【異世界転移400年目 λ日目】
いやあ……いいもん見せてもらいました。
宝物庫の奥で埃をかぶってた、作った本人も『要る人もらっちゃっていいよ』と言っていたパワードスーツ『アーバレスト』。
丁度良く、って言ったらちょっと不謹慎だけど、ケラルトが攫われてヒロピン状態になってくれたので、助けに参上する王子様的ムーブのお供にってことで活躍できた形になる。
プレゼントした甲斐があったってものだ……いいもん見せてもらいました(2回目)。
ケラルトを助けた後、カルウィンは再びアーバレストを身に纏うと、怪我は治ったがまだまだ本調子ではない彼女をお姫様抱っこして、走って町へ向かった。
飛んで行かないのは、消費する魔力が結構馬鹿にならないからだろう。まあ、走るスピードにもだいぶ補正ついてめっちゃ速いので、馬とか使うより全然早いんだけどね。
小一時間ほどで町に到着。そのまま――アーバレスト着たままなのでめっちゃ目立ってたが――レメディオス達が滞在している宿に直行。
腕の中に抱えているケラルトの姿を見て仰天した部下が呼びに行って……数秒後、宿屋の2階の窓からレメディオスがダイブして来た。
『きゃあっ、姉様!?』『普通に玄関から来いよ、びっくりしたな!』『うるさい!』って感じのやりとりがありつつも、最愛の妹の無事を喜んで泣きながらケラルトを抱きしめるレメディオス。
その様子を、なんだかんだ言いつつも、安堵の表情で見ているカルウィンだった。
その後、レメディオスの『お前そんな鎧着てたか?』という天然発言から始まった事情聴取の中で、ここに来るまでにあったことを簡単に説明するカルウィンとケラルト。
ミノタウロス達に捕まってしまい、晩飯のメインディッシュにされそうになったところを、その鎧を着こんだカルウィンに助けられたこと。
そのカルウィンは、ミノタウロス達のアジトでこの鎧を見つけてかっぱらってきたこと。
見つけた場所から察するに、恐らくはこれは、彼らに殺された犠牲者のいずれかが使っていたものであろうということ。
何体かのミノタウロスをそのまま倒したものの、無事に逃げ出すことを優先して、洞窟の入り口を崩落だけさせて逃げてきたこと。しばらくは時間を稼げると思う、ということ。
それから……生きて見つけることができたのはケラルトだけで、他の行方不明者達については、自分達もわからない、ということも。
しかし今思うと、物置に聖騎士や神官の装備があったことから、おそらくは……。
最後のことについては、レメディオスや部下達としても痛ましい結果ではあったが、まずはケラルトだけでも無事で帰ってこれたことを喜ぼう、他はまた後で考える、ということになった。
なお、ケラルトについては、かなりの血を失ってまともに動けず、衰弱していて魔法も上手く使えないであろうことから、一時的に戦線離脱し、休養する扱いとなった。
ケラルトは心苦しく思いつつも、今の自分では足手まといでしかないことをわかっていたため、悔しそうにしつつもそれを受け入れ、うなずいた。
そして、その間の彼女の身の回りの世話については、姉であるレメディオスや、部下の神官達のうち、女性の者が担当することになり、彼女は姉に支えられながら、宿の部屋で休むため、一足先に打ち合わせをしていたロビーを後にした。
……その時、何か言いたげに振り向き、カルウィンの方を見ながら、ほんのりと頬を染めていたのを私は見逃しませんでしたことよ!
潤んだ目なんか、アレ絶対『離れたくないのに……』っていう感じのアレだったよね! あー、このイベント起こして、それからずっと『管狐』の監視つけて視覚共有でライブで覗いててよかったなあ! ホントご馳走様です!
