オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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イベント出演予定者打ち合わせ(なお規模)

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 必死に走る少女。

 自分の身長ほどもある杖を抱えながら、魔法詠唱者(マジックキャスター)としては十分に重装備と言えるであろう装備……強度のある外套や軽鎧に身を包み、汗だくになりながらも必死で足を動かす。

 

 しかし、疲労が限界にきて足がもつれ、倒れこみそうになったところに……

 

「アルシェちゃん、危ない!」

 

「わっ!?」

 

 その少女……アルシェの後ろから、すさまじい速さで追いついてきたクレマンティーヌが、彼女を脇に抱えて前に跳ぶ。

 

 直後、一瞬前まで彼女達が立っていたそこに、まるで大木の幹のような太さの、巨大な『枝』がしなって叩きつけられた。

 そのまま薙ぎ払うように自分達を追ってくるそれを見て、『ちっ!』と舌打ちをするクレマンティーヌ。

 

 アルシェはすぐさま『飛行』の魔法を唱え、自分とクレマンティーヌを空中に浮かせてその幹の薙ぎ払いを回避した。

 

 しかし、他の枝ないし触手が、空中にいる2人をすぐさま追いかけて……

 

集団標的(マス・ターゲティング)獄炎(ヘルフレイム)!」

 

 その全てが、猛烈な炎に包まれて焼け落ちた。

 声が聞こえた方に2人が目をやると、銀髪にオッドアイが特徴的なエルフの少年が、飛んでこっちに来るところだった。

 

「エオン……助かった!」

 

「よっし、タンク来た! これで勝つる!」

 

「だから僕魔法詠唱者(マジックキャスター)だって……いやまあ、この面子なら僕の仕事そうだろうけどさ」

 

 

 

 この数分後、エオン、アルシェ、クレマンティーヌに加え……遅れてアンティリーネも加わり、無事に『訓練用迷宮』の中ボス・ザイトルクワエ(中サイズ)を倒したのだった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「エオン。今日は訓練に付き合ってくれてありがとう」

 

「気にしないで。ちょうどやることなくて暇だったし……迷宮はできれば1人、引率がいた方がいいからね。まあ、アンティリーネと2人は過剰戦力だった気もするけど」

 

「2人合流した後一気に倒せちゃったもんねー」

 

「あら、ごめんね? 訓練の邪魔しちゃったかしら」

 

「いや、正直私とクレマンティーヌだけじゃ、敵の自動回復があって千日手だったから助かった……というか、私達にはまだ早い相手だっただけ」

 

 空中庭園の『練武郭』にある、訓練用の地下迷宮。

 アルシェとクレマンティーヌは、そこに潜って修行していた。そしてその2人の引率として、エオンが同行していた。

 

 当初は2人のレベルにあったところで戦っていたのだが、途中で、いつかクレマンティーヌがやったのと同じように転移型のトラップが発動し、離れ離れになってしまった。

 クレマンティーヌとアルシェはすぐに合流出来たのだが、エオンと中々合流できないままにさまよい……その途中、迷宮に配備されている中ボス格のモンスター・ザイトルクワエに遭遇してしまった。

 今の2人には荷が重い相手だったため、必死に逃げ続けていたところ、エオンが合流。

 

 さらにその後、別口でソロで潜っていたアンティリーネが『面白そうだから』という理由で加勢してくれた結果、迅速に倒すことに成功。

 その後、疲労がたまったため(アンティリーネは元々帰る途中だったため)一同揃って迷宮を出た、というのが今の状況である。

 

 今アルシェが言った通り、普通の雑魚敵と戦う分にはよくとも、中ボス以上の敵と戦うには……クレマンティーヌもアルシェも、まだ勇み足だったようだ。

 

「それなりに修行して、強くなったと思ったんだけどなー……まだまだかあ」

 

「クレマンティーヌは十分に戦えてた。明らかに私が足を引っ張ってた。ごめん」

 

