第15話 それは紛れもなく の巻
天国の広場を歩いていたふー子は、耳に聞き覚えのあるメロディを拾った。
「……コ〜ウラー……ふふ、ふふふ……う〜ん……」
ふー子「……にゃ?」
立ち止まって振り返ると、羊の親子がのんびり散歩しながら鼻歌を歌っている。
だが――。
「(なんか……違うにゃ……?)」
ふー子は眉をひそめた。
それは、ふー子がよく歌っている スペースコウラの主題歌の“あの部分”……のはずだった。
しかし音程が妙に物悲しく、テンポもゆっくり。
にゃんたゲームの時のテンションとはまるで違う。
ふー子「なんでそんなしんみり歌ってるにゃ……?」
首をかしげつつ歩くと、今度は池のほとりで老カメが一人、
夕陽に向かってしみじみと歌っていた。
「コ〜ウラー……ふぅ……ふふふ……ふ〜ん……」
ふー子(にゃああ!? ここにも!?)
さらには空を飛ぶ小鳥の群れまで歌っている。
小鳥A「ピチュ、コ〜ウラー……」
小鳥B「ふふふ……うん……」
ふー子(なんでみんなそんな“哀愁バージョン”にゃ!?)
完全に混乱してきた。
そして――
一つの可能性を思い出す。
ふー子「……こ、これ……もしかして……」
★ ★ ★
あちらこちらで聞こえる“しんみりコウラ歌”の手がかりを求め、
ふー子は天国じゅうを歩き回った。
そして、夕方の公園にたどりつく。
ベンチの横の木陰。
そこに――
「コ〜ウラー……ふふふ……う〜ん……ふ……ふう……ん……」
クロベエが、枯れた声で歌い続けていた。
ふー子「……にゃっぱり、お前かにゃ……!」
クロベエ「……えっ。ふー子……」
クロベエはハッとして歌を止めた。
明らかに “無意識で歌ってしまっていた” 顔だ。
クロベエ「ち、違うんだよ……! べつに歌いたくて歌ってたわけじゃなくてだな……
なんかこう……身体が勝手に……」
ふー子「やっぱりにゃ……広めたのはクロベエにゃ?」
クロベエ「ち、違……っ……いや、違わない……かも……」
そこへコロが駆け寄ってくる。
コロ「ふ、ふー子先輩! ぼく、聞いたんです!
クロベエさんに『コウラゲームの練習しとけ!』って言ったの……ふー子先輩ですよね……?」
ふー子「……あ……言ったにゃ……」
コロ「だから……その……クロベエさん……頑張って練習してたら……
いつのまにか周りの人にも伝わっちゃったんじゃ……」
クロベエ「俺だって……やめたいんだよ……!
でもこう……無意識で口ずさむようになっちまって……
気づいたらまわりも覚えてて……」
ふー子は気まずそうに目をそらす。
ふー子「……ごめんにゃ、クロベエ。あたしが巻き込んだにゃ……
しかも変なメロディになっちゃって……しんみりしてるし……」
クロベエ「いや……ふー子のせいじゃねえ……
俺のメンタルが折れかけてんのが悪いんだ……」
ベンチに座るクロベエはやつれた表情。
声は枯れ、哀愁たっぷりである。
コロは気遣わしげに寄り添った。
コロ「クロベエさん……あのメロディ……天国で“怪談”みたいに噂になってます……
“夕暮れになると哀愁のコウラが流れる場所がある”って……」
クロベエ「マジかよ……!!」
ふー子は大きくため息をつく。
ふー子「しょうがないにゃ……
本物を見せてやるにゃ!!」
ふー子は胸を張る。
ふー子「“コウラゲーム”はこうやるにゃ!!」
ふー子の足が軽やかに跳ね――
明るく、テンション高い声が響く。
ふー子「コ〜ウラー!! にゃふふふふ〜ん!
コ〜ウラー!! にゃふふふふ〜ん!
ヒューーーッ!!」
クロベエ「ひっ!? び、ビビらせるなよ!!」
コロ「ふー子先輩すごいです!! テンポが全然違う!!」
ふー子「これが正しいコウラのテンションにゃ!
おじさんと見たアニメはもっとこう迫力があってカッコよくて……
哀愁はあるけど……こんな“枯れかけた感じ”じゃないにゃ!!」
クロベエ「……う……うぅ……すまん……」
ふー子は優しく言う。
ふー子「クロベエ……練習、頑張ったにゃ。
へたくそでも、音痴でも……あたしは嬉しいにゃ。
でも無理はしちゃダメにゃ……」
クロベエ「……ふー子……」
コロ「クロベエさん……ふー子先輩、優しい……」
ふー子はにっこり笑った。
ふー子「じゃあ! 今日からはあたしが先生にゃ!!
“本物のコウラゲーム”教えてやるにゃ!」
クロベエ「教えなくていい!!!」
ふー子「照れるなにゃ〜♪」
コロ「ふー子先輩〜! ヒューッ部分が最高です!!」
クロベエ「俺の平穏を返せええぇぇぇ!!」
夕暮れの公園に、明るいコウラゲームが再び響き渡った。
今度は――
哀愁ではなく、笑いが混じっていた。