「ここが当家の屋敷ですわ~!」
黒風と赤焔の翼一行はメアリー案内の元エルフェリアの一等地まで来ていた。
着いた先に会ったのは大きな屋敷だ。前を向いたコの字型の屋敷であり三階建ての大きな屋敷だ。
「ここがメアリーの実家なの?」
「いいえ。実家はモンティス領にあります。この屋敷はエルフェリアで活動するためのモノでしかありませんわ~」
「貴族ってすごい」
メアリーが言うにはこの家より大きなものがモンティス領にあるという。所詮この屋敷は借宿のような物なのだ。
「といっても屋敷の管理とモンティスとのつなぎの為に叔父が住んでいますわ~挨拶も致しましょう~」
という訳で一行は門を開けて庭を通って中に入り、扉を開けて中に入る。
「やぁメアリー。そちらの方が君の新しい友人かい?」
扉を開けた先は玄関ホールでそこには一人の男が居た。
金髪碧眼の病弱そうな男だ。やせ細っているが骨が浮き出るほどではない。
貴族らしく金色の豪華な服に身を包んでいる。
「そうですわ~! カレンさん、この人は私の叔父のガルシアン・デュロス・モンティスですわ~」
「えっと……がルシアンさん、初めまして。カレン・アーヴェルスです」
「ようこそ、カレンさん、家にはいろいろとある。是非楽しんで行ってくれ」
ガルシアンはそう微笑む。
「では早速一階のダンスホールで練習ですわ~!」
■
「これが練習服か」
カレンたち黒風と赤焔の翼一行はドレスルームで着替えた。
今いるのはダンスレッスン場として開放された会場だ。
元から夜会等で使われる場所であり人数が八人と多いので普通の練習部屋ではなくこの部屋が使われている。
動きやすいTシャツにズボンを着用している。全員がだ。
「私が教育係りのレイシア・フェリシア・フォルネッタです。よろしくお願いしますね、皆さん」
走尾言うのは赤髪碧眼の美少女だ。眼鏡をかけている。
スーツを着用していて雰囲気は優しい女教師と言ったところだろう。
この世界では眼鏡をかけていることは別に珍しい事じゃない。
街に行けば眼鏡屋ぐらいあるし、極端に視力が悪い者は初回限定で治癒魔法で治してもらえる。
一定までの視力は異常判定にならず回復魔法が通じないが視力ゼロのような完全な盲目は回復魔法で治癒出来る。
生れついて盲目でも回復魔法で治す事が出来るのだ。
といっても盲目さえ治すのは第五環魔法に成るので一般人ではまずその回復魔法代が払えないので眼鏡を買う事になるが。
「では早速レッスンといきましょうか。まずは私とメアリーさんでお手本を見せます」
そういってレイシアはメアリーの前に膝をついて手を出す。
「私と踊っていただけますか? レディ」
「はい。喜んで」
そう言ってメアリーはレイシアの手を取ってダンスを踊り始める。
この練習場もそこそこ広い。二人は優雅にダンスを踊る。
種類としては踊っているのはワルツだ。音楽はかかってないが二人は問題なく踊っている。
一通り踊るとカレンが拍手をし、釣られて他の者達も拍手をする。
「とまぁこれが出来るようになるまで練習を致しますわ。と言っても本当は他にもタンゴとかクイックステップとありますが……まぁ数日でそこまでやれるようになるのは流石に無理なのでワルツだけ練習致しましょう」
「わかったわ。じゃあ早速練習しましょう!」
「おー」とそこそこやる気のある声が一同から上がる。
それからは練習だ。男女ペアくんだり男が足りないので女性同士で役を決めて踊ったり。
全員最初はおぼつかないがやっているうちに慣れて覚えてくる。
これも高レベルの特権だ。
高ステータスという事は記憶力のレベルも相応に高いという事であり記憶能力は全員いいのだ。最低でもレベル三十があるので。
その為本格的な練習をしたとしてもギリギリ追いつける程度の学習能力は全員あるだろうがそこまではレイシアもメアリーも求めない。
逆に出来過ぎると他の貴族たちが是非うちの夜会やらパーティに来てくれという話になってくるので面倒なのだ。
