ふー子のまったり天国ライフ   作:猫太鼓

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許される筈もない平和と愛 の巻

第14話 許される筈もない平和と愛 の巻

 

* * *

 

クロベエは、最近なんとなく思いつめた顔をしているコロに声をかけた。

 

「どうした? 悩みがあるなら言ってみろよ」

 

コロはもじもじしながら答える。

 

「……その……ふー子先輩に、どうしても伝えたいことがあって……

 でも勇気が出なくて……でも、でも言わなきゃって……!」

 

クロベエは「これは……恋の相談か?」と内心思った。

種族も違い年齢も離れている。けれど——

どちらも大切な友だちであり、弟分のような存在だ。

 

「お前が言いたいことなら、オレも協力したい。……で、どうする?」

 

「ふー子先輩に……今から会いに行きたいです! 一緒に来てください!」

 

「……心細いんだな。よし、ついていってやるよ」

 

コロは目を輝かせた。

 

日当たりのいい公園でベンチにふー子が座り、足をぷらぷらと揺らしながら歌っている。

 

「にゃんた、にゃんた、にゃんにゃんにゃ〜んた〜♪」

 

妙に調子っぱずれなのは——

JASRA○対策 だからだろう

前回の件で流石にふー子も組織に喧嘩を売るのは危険だと学習したらしい。

 

木陰から様子をうかがうクロベエとコロ。

 

「ずいぶんご機嫌だな……」

 

コロは耳をぴくりと動かし、

 

「あっ……にゃんたゲームに変わりました」

 

「にゃんたゲーム?」

 

コロの説明はこうだ。

 

・「にゃんたの歌」を3フレーズ歌う

・その途中に「ヒューッ」と叫ぶ

・他の誰かとかぶらなければ歌っていた者の勝ち

・かぶればかぶせた者の勝ち

 

「……流行ってんのか、それ」

 

「ふー子先輩の最近のマイブームですね」

 

ふー子はひとりなのにフェイントまで入れてノリノリである。

 

クロベエは呆れた。

 

ふー子の歌が突然変わる。

 

「コ〜ウラーふふふふう〜ん♪

 コ〜ウラーふふふふう〜ん♪」

 

コロは即座に解説した。

 

「あれは、ふー子先輩のおじさんが好きなアニメ、

 “スペースコウラ”の歌です!」

 

「スペースコウラ?」

 

「背中に甲羅を背負った亀の宇宙海賊・コウラが

 宇宙を駆けるアクションアドベンチャーらしいです!」

 

クロベエは素朴に思う。

 

「いや、亀なら甲羅背負うの普通だろ……?」

 

理解に苦しむクロベエの横で、ふー子が突然——

 

「ヒューッ!!」

 

「うおっ!!」

 

ビクッと跳ねるクロベエ。

 

コロは淡々と告げた。

 

「コウラゲームに変わりました」

 

説明によれば、

 

・見た目は三枚目の宇宙海賊コウラ

・しかし脱ぐと鍛え抜かれた肉体

・それを見た敵や観客が

 「ヒューッ……見ろよあの背中……まるで甲羅だぜ……!」

 と驚嘆するところが由来らしい

 

「いや亀だから甲羅だろ……」

 

クロベエはまた困惑する。

 

ふー子は絶好調でヒューッを連発し続けている。

 

コロは胸を張って言う。

 

「このゲームは“コウラゲーム”が本家で、

 “にゃんたゲーム”はふー子先輩がアレンジした派生なんです!」

 

「……お前、見たことないのに詳しいな」

 

「ふ、ふー子先輩のことだから……!」

 

照れるコロを見て、クロベエはようやく思い出した。

 

(そうだ……今日はこいつの告白を手伝いに来たんだった……)

 

「コロ……覚悟は決まったか?」

 

「はい……!!」

 

クロベエは思う。

いい目をしている。

これは本気だ——。

 

「よし、行くぞ」

 

 

 

ふー子がこちらに気づく。

 

「ふたりでどうしたにゃ?」

 

クロベエが口を開こうとした瞬間、コロが遮る。

 

「ぼ、僕が自分で言います……!」

 

クロベエは思った。

 

(コロ……お前は弱気な仔犬なんかじゃなかった。立派な男だ……)

 

コロは胸に手を当て、震える声で語り始めた。

 

「ふー子先輩……この想いを伝えるかどうか……

 僕、ずっと悩んで……眠れない夜もあったんです……!」

 

クロベエは心の中で叫ぶ。

 

(いけぇぇぇぇぇ!! 頑張れコロぉぉぉぉぉ!!)