でまあ、その日はその後、残った面々でちょっとだけ打ち合わせして終わりみたいだった。
……翌日、早々に動くことに決めてたみたいだったけどね。
【異世界転移400年目 θ日目】
ケラルト救出完了から翌日。
レメディオス率いる亜人討伐部隊は、今日ぐらいはゆっくり休む……なんてことはせずに、動ける者達を引き連れて早朝から出撃。
カルウィンの案内で、ミノタウロス達のアジトへと向かっていた。
せっかく居場所がわかってる亜人の一団がいるんだから、そいつらがどっかに行かないうちに倒しておいた方が絶対にいいし。
それに、大事な妹を痛めつけてくれたってことで、レメディオスがお礼参りする気満々だったので……『いくぞ、準備しろ』『あっはい』という感じで、もうなんか有無を言わさずだったっていうのもある。
馬を走らせて半日ほど。到着すると、タイミングよく、ミノタウロス達が洞窟からわらわら出てくるところだった。
どうやらちょうど、崩落個所を掘り返して開通させたところだったらしい。
夜通しの作業だったのか、ほぼ全員ヘトヘトになっていた。食事もできずに働き通しだったんなら、そりゃそうなるわな。
アジトにあった『食料』――何の肉かわからんものが大半――カルウィンが置き土産的に、全部焼却処分してたし、食堂にあった奴はケラルト救出の際に蹴散らしちゃってたからな。食べられるもの、ほとんど残ってなかっただろう。
だから多分、手近な町に『狩り』にこれから行くつもりだったんだろうが……彼らにとっては最悪の、レメディオス達にとっては最高のタイミングで遭遇したことになる。
本調子でないミノタウロス達を、士気MAX状態のレメディオスと、アーバレスト装備で超強化状態のカルウィンが中心となって蹂躙していた。
アサルトライフルでミノタウロス達を片っ端から蜂の巣にしていたカルウィンは当然すごかったけど、それに比肩するくらいの活躍してたレメディオスも純粋にすごいわ。支援魔法を重ね掛けして、さらにその上から武技で強化してとはいえ、ミノタウロス相手に力で押し勝つって……。
後ろの方で見てた部下の人達、『えー……』って感じになってたぞ。英雄を見る目じゃなく、珍獣を見る目だった。明らかに。
そのまま圧倒し続けて、ミノタウロス達を全滅させるかと思われたんだが……残りの敵が3割くらいまで減ったかっていうところで、想定外の乱入者が現れた。
一昨日、レメディオスを一撃で叩きのめした、あの牛の頭の悪魔……『
これは、レメディオス達は知らない設定なわけだけど……今回、『牛頭』が挑んでいるという設定の『ゲゲル』のルールは、『多数同士で争っている者達』がターゲットになる、というものだった。
だから、最初にレメディオス達が遭遇した時、牛頭はそのちょっと前に……亜人達と冒険者達が戦っていたところに現れ、その両方を皆殺しにした。
レメディオス達がその後やってきたけど、その時彼女達は『誰かと争っている』状態ではなかったため、『少し遅かった』と言ってそのまま帰ろうとしたわけだ。
そして今回、レメディオス達とミノタウロス達が争っているのを見つけた牛頭は、今度はレメディオス達も獲物として見定め、襲い掛かってきたのである。
あれよあれよという間に、もともと壊滅状態だったミノタウロス達が皆殺しにされ……そして、続けてその金棒の矛先が、文字通りレメディオス達に向いた。
☆☆☆
空を切り裂き、振るわれる金棒。
鈍重、とは言えないほどに素早く放たれたその一撃を、レメディオスは間一髪で回避した。
「ほう……二度は食らわないか」
「当たり前だ……っ!」
かわしはしたが、すぐ横を猛烈な勢いで通り過ぎて行った金棒。
その凶悪な音に、やはり当たれば一撃で終わりだと悟り……レメディオスは、強がりながらも冷や汗を堪えられなかった。
そして、この悪魔の厄介さは、攻撃力だけではない。
レメディオスの攻撃力をもってしてもろくにダメージが通らない、その肉体の堅牢さにある。
それをわかっていつつも、レメディオスは武技で加速し、駆け抜け……すれ違いざまに、渾身の力で牛頭の腹を斬りつけた。
が……返ってきたのは、鋼か何かを斬りつけたかのような手ごたえ。肉を切り裂いた感触は、全くなかった。
「やはり……無理か!」
「そのよう……むっ?」
しかし直後、悪魔目掛けて光弾の豪雨が降り注ぐ。
カルウィンがパワードスーツの機能で飛び上がり、上空からアサルトライフルで攻撃していた。周囲の地面もろとも耕すような勢いで。
しかしその光弾すらも、有効打になっているようには見えない。
全く効いていないわけではなさそうだが……それでも、撃たれながら普通に話すぐらいの余裕が牛頭にはあった。
