クライム達は一路『聖王国』を目指して進んでいた。
その途中まで、エオンとアルシェの2人も一緒に来ていたのだが、『まだ王国で調べたいことがあるから』と離脱していた。
その際、彼らが勤めている魔法工房の試供品だというアイテムをいくつか、クライムやブレインに気前よく手渡していた。さほど強力なものではないが、マジックアイテムには変わりない。その太っ腹さに感心しつつ、ありがたく使わせてもらうことにした2人だった。
その代わりにというわけではないが、途中で立ち寄ったとある町で加わった子犬の『アルム』。
彼女(雌だった)はなぜかクライムにしか懐かず、その他の、ブレインやイビルアイ、ネイアが撫でようとしても逃げてしまう。
そのくせクライムにはべったりで、所かまわずペロペロと舐めたりすり寄ったり。
寝ているクライムの服や毛布の中に入り込むため、朝起きるといつの間にか隣でくっついて寝ている、などということもしょっちゅうだった。
それを見て、ブレイン達どころか、聖王国の使節団の面々まで含めて『これ、飼うの『一時的に』だって言ってたけど、別れるの無理じゃね?』と正直思っていた。
いったいどうして、こんなにも懐かれているのだろうと不思議だった。
そんな道中のこと。
まもなく聖王国の領内に入るという時に、それは起きた。
「その……すまない。どうやら何か、誤解させてしまったようだ」
「い、いえ、こちらも早とちりだったようで……申し訳ない」
「あはははは……ごめんねーなんか。私のこと、助けようとしてくれたんでしょ?」
ペコペコと頭を下げるパベルと、その正面で同じように神妙にしている……1人の
それを見ながら、けらけらと笑っている、ボブカットに近い髪型の金髪に、猫のようないたずらっぽい雰囲気の女の軽戦士。
その様子を、何と声をかけたものかと思いつつ、クライム達は見ているしかできなかった。
どういう状況かというと、話はほんの数分前にさかのぼる。
ここ『アベリオン丘陵』に通りがかったクライム達は、パベル達から『ここには狂暴な亜人種族が多くいるから気をつけろ』と事前に聞いていた。
今まで何度も、ここに住む亜人達の襲撃を受けて、聖王国は痛手を負っているのだと。
数か月前の大侵攻を含め、幾度も亜人達との戦いを経験しているパベル達だからこその、真に迫る雰囲気の中での忠告だった。年若いネイアですら、そういった雰囲気を纏っていたほどだ。
そんなことを聞いていたために……山の中を進んでいた時、1人の女戦士が大柄な『
が、先のやり取りからも分かる通り、それは決して彼らが思ったような光景ではなかった。
ただ単に、知人である2人……女戦士と蜥蜴人が、稽古のための組手をしていたところだったのである。
結果、助けに入ったはずの女戦士が、即座に反応して反撃してきたうえ、パベルを含めた聖騎士達を瞬く間に半壊させてしまった。
それを見て『どうなってるんだ!?』と困惑したクライム達。そこに、蜥蜴人が『待て、クレマンティーヌ殿! 何かおかしい、話を聞くべきだ!』と止めてくれたおかげで事なきを得た。
その後、互いに事情を説明して……今に至る。
「改めて……俺はザリュース。普段は『エルヘヴン共栄圏』の地に暮らしている者だ。ちょっとした目的があってここに来ていた」
「私はクレマンティーヌ。おなじくエルヘヴンの所属だよん、今はね」
「『エルヘヴン』……確か、最近、トブの大森林の中にできたという、ダークエルフの国だったか? 『共栄圏』というのは……?」
「その国を中心に、周辺に暮らす亜人などの集落が結成した、協力関係にある共同体の名だ。そこの代表として、この地に住む一部の亜人との交渉のために来ていた」
その仕事自体は既に終わっており、2人は帰る途中だったとのこと。
暇つぶしに組手をしていたところ、いきなり襲い掛かってくる気配を感じ取ったクレマンティーヌが応戦してしまった……というのがさっき起こったことである。
なお、ザリュースとクレマンティーヌでは、クレマンティーヌの方が圧倒的に強いため、むしろザリュースは稽古をつけてもらっていた側である、らしい。
その後、流れでクレマンティーヌ達に事情を話したクライム達は、あまり期待していないながらも、今までも会った者達に聞いていた、『貴人を乗せた馬車隊が聖王国方面に向かっていったのを見ていないか』と尋ねた。
