ネレヴィアは人類圏から遠く離れた位置に存在する。
今の人類の主要国家は大陸の西に位置し、西と東の間に人類が現在も開拓中のミュルクヴィズ大森林がある。
ミュルクヴィズ大森林は大陸を北から南にかけて横断する様に広がっている。
森には亜人種のモンスターが跳梁跋扈し人の手が届かない領域だ。
ミュルクヴィズ大森林を抜けた先には平原が広がっており、その平原には少ない人間や亜人種がぽつぽつと集落を作っている。
国家と呼べる規模はなく、村などが三桁に届かない程度あるだけだ。
そのうちの九個の村が魔王の支配下にあり街と呼べる規模のネレヴィアが一つ支配下にある。
そのネレヴィアにカレンとアーリンドラは来ていた。
「いつ来ても寂れた街ねぇ」
アーリンドラはぽつりと呟いた。
街とは言っても人口が一万に届くか届かないか程度の街だ。その為朝っぱからでも人影は少ない。
「アーリンドラさん! 行きましょ!」
カレンはワクワクを隠せないといった感じではしゃぎだす。
「そうせかさないの。逃げる訳じゃないんだから。ゆっくり行きましょ」
「……はーい」
という訳で二人はネレヴィアの大通りを歩き、市場まで歩く。
ネレヴィアの街の作りも公国等と左程変わらない。というかほぼ同じだ。
これはレイが公国の街の作りをそっくりそのまま参考にして街造りをさせた為である。
「あっ姐さん! おはようございまっす!」
そうして歩いていると不意に声をかけられる。
声をかけたのは人間の男だ。
「……姐さん?」
姐さん、という言葉にアーリンドラは疑問を抱く。
その言葉にカレンはバツが悪そうな顔をする。
「……え~と、昔やんちゃしてた頃があって……」
カレンにも反抗期というのが少しあった。というかちょっとグレてた時期があった。
そのころにネレヴィアに訪れてはちょっとしたヤンチャをした結果舎弟みたいなのが出来た、という訳である。
「そう……ふふ」
アーリンドラは娘のような者の知らない側面を知ってほほ笑んだ。
「それで姐さん、今日は何用っすか?」
「今日は市場を見ようと思うの。他の人は呼ばないでね?」
「うっす! わかりました! じゃあ自分はこれで!」
お元気で! と男は立ち去った。
その後しばらく歩くと市場に辿り着く。
市場はネレヴィアでも活気があり、百人近くはいる。
「早速見て見ましょ」
「はい!」
という訳で二人は近くにあった店を見る。
丁度アクセサリーを売っている店で指輪やネックレスが置かれている。
ただ市場という窃盗もされやすい場所もある為か
そのほか、幾つか店を見て回る。
ただどれも殆ど普通のアイテムだったり
そうして四つ目程の店に入る。
「らっしゃい」
その店の店主は
ただ能力的には
店主も逞しい髭を持っている。
「あら、いいじゃない」
アーリンドラはそう呟いた。
この店は他の店と違い宝石の付いたアクセサリーを売っており、しかもその全てが
カレンも目を輝かせて店に売っている品を見る。
「これとかいいんじゃない?」
「それもいいけどこれも──」
そうして二人は女々しく五分程話ながらアクセサリーを漁る。
「見た目はこれがいいな」
そう言ってカレンはネックレスを一つ手に取る。
無色透明の小結晶が着いた銀のネックレスだ。見た目も洒落ている。
「店主さーん。これ鑑定魔法かけていい?」
「おう、いいぞ」
「ありがとうございます。
カレンは上位の鑑定魔法をネックレスにかける。
「え、すご」
分かった効果は探知系
こんなところで売っているべきアイテムではない。もっと国の首都の一等地の店等で売っているべき超級のアイテムだ。
だが本来製作者までわかる魔法だが何故か製作者がわからなかった。
探知系の
見た目もレイに合っているとなればこれは買いだ、とカレンは決めた。
「店主さん、これ幾らですか?」
「あー、それか。十万セラだ」
人類圏から遠く離れているがここでも使われる通貨はセラで変わりはない。この大陸共通の通貨だ。
「カレンちゃん、それに決めたの?」
「はい、これにします!」
カレンは腕輪から財布を取り出し十万セラ抜き取り、店主に渡す。
「ハイ毎度」
「良いの見つかってよかったわね」
「はい!」
カレンは笑顔を浮かべた。
■
同時刻。リュミナス聖王国の首都、聖都ルミナリアにて。
一等地からは少し外れた位置にある場末の酒場で一人の女が酒を飲んでいた。
