デヴォンとエルミナを魔王城に招いてから二週間が経った。
デヴォンは毎日のように魔王城に行きフクスと忍術の修行をしている。
そうした日々を過ごし、今日も凍てつく王廟に行こうと冒険者ギルドに黒風の一行は集まった。
さぁ行こう、と受付に行こうとした時。カレンの前に立ちふさがる女が居た。
カレンの通行の邪魔をするように仁王立ちする女だ。
歳は二十代前半程度。顔つきは優れていると言えるだろう。
金髪緑眼の女であり身長は百六十四センチ程。髪は肩より少し下まで伸びている。
冒険者ギルドに居るというのに女はドレスを着ている。赤のドレスだ。
胸には冒険者の証であるプレートを付けている。左手には赤いブレスレッドをはめている。
「あの……そこをどいてもらえませんか?」
カレンは女にそう言い放つ。
「ふっ……私を前に余裕の表情……流石は黒風のリーダーと言ったところですね……」
「いいからどけ女」
レイは多少苛つき乱暴な口調で言い放った。
「まぁ! 私を相手にそんな口の利き方をするとは! 私を知らないのですか!?」
「いや知らんが。誰だお前は」
レイは本当になんだこいつは、という目で女を見る。
「あ~、レイ。この人は……」
デヴォンは知っており、女の名を上げようとする。
だがそれよりも早く女が名乗りを上げる。
「知らぬというのなら教えてあげましょう! 私こそはメアリー・ルース・モンティス! あなたたちと同じ白金級冒険者ですわ!」
よく見れば胸には白金のプレートがある。カレンは気づいていたがレイは気にもしてなかったので言われて気づいた。
「え~と、それでモンティスさん? は何の御用で……しょうか?」
ミドルネームがあるのは貴族だけだ。流石に貴族相手となるとカレンも多少敬語を使う。
というか何故貴族が冒険者何てしているのだろうかと疑問を抱く。
冒険者という仕事が嫌われていたりする訳ではない。が、それはそれとしてモンスター退治という命の危機が高い仕事だ。貴族の仕事ではないのだ。
「カレンさん。貴女が白金級に上がる前は私こそが最短で白金に成った冒険者として有名でしたわ……」
正確にはこの国で、というのが枕詞に着くが。
「ですがその記録も貴女に打ち破られた……つまり貴女と私はライバルという事ですわ!」
「はい?」
何を言っているのだろうか、とカレンは頭を捻った。この人は何を言っているのか、いや本当に。
「ライバルとして競争を致しましょう。どちらが先に凍てつく王廟の第十五層ボス、アークレイを倒せるか!」
なんか面倒な事になったぞ。黒風の一行は頭を悩ませたくなった。
「何やってんだお前は」
そこでまた別の女がやって来る。
筋骨隆々の褐色の女だ。赤いビキニアーマーを着用し腹も足も露出している。
赤い髪に赤い瞳の女であり顔には傷が付いているがそれがアクセントとなって美を飾っている。
身長は高く百八十センチもある。
女はメアリーの頭にチョップを入れる。
メアリーはチョップによって痛みを感じ頭を押さえながら叫んだ。
「ちょっと痛いですわ! メラニ、少しは加減をしてくださいまし!」
「加減したら痛くないだろう」
「私の華麗なる頭が悪くなってしまいますわ!」
「お前高レベルだからそうなる事はないだろ……と、俺はメラニだ。よろしくな、黒風の一行さん」
「……え~と、カレン・アーヴェルスです。よろしくお願いします」
「レイ・アーヴェルスだ」
「デヴォンだ」
「エルミナと申します。よろしくお願いしますね」
一応カレンたちは名乗りを上げる。
「ぐぬっ……と、とにかく! 私は貴女とライバルに成りたいのです! カレンさん!」
「ライバルって、ようするに友達に成りたいってこと? ならいいけど……」
カレンはそう発言する。
「友達……えぇ、その様な物です! どうですか?」
「私は全然いいよ!」
カレンは満面の笑みを浮かべる。
その顔にメアリーも笑みを浮かべた。
「ではお友達どうし……決闘と行きましょう!」
レイは何を言っているんだお前は、という目でじろりとメアリーを睨むがメアリーがその視線に気づくことは無かった。
「いいね! じゃあ早速やろうか!」
カレンも父の視線に気づくことなく自分も決闘をしようと意気込む。
レイはカレンの血の気の速さに教育を間違えたかと頭を悩ませた。
「ていう訳で、今日はダンジョン探索中止になっちゃうけど、いいかな?」
「おう、別にいいぜ」
「私も構いません。友情は大切にしなければなりませんからね」
「……まぁ余もいいが」