すると、
「貴人が乗っていたかどうかはわからんが、それらしい馬車が何台か連れ立って走っているのなら……数日前に見たな」
「っ……本当ですかっ!?」
「ああ。人間の価値観だと、貴い身分を持つ者を乗せる馬車に、黄金や細工物で装飾をつけるのが『豪華』なのだったな。だとすると……あの、不必要なほどにゴテゴテした飾りに覆われた馬車は……うむ、身分の高い者が乗っていたのかもしれない」
飾りが多すぎて車体が重くなって、引いている馬が大変そうだった、とはザリュースの弁だ。
それに加えて、クレマンティーヌも思い出すように。
「あー、見たねそういや。1台だけそんな感じでゴテゴテしてて、他に3台……普通の馬車も並走してたっけ。割と遠目に見ただけだから、誰が乗ってたとかはわかんないよ?」
「その馬車、どこへ向かっていましたか!?」
「平地をまっすぐ、西の方に向かっていた、ということくらいしか……」
「仮にあのまま進んだとなると、半島の方……『ローブル聖王国』に行きつくと思うよ。その途中に目的地があったらその限りじゃないだろうけどね」
思いがけず手掛かりが手に入ったクライム達は、あらためて目的地を『ローブル聖王国』に定めることを決めた。
……その、直後のことだった。
☆☆☆
次なるキャスト……クレマンティーヌとザリュースが、クライム達に接触。
上手いこと誘導して、『護送されたラナー王女』に関する手がかりを手に入れさせることに成功。
なお今回、キャストとして事前に裏を話しているのはクレマンティーヌのみです。
ザリュースはそういう演技とか裏工作は苦手だと思うので、本当に仕事として『アベリオン丘陵』に同行してもらっていた。セリフも何もかも、彼のは本当のことである。
アベリオン丘陵に住む亜人達の中に、『
彼らは、ザリュース達と同じく、肉よりも魚を好む上、温厚で誇り高い性格なので、聖王国とは敵対していない。これについては、パベルさんも知っていた。数少ない、危険ではない亜人だと。
そんな彼らだが、このところ食料が少なくなってこの土地に暮らしづらくなっていたため、引っ越しを考えていたそうで……『それなら『
同じ蜥蜴人として、豊かに暮らせる手伝いをできるなら嬉しい、と。義理堅い彼らしいね。
クレマンティーヌが同行したのは、万が一の時の護衛のためだ。争いになることはないだろうとは思ってたけど、念のためね。
なお、勧誘は成功。近いうちに引っ越してくるってさ。
道中無事に移動できるように、色々と手配しないとね。
さて、誤解も解けて無事に情報を手に入れたクライム達なわけだが……そこで、クライム達は再度の襲撃を受けることになった。
亜人や魔物の、ではない。来たのはフィリップである。
数日前、使節団の救出(マッチポンプ)に失敗したフィリップ達だが、その際、クライム達が使節団を助けるところを目撃していた。
一応貴族である彼らは、クライムが元々平民ながら城にいるとしてよく思われていなかったことも知っていた。
加えて、噂程度にではあるが……バルブロ王に楯突いた不忠者であることも。
さらに、ブレインがバルブロからの勧誘(という名の徴兵)を蹴って出奔したことも、『噂程度に聞いて』知っていた。
……そんな鮮度抜群の噂が、情報収集の重要性の欠片も理解していないバカの耳になぜ都合よく入ってきたのかと言えば、こっちから流してやったからなんだけどね。
せっかく首突っ込んできたんだから、利用してやろうと思って。
そこから始まるフィリップお得意の謎理論。
①聖王国の使節団は王国における大罪人達と仲良くしていた。けしからん!
②それらをまとめて自分達がとっちめて捕獲する。
③『こんな悪いことしてました!』と王国と聖王国に報告する。
④罪人達を捕獲したことでバルブロ王も喜ぶはず。覚えもめでたくなり家の格も上がる。
⑤さらに後日、聖王国から正式に謝罪のために聖王女がやってくる。
⑥バルブロ王は聖王女に会いたがっていたので喜ぶはず。さらに覚えがめでたくなるはず。
⑦王国は聖王国を断罪して属国とし、その橋渡しをした自分は国中から尊敬される。
⑧多大な功績が認められてラナー王女と結婚、晴れて王族の仲間入り。
⑨ゆくゆくはバルブロ王の後を継いで自分が次なる王に! ヤッター!
