クレマンティーヌを一行に加え、無事に『聖王国』に到着したクライム達。
その後、パベルのとりなしで、聖王女様……はいきなりだしさすがに無理だけど、聖騎士団団長であるレメディオスと、神官団団長であるケラルトに会えることになった。
どっちみち、戻ってくるまでにあったことを報告しなきゃいけないってことで、それを横から補足とかしてもらいたい、って思惑もあったみたい。
気になることや頭の痛いことも諸々含めた報告が終わった――案の定レメディオスが『カルカ様に対して何だその物言いは!?』ってバルブロの無礼発言にキレた――後、クライムが、ラナー王女が行方不明になってて探していることを尋ねた。
けど、残念ながら2人ともそれに関しては把握していない。
外交関係で入国を知らされていれば確実に把握しているけど、それがないということは、この国には来ていないと思う、とのこと。
仮に隠して入国でもされたらわからないけど、アベリオン丘陵側から来たのなら、あの万里の長城みたいな要塞を通っているはず。外から来る怪しい馬車なんてそこで徹底的に調べられるし、そういう馬車が来た、って報告すらないとなると、国内には入っていない可能性が高いと思う……というのが、ケラルトの見解だった。
理路整然とした意見に納得しつつも、それならそれでラナー王女がどこに行ったかは結局わからないってことになるので、うなだれるクライム。
一応、数日間この国に滞在して、情報収集してみることになった。
なお、当然と言えば当然だけど、ここでパベルさんとネイアちゃん達とは別れることになる。
そりゃまあ、仕事が終わって国に帰ってきたわけだから、当然だね。
そして数日後。
『せっかくだから』って協力を申し出たクレマンティーヌも手伝ってあちこちで調べてみたが、結局何も情報は見つからず。
やっぱりこの国にはいないのか……って諦めかけたところで……ケラルトから、クライム達に再度の呼び出しがかかった。
部下から上がってきた報告の中に気になるものがあって、それがもしかしたら、クライム達が知りたがってたことと関係あるかもしれない、って。
その情報っていうのが、アベリオン丘陵に調査と哨戒に出ていた者達からの報告だったんだが……ある場所で、未発見の遺跡みたいなものを目にしたという。
そしてさらに、その近くで……リ・エスティーゼ王国の兵士が着る鎧姿の兵士っぽい連中が目撃されていたという。
手がかりがなく、藁にも縋る思いのクライム達は、そこに向かうことを決めたが……その際、ケラルトとパベルから、『ネイアを同行させてほしい』という申し出を受けた。
この件に関して気になることがあるから、連絡員として同行させたい、と。
聖騎士としては見習いだが、弓の腕はそこそこだし、錬度はまだまだだが信仰系の魔法も一部使えるので、役に立つはず。
それに、聖王国内部なら、あちこち任務で行っているから土地勘もあるし、今回クライム達が行きたがっている『遺跡』の場所も分かるから、と。
クライムはそれを了承し、一行はしばし彼女と行動を共にすることになった。
なお私の頭の中では『ネイアが仲間になった!』というアナウンスが流れました。
そしてクライム達は支度を整えて、一路、ネイアの案内でその『遺跡』を目指すことに……
☆☆☆
「ここがその遺跡、か……まあ、なんか古そうだってことくらいしかわからんな」
「素人が見てもそりゃあわからんだろうさ。しかし……年代的にいつのものか特定するのが難しいな。王国やその周辺にある遺跡と、共通点や手がかりがあまりない……」
「ネイアさんも、ここがどんな遺跡なのかは……ご存じないんですよね?」
「ええ。そもそも、ここにこんな遺跡があったこと自体、初耳でした。……自分の記憶が確かなら、このあたりには、森以外何もなかったはずなんですが……」
ネイアの言葉が確かなら、『突然出現した』ことになるその遺跡を、それぞれ調べてみるものの……怪しくはあるが、これという手がかりを見つけるには至らない。
この中では最も長く生きていて、歴史などに関しても博識なイビルアイの知識をもってしてなお、この遺跡がいつの時代のもので、どういった目的で建てられた建造物なのかはわからなかった。