「いやいや、アルシェちゃんも強くなってるって。あと言い訳になるけど、私とあのボスの相性が悪かったってのも正直あると思うし……」

 

「ああ……うん。それはそう」

 

 刺突武器(スティレット)を使うクレマンティーヌ。獣型や亜人型の敵なら、素早く動いて急所を突く(彼女曰く“スッと行ってドス!”)という戦法で十分戦えるのだが、痛覚がない、あるいは乏しい植物型や無機物型、アンデッドなどが相手だと厳しくなる。

 加えて、軽戦士タイプの彼女では、規模の大きな攻撃手段に乏しいため、ザイトルクワエのような巨大な体躯を持つ敵との戦いは難しいのだ。

 

 もっとも、本来は成樹で80レベル相当の強さになるザイトルクワエだが、先ほど彼女達が戦ったのは、この迷宮で飼育され、意図的にそのレベルを抑えられている個体。

 数値にしてレベル50程度だっただろう。

 

 それでも、元々がレイドボス級の敵だったことを考えれば、同レベル帯の……すなわち、転移後世界で『英雄の領域』と呼ばれている者達が複数人がかりで戦った方がいいのは確かである。

 レベルがまだ足りないアルシェと、レベルは足りているが相性が悪いクレマンティーヌが2人で戦っていい相手ではなかった。

 

 そのため、『引率としてついていくけどあんまり手出しはしないよ』という立ち位置だったエオンと、たまたま通りがかったアンティリーネが介入し、さくっと討伐したわけである。

 

 ひとまず休息と水分補給のため、休憩所扱いされているテラスで、買ってきた飲み物を飲んでいた4人だったが……そこに、予想もしない来客が現れる。

 

 

「お、いたいたリーネ……ってあれ、何この集まり? 珍しい組み合わせだね」

 

 

「あ、お母さん」

 

「え? おか……ら、ラストにゃんにゃん様っ!?」

 

 何の前触れもなくひょこっと現れたのは、この空中庭園の支配者であり、この世界に降臨した(ぷれいやー)の1人……ラストにゃんにゃん。

 クレマンティーヌにとっては今の主君であり、アルシェにとっては……

 

「っ……お、お義母さま、すいません、こんな格好で……」

 

「あっはっは、いいよいいよ全然。訓練ご苦労様」

 

「母さん、何か用? アンティリーネを探してたみたいだったけど」

 

 恐縮する妻(予定)をなだめながら、エオンがラストに尋ねると、ラストは……ここにいる4人全員の顔を見渡して、

 

「うん、ちょっとね……いやしかしすごい偶然だけどちょうどいいな。実はさ、あなた達4人に用があったんだよ」

 

「「「え?」」」

 

 きょとんとするアルシェ、クレマンティーヌ、エオン、そしてアンティリーネ。

 4人としても、さっき偶然一緒になったところで、普段から仲が良くて一緒にいるというわけでもないのだが……一体どういう用件なのだろう? 誰も、予想がつかなかった。

 

 が、一拍置いて……事前にある『計画』について軽く聞いていたエオンだけが、『もしかして……』と心当たりに気が付いていた。

 

「ちょっと人の目のないところで話したいから……一緒に来てくれる?」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「お待たせー、ごめんね遅くなっちゃって」

 

「ううん、全然待ってないよ、お母さ……あれ、リーネだけじゃなくてエオン達もいる」

 

「全員集めてたから遅くなったんすか?」

 

「いや、偶然。まあ説明の手間が省けてちょうどいいから一緒に連れてきたの」

 

 ラストの案内でやってきたのは、彼女の居城である『煌皇郭』。

 その中にある、応接室と会議室が一体になっている、いかにも『偉い人達が会議をするために使われるであろう部屋』だった。

 

(い、いつ来ても緊張する……)

 

