「どう? 似合ってる?」
カレンの自室でカレンはアーリンドラに問いかけた。
カレンの自室は広い。
寝室とリビング、ドレスルームに別けられており、リビングには机にソファ、本棚も置いてある。
ドレスルームにはクローゼットが四つもあり、そこには魔法効果の付いた服が多数ある。
カレンはドレスルームで父であるレイから新たに与えられた冒険者用の服を着て高揚していた。
茶色い服に濃い青のマント。薄茶色の短パンを履いている。
靴は室内なので履いていない。
見た目こそ地味に見えるが、その実最高位の
全てランクは聖遺物級である。
茶色い服は
俊敏性上昇に魔法的効果を持たない遠距離攻撃の無効化。身体能力超上昇。
濃い青色のマントは
回避率上昇。
薄茶色の短パンは
落下ダメージ無効に跳躍力上昇。無限ジャンプを可能にし俊敏性を上昇させる。
今は履いてないが黒い靴は
自動治癒に俊敏性の上昇の効果が付いている。
聖遺物級とは国宝クラスの一品であり、一国に一つか二つあるかないか程度。
それが四つもついているし、指輪に至っては全て伝説級だ。
資金に変えれば国を買ってもおつりがくるレベルの装備品である。
「よく似合っています」
アーリンドラはそう微笑む。
それに釣られ、カレンも微笑んだ。
「それじゃあ、行ってくるわね!」
「はい。いってらっしゃいませ」
カレンはドレスルームからリビングに出て玄関に移動し、
魔王城は黒で構成されている城だ。当然廊下も黒い。
壁には所々人の頭蓋を使った照明がある。全て
るんるん気分でカレンは廊下を歩き、目的地である転移魔法陣の元まで行く。
魔法陣には既にレイが居て待っていた。
「お父さん、お待たせ!」
父と一緒ではあるが、待ち望んでいた冒険である。興奮しっぱなしであった。
カレンはレイと一緒に魔法陣の中心に立つ。
「いや、そんなに待っていない。では、行こうか」
「はーい!」
青色の魔法陣が光り輝く。
眩しい光が灯ったと思った瞬間、レイとカレンは魔王城の門前に転移した。
「じゃあ、冒険の旅に出発だ!」
カレンが意気揚々と宣言し、冒険が始まる。
魔王城は全長六百メートルの城だ。
大きすぎる居館からは塔が横から生えたりしている。
悪魔が住まう城らしい黒い外観をしている。
こんな平和な森にあるには似つかわしくない城である。
カレンとレイは魔王城から歩いて離れていく。
カレンは初めての冒険だと意気揚々と歩いて行く。
カレンが魔王城から離れるのは初めてではない。何度も外に出ている。
外での実戦を知る為や野営の練習等で外に出た事は何度もあるが、そこから先に行くのは──と言っても街に行ったことがないという訳ではないが──初めてである。
そうして二十分程歩いていると森を出る。
「外だ!」
「これまでも外だっただろう」
「森の外に出るのは初めてだからね!」
カレンはふふんと胸を張る。
そのまま更に五分程歩くと道に出る。
石で整備された道である。看板もある。
北に行くとネブロスという街に。南に行けばルセクアという街につける。
「どっちへ行く?」
「当然ルセクア!」
ルセクアの街は冒険者の街として有名だ。
カレン事態は行った事無いが本で知っている街である。
特徴として初心者向けのダンジョンがある事で有名なのだ。なので冒険者となるならば行かない手はない。
カレンとレイはルセクアに向かって歩き出した。
■
途中で歩くのが面倒になって二人は走り出し、走る事十分程でルセクアの街に辿り着いた。
カレンの時速も装備品込みで時速百二十キロを出せる。レイは当然それ以上の速度で走れる。
更には疲労無効の効果を持つ
ルセクアの街は二十メートル程の城壁に囲まれた城塞都市だ。
門は木製ではあるが
街と外を繋ぐ門前には橋も付けられている。門は解放されておりだれでも自由に出入り出来るようになっている。
カレンとレイの二人は城門を潜りルセクアの街に入る。
「わぁ……!」
丁度メインストリートであり、人通りは多く、屋台も出ている。
カレンは大きな街という事で興奮し、目を輝かせる。
「お父さん見て! 冒険者の人だよ!」
カレンは見て見てと興奮してレイに伝える。
カレンの視線の先には皮鎧を纏った冒険者一行の姿があった。
「冒険者ぐらい見たことあるだろう」
カレンが街に行ったことが無い、という訳ではない。今だ魔王の支配下にある街に行ったことぐらいはあるし、その街にも冒険者はいる。
「けどこんなにいるのは初めてだよ!」
だが、魔王の支配下にある街は人気が少ない、というか殆どさびれている。
何かの特産品がある訳でも近くにダンジョンがある訳でもない街だ。当然人通りも少なく人口もぎりぎり街と言える程度の街だ。
それに反しこのルセクアの街は人口も多く冒険者の数も多い。
「まずはどうする?」
レイは街に行くのも成れたもので普通にカレンに問いかける。
「まずは冒険者登録でしょ!」
「ふむ。冒険者ギルドの場所はわかるか?」
「……わかんない」
「ではどうする?」
「取り合えず人に聞く!」
という訳でカレンは近くを歩いていた大剣を持つ冒険者に話しかける。
「すみませーん! この街の冒険者ギルドって何処にありますか?」
「ん? それならこの大通りを真っすぐ進めば右手に見えてくるぞ!」
「ありがとうございます! いこ、お父さん!」