レイだけは不服そうにするがデヴォンもエルミナも問題ないと言った様子だ。
「では早速裏の修練場に行きましょう」
その言葉に従いメアリーとメラニ。黒風の一行はギルドの裏手へと歩いて行く。
冒険者ギルドの裏手には修練場があるのが基本だ。其処では初心者冒険者が好きに鍛錬をしている。無料の修練場だ。
修練所に着いた一行は視線を受ける。
この修練場は初心者が使うような場所だ。白金級として名高いメアリーや黒風の一行が寄るような場所ではないのだ。
「では早速行きましょうか」
「はーい」
メアリーとカレンは他の者達を置いて練習場の中央まで歩く。レイはメアリーを睨んだがその視線は誰にも気づかれなかった。
中央に着くと他の者達が察し修練場内から人が出ていく。
そしてレイたちのように観戦に回る。
格上の者同士の戦いだ。参考に成るかもしれないと思っているのだ。
「メアリーは武器を持たなくていいの?」
カレンはそう問いかけた。
見た所メアリーは武器や防具の類を持っていない。
父と同じモンクやグラップラーだろうか、とカレンは考える。
「ふふ……既に持っていますわ」
メアリーは左手の赤いブレスレッドを天に掲げた。
「魔装展開!」
瞬間、メアリーが眩く光る。
光の強さにカレンは目を閉じ、レイは眉を潜めた。
光が収まった其処に居たのは赤い鎧を纏ったメアリーだ。
両手には赤い手甲を纏い、足もレギンスの赤い鎧を纏っている。
胸を強調するかのような鎧に背中には赤い機会の翼のような物が浮遊している。
右手には銃剣を持っている。中央に銃があり挟むように剣が付いている赤い剣だ。
「なにそれすご!」
カレンが初めて見る変化に驚きの声を上げる。
「魔装系の
「レイは知ってんのか。そうだ、メアリーは秘宝級の魔装の所持者として有名なんだ」
魔装とは魔法の鎧を瞬時に纏うタイプの
中級以上からあるアイテムであり効果は様々だがどれも強力な効果を持つ。
その代わり指輪などのアクセサリーは装備出来るが魔装以外の武器や防具を装備出来ないという欠点がある。
だがその欠点を補ってなお強い装備品であると同時に数が少ない
一応人の手でも作れるが大半はダンジョン産の
メアリーの魔装には幾つか効果がある。
銃剣による遠距離攻撃。効果としては魔法的な遠距離攻撃判定になる。
単純な防御力アップに攻撃力上昇等。
それ以外にも特殊なスキルを持っている。
「さぁ、行きますわよ! レッドティア・イクスギア!」
「来なさい!」
そして衝突──かと思ったらメアリーは空へと飛んで行った。
「んなっ」
即座にカレンはその意味を知る。
「遠距離から一方的にぶちかましますわ~!」
メアリーはおほほほと笑いながらそう宣言し、標準をカレンに向ける。
更に<千里眼>の
そして銃剣から魔力弾を放つ。一発や二発ではない。大量にだ。
外見は真っ黒な球体のそれ。
一発一発の威力は鋼鉄を貫く程度の威力の為使用回数制限や使用に魔力消費等が無い便利な攻撃だ。
チャージ攻撃も可能でその場合はアダマンタイトすら貫く攻撃となる。
魔力弾による弾幕。それに対しカレンはどう対処するのかメアリーはワクワクが止まらない。
カレンは飛んだ。
鍛えた視力と優れた動体視力で飛んでくる魔弾を避けていく。
当たりそうなのは剣で弾きメアリーへと接近する。
「そう来ましたか!」
当然戦士が使える魔法ではないがメアリーはカレンの噂を事前に聞いておりそれぐらい使ってくるだろうと予想していた。
カレンは優れた魔法戦士としても有名だ。
本来魔法と戦士の両立は非常に難しい。魔法の行使と戦士としての戦いは正反対だからだ。
だというのに魔法戦士となっているカレンは本当に優れた存在なのだ。
「ピット展開!」
メアリーはボイスコマンドで魔装の能力を発動する。
魔装レッドティア・イクスギアの
合計十二のピットを持っており今展開したのは二種類のピットだ。
十二の内六つは射撃用ピット。四つはソードプットで残る二つはガードピットだ。
展開したのは射撃ピット二つとガードピット二つ。
射撃用ピットは銃身だけの銃と言った見た目で謎動力で浮遊している。
ソードピットは刃だけの剣である。
ピットから更に弾幕が展開される。
威力は銃剣セイントブレードと同等か若干上。
チャージ攻撃こそ出来ないが威力は充分だ。
「
カレンは第五環魔法を唱える。
この魔法は名の通り遠距離攻撃に対し耐性を得るバフ魔法だ。