牛頭はというと、顔だけを腕でかばいながら、
「……珍しいものを持っているな、人間。神々の世界から零れ落ちた、鋼の戦装束か」
「あ? 何て?」
アサルトライフルの連射音のせいでカルウィンにはよく聞こえていないらしい。
しかし、其れを気にすることなく……牛頭は、足に力を込めて、勢いよく跳躍した。砲弾のような凶悪な勢いで、空中にいるカルウィンめがけて迫る。
が、そのくらいはしてくるだろうと予想していたカルウィンは、背中のスラスターをふかしてすぐさまそこを離れ……離れながらも打ち続ける。
しかし、それもまた、牛頭に読まれていた。
回避の後、カルウィンが構えなおしたその瞬間……牛頭は、自分が持っていた金棒を、勢いよく放り投げた。
「なっ!?」
「おい、避け―――」
地上にいたレメディオスが『避けろ』というよりも早く、隕石のような勢いで飛んだ金棒が……照準を合わせるために足を止めてしまったカルウィンに直撃する。
しかし、自動的に展開した障壁魔法により、その威力を大幅に減衰し……ガン、と大きな音を立てたものの、カルウィンにダメージはさほどなさそうに見えた。ふらつきはしているが、落下してもこない。
ほっとした様子のレメディオスに対し、面白くなさそうな牛頭。
その手に、投げたはずの金棒が自動で戻ってきていた。どうやら持ち主の手元に戻る力を持った武器であるらしい。
「やれやれ……使う人間が弱くともそれなりの力を与える。神々の遺産は面倒だな」
「悪かったな弱くて! つか、神々の遺産って……これそんな大層な武具なのかよ」
カルウィンは『何でそんなもんがミノタウロスのアジトにあったんだ』と不思議そうにしていたが、その目の前で、牛頭は再び金棒を構える。
咄嗟にカルウィンも、そしてレメディオスもそれぞれの武器を構え、いつでも応戦できるように気を張ったが……直後に牛頭がとったのは、あまりに想定外の行動だった。
構えた金棒を地面にたたきつけて、そこから蜘蛛の巣のように大きなひび割れを走らせる。
すると、そのひび割れの奥から禍々しい黒い光が立ち上り……それらは各々形を成して、牛頭に似た姿の悪魔になった。
「眷属を呼び寄せたか!」
「情けない話だが、俺は飛べんのでな。ちょろちょろと動き回る貴様の相手をするのは面倒だ……それに向いたしもべと遊んでもらうとしよう」
『行け』と号令をかけると同時に、牛やヤギ、鶏などの異形の頭を持ち、背中には翼を生やしている悪魔達が、飛び上がってカルウィンに殺到してくる。
手には、棘だらけのメイスや大鎌といった、見た目にも恐ろしい武器を持っている。中には弓矢や杖を持っていて、いかにも遠距離攻撃をしてきそうな個体もいた。
「これっ、さすがにやべえかも……!?」
「カルウィン! 自分に向かってくる相手だけに集中しろ! 私のことは気にしなくていい……こっちはこっちでなんとかする!」
「それはっ……あーくそ、すまんレメディオス!」
せめて巻き込まないように離れようと、スラスターを噴かして、悪魔達を引き連れるようにその場から飛び去って行くカルウィン。
それを見送りつつ、レメディオスは覚悟を決めて、牛頭に向き直った。あまりにも勝算の低い戦いだとわかっていても、逃げることなく立ち向かうことを決めた。
(もし、私が戻れなかったら……ケラルトを頼むぞ。カルウィン……!)
死闘の時間は、さほど長くはかからなかった。
カルウィンは纏うパワードスーツ『アーバレスト』は、攻撃力も機動力も高いが、さらに注目すべきは防御性能の高さである。
敵からの攻撃を受ける時に自動で発動する障壁機能により、元々『全身鎧』であるために高い防御力はさらに堅牢なものになっている。使い手本人が別口で防御魔法を使うこともできるため、低位~中位程度のモンスターの攻撃なら、魔力こそ消費するものの、シャットアウトできる。
そのことに思い至ったカルウィンが、防御性能を最大まで高めたうえで、多少の被弾と消耗は覚悟しつつ弾幕をばらまき、襲い掛かってきた眷属を早々に掃討することに成功。
急いで戻ると、そこでは……
「【不落要さ―――ぐあぁああっ!?」
金棒の一撃がレメディオスの体に直撃し、鎧を砕かれながら彼女が吹き飛ばされるという光景を目の当たりにすることになった。
「レメディオス!? くそっ、間に合え……!」
スラスターをふかして急加速。倒れ伏したレメディオスと、さらに金棒を振り上げる牛頭の間に飛び込み、最大出力の障壁で金棒を受け止める。
しかしそれでも障壁は突破され、落ちて来た重量級の一撃を、頭の上でクロスさせた両腕で受け止める。
「カ、ル……ウィン……?」
(お、重すぎる……っ……! くそ、もうちょっと鍛えときゃよかった……!)