 

コロは力強くふー子を見つめ——

 

「僕……僕は……!!」

 

クロベエは息を呑む。

 

ふー子も固唾をのむ。

 

そして——

 

「クロベエさんも女子会に参加してほしいんです!!!」

 

「…………えっ」

 

「…………えっ」

 

ふー子とクロベエの声が完全にハモった。

 

コロは涙目で続ける。

 

「女子会はあんなに楽しいのに!

 男ってだけで参加できないなんて……クロベエさんが可哀想です!!」

 

(お前も男だろ……!!!)

 

クロベエの心が崩壊する音がした。

 

ふー子は冷静に返す。

 

「それでも女子会は女の子の集まりだから“女子会”なんだにゃ。

 男のクロベエが来たら、それは女子会ではないにゃ」

 

正論である。

(※コロが女子会に参加している矛盾はスルーされる)

 

「でも皆で遊ぶのは問題ないにゃ」

 

クロベエは心底ホッとした。

 

だが——

 

「それでも!!」

 

コロの大声が炸裂する。

 

クロベエはビクゥッと震える。

 

「僕は言い続けます……!

 クロベエさんを……女子会に参加させてくださいーー!!!」

 

(可能性の獣……!?)

 

胸に衝撃を受けるクロベエ。

 

さらに追い打ちが飛ぶ。

 

「クロベエさんはふー子先輩が女子会でやりたがるコウラゲームにも

 興味あるって言ってました!!」

 

「ふー子先輩のヒューッにもノータイムで反応してました!!」

 

ふー子の目の色が変わる。

 

「クロベエ……なかなかやるにゃ。それなら話は変わってくるにゃ」

 

「ちょっと待——」

 

クロベエの言葉はヒューッにかき消された。

 

 

 

「コ〜ウラーふふふふう〜ん♪」

 

「コ〜ウラー♪」

 

「ふんふん♪」

 

三人が円になり、真剣にコウラゲームを始めてしまう。

 

クロベエは必死で心の整理をつけた。

 

(ここでコウラゲームに集中させて、女子会の話はうやむやに……!)

 

そんな必死な男心をあざ笑うかのように——

 

「……あんた、何やってんの」

 

背後から冷えた声。

 

ミケミケである。

 

白雪も横にいて、優しく微笑む。

 

「クロベエさん……楽しそうですね」

 

その優しさは逆に効く。

 

クロベエの心が……砕けた。

 

 

ミケミケが言う。

 

「夕方限定のケーキセット、皆で食べに行くんでしょ?

 忘れたの?」

 

「あっ!」「忘れてたにゃ!」

 

ふー子とコロが慌てる。

 

「とんでもない逸材を見つけたせいで……」

 

と言い訳するふー子。

 

「とにかく、行くわよ」

 

ミケミケはスタスタ歩く。

 

ふー子が振り返って言う。

 

「クロベエも来るかにゃ?」

 

「いいですね!!」とコロが無邪気にはしゃぐ。

 

クロベエは死んだ目で、

 

「……すんません……オレ……いいんで……

 みなさんで……楽しんできてください……」

 

なぜか敬語になっていた。

 

ふー子は腕を組んで言い放つ。

 

「クロベエには女子会に参加する資格があるかもしれない。

 だがその素質は天賦の物……輝かせるか腐らせるかは己次第だにゃ。

 励むが良い」

⋯師匠面がうざかった ⋯

 

「……わかりました……」

 

体育会系の後輩のような返事をしてしまうクロベエ。

 

皆が去る。

風が吹く。

ひぐらしが鳴く。

 

クロベエはひとりベンチに座り、

誰もいない公園でポツリと歌い始めた。

 

「コ〜ウラー……ふふふふう〜ん……

 コ〜ウラー……ふふふふう〜ん……

 コ〜ウラー……ふふふふう〜ん……ふー……ふう〜ん……」

 

ふー子とは違う。

そこには“男の哀愁”が漂っていた。

 

次第に声がかすれ、消えかける。

 

クロベエはうつむいた。

 

肩が、小刻みに震えている。

 

——ナレーション。

 

「クロベエ……もういい、休め……っ!

 再び立ち上がるため、今は泣け……!!」

 

夕暮れの空に、誰かの声がかすかに響いた。

 

「ヒューッ……」

 

まるで、励ますように。

 

勘違いと、すれ違いと、少しの優しさが混ざった公園で、

クロベエのひとり練習は静かに続く

 

これはクロベエの“男”という名の物語

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