 家具から何から、全てが天上の領域にある空間に通され、無意識に、小さい体をさらに縮こまらせるアルシェ。クレマンティーヌも、やや歩き方がぎこちない。

 それに対して、身内であるエオンや、なんだかんだで図太い神経が通っているアンティリーネは、ごく自然体で歩いて入ってきた。

 

 そしてそこには、既に2人、先客が待っていた。

 

 1人は、黒に近い藍色の髪を短くそろえ、黒い瞳が特徴の青年。

 その髪色に近い藍色のハーフプレートアーマーを身に纏っていて、ついている机の上にはかぶっていたと思しき兜があった。やや童顔で細身ではあるが、割と体格はよく、背も高い。

 

 もう1人は、明るいピンク色の髪をショートにし、金色の瞳が特徴の少女。

 小柄で華奢な体格で、軽装。年のころはアルシェとおなじくらいに見える。棒付きのキャンディを咥えて舐めていて、ラスト達に気づくと、にっこりと笑って手を振っていた。

 

(ノアと、ヴィヴィアン? この2人も……ひょっとして、『キャスト』になるのか?)

 

「そんじゃ、説明始めるから皆、てきとーに座って?」

 

 そう言って自分も適当に座るラスト。

 4人全員が席に着くのを待って、話し始める。

 

「さて、と……今日集まってもらったのは、ちょっと皆に頼みたいことがあってね」

 

「頼み……ですか?」

 

「お義母さまが、私達に?」

 

 きょとんとするクレマンティーヌとアルシェ。

 超越者たる(ぷれいやー)が、何をわざわざ自分達に頼むようなことがあるのだろうと、不思議がっている様子である。

 

 しかし、次に続いた言葉で、彼女達2人に限らず、全員に一気に緊張が走る。

 

「実は近々……世界の調停者気取りのトカゲ共に、こっちから一手仕掛けようかと考えててね……皆には、その手伝いをしてほしいんだ」

 

『トカゲ』と聞いて、それが何を意味するかを察した面々はぎょっとする。

 アルシェ以外は全員、その意味がすぐに分かったようだった。

 

「あ、あの、ラストにゃんにゃん様……それって『竜王(ドラゴンロード)』……それも、世界の調停者ってことは……『真なる竜王』のことでは?」

 

「りゅ……っ!?」

 

 そしてアルシェも、クレマンティーヌが恐る恐る尋ねたのを聞いて、今の『トカゲ』が……この世界において生態系の頂点に君臨する存在、ドラゴン……の中でも最強の存在である『竜王』のことを言っているのだと聞いて、表情がひきつった。

 

『真なる竜王』といえば、その昔、世界を股にかけて悪虐の限りを尽くした『八欲王』と戦い、幾度も彼らを殺すほどの死闘を繰り広げた存在。

 かつての『六大神』と同格……すなわち、難度300(カンスト級)に近い強さを持つ、正しくこの世界の頂点たる存在である。

 その『八欲王』との戦いで大きくその数を減らしたとは聞いているが、『アーグランド評議国』を始め、大陸の各所にその生き残りが点在しているという。

 

「あ、あの、お、お義母さま……お言葉ですが、わ、私達程度の力ではとても、その、『竜王』相手に何かすることなんて……」

 

「ん? ああごめんごめんアルシェちゃん、そうじゃないの。何も、皆に竜王と戦ってほしいとか思ってるわけじゃないの。さすがにそこまで望まないって」

 

 それを聞いて、アルシェとクレマンティーヌはほっとしたようだった。

 竜王どころか、野良のドラゴン相手でも勝てる気がしない2人としては――クレマンティーヌはぼちぼちいいところまで行けそうではあるが――『神』と『竜王』の戦いなど、加わるどころか目で見える範囲に行くのも恐ろしい。

 

 しかし、それなら一体自分達に何を頼みたいのだろう。再び疑問に思った2人を含め、不思議そうに卓についている面々に、ラストは順序だてて話し始める。

 