が、しばし見て回っていた時、ネイアが通路の一角に、古代文字の書かれた石板のようなものを見つけた。
遺跡について何か書かれているのかもしれないと思い、クライム達は集まってそれを眺めたが……だからと言ってその古代文字が読めるわけでもない。
イビルアイが『どこかで見たような……』と首をひねっているも、見覚えがあっても読めるわけではないため、結局手掛かりなしか、と思っていたところに……
「ここに至りし者、禁忌の扉を開く覚悟をもって奥へ進むべし。贄をささげ力を受け取れば、もう後戻りはかなわないと知れ」
「「「…………!?」」」
すらすらとそう読んで見せたのは、後ろから眺めていたクレマンティーヌだった。
「おい、あんた……コレ読めんのか?」
「んー、まあ、なんとかね……めんどくさい文法というか言い回しが多いけど……うん。大体の意味をつかむくらいは問題ないかな」
しれっとそう言ったクレマンティーヌは、『ちょっと失礼』と前に進み出て、端から石板の内容を解読していく。
それを、言い回しをどうにか頭の中で整理してまとめると、簡潔にクライム達に説明した。
この遺跡は、『生贄の祭壇』という名がついているようで……悪魔に生贄を捧げて、その対価として悪魔の力を分けてもらうという、邪悪な儀式のために使われる場所であるらしい.
この場所は本来、悪魔の力によって隠されていて、外からは見つけられないし入れないようになっているらしい。かなり古い遺跡なのに、状態が割とよく、破損個所も少ないのは、それが理由だということだ。
野生動物や魔物、亜人による破壊が行われていないから、こぎれいで整った雰囲気に見えていた……ということのようだ。
しかし、おそらくはあまりに長い時間が経ったことで、この場所を隠していた悪魔の力がすり減って消えてしまい、こうして見えるようになったのだろう。
その部分をクレマンティーヌが読み上げたのを聞いて、ネイアは『だから今になって、いきなり現れたように見えたんですね』と納得していた。
そして、悪魔に捧げる生贄というのは……捧げる先の悪魔の趣向によって変わってくるものの、清らかで穢れなき美女・美少女が使われることが多いという。
それを聞いた瞬間……ラナー王女がここに連れていかれた可能性がある、という事実と結びつけてしまい……クライムは背筋が寒くなった。
「まさか……まさか、ラナー様はっ……!?」
「んー……いや、それはないんじゃないかな?」
「え?」
絶望しかけたクライムに、こともなげにそう言ってくるクレマンティーヌ。
全員の視線が集中する中、
「いやだってほら、この遺跡、明らかに人が使った形跡ないじゃん。『生贄』をささげる時、その……中央にある台座の上で殺して血を流させてたって書いてあるんだけど、そんな痕跡ないし」
言われて、クライム達がその台座を見てみるも……ものすごく古い、言われないと『血の痕』だとはわからないようなシミがあったものの、明らかに最近のものではない。最低でも数十年単位で昔のものだと、素人目にもわかった。
「で、では……ラナー様はここで生贄にされたわけでは……というか、ここに来ていないということなのですか?」
「そうだと思うよ。まあ、だとすると何で王国の兵士達がここにいたのかは……わかんないけど」
なお、その少し後。
「おい……クレマンティーヌ、だったな」
「うん、そうだけど何、イビルアイちゃん?」
「お前……何者だ? なぜあの古代文字の……いや、『ニホン語』の読み方を知ってる?」
石板の文字が、かつて『十三英雄』の1人として、『ぷれいやー』であるリーダーや、他の『ぷれいやー』を知る『
あれは確か、ユグドラシル……神の国の言葉だったはずだ。なぜそれを解読できるのか。
「んー……あんまりお互いに、身の上とかは詮索しなくてよくない? 色々と触れたくない、秘密にしておきたいことってあるでしょ?」
「……! この、仮面の中身のことを言っているのか?」
内心で舌打ちしたい気分になるイビルアイ。