鎧の力でブーストした腕力でも、腕が、全身がきしむほどの力に戦慄するカルウィン。
素の状態で受けていたら、今頃あっという間に『赤いシミ』になっていただろう。
しかし、耐えた。
そして、金棒の圧が緩んだほんの一瞬を見逃さず……前に飛び出す。
飛び出しながら、両手を腰にやり……右手でナイフを、左手でアサルトライフルを手に取り……
「うおぉおおおおっ!!」
気合と共に飛び込んで、ナイフを牛頭の胸に突き立て、心臓目掛けて深々と突き刺し……アサルトライフルを顔面に、ゼロ距離で突きつけ……一気に連射。外しようのない距離で、魔力がなくなるまで、全弾撃ち込んだ。
そして、
「……見事だ、人間よ」
「……は、ははは……マジかよ……」
牛頭は……健在だった。
胸に深々とナイフが突き刺さり、顔にはいくつもの傷ができて裂け……その両方から血が流れている。これまで何をしても傷つけられなかった強大な悪魔に、確実にダメージが通っていた。
しかし、揺らぐことなく2本の足で立っている。
もう、カルウィンに魔力は残されていない。
光弾も、障壁も、使えない。
そのカルウィンを、牛頭は片手でがしっとつかんで持ち上げ……放り投げる。
全身鎧の体は、レメディオスの隣に投げ落とされて転がった。
「が、はっ……!」
「カルウィンっ、お前……どうして……!」
「……それがお前の名か。覚えておこう……この私に血を流させた勇敢な戦士としてな」
ゆっくりと歩いて近づいてきた牛頭は、金棒を大上段に大きく振り上げる。
そこにさらに、赤黒い、禍々しい魔力がこもっていく。次に放たれる一撃は、今までとは全く別格のそれであることが容易に想像できた。
もう助からない。レメディオスも、カルウィンも、そう悟った。
それでもカルウィンは、せめてレメディオスだけでもどうにか助けなければと、痛む体に鞭打って立ちあがり、這うように前に出て……レメディオスをかばう形で立つ。体全てを盾にして、少しでも威力を殺すために。
その鋼の背中を、レメディオスは悲痛な表情で見上げていた。
(やめろ……動けるなら逃げろ! 私は聖騎士だ、国のために戦って死ぬ覚悟ならできている! 私のことなど構うな、カルウィン!)
そのレメディオスの表情が、目の端でカルウィンにも見えていた。
(そんな顔するんじゃねえよ……武技でも何でも使ってどうにか助かれ! お前だけは死んじゃダメだろうが、レメディオス!)
(お前が死んだら……!)
(お前が死んだら……!)
((ケラルトが泣くだろうが……っ!!))
そして、
必殺致命の一撃が、轟ッ、と音を立てて振り下ろされ……
―――ガキィン……ッ!!
「よく耐えた……白き鎧の騎士よ」
彼らの命を消し飛ばすはずだった金棒は……漆黒の騎士が掲げたバスタードソードに止められ……2人に届くことはなかった。
英雄は、悪魔の放った渾身の一撃を、わずかも揺るがずに受け止めて、2人を守っていた。
「あんたは……確か……」
「見せ場を奪ってすまないな……下がって休んでいろ。選手交代だ」
「……ちっ、時間をかけすぎたか……」
悪態をついて飛び退る牛頭。
その真正面にて、2本の大剣を構えなおす……漆黒の英雄・モモン。
「いいものを見せてもらったんでな……今日の俺は、少し燃えている。さあ……始めようか!」
余りにも頼もしい、英雄の、赤いマントに覆われた背中を前に……もともとの疲労とダメージの中で、最後に張っていた気が抜けてしまったのだろうか。
カルウィンは、ふらりと倒れ……意識を手放していた。
牛頭の悪魔が、漆黒の英雄によって討伐され……悪夢がようやく終わりを告げたのは、その、数分後のことだった。