話しかけられた冒険者は微笑ましい物を見る目で見つめ、カレンとレイは真っすぐと歩き出した。
そうして歩く事五分。二人は冒険者ギルドに辿り着く。
ギルドは木造の建物だ。大きな酒場にも似た創りをしている。入口はウェスタンドアだ。
三階建ての建物であり、他の建物より一回り以上大きい。
カレンは意気揚々とドアを開けて中に入り、遅れてレイも入る。
中は広い。
左手側が酒場で右手部分がギルド──市役所的作りだ。
酒場には冒険に出かけていない冒険者グループが幾つか固まっている。
右手にはクエストボード前に何の依頼を受けるか悩んでいるパーティもある。
新しく入って来たカレンとレイに視線を向ける者も居り、そういった者達は怪訝な眼をした。
うら若き乙女と二十代は超えているだろう青年というには少し歳を取った男の組み合わせ。
夜の歓楽街などならば春を買ったのだろうかと思われる組み合わせである。
一体何用で冒険者ギルドに来たのだろうかと疑問を思われても仕方がない。
カレンは右手に歩き受付まで進む。
「いらっしゃいませ。冒険者登録でしょうか?」
受付の金髪の女性はにっこりとほほ笑む。
取りあえず武装しているし間違いないだろうと受付嬢はあてずっぽうで問いかける。
「はい。冒険者として登録に来ました!」
「わかりました。お連れの方も登録しますか?」
「ああ。頼む」
「ではお二人で二千セラになります」
セラというのはこの大陸での通貨だ。
風と空の女神セラの名でもある。
レイは
「はい。二千セラ丁度ですね。では冒険者として講習を受けてもらうも出来ますがどうしますか?」
「受けまーす」
「では余も受けるという事で」
「わかりました。二階に案内しますね」
受付嬢は受付から出て二人を二階まで案内する。
連れられた二階の部屋はこじんまりとした部屋だ。
カレンとレイは椅子に座り、受付嬢が教卓に立つ。
「十分程で終わるので、ちゃんと聞いてくださいね。
ではまず、冒険者は六段階に別けられます。
銅級から始まり鉄級、鋼鉄級、
これはレベルによって別けられています。銅級がレベル十まで、鉄級がレベル十から十九まで、鋼級が二十から……という具合にレベル十事に繰り上がります。
ですがレベルが絶対ではありません。レベルだけ高くても実績や信用が無い冒険者はランクは上がりません。
次にクエストですがクエスト達成が出来なかった場合違約金が発生します。基本は五パーセントです。
クエスト内容ですがこれらは事前に冒険者ギルド側でどのような依頼か調査しています。その為依頼者側が提示した報酬から最大二十パーセントを手数料として徴収しています。
他には──」
その後も受付嬢はつらつらと冒険者の心得を述べる。
カレンは真面目でもある為一様メモを取っており、レイは知っている事なのでメモ等取らない。
「ではこれで以上となります。こちらが銅級冒険者のプレートになります」
きっかり十分で講習は終わり、カレンとレイは冒険者プレートを受け取る。
銅で出来た簡素な作りのプレートだ。ドックタグも兼ねている。
三人は部屋を出て一階へと降りていき、カレンとレイはクエストボードの前に立つ。
「何かいい依頼無いかな?」
「どうだろうな」
二人はじっくりとクエストボードを見る。
ドブ掃除やゴミ収集、犬の散歩や清掃、薬草採取の依頼がある。
「薬草採取! 冒険者と言ったらこれでしょ!」
カレンはクエストボードに貼られている薬草採取の紙をとる。
そのまま受付に進み、依頼を受ける旨を伝える。
「わかりました。
ルミナ草とは言ってしまえばそこら辺に生えている雑草の一種とも言える草だ。
公害レベルで生えている事はないが、街中でも生えている事がある草だ。
勿論採取しやすさを言えば草原にでも行った方が良いだろう。
その草を五十本採取するのが依頼内容である。
「よし、いこ!」
そうしていこうとするカレンに話しかける者が居た。
「ちょっと待って。俺たちを連れて行っていかないか?」
そうして話しかけてきたのは武装した四人組だ。
一人を除いて皮鎧を付けた一行だ。一人は剣を。一人はハンマーを。一人は弓を。最後の一人は剣と盾を持っている。
盾を持っている者は全身鎧を纏った者だ。鉄製の鎧だ。
「どうして?」
カレンがきょとんとした顔で尋ねた。
「薬草採取だと街の外に出るだろう? 外にはモンスターが居るんだ、護衛役はいるんじゃないか?」
きらんと歯を輝かせながら男がそう言い放った。
「ん-、私強いから護衛は要らないかな。お……この人もいるし」
「この人とはなんだこの人とは」
カレンはお父さんが居るし、と言いそうになったが父同伴の冒険者と思われたくない──事実だが──ので言いよどんだ。
尚レイは抗議の言葉を上げたが無視された。
「けどまだ銅級になったばかりだろ? 無茶はいけないぜ」
男はカレンの肩に手をポンと置いた。
瞬間レイが鬼の形相でその手を弾き、殺気を出す。
レベル九十七、魔王の殺気である。質量を伴いそうな重厚感に背筋が凍る殺気。
一行のリーダーらしき男は失禁して倒れた。
余波の殺気で他の者達も怯えた。
「もー、何するの」
「カレンに悪い虫が着きそうだったからな」
「そんなことないと思うけど……じゃあね!」
カレンはそう言い残すとレイを連れて冒険者ギルドを出ていった。