その後問題なく一行は目的地の街であるストームに辿り着いた。
「ここがストーム……」
ストームは森の中にある街だ。
ただ森らしさは無い。森の木々をなぎ倒し平らに整地し作った場所に街を作ってある。
区画整理もされており四角い街である。
「では我々はここで。これを冒険者ギルドに持ってってください。これで依頼完了の証明になります」
パオロがカレンに木札を渡す。
護衛系の依頼はこうやって証明書持って行く事で依頼を完了したと分かるのだ。
「ありがとうございます、この街のギルドは何処にありますか?」
「大通りを真っすぐ進めば左手に見えてきますよ」
「わかりました、ありがとうございます! いこ、お父さん!」
「ああ」
という訳でカレンとレイの二人はパオロとスティールリーフの面々に別れを告げて冒険者ギルドに向かう。
「この街結構人いるね」
「異形種も多いな」
ストームの街は領主が異形種のスライムという事もあり多種多様な種族が済む。
オークに人の体に四つの腕を持つ
スライム系種族のグロウムに人間大の蠢く触手の塊であるモルガ。人の形に山羊の角が生え背中からは蝙蝠の翼が生えたヴォルグ等の異形種の姿もある。
ただ、アンデッドは殆どいない。アンデッドは生命に害を成す者として見られることも多く迫害の対象に成りやすい。
その為殆どの自我を持つアンデッドはネクロポリスで暮らしている。ネクロポリスにはナイトリッチによる魔術結社があるという。
またバルグラート帝国も皇帝がアンデッドなので有名だ。ただそれでもネクロポリスに行くアンデッドの方が多いが。
歩行する冒険者の数も多い。ほとんどは鉄級冒険者だ。
やはり鋼級冒険者でも相当にレアなのである。
街並みは白い。石を削って壁にして木で骨組みを作った家が多い。
見れば豚の顔と人の体と手足を持つオーク等が建築をしている光景も見れる。
そうして五分程歩くと目的地である冒険者ギルドに到達する。
ギルドはルセクアと左程変わらない。三階建ての木造建築である。
開いてる門をくぐり中に入ると中には多様な種族の冒険者たちが居る。
グロウムや
二人は受付に進み、木札を渡す。
受付はハーフエルフの女性だ。
「すみません、ここまで護衛依頼を受けた冒険者なんですけど……」
「はい。護衛依頼ですね。少々お待ちください…………はい。終了処理が完了しました。こちらが報酬になります」
受付嬢はそう言うと棚から報酬が入った袋を取り出す。
「ありがとうございます」
カレンは袋を受け取ると
二人は受付を離れる。
「このまま何か依頼でも受けるか?」
「ん-、いや今日は観光しよ」
「わかった。広場にでも行くか……」
という訳で二人はギルドを出て歩く。
道中案内板を見つけ大きめの公園までの道を調べながら歩いて行く。
そうして歩いてるとやはりというか注目される。
二人は今も胸に白金のプレートを付けている。
その為に冒険者の中でも上から数えた方が速いランクである白金級冒険者は珍しいのだ。
その視線にレイは面倒な物を感じ、カレンは逆に誇らしく思う。
自分はこれだけ凄いのだ、と自信を張れるのだ。
そして目的地である公園に辿り着く。
公園には何組かのカップルと若者や老人の姿がある。
「む」
何処か適当な椅子に座ろうか、などと思っていると公園の向こう側からある二人組が歩いて来る。
水色の髪と瞳を持つ小柄な美少女だ。黒い貴族服を着ている。
連れている女性は鬼人の女だ。頭部から一本の角が生えている。スーツを着た高身長の女性であり腰には刀を差している。あと胸がでっかい。
相手の顔を見た瞬間。レイの脳裏に存在する記憶が走る。
それは、配下の記憶。数えきれない部下を持っていた頃の、魔王軍全盛の時代。
「あ」
それは相手も気づいたようで。レイの顔を見て固まった。
「ま──」
その言葉を聞いた瞬間レイは
その口に手を当て言葉を泊めさせる。