見た目で騒がれるのを防ぐため、『蒼の薔薇』だった頃と同じように、気配隠蔽の指輪と仮面は今も身に着けている。
しかし、『蒼の薔薇のイビルアイ』が
が……続いた言葉が、彼女の想定のさらに上だった。
「キーノ・ファスリス・インベルン。亡国『インベリア』の最後の生き残りにして、『国堕とし』の名で伝説に語られる吸血鬼」
「っ!? 貴様……」
これから世間に広まるであろう『噂』だけでは知りようもないはずの情報を呟いたクレマンティーヌに対し、反射的に殺気を滲ませたイビルアイ。
しかし、ほぼ同時に……他の誰にも気づかれないほどに一瞬だけ、ピンポイントでイビルアイに向けられたクレマンティーヌの殺気を受け、急速に勢いをそぎ落とされた。
そのたった一瞬で理解させられた。目の前にいるこの女戦士は、自分と同格か、それ以上だと。
「安心して、だからってどうこうする気も、吹聴するつもりもないから。職務上知りえた情報と、色んな推測を重ねた結果気づいただけのことだし」
「どんな『職務』に就いていたら、そんな昔のことを知れるんだ……考古学者か何かか?」
そう聞くと、クレマンティーヌは少し悩む素振りを見せた後、『まあいいか』とぽつりとこぼし、
「元・スレイン法国『漆黒聖典』所属、第9席次、コードネーム『疾風走破』」
「っ……あの国の特殊部隊か……しかも、『漆黒聖典』……」
「『元』ね、『元』。今はあそことつながりはないよ。今の私は、出奔して気ままにやってる、ただのクレマンティーヌだから、何も心配いらないよ」
「…………そうか」
態度から『信じてないな』とは思いつつ、クレマンティーヌはそのままそこを離れた。
自分の元の所属を明かしたことで、イビルアイは、クレマンティーヌが日本語を読めた理由は分かったのだろう。『六大神』の故郷の言葉となれば、そこに所属する特殊部隊であれば、それを解読できるように教育を受けていてもおかしくはない。
それ以上何か言って問い詰めてくる気も、ひとまずはないようだった。
と、その時だった。
「おーい、誰かいるかー? 具体的には、昨日一昨日あたりホバンスを出発して、人を探してこの変な遺跡に来た人達ー?」
「「「!?」」」
そんな緊張感のない声が、唐突に、遺跡の外から聞こえて来た。
☆☆☆
ネイアちゃんは『今まで未発見だった遺跡です』って言ってたけど、当たり前である。
この『生贄の祭壇』は、つい最近、空中庭園のしもべ達を動員して突貫工事でここに作らせたもので、経年劣化に見えるようにあちこちにダメージ加工っぽいものを施してそれっぽい見た目に仕上げてるだけだから。
クライム達はそこに踏み込み、中を探索しつつ、クレマンティーヌが読み上げた石板の説明文を聞いて、ここがどういう施設(という設定)だったのかを知った。
同時に、ここにはラナー王女は来ていないっぽいことも。
そしてその後しばらくして……予定外のお客さんが訪ねて来た。
首都にいるケラルトからおつかいを頼まれてここにやってきた、かのラブコメ主人公こと、カルウィンである。
『誰?』と思って遺跡の入り口に出てきたクライム達だったけど、ネイアちゃんがその顔をよく知っていたので、『大丈夫、敵じゃありません』と言って聞かせてた。
で、そのカルウィン君がどんな『おつかい』を頼まれていたのかというと、ラナー王女の行方に関して、新しく分かったことがあったので、伝言である。
別な部隊の報告で、やたら厳重に守られた馬車の一団が、王国から『東』へ向かっていったらしい、という情報が入ったのである。聖王国とは真逆の方向に。
そしてそのタイミングで、『そういえば』とクレマンティーヌが思い出した。
『生贄の祭壇』かどうかはわからないが、ごく最近、『エルヘヴン』の近くでも、ここのように『いきなり現れた』という遺跡の噂を聞いたことがあった気がする、と。
それらの話を聞いてクライム達は、こう考えた。
聖王国方面への馬車は囮、あるいはまったく別な用件で向かっていた何かで……本当はラナー王女は、東へ向かっていたのではないかと。
それに焦ったクライム達が、一路、大急ぎで『東』へ……『エルヘヴン共栄圏』方面へ向かうことを決めたのは言うまでもない。