魔王様は義理の娘と冒険者になって旅に出ます   作:Revak

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第31話

 

 一行はグレイスドラウの肉以外のドロップアイテムを全て売却した。

 竜種の鱗や血だけでも相応な額になりこれまでにない最高額の報酬を手にした一行はホクホク顔で魔王城に転移した。

 

 その日の夕方。魔王城の食堂にて。

 魔王専用の食事処がある。メイド用の食堂とは別にあるのだ。

 その部屋は長方形に長い机があり長机の奥には簡易的な玉座がある。

 

 だが玉座にレイは座らず左右二人組で別れて座っていた。

 カレンとレイ、エルミナとデヴォンで別れている。

 

「お待たせしました」

 

 そう言って部屋に入って来るのはオークの男だ。

 歳は三十代程であるふくよかな体型をしている。

 豚の頭に人の手。豚の蹄を持つ種族であり亜人種に分類される。

 コック長の白い料理人の服を着ている。

 名をクブールと言い親子代々魔王城に仕えている料理人だ。

 料理人としてのレベルを持ちそのレベルは四十七と非常に高い。外の世界でもこのレベルの料理人は殆ど目にかからないだろう。

 このレベルになると食事そのものに特殊効果を齎し食べた者に幸福を齎したり攻撃力を上げるなどが出来る。

 

 配膳車にはクローシュで蓋をされた料理が四つ運ばれてくる。

 

「どうぞ。フロスト・ドラゴンの霜降り肉のステーキです」

 

 クローシュが開けられ料理が露わになる。

 二十メートルという巨体の分霜降り肉の量も多いため全員分のステーキぐらい余裕で用意出来た。

 

「すげぇ……」

 

 デヴォンがそう呟いた。

 焼き加減はウェルダンだ。竜の肉は生だと危ないのでしっかり火を通す必要がある。

 

 レイとエルミナは喋る存在を食べることに若干の抵抗があったが旨そうな肉を前にその考えは吹っ飛んだ。

 

「こちらをどうぞ」

 

 ステーキには付け合わせのポテト等もあるがそれとは別でライスとパンが配られる。

 レイとエルミナはライス。カレンとデヴォンはパン派だ。

 

 

 その後一行は王侯貴族でも早々食べられない高級料理に舌鼓を打った。

 

 

 

 ■

 

「はぁ……」

 

 エルミナは雪華の館の自室でため息を吐いた。

 この宿は高級宿だがこの程度余裕で支払える余裕が今の黒風にはあるので部屋は複数取っている。

 レイは一人部屋が良いと駄々をこねた為一人部屋。デヴォンも男なのでエルミナやカレンと同室にするわけにはいかないので一人部屋。

 カレンとエルミナは女性同士気兼ねなく同じ部屋で寝泊まりしている。

 

 今部屋にはエルミナ一人しかいない。カレンはメイ子と遊びに行っておりその為にエルミナは溜息を吐いた。

 

 溜息の原因は魔王であるレイについてだ。

 神聖存在側である天使なエルミナは存在としては魔王であるレイを打ち滅ぼす側の存在である。だというのに仲間になって共に冒険者をしているというのはもはや何かのギャグとしか思えない。

 だがエルミナは魔王であるという事実を除けばレイを好ましい──恋愛的な意味は無い──と思っているのは事実だ。

 子供思いの力を持つ親である。だがそれより前に魔王であるという事実がエルミナに複雑な思いをさせる。

 

「私はどうしたらいいのでしょうか……女神セラ様……」

 

 エルミナは祈りを捧げ──その思いに女神が答えた。

 

『我が使徒エルミナよ……よく聞きなさい……』

「女神様?! これは……信託?!」

 

 エルミナはがばっと立ち上がり神託を聞き逃してはならぬと集中して声を聞く。

 

『魔王レイ・アーヴェルスをリュミナス聖王国にまで連れてくるのです……勇者の裁定によって魔王へ判決を下しましょう……』

「畏まりました女神様! 今すぐ聖王国に向かいます!」

『あ、そんなに急がなくていいですよ。凍てつく王廟の攻略が終わってからで大丈夫です。お土産期待してますね』

「わ、わかりました……」

 

 そう言うと女神セラの気配は消えて無くなってしまう。

 

「これは……一刻も早く凍てつく王廟を攻略せねば!」

 