「このような場でその名を口にするのは困るな、リオナ」
こくこくとスライム──リオナは若干涙目に成りながらも頷く。
そこにレイの首筋に刀が置かれた。
「貴様、リオナ様に何をする!」
鬼人の女はキッとした目つきでレイを睨む。
レイはリオナの口から手を離し少し離れる。
「待ってくれ! そこの人は俺の──古い友人なんだ! そうなんでーす? そうなんだ!」
リオナは元上司相手にどう対応したものか悩みながらも声を出す。
「その通りだ。余はレイ。そちらと古い友人の冒険者だ」
「何……まぁ、リオナ様がそう言うのなら……」
渋々と言った様子で鬼人の女──名をダリアは刀を鞘に仕舞う。
「お父さん、知り合い?」
歩いてきたカレンがレイにそう尋ねる。
「ああ。古い友人だ」
堂々とした面でレイは嘘を言う。その姿にリオナは微妙な顔をした。
「え~と、ちょっと色々話したい事あるからうちに来てくれません……くれないか?」
「いいぞ。余も聞きたいことがあるからな」
「では屋敷まで案内しましょう」
カレンとレイはリオナとダリアについて行き公園を出る。
その後二十分程歩くことで目的地である屋敷に着く。
尚道中無言だった。
屋敷は三階建ての大きな建物だ。このストーム一番の大きさを持つ屋敷である。
正面を向いているコの字型の建物だ。
屋敷には広い庭もついており、一行は庭を通って屋敷の中に入る。
屋敷の中に入って靴を脱ぎスリッパに履き替える。
その後も少し歩き、レイとカレンは客室に通された。
客室はそこそこの広さを持ちソファが二つとテーブルが一つある部屋だ。
テーブルの上には茶菓子が置いてある。
「え~と、悪いがダリアは部屋から出ていてくれ。出来れば、その……そこの女性も出ていってくれるとありがたいが……」
リオナはカレンを見る。
リオナにとってカレンは見知らぬ女性であり何をどこまで話していいか困る相手だ。だから部屋からの退出を願う。
「気にするな。カレンは色々知ってるから気遣う必要はない」
「そうで……そうか。じゃあ、ダリアだけ悪いが……」
「むぅ……リオナ様がそう言うのなら。では私はこれで」
ダリアは不満そうな顔を隠そうとはせず部屋から出ていった。
「では、おかけください」
リオナは部下が居なくなったので敬語を使う。
「気にするな。既に主従関係ではないだろう。魔王は没したのだ」
「……なら、遠慮なく。まずは座ろうか」
カレンとレイ、そしてリオナで向かい合うようにソファに座る。
「お父さん、この人って……魔王軍時代の人?」
その問いかけにリオナはこの少女が魔王であるという事を知っていると分かる。
そして同時に驚く。魔王あんた娘いたんかい、と。
リオナは魔王の種族を知らない為娘がぱっと見人間に見えることに違和感を抱くが口には出さないで置いた。
「そうだ。魔王軍でも幹部を務めていたスライムだ」
幹部と言っても四天王ではない。四天王の下に八幹部の席があり、リオナはその八幹部の一人だったのだ。
「スライムなんだ……とてもそうは見えないけど」
「ああ。俺は<擬態>の
「へー。便利そう」
「実際便利だぞ。空を飛ぶモンスターの姿に成れば空も飛べるしな……じゃなくて、えぇと、魔王様は何故この街に?」
取りあえず本題だ、とリオナは問いかける。
もしこの街を滅ぼしに来たとでもいうのならば全力で抗わねばならない。戦力は心元ないが、それでも抗えるだけ抗うのが領主の務めだと信じているから。
「首都のエルフェリアに行く途中に寄っただけだ。この街から列車が出ているだろう? それに乗ろうと思ってな」
この国には列車がある。上級の
概念自体は三百年程前からあったがここ数十年で実用化された技術である。
「なるほど……本当にこの街を滅ぼしたりするつもりはないと?」
「ないぞ。滅ぼすつもりなら既に其方を殺している」
「ですよね……じゃあこの街には本当に立ち寄っただけ、と」
