然見つけた遺跡を拠点に使っていると思われた。

 そしてそこに、負傷し、頭から出血しているケラルトが運び込まれてきていた。

 

 出血はそれほど多くなく、軽傷のようだが、多少乱暴に扱われているにも関わらず、目を覚ます気配はない。

 ケラルトは遺跡の入り口で、着ていた衣服を全てはぎとられ、装備も奪われ、生まれたままの状態で、奥へと運ばれていった。

 

 その様子を、陰に隠れて見ている者が1人。

 

「……一旦町に戻って、応援呼んで来たいが……」

 

 彼自身も怪我をしているのだろう。頭に包帯を巻いて手当しているが、その下から血が滲んでシミになっている。こちらも軽傷なのか、目の焦点や足取りもしっかりしている。

 手にはきちんと、得物である杖を持ち、いつでも戦えるように油断なく周囲の状況をうかがっていた。

 

 もっとも……それなりの使い手と言えど、魔法詠唱者(マジックキャスター)である彼1人でミノタウロスが複数住み着いている拠点をどうにかできるとは、さすがに言えないだろうが。

 

「さっき『生意気なニンゲン共に打ち勝った祝いだ』だの、『今夜は豪勢に行こう』だの言ってたし……んな時間ねえよな、やっぱ……」

 

 その青年……カルウィンは、覚悟を決めて……見回りのミノタウロスの目を盗んで、遺跡に忍び込むべく、機会をうかがっていた。

 

 

 

 

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