 エルミナは気合を入れて何か良いアイテムが無いかと市場に走り出すのだった。

 

 

 

 ■

 

 

「ぷっはー! 今日も今日とて酒が美味い!」

 

 リュミナス聖王国のとある酒場で勇者リナ・フェイルーンは酒を飲んでいた。

 

「働かずに飲む酒は美味いか?」

 

 そう笑いながら問いかけるのは黒髪黒目の白い道士服を着た仙人ガイだ。

 

「美味いわよ!」

「そこまで吹っ切られると見てて面白いもんがあるな。酒飲みニートに成りかけてる現実は直視しなくていいのか?」

「しょうがないじゃない。私が出るレベルの案件が無いのが悪いのよ。だからこれは正当な酒飲みよ!」

 

 わはははと笑いながらリナは酒を飲む。

 だがリナは半神半人だ。種族特性で毒は無効化出来る。

 その為酒も毒判定になる為いくら飲んでも酔う事は出来ないが味は楽しむことが出来る。

 

 他の白銀級は世界各地に散らばっている。

 その中この国にはガイとリナの二人の白銀級が居る。

 その為依頼の殆どはガイの方に投げられるためリナに依頼が行くことは殆ど無かった。

 

 今日も今日とて酒を飲んでくだを巻くかと思いきや部屋が急に明るくなる。

 まるで教会の神像を前にしたような清潔感に溢れ酒場が聖なる場所と化す。

 

 なんだ、と視線を入り口に向ければ其処には女神が居た。

 

 緑色の髪に緑色の目。身長は百六十センチ程。

 腰まで届く挑発に非常に整った、絶世という言葉がこれ以上無い程に似合う容姿。

 白いトーガを纏う姿は神聖なる存在であると強く主張している。

 女神セラの化身の姿がそこにはあった。

 

「女神様?!」

 

 リナがガタっと椅子を蹴って立ち上がる。

 女神セラはリナの方に目を向けると微笑み手招きする。

 

「ごめんガイここの支払い任せた!」

「あいよー」

 

 リナはそう言うとセラに走り寄る。

 

「女神様、何か御用でしょうか?」

「……ここではなんです。教会まで行きましょう」

 

 女神セラは女神に相応しい美しい声色でそう話した。

「わかりました」とリナは言い二人一緒に酒場を出る。

 

 外に出れば当然注目を浴びる。

 神聖な光が漏れ出ている女神セラと隣に歩くは世界を救った勇者リナその人なのだから。

 

 こうして神が地上に顕現するのは珍しい事だが、ありえない事ではない。

 魔王が倒された二百年前に勇者リナの前に顕現して依頼何かあった際には神々が現れることが多々あった。

 国家建国の際に武功と武具の神ヴァッフェが顕現したのは有名な話だ。

 それ以外にも神々が地上に降りて酒盛りをしていた、なんていう話すらあるほどに神と人の距離が近まっている。

 

 だがそれでも数年に一度世界のどこかであるかないか、というレベルの話なのでそれはもう注目されまくる。

 

 二人は無言で街中を歩く。

 道中リナが女神に何か問いかけようと口を開こうとするがその度にセラが微笑み返すというのが続き街中を歩いて行く。

 

 二十分も歩けば目的地である大教会にまでたどり着く。

 大聖堂もついているこの世界でも有数の規模を誇る教会だ。

 中に入るとそこは聖堂だ。奥には八つの空間があり其処には各種神々を象った石像が置かれている。

 

「さて、勇者リナ・フェイルーン。話さねばならないことがあります」

 

 聖堂の奥に来たセラは神妙な顔でそういった。

 リナはごくり、と唾をのんだ。神の言う事だ。緊張もする。

 

「魔王が生きていました」

 

 その言葉にリナは顎を外して驚いた。到底信じられぬ事である。

 だが発言者が自ら信じる目が見その人である為信じざる負えないという。

 

「そんな……あの時私は、聖剣の力で奴を肉片一つ残らず消し飛ばしました!」

 

 リナはそう叫んだ。

 

 事実である。二百年前リナは巨大な異形と化した魔王に対し聖剣の固有(ユニーク)特殊能力(スキル)を持って消し飛ばした。

 最期の絶叫を上げ魔王は消滅した。そのはずである。

 