「私達としては、別に『竜王』に対してどうこうしようみたいなのはないのよ。互いにちょっかい出さない、相互不干渉とかで全然いいんだけど……あいつらが『プレイヤー』やそれ関係のものを目の敵にしてるのは知ってるでしょ? ほぼ確で放っておいてはくれないと思うんだよね。だから……その前にこっちからちょっと『小細工』をしておこうと思うの」

 

「というと?」

 

「力と歴史だけが自慢の自称『世界の覇者』共には……お似合いの『役割(ロール)』を用意してあげようと思ってね。そのためにあなた達に、ちょっと『お芝居』に協力してほしいの。この世界に生きる、色々な種族や国家の代表者として、ね」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 その後、

 

 ラストの『頼み』の内容を聞いて、アルシェ達は大いに驚いたものの……最終的には、全員がそれを了承した。

 

 アンティリーネとヴィヴィアンはノリノリでOKした。2人共、元が面白いこと好きなのに加えて、特にアンティリーネは、自分を一度殺してくれた『竜王』へのリベンジにも繋がるため、俄然やる気になり、目の中に燃える炎が見えそうなほどに張り切っていた。

 

 クレマンティーヌは緊張していたようだったが、祖国で窮屈な暮らしをしていた頃からは想像もできないような面白い話に、『面白そう、やってみたい!』という好奇心が勝ったようだった。

 加えて、それが成功すれば、自分を軽く扱ってきた法国や兄への盛大な嫌がらせになるというのも大きい。気まぐれに誰かを殺すなんて真似よりもよほど『スカッと』できそうで楽しみだった。

 

 ノアは、自分がここに呼ばれてそれを頼まれた『理由』を察してやる気になっていた。

 先に行われた『公募』で、狭き門を突破してその『資格』を得たのが思い出される。絶対に自分が射止めてみせる(・・・・・・・)と気合を入れていた。

 

 そして、エオンとアルシェは、

 

「よかったの、アルシェ? 何ていうか、こう……一応、大義ないし理由はあるとはいえ、大勢を騙したり利用するような……世界を相手にした汚れ仕事みたいな感じだけどコレ」

 

「気にしないで。お義母さまや、あなたの役に立てるなら、私嬉しいから。それに……」

 

「それに?」

 

「私の前職を忘れた? 請負人(ワーカー)だもの……汚れ仕事は得意」

 

 両腕を胸の前に出してガッツポーズ。『まかせて!』と、彼女もやる気だった。

 それにちょっと呆れつつも、頼もしく、そして嬉しく思うエオンだった。

 

「あと……お芝居でも、私みたいなのが『英雄』になれるのなら、それも面白そうだと思って。こんなの、中々できない体験だから、いっそ楽しんでやってみるつもり」

 

「そっか、わかった。ありがとう。じゃあ……そのためにも、修業とか色々頑張らないとね」

 

「うん……!」

 

 

 

 

 

「よーし……これでキャストの用意は済んだ。デミアとデミウルゴスに頼んで、ラスボスと裏ボスの手配もした。後はアカネとサンゴに頼んで中ボスの用意と、あちこちに根回しと……ああ後は、王女様(・・・)との打ち合わせと……アインズさんと相談して、シナリオの微調整もやっておかなくちゃね。そして……」

 

 自室に戻ったラストは、そんな風に呟きながら……目の前にある大きな鏡……『遠隔視の鏡(ミラーオブリモートビューイング)』で、ある場所、ある人物を映し出して見ていた。

 

 どこかの訓練場らしき場所で、一心不乱に剣を振って鍛えている……金髪の青年の顔を。

 

 汗だくになって、まっすぐな目で、何を見据えて剣を振るのか……真面目を絵に書いたような彼を見ながら、ラストはにやりと笑って、呟いた。

 

 

 

「期待してるわよぉ……今回の作戦の、主人公(ヒーロー)君……♪」

 

 

 

 

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