赤い髪と赤い瞳を持つ美少女だ。肌は綺麗でシミやそばかす一つない。胸はそこそこだろう。
年齢は高く見ても十代後半にしか見えない。街に行けば行く人全員が振り返るような美人だ。
白銀の鎧を纏い、腰には名高い聖剣カラドボルグを差している。
女──白銀級冒険者にして勇者リナ・フェイルーンはビールを一気に飲み干し、長いため息を吐いた。
そして、口を開いた。
「……セックスしてぇ」
年頃の娘が言っていい台詞では無かった。
いや、年頃というには既に二百歳を超えている為年頃というには問題があるが。
「ぎゃはははは! 女が言っていい台詞じゃねぇな!」
その言葉に笑うのは男だ。
歳は十代後半程度に見える男だ。
黒髪黒目の男であり、顔つきは優れていると言っていいだろう。
白い道士服を着ている。
同じく白銀級冒険者仙人ガイだ。
「うっさいわね。勇者だって女なのよ。セックスしたくて何が悪い!」
ダン! とリナはビールの入ったジョッキをテーブルに叩きつける。
「じゃあ俺とやるか? なんつってな!」
「あんたインポで勃たないでしょうが。ていうか勃つとしてもあんたとやるのはないわね」
「俺もお前とやるのはなしだな!」
「んだとこの野郎」
二人はぐびぐびと酒を飲む。
勇者と仙人という肩書だけを見るならば清貧なイメージのある者には見えない行動だ。
「ていうかさぁ、なんで私結婚出来ないの? 世界救った勇者様よ? それこそ王侯貴族とかが是非嫁にしたいってこぞって来るものじゃないの?」
「そりゃお前が強すぎたんだよ」
「嫁が強すぎるぐらい我慢しなさいよ」
「夜の行為で抱きつぶされるかっこ物理されそうな嫁なんて嫌だろ」
実際理由はそれだ。
リナのレベルは九十と現状白銀級冒険者の中で最高の物である。
それこそその気になれば自分以外皆殺しに出来るぐらいには強いのである。
そんな強い女抱こうものなら行為で殺されそうだと思われている。
後は単純に自我を持つ戦略級兵器と結婚したいという物好きはまずいないのである。
レベル九十とは超越者の頂だ。その気になれば一晩で国一つ滅ぼせる怪物相手に欲情できるか、という話だ。
「はぁ~。なんで私は男運ないのかしら」
「いっそのことあれだ、ガキ攫って調教するのはどうだ? 逆光源氏計画? とかいうんだろそういうの」
「ショタコンの毛はないわよ」
「幼い状態で手を出すなよ」
「ていうかまず勇者と釣り合う男性ってのが問題ね……雑に考えたら魔王になるのかしら」
「魔王~? 二百年前に殺したんだろ? そいつは」
「そうよ……肉片一つ残らず、ね」
二百年前の戦いでリナは魔王を肉片一つ残らず聖剣の能力で消し飛ばした。
その為高位の蘇生魔法でも蘇生が出来ない状態だ。蘇生魔法は死体が残っていないと意味がない。
神器ならば蘇生出来るかもしれないがその様な神器を聞いたことはないためやはり不可能だろう。
「いっそのこと魔王復活しないかしら。そしたらまた魔王討伐の旅をして、旅の仲間といい感じになってずっこんばっこん……」
「二百年前の旅でずっこんばっこんできてねぇから無理だろ」
「前の旅はあれよ、男がゴルディンしかいなかったし。
「
その後も二人は色々話す。
「つうかぁよぉ。魔王が復活したとして魔王とセックスとか出来るのか?」
「魔王ツラはよかったから、まぁ後は内面かしらね。世界征服企んだ極悪だからちょっと問題ありそうだけど」
「じゃあ無理じゃねぇか」
その後も二人はやれセックスだのいい男はいないだの話す。おっさんの会話を繰り広げていた。
「ていうかよぉ、勇者なのに
「あぁ~、なんか最近になって暴れてるらしいわね、そいつら。まったく私が苦労して魔王倒したってのに……けど動けないのよねぇ」
「なんでだ? お前が本気になればさくっとやれるだろ」
「セルドから『あなたに頼り過ぎると若い者が育ちません』だって。まぁ働かなくとも飯食えるからいいけどね~」
白銀級冒険者は月に三十万セラ貰える。
これに加え依頼を受ければその分の報酬も貰える為高給取りだ。白銀級冒険者向けの依頼と成ると最低でも二十万セラを超える報酬が貰える。
その分普通の者ならばまず死ぬ危険な依頼ばかり受けるがレベル五十以上あれば大抵の危機は暴力でどうにか出来るので見合っていると言えるだろう。
「はぁ~。どっかにいい男転がってないかしら」
「その男に逃げられるから無理だろ」
リナはガイの頭をぶん殴った。