「えぇ。しかし奴は生きていました……何かしらの固有(ユニーク)特殊能力(スキル)や死亡復活の指輪等を装備していたのかもしれません」

 

 死亡復活の指輪とは装備しているだけで効果を発揮する上位の魔法道具(マジックアイテム)の事だ。

 死亡時に発動しデスペナルティ無しで復活出来る。

 

 だが実際は違う。

 魔王レイ・アーヴェルスが持つ固有(ユニーク)特殊能力(スキル)である<肉体操作>は特殊能力(スキル)人ランクを付けるならSとかEX等の規格外に分類される。

 その固有(ユニーク)特殊能力(スキル)を持って自分の肉片をあらかじめ各地に保存し地中に埋めておいた。

 本体が肉片一つ残らず無くなっても残して置いた肉片から自分を再生成出来るように、と。

 目論見は成功し魔王は復活を果たしたのだ。そのことを神々が把握する事は出来なかった。

 

「あるいは、もっと別の手段を用いていたか……なんにせよこれは火急の事態です」

 

 女神はきりっとした目でそう言う。

 

「では早速仲間を集めて討伐に!」

「いえ。それは早急です……というのも、今の奴はかつてと変わっています」

「……というと?」

「娘と共に冒険者をしています」

「はい?」

 

 またも信じられない言葉だった。

 冒険者という職業、概念自体は何百年も前からある。

 だが魔王が冒険者に就くというのは考えられない事だ。害虫が害虫駆除業者になるような物である。自分殺しだ。

 

「ていうか魔王に娘いたんですか?!」

「えぇ。作ったのか拾ったのか妻が居たのかはわかりませんが……何故か今は平穏に冒険者をしていますね」

「平穏に?! 魔王と程遠い概念では?!」

「えぇ。ですので今闇雲に奴に接触し凶暴化されては溜まりません。かつてのように軍勢力を作り上げる下準備をしているのかもしれませんが……ここは慎重を期する場面です」

「なるほど……では私の役目は」

「奴をこの国まで誘導します。幸いにも魔王のパーティに私の使徒の天使が居るので誘導は簡単です。後はこの国で最高戦力を用意した状態で奴に真意を問いましょう」

 

 女神は気になっていた。別世界の住人であるはずの魔王が何故この世界で魔王として君臨したのか。

 何故異形種が人権を得られる様に動いてたかも気になる。

 それに魔王という神々とは正反対の立場の癖に宗教戦争にまで関与して多神教を認めたかもだ。

 

 確かに魔王は邪悪として君臨したがのちの世に残した功績も多い。無論討たれるべき悪ではあった。だが世界を一歩改善に向けたのは事実だ。

 

(今はもう気軽に地上に顕現出来る以上魔王討伐もそう難しくない。まぁ奴が私と同じレベル百にでもなってなければ私一人で充分でしょう!)

 

 女神セラは知らない。つい先日レイはレベル百に到達したことを──

 

 

 

 ■

 

 その日の晩。雪華の館の食堂にて。

 唐突にエルミナが口を開きリュミナス聖王国の首都である聖都ルミナリアに行かないかと提案した。

 

「勿論今すぐ、という訳ではありません、凍てつく王廟の攻略が終わってからでどうでしょう?」

「国外までの旅行か~」

 

 唐突な提案にカレンは心躍っていた。

 一応ネレヴィアも国外判定なので国外に出たことが無い訳ではないが、それでも国外まで旅行するのは初めての事である。

 興奮するのも無理からぬ事であった。

 

「私は全然いいよ!」

「カレンが良いなら余もいいぞ」

 

 とカレンとレイは同意する。

 

「俺として理由が聞きたいな。反対するって訳でじゃないが……」

 

 デヴォンはそう言う。最もな問いかけであった。

 

「実は……女神さまから神託が下りまして」

 

 もしこの場を女神セラが見ていたら「ちょっと待てや」と言っただろう。

 魔王の敵である女神の名を出す等露骨に何かあると言っているような物である。

 

「神託って、すげぇな」

 

 デヴォンがすげーと口を開けて呆ける。レイも内心呆けていた。

 

「えぇ。ですので私用になってしまいますが……私としては神託を受けた以上必ずいかねばなりません」

「そう言う理由なら全然いいぜ。いこうや」

「ありがとうございます! では明日からの攻略も頑張りますね!」

 

 エルミナは気合を入れた。

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