……こいつは頭の中に脳みそ本当に詰まってるのかと言いたくなるほどの……もう……。
計画通りに運んでるのにすごい疲れたわ。バカの頭の中をのぞくのって精神的にかなり疲労するんだなって今回知った。
で、まあこのスッカスカな計画に基づいて、追加で集めたごろつきや傭兵達を率いて襲撃をかけてきたわけだが……あっさり返り討ちにされました。
魔物との同時襲撃みたいな不測の事態でもなきゃ、元々聖騎士の皆さんだけでも対応可能だったし……そこにクライム達がいて、さらにクレマンティーヌとザリュースもいるんだもんね。成功するはずがないだろ、そんなあらゆる意味で低レベルな襲撃が。
特に、クレマンティーヌなんか……こないだとうとうレベル60の大台に到達した。
レベル60と言えば、アインズさんとかが持っている『上位物理無効化』のスキルでも攻撃が無効化されなくなるなど、『中位』から『上位』へプレイヤーとしての扱いが移るわかりやすいボーダーラインである。
彼女が元居た法国でも、リーネと漆黒聖典隊長以外はもう今のクレマンティーヌを止めることができる者はいないだろう。そのくらいの、現地出身者としてはぶっちぎりの戦力である。
装備も更新して、全身『
そんな彼女がいるところに、せいぜいがレベル10かそこらの連中だけで殴り込みをかけてくるって……自殺と同じだよ。
当然、フィリップ達はあっという間に壊滅しました。
なおその際、馬鹿正直に『自分はモチャラス男爵家の誰それ』『お前達が大罪人とつるんでいてけしからんから云々』って丁寧に自己紹介して襲ってきた。
結果、手下達は全員死んだんだけど、フィリップだけは生かしたまま捕らえられた。一応本物の王国貴族(の三男)だから……しかしこの後どうすりゃいいのかって始末に困ってた。
『面倒だから殺っちゃっていいんじゃないか』……2票(ブレイン、イビルアイ)
『さすがに殺すのは問題になるから生け捕りにして後日抗議しよう』……2票(パベル(使節団代表)、クライム)
『よくわかんないからあんた達で決めて(棄権)』……2票(クレマンティーヌ、ザリュース)
決まらない。
こういう時に限ってきれいに意見が分かれすぎることあるよね!
そんで、クレマンティーヌから『
数分後、
クライム達が未だにどうするか悩んでいる時だった。
縛られて地面に転がされているフィリップは、よくわからないことを言ってぎゃあぎゃあ喚いてたんだけど、そこに……
―――ギャオォォ―――ッ!!
「!?」
突如として、巨大な鳥型のモンスター『シムルグ』が飛来。
そのとてつもない存在感(レベル75)を前に、そこにいた全員が固まっている前で……すごい速さで急降下してきたシムルグは、転がっていたフィリップをつかんで、飛び去って行った。
『た、助けてええぇぇええ……』と、ドップラー効果で変な風に聞こえる悲鳴を響かせながら……あっという間にフィリップはお空のかなたに連れ去られてしまった。
ぽかんとして見送るクライム達。
「……ど、どうします、アレ?」
「いや、どうしますって……どうしようもねえだろ。あんなの」
「まあ……魔物にさらわれたんじゃ仕方ないだろう。しかし、あんなとんでもない怪物がこのあたりには出るものなのか、バラハ殿?」
「い、いや……あんなのは私も初めて見た。……帰国したら、王政府に報告しておかなければ」
『あ、クレマンティーヌ聞こえる? とりあえずアレはこっちで処分しとくから、そのままシナリオ通りに進めちゃってね』←
『あ、はーい、お手間取らせましたー……』
こんな感じでフィリップは回収した後、アインズさんにプレゼントしました。
氷結牢獄でニューロニストが有効活用するってさ。
その後、ザリュースは『エルヘヴン』に戻ることになったため、離脱。
しかしクレマンティーヌは、聖王国に用事ができたとのことで、そのままついていくことになった。さっきまでザリュースと一緒に帰るところだったはずなのに、いきなりどんな『用事』ができたのかは……秘密、とのこと。
少し気にはなったようだが、戦力としては心強いので、クライム達は彼女の同行を受け入れた。
なお、もしその『同行する理由』に突っ込まれて聞かれていたとしても、説明できるようにカバーストーリーはいくつか用意してあったんだけどね。
例えば、『バルブロが悪魔と繋がっているという情報があって、それに関して秘密裏に調査していたんだけど、もしかしてそのラナー王女の護送に何か悪い思惑があったんじゃないかと思って気になった』とか。
悪魔云々のネタバレはもう少し後にするつもりなので、説明するとしても、この理由からさらにぼかしてそれっぽく匂わせる形に程度になるけどね。
そんなわけで、クライム、ブレイン、イビルアイ、パベルやネイア達使節団、そして犬のアルムに、クレマンティーヌが加わって聖王国に向かうのでした。