数日がまた経った。一行は配信を終え順調に第二十層を攻略していった。
高所に強風という辛い環境だがカレンが
空の敵もレイの<超衝撃波>やカレンの遠距離攻撃魔法や<空裂斬>等で問題なく倒せる。ただ空飛んでいる場合はドロップアイテムが強風でどっか飛んで行くので旨味が余りないという欠点があるが。
そして一行は第二十層のボス部屋前に到達した。
「よし……まずは俺が中に入って偵察するぞ」
デヴォンはそう扉の前で発言する。
扉は崖の上にあり竜の彫像が彫られている。
扉の後ろに回れば何も無いが、鑑定魔法でこの門がボス部屋に通じることが判明している。
「危なかったらすぐ撤退してね」
カレンが慎重な面持ちでそう言う。
「おう。危ない橋は渡らんよ……行って来る」
そう言うとデヴォンは門を開けて中に入る。
この門は一方通行ではない為問題ない。デヴォンが入ると門は自動的にしまった。
「よし……」
中に入ったデヴォンは即座に
<忍び>は<隠密>の上位
<隠密>では隠せない臭いや音を消す事が出来る
(広いな……)
部屋は非常に広い。これまでのボス部屋よりも余程広い。
「うわ待ってガチ?」
思わず、と言った風にデヴォンの口から言葉が出た。
咄嗟に口を手で覆うが
そこに居たのは──ドラゴンだった。
全長約二十メートル。
蜥蜴に背中から翼を生やした姿をしている。
青白い鱗に覆われており、何処か細長い姿は美しさすら感じさせる。
フロスト・ドラゴンと呼ばれる中位の竜がそこには居た。
目は閉じ、寝息を立てている為眠っているのだろう。
(<観察眼>)
デヴォンは<観察眼>の
<観察眼>はレンジャーが習得できる
相手の名前とレベル、HPが分かる
(名前は……グレイスドラウ。レベルは……五十?!)
うちのメンバーより高い、とデヴォンは驚愕する。
今のところ最高レベルはレイの九十八で次点がエルミナの五十五だ。
カレンは四十九でありデヴォンは四十二である。
レベル差を考えるとレイ一人で倒せる程度ではあるがあくまでパーティとして戦いたい黒風一行としてはレイ頼りになるのもなんかな、とレイにはあまり頼っていない。
その為グレイスドラウはこれまでにない強敵だろう。
そもそも竜種は元からレベル以上の強さを持つことも多い。それが高レベルというだけで圧倒的な敵だ。
そして──グレイスドラウの目がぎょろりと開かれた。
竜種は探知能力に優れる。自らの情報が探知されたことに気づいたのだ。
(やべぇ!)
即座にデヴォンは
この
分身のデヴォンがグレイスドラウに堂々と突っ込む代わりに本体デヴォンは逃げる。
「オオオォォォオオオ!」
グレイスドラウが叫び声を共にブレスの
コールドブレスだ。一撃で分身デヴォンが氷漬けになりHPがゼロになって消失した。
その隙をついてデヴォンが出入り口の門を開いて外に戻った。
「どったの?! 大丈夫?!」
肩で息をするデヴォンを心配してカレンが話しかける。
「治癒魔法を!
エルミナが即座に回復魔法を飛ばし治癒する。
「何があった?」
レイが冷静な表情で問いかける。
「……ドラゴンが居た」
「ドラゴン?! マジか……」
カレンが信じられない、といった表情で驚く。
「マジだ。レベルは五十でHPも膨大。正直……レイ抜きじゃ勝てる気がしねぇな」
「……そうか」
さてどうしたものか、とレイは頭を悩ませる。
自分が出て全て解決するのは簡単だがそれでは娘の為にならない事ぐらいはわかる。
「──よし、レベリングだ!」
「レベリングかぁ……まぁ妥当だな」
「うん。考えたんだけど……ほら、前サタニスト? の人が使ってた人為的にスタンビートを起こすアイテムって魔王城にもある?」
「あるが……何に使う気だ?」
「ふふん……第十五層でスタンビートを起こす! そしてモンスターを滅茶苦茶倒す!」
「いやそれ他に被害出ないか?」
「そこはお父さんに出入り口抑えて貰ってモンスターが出ないようにしてもらう感じで」
「そこはレイ頼りなのかよ……いいのか?」
「余は別にいいぞ。それぐらいなら子の成長を手助けするのと何ら変わらんしな。ただあれの起動には結構な魔力を使うぞ」
「あ、そっか……うーん。そうだ、メアリーさんたちにも手伝ってもらうのはどうかな?」
「確かに複数人での使用が可能な
「まぁ頼んで無理そうならまた別の手段を考えよう!」
という訳で一行はダンジョンから出た。
■
「私の出番ですわ~!」
お~ほっほほほ! と笑うのは魔装レッドティア・エクスギアを纏ったメアリーだ。
黒風に赤焔の翼、そしてメイ子の一行は第十五層のセーフエリアに居た。
床にはルセクアのビギナーズダンジョンに設置されていたモンスターの出現数を増やす魔法陣が置かれている。魔王城の宝物庫から取って来た物だ。
ただこれはルセクアで使われた奴の上位版で出現するモンスターの位置の調整が出来るという能力を持つ。
一行は第十五層から第十四層に上がる階段前のセーフエリアに居る。
階段前の通路をレイが防ぐ事でモンスターが昇るのを阻止する作戦だ。出現するモンスターの位置はこの階層内に限定する。
「来てくれてありがとうメアリーさん!」
「ライバルの頼みとあればいつでも参上しますわ~!」
【てぇてぇ】
【女性冒険者同士の絡みあ^~癒されるんじゃ~】
既に配信はしていてメイ子のスマホで日本でライブ配信中である。