その後実際にドレスを着たりスーツを着てダンスを踊って見たりするなどして一週間を過ごした。
そして遂にションがやって来て夜会パーティが始まる。
■
「に、似合ってるかな」
メアリーのエルフェリアの屋敷にて。玄関ホールでカレンがそう呟いた。
「ああ。よく似合っているとも」
そう返すのは夜会用の黒いスーツを着用したレイだ。
この場の全員夜会用の恰好をしている。
レイは漆黒の燕尾服に赤の刺繍入りロングコート。
黒革の手袋とブーツを着用している。
この衣服は魔王城にあったのを持ってきている。
カレンは白と淡金のドレスだ。
肩は少し出すオフショルダーでスカートは前が少し短めなアシンメトリーで軽やかな姿。
茶髪をハーフアップにまとめ、碧の宝石飾りを付けている。
デヴォンは深緑のショートタキシードだ。
丈短めで身軽さ重視。銀の刺繍が入ったベストがポイントである。
黒のショートブーツを履いている。
エルミナは淡い空色と白のロングドレスである。
金髪は三つ編みを混ぜたサイドアップに控えめで清楚間を出している。
天使の輪と干渉しないよう細い銀細工のアクセサリーを付けている。
と言っても天使の輪も翼も物理的に干渉できないよう調整する事は出来るが。
レイ以外はメアリー御用達の衣服店で買った物を着ている。
レンタルする事も考えたが今後名が売れてパーティに誘われる可能性を考えた結果購入に至った。
赤焔の翼一行もドレスを着用している。
メアリーは赤いドレスを。メラニは少し茶色いドレスを。セレナは黒いドレスでティアラは金色のドレスだ。
セレナは流石に国主主催の夜会である為仮面をつけるのは不敬にも程があるのでつけてない。
「では来たようだし行きますわ~!」
メアリーが扉を開け外に出て一行も外に出る。
外には黒いリムジンが一台待機している。
夕方であり夕陽が差している。
「ながっ」
リムジンを始めてみたカレンがそんな感想を呟く。
「まぁリムジンは長い物だからな」
等とレイは軽く返す。
運転席から執事服を着た男性が降りてきてリムジンのドアを開ける。
白髪の老人の執事だ。
「皆様、どうぞ中へ」
「ありがとうますわ~!」
メアリーが入り込み続いて一行も入る。
中にはL字型の椅子がある。作りは最高級でフワフワの椅子である。
八人もいるので少し詰めて一行は入る。
「あ、お酒がある」
「飲むか?」
「運転中に零しそうだから飲まない」
「それもそうか」
等と話していると運転手が運転席について運転しリムジンが進む。
向かう先は主城クリスタリアだ。
外見としては何処か氷を思わせる白亜の城だ。
当然相応にデカく庭も広い。
リムジンは城に入るとスレイプニルに乗った騎士に案内されて駐車場にまで連れていかれる。
スレイプニルとは魔獣系モンスターの一種だ。レベルは十。
レベルは低いが移動能力特化型であり運送能力も非常に高い。
八本足の馬の外見をしており馬の十倍以上の運動力を持つくせに食事量は十分の一で済むというとんでも生態をしている。
この世界の貴族の移動手段にランクを付けるなら最低が馬、次点がスレイプニルで次が車で最高級がリムジンと言ったところだろう。
レイが窓から外を見ると同じようにリムジンで来ている貴族やスレイプニルの馬車に乗ってきている者もいる。
リムジンが止まり運転手が降りてドアを開ける。
「着きました。皆様方どうぞ」
入った順とは逆でリムジンから降りていく。
「ここがこの国の主城……」
カレンが城を見上げながら呟いた。
自分の家、魔王城よりは規模は小さいがそれでも初めての国の首都の城だ。多少は緊張もする。
レイも他国の城に入るのは余りしたことが無い。
支配下の国主催のパーティで城に入った事などは何度かあるが元庶民である自分には緊張する事だと何時も思う。
元貧民であるデヴォンはガチガチに緊張しておりエルミナに背中をさすって貰っていた。
吐きそうになってない分まだマシである。