「ああ。そもそも其方の顔を見るまで其方の事を忘れていたしな」
さらりと酷い事を言うがリオナもレイも気にしない。
魔王にとっては八幹部等多数いる幹部の一人に過ぎないし、そもそも直属の関係ではない為会う頻度も稀だ。
「それで、紹介がまだだったな、娘のカレンだ」
「カレン・アーヴェルスです。白金級冒険者でレベルは三十八です。よろしくお願いします」
地味にカレンはレベルが三十九まで上がっているがそのことを知らない。
レベルを知る為には鑑定系の魔法を受ける必要がある。その為鑑定されないと自分のレベルを把握できないのだ。
冒険者ギルドに登録している者ならば格安で鑑定を受ける事が出来る。
「このストームの領主のリオナ・ストームだ。種族はスライムでレベルは四十七だ。よろしくな」
カレンはリオナの四十七というレベルの高さに驚く。
一国に一人か二人いるかいないか、というレベルの高さだ。国の大将軍等の地位に付いていても可笑しくないレベルである。
その高レベルが街一つの領主に収まっているのは何か訳があるのだろうか、と考えたが深堀するのはやめておく。
「実は父と共に冒険者をしておりまして、その関係でこの街に寄りました」
「そうなのか……この街には結構見どころあるからな、劇場とかもある。是非見ていってくれ」
「劇場! ルセクアやネレヴィアには無かった施設!」
カレンはワクワクと眼を輝かせる。
その姿にリオナは微笑ましい物を見る目をする。親戚の子供の用だ、と。
尚リオナはスライムなので親戚はいない。
「じゃあこれ渡そうか」
リオナは体の中からアイテムを取り出す。
リオナはスライムであり種族
この
取り出したのは劇場のペアチケットだ。丁度今日の午後から開園する奴である。
「ありがとうございます!」
カレンは栄華オデチケットを受け取る。
「そうだ、今夜ここに泊ります?」
リオナは一様元部下としてそれっぽい事を言う。本音を言えば当然屋敷に泊ってほしくないが元上司に対し礼儀を欠いたことをするわけにもいかない。
まぁそれを言い始めたら魔王軍の裏切り者であるリオナは存在自体が礼を欠いているようなものだが。
そう、リオナは魔王軍の裏切り者だ。と言っても多数いる裏切り者の一人に過ぎない。
魔王軍の殆どは魔王レイが力で支配していた連中だ。魔王の元で暴れることが好きな乱暴者の種族は良いがそれ以外の者達は当然反発する。
勇者が竜王を倒し竜王がそのまま魔王軍を離反した勢いで謀反を起こした魔王軍所属の異形種は多い。何なら四天王だったアトラシアも勢いで反逆してきた。
全勢力から魔王軍は嫌われていたのである。
「そうだな、泊まらせてもらおうか」
(そうですかーやだなー帰ってくんねぇかなぁ)
リオナは内心そう思いながらもニッコリと笑顔で「わかりました」と言い放つ。
その内心をカレンは察し同情の目線を向けた。
リオナはそれを察し同情するなら止めてくれと眼で訴えたがカレンは気まずそうに視線を外した。
一連の流れにレイは気づく事無かった。流石は魔王である。
「では、劇場を見てくるとしようか」
レイは立ち上がり、カレンも立つ。
「だったら夕方にはこの屋敷に来てくれ。夕食も用意するからさ」
「わかった。ではな、リオナ」
レイはカレンを連れて部屋を出ていった。
少し経つと部屋にノックが入り、リオナは入室の許可を出す。
入って来たのは当然ダリアだ。
「リオナ様。あの二人組はいったい……?」
その問いかけにリオナは考える。真実を言うべきか否か。
すこし考え真実を言うべきだと考える。下手に嘘をついて不興を買うのは嫌だし、魔王側に隠そうとする意志があるかもよくわかってないからだ。
「他言無用で頼む。一応アルトの奴にも連絡しておいてくれ。要らないだろうけど護衛はいるだろうからな……」
「わかりました」
「……まったく、厄介な物だな、魔王ってのは」