「それじゃあ余がこの通路を死守しておくから各々好きにやる様に」
「ありがとうお父さん!」
という訳で一行は各々配置につく。
「
メイ子が召喚魔法でストリクスを召喚する。
召喚魔法は効果時間がある。
その為戦闘直前に召喚したのだ。
「ほいじゃーいくよ!」
この階層で出現するモンスターは全員のレベルより低い。
レベル差が十もあれば数が居たとて脅威ではない。全員レベル三十を超えているのだから。
それに範囲攻撃手段持ちが複数人居る為雑兵を蹴散らす事ぐらい訳ない。
魔法陣にメアリーとカレン、セレナの魔力が込められる。
そして起動。魔法陣が赤く輝く。
「来るぞ! やっぱこれ無茶苦茶だったんじゃないか?!」
デヴォンがそう叫ぶが叫ばなくとも音が聞こえてくる。
ドタドタとした音だ。
このエリアは神殿上のエリアが続く。神殿のエリア同士をつなぐ通路はあるがこのエリアは一本道で片方はレイが止めている。
そのもう片方からわんさかモンスターの集団が走って来る。
「うひゃあ! モンスターパニックっす!」
【これまずくね】
【数多すぎじゃね?】
【やっぱスタンビートでレベリングは無理があったんじゃ……】
等とコメントが流れてくる。それにはレイも同意した。
確かにモンスターを倒せば倒す程レベルが上がりはするがだからと言ってスタンビートを起こして効率的にレベルアップを図る必要はないと思うのである。
「いっくよー! <魔力鋼刃>!」
カレンが突撃し
伸びた刀身によってモンスターたちが続々と斬られドロップアイテムと成る。
これだけのレベル差があれば一撃死させるのは簡単だ。
「
セレナが
竜巻が生み出されモンスターにぶつかる。
竜巻はモンスターたちを斬り裂いていきドロップアイテムへと変える。
「ぶっ飛ばしますわ~!」
そこでメアリーがレッドティア・エクスギアのピットを展開して射撃する。
ピットのレーザーはぐねぐねとまがり多数のモンスターに命中し数を減らす。
「いくぜぇ! <黒嵐の剣舞>!」
メラニが<肉体向上><肉体超向上>に<剛撃>などの
回転しながら敵をばったばったと斬り裂いて行く。
「
メイ子も魔力のレーザーを三重化して最強化して放つ。
白い極太の光線が亡霊たちをドロップアイテムごと消し飛ばした。
「モンスターが紙みてえに千切れていく……」
その様を見ていたデヴォンはミンチよりひでぇやと呟いた。
デヴォンとティアラの役目はドロップアイテムの回収だ。
ドロップアイテムを放置していては移動時にふんで転んだりしかねないので安全の為の回収である。
ついでに暇があればモンスターを倒すつもりでもいるがこの分だと出番はないだろう。
モンスターたちがばったばったとなぎ倒されていく。
当初予想していたようにレイの所までモンスターは来ずその全てがカレンたちの手で倒されていく。
(これなら問題なさそうだな)
レイはほっと息を吐く。
その気になればレイ一人でスタンビート程度掃討出来るが今回の目的はレベリングだ。
レイが出てはその意味が無くなってしまう。
今もモンスターたちが斬り飛ばされていく。見てて爽快だ。
【リアル無双ゲーとか草生える】
【メイちゃん以上にキャラ濃いお嬢様強いな】
【何処をどう見てもパワードスーツというかIから始まる例の奴にしか見えないんだがな】
「うぉー! うちも負けてらんないっすよ!」
コメントを見たメイ子が負けてはならぬと魔法をバンバン放つ。
メイ子は魔法戦士や一芸特化のエレメンタリストでない分瞬間火力では劣るが多種多様な魔法を使う事が出来る。と言っても信仰系と魔力系は両立が難しいので信仰系の魔法は使えないが。
召喚したモンスターが倒した場合も経験値は召喚主に入る。ストリクス頑張って亡霊たちを倒していく。
「いっくぞー!」
【がんばえ~】
【メイ子ちゃん無双の始まりだ!】
■
「つ、疲れた……」
それから二時間。モンスターの掃討が終わった一行は肩で息をしていた。
全員肉体的疲労とは無縁のはずだが精神的疲労は残る。といっても精神的疲労も魔法で回復しようと思えばできるがしない。
「……お疲れと言った方がいいのか?」
レイは一向に近づき、カレンの肩を叩く。
途中からは打ち洩らしも出てきてレイも戦う事になった。だが倒した数は少ない。
倒した数で順位を付けるなら一位がカレンで二位がセレナ、三位がメアリーだろう。
「ありがとう……けどこれで大幅にレベルアップは出来た……!」
いよーし! とカレンはこぶしを突き上げる。
「
カレンは鑑定魔法を自分にかける。
相手の名前とレベルとHPが分かる第三環魔法だ。
「いよっしレベル五十一!」
「「「おおー!」」」
メンバーが拍手を送る。
「他のみんなもレベル結構あがったんじゃない?」
「そうですわね……私も力の高まりを感じますわ」
メアリーが力拳を作ろうとするが鎧を纏っているので見える事はない。
「取り合えずもう帰ろうか。打ち上げしよ!」
前からこれが終わったら打ち上げするのは決まっていた。ちなみにカレンの手持ちから出す予定である。
「いいですわね。では回収して帰りましょうか」
「てなわけで今日はこれで配信終わりっす~また次回も見てってください!」
【乙~】
【おつおつ~】
【見てて爽快だったぜ】
メアリーがそう言いドロップアイテムと魔法陣を回収して一行は帰って行った。