「皆様。どうぞこちらへ」
全身鎧に身を包んだ騎士が道案内をする。
それに従い一行は先へと進んでいく。
城の中に入り豪華な廊下を通ってパーティ会場へと進んでいく。
道中でも他の貴族等が見てくるのをカレンは感じた。
冒険者であるカレンは新聞に載った事もあるぐらいには有名な存在だ。情報が命の貴族社会でカレンの事を知らぬ者は居ないだろう。
その為に視線にさらされている。レイはうちの娘に何変な視線向けてんじゃゴラと殺気を振りまきそうになったが察したメアリーが抑えた為我慢した。
そうしてパーティ会場に着く。
「わぁ……!」
中は広い。日本の体育館の半分程の広さはあるだろう。
テーブルが幾つかありテーブルには
ダンジョンバッドの唐揚げやバンバンジー、カナッペやピザ、寿司すらある。
冷凍保存と
と言ってもこの国は内陸国なので海が無い。その為寿司の魚の大半は他所の国からの輸入品だ。
寿司や刺身の為の魚を養殖しているのはリオナのような変人──スライムなので人ではないが──ぐらいのものだ。
「では各々好きに行動するとしましょう」
メアリーの本音としては策謀渦巻く夜会でカレンたちを放って行動したくない。
だがメアリーは貴族出身であり、今も貴族の籍は残っている。
その為にメアリーがずっと一緒に行動していると『モンティス家が白金級冒険者を独占している』という話になりかねない。
家に迷惑をかける訳に行かないメアリーとしては少しは離れて行動しないといけないのだ
「わかった。じゃあね!」
一塊になって行動していては問題があるとし一行は離れて行動する。
カレンはメアリーの考えを少しだけ察しそそくさと離れた。
カレンは寿司に興味を持ち寿司の所まで歩く。
テーブルには作務衣を着た寿司職人が居る。
「何を握りやしょう」
寿司職人の本田はカレンにそう問いかける。
「えっと……何かお勧めのありますか?」
「でしたらマグロがお勧めです」
「じゃあそれでお願いします」
「あいよっ!」
本田はささっと寿司を握る。
寿司下駄にマグロ寿司を二貫置く。寿司には既にハケで醤油が塗ってある。
醤油も第二環魔法で生成できる調味料だ。
「どうぞ!」
「ありがとうございます……これって、橋とかフォークは……?」
「寿司は素手で食べる物ですが、箸もございます」
この世界には箸もある。
これも三百年前の賢王が齎したもので箸を使う者も多い。
といっても大半はフォークとナイフを使うが魔王のレイは箸を使う派だ。
カレンは両方使う派である。
「じゃあ箸で」
「割り箸をどうぞ」
「ありがとうございます」
カレンは割り箸を割って寿司をとる。
そして一口で食べる。
租借し、味を楽しむ。
「美味しい……」
「ありがとうございやす」
本田は礼を言う。
「おっちゃん。こっちにもサーモンくれ」
そこに声をかける者が居た。
本田は「あいよっ」と返事をし握る。
「リオナさん!」
そこに居たのはリオナだ。女性用のドレスを着用している。
隣にはスーツを着たダリアが居る。
「リオナさんも来ていたんですか?」
「ああ。公王様主催のパーティには来るようにしているんだ。こっちとしてはカレンさんが居る方が驚きだけど」
「私は冒険者として活動してたら公王様に招待されちゃって……」
「へー。公王様に。そりゃ凄い」
「出来ました!」
そうして話しているとサーモン貫が二貫出来る。
「さんきゅー」
そう言ってリオナは寿司をほおばり食べる。
リオナは寿司が好きなのである。正確には日本食全般が、だが。
その後も三人は寿司を食べながら談笑を続けた。
■
「……楽しそうだな」
レイはカレンから距離をとっている。
娘の行動を父親が常に把握し続けているのはどうなんだという思いとまだ日本基準で未成年の娘を見守るのは悪い事ではないのではという思いが葛藤する。
レイはカレンとリオナが談笑しているのを羨ましそうに見つめる。
「レイ・アーヴェルスさん。少しいいですか?」