魔法効果の乗らない遠距離攻撃なら完全に無効化し魔法効果が着いてて威力の高い攻撃でも殆どを軽減できる魔法である。
流石に城壁を砕くような桁外れの攻撃には無意味だがそれでもレッドティア・イクスギアのピット攻撃なら殆どを軽減できる。
<不屈>はノックバック無効の
何発か魔力弾が当たるもカレンは<不屈>の
そして剣で斬りかかる。
「滅茶苦茶ですわ~!」
等と言いながらもメアリーはセイントブレードで迎撃する。
空中で剣が何度も衝突し合う。
「んなっ」
その剣の鋭さにメアリーは驚いた。
自らの剣が斬られている。
セイントブレードもレッドティア・イクスギアの一つ判定になり秘宝級の一品となる。個人が持てる最高級の剣だ。
その剣が無様に斬られているという事は相手の剣はセイントブレード以上の一品だという事。
あり得るとしたら聖遺物級、国宝クラスの
個人が持つ事は理論上可能だが入手難度が高すぎてまず無理な
その理論上とは入手難度の高さと一つ買うのに国家予算級の値段がかかるのである。
実際は
「くっ、<バースト>!」
魔装には元から備わっている
一部の武器や
<バースト>はスタミナ消費でその場から急速に離れる
スタミナを持っていかれるが疲労無効の指輪をメアリーも付けているのでそのデメリットは無効化出来る。
「ピット全展開!」
メアリーは残るピット全てを展開する。
六つの射撃ピットに四つのソードピットに二つのガードピットだ。
「んなっ」
そのピットの多さにカレンは面食らう。
そして射撃ピットが一斉に射撃を始める。
これは使用回数制限や魔力消費など無い通常攻撃判定に成る為無限に使えるのだ。
「これは流石に無理!」
如何に
そう判断したカレンは空を縦横無尽に飛び回避に専念する。
「なんかすげーことしてんな」
地上にて。ほとんど戦場が見えてないデヴォンがそう呟いた。
デヴォンの視力も悪い方ではないが地上から遥か遠くの空で高速で飛び回っているのでデヴォンの目にはほとんど映らない。
「えぇ。今のところはメアリーさんのが優勢のようです」
エルミナは天使という異種族なのと高レベルがあって視力も良い。普通にメアリーとカレンの戦いが見えている。
「むぅ……このままだと押しつぶされるぞ」
レイも当然見えていて戦局を見てそう判断した。
実際このままいけば弾幕の嵐に捕まってミンチより酷いことになるだろう。
と言ってもカレンの肉体は四十三レベルあるので耐えれるだろうが、それでも体中に痣が出来る事になるだろう。
戦闘と考えれば継続出来るだろうが模擬戦と考えれば敗北判定になるだろう。
(くっ、弾幕が濃い!)
空の上でカレンは苦戦していた。
原因はやはり弾幕だ。数の暴力とはかくも偉大なのである。
この弾幕を蹴散らす魔法をカレンは持っているが、使っても防御されるのが目に見えているのだ。
原因はガードピットだ。バリアを張っているガードピットによって弾幕は一時消せても本体であるメアリーにまで攻撃が届かない。
「一か八か! ──
そこでカレンは転移魔法を唱える。
転移先はメアリーの背後。
(とった!)
そう思いカレンは剣を振るい背中を斬ろうとする。
だがその瞬間。メアリーが超速で振り向きセイントブレードを振るった。
「えっ」
完全な不意打ち。気づけるはずがないはず──そう思ったのも束の間。カレンはセイントブレードで胸を斬られた。
「かはっ……」
ダメージによってカレンは意識を失いかけ
「私の勝ちですわ~!」
おほほほほほと笑いながらメアリーは剣を収納しカレンを抱える。
そのまま地上に向かって飛んでいく。
「もっと優しく掴んで!」
カレンが痛みを感じながらそう訴える。
「これでもレディの扱いにはなれていましてよ~!」
だがメアリーはおほほほほと笑うだけで気にもしない。
地上、冒険者ギルドの修練場に降りたメアリーは「聖職者の方! 回復魔法をお願いしますわ~!」と叫んだ。
その声によってエルミナがいの一番に駆け出しカレンの元に着く。
「
即座に回復魔法を使う。
それによりカレンの傷は即座に癒され、跡形もなくなる。
これが魔法の便利な所だ。致命傷だろうと魔法があれば癒せるのだから。
傷が治ったカレンは立ち上がった。
「負けたな、カレン」
そこにレイがやって来る。
「負けちゃった」
てへ、とカレンは可愛らしく舌を出す。
レイはカレンの頭に手を置く。
「もっと強くならなくては」
「……うん!」
レベルの上ではカレンのが上だったが戦闘経験の差で負けた。
「美しい親子愛ですわね~」
メアリーはそう微笑んだ。