そんなレイに話しかける者が居た。
身長は百七十五センチ程。黒いスーツを着た男であり眼鏡をかけている。
黒髪黒目という珍しくもない容姿をしている。
「誰だ?」
「これは失礼を。私はリック・F・モリセットと言います。貴族としては弱小の出ですが商会を営んでいます。モリヤ商会の名を聞いたことはありませんか?」
「モリヤ……あぁ、聞いたことがある。うちの……じゃなかった、まぁ知り合いがよく利用しているな」
モリヤ商会は衣服や武器防具の
魔王城のメイドや執事たちの衣服はこの商会で購入している。
「えぇ。実は我が商会であなた方のスポンサーになろうかという話が上がっていまして」
「スポンサーだと? 冒険者のスポンサーになって何がしたい?」
「今後あなたたちはこの国だけでなく他国でも活躍していくでしょう。そうなれば貴方たちのスポンサーとして支援し宣伝をしてもらいたいのです」
「そうか……だが余だけでは判断できんな。リーダーに聞かねばならない」
「……あなたがリーダーではないのですか?」
「余はパーティメンバーの一人に過ぎん」
レイは父親ではあるがパーティリーダーではない。
パーティとしての判断は常にカレンがしてきたし、これからもカレンが決めていく事だ。
「そうでしたか。でしたらリーダーの方と私が話してもよろしいでしょうか」
「……いいぞ」
二人はカレンの元まで歩く。
レイは少し不服そうな顔をしているが。
「カレン。こやつが其方と話したいそうだ」
レイはカレンにそう話しかける。
リオナと何か話していたカレンは振り返りレイを見る。
「初めまして、カレン・アーヴェルスさん。私はモリヤ商会のリック・F・モリセットと申します」
「こ、これはどうもご丁寧に……えっと、私に何の用ですか?」
「実は当商会であなた方黒風のスポンサーになろうという話がありまして。もしよろしければスポンサーにならさせていただけませんか?」
「スポンサーに……? えっと、何でですか?」
「貴女方黒風の方々はこれからも躍進していくと思われます。それにあたって必要な移動費やポーションや衣服などの消耗品代をうちで負担する事が出来ます。あなた方にとってもメリットになるかと──」
「カレンは"あんたら"がスポンサーに着くことなった場合のあんたらのメリットを聞いてるんだと思うぜ」
そこにリオナが口を挟む。
「これはこれはリオナ様。毎度ありがとうございます」
「おう。けど無知な若者に体のいい事吹き込んでやろうってのは見逃せないぜ」
「まさかそんなことは。互いに利があってこその商売でございます。ですので正直に言わせてもらいますと、宣伝をしてほしく思うのです」
「宣伝、ですか?」
「はい。当商会は新聞会社にもコネクションがあります。新聞会社で『あの黒風がモリヤ商会の宣伝キャラに!』と大体的に広告を打って欲しいのです」
「新聞かぁ……」
カレンは自分が新聞に載る姿を想像する。
それは少し恥ずかしくはあるが、悪いとは思えない光景だった。
だが疑問が残る。
「私たちは今後も冒険者として活動しますがこの国でずっと活動する、という訳ではないと思うんです。もしかしたら他の国を拠点にするかもしれないですし……少なくとも数年の内には他国にも行きたいなって思ってます」
カレンは冒険者として世界を冒険する事も望んでいる。その為に国外に出ようという話は何度かパーティ間でしている。
「それでしたら構いませんよ。国外でも有名になったパーティが利用している商会ともなればついでで名が売れますから」
「そうですか……うーん。一度パーティメンバー全員と相談してもいいですか? 私個人としては受けてもいいと思うんですが……」
「わかりました。では後日我が商会に訪れてください。歓迎いたします」
それではこれで、とリックは離れていった。
「新聞かぁ……えへへ」
カレンは自分が新聞社にも乗るほどの人物に成れたのだと思い、にこやかな笑みを浮かべた。