「今日は市役所に行きます」
赤焔の翼とメイ子を呼んで大規模な祝勝会をした翌日。黒風一行は市役所に来ていた。
今度の目的地であるリュミナス聖王国の聖都ルミナリアは当然国外だ。
法整備も進んでいるこの時代では国外に行くのにもパスポートが必要なのである。その為パスポートを取りに市役所に来ていた。
といっても現代のパスポート程しっかりしたものではない。そもそも戸籍──というか身分証明書──事態曖昧だ。
ざっくり村では村長が、街レベルとなると町長等が管理しているが登録漏れは居るし、スラム出身者の登録など出来る訳が無い。
その為全員まずは身分証明書の発行から始まる。
と言ってもこれは黄金級冒険者である為比較的簡単に終わる。高位の冒険者は社会的地位も高いのだ。
白銀級が特権を持つように。
この世界にもパスポートや戸籍などの概念は三百年前の賢王トイラが齎した物だ。その為戸籍を採用している国もあり、東雲皇国は戸籍を使っている。
市役所は広い。
石造りに五階までの長さを持ち、縦にも横にも広い。
市民課や建設課など幾つもの課に別れている。
「七十一番でお待ちの方~」
「はーい」
カレンが呼ばれ窓口に行く。
黒風一行全員出来ているが申請はそれぞれ個人で行っている。
「はい。これが貴女のパスポートになります。紛失した際は新しく発行できるので直ぐ市役所まで来てくださいね」
カレンとレイは窃盗無効の指輪を付けている為盗まれることは先ずないが普通に置き忘れたりすることはある為無くさない訳ではない。といっても
パスポートには
「ありがとうございます。無くさないよう気を付けます」
パスポートを受け取ったカレンは座っていた待合席に戻る。
「パスポート貰ったよ~」
「うし。これで全員パスポートは持ったな」
これで全員のパスポートが手に入った為国外に出れる。
ただパスポートの有効期限は五年なので五年経ったら作り直さないといけないが。
一行は市役所から出てショッピングモールに向かう。
今度は旅の必需品を買うのだ。替えの服だったりポーション等の消耗品だったり。
「どうせだったらカメラも買いたいよね、写真撮りまくりたい!」
カメラ型の
ただ普通に高い。
といってもカレンの懐からすれば左程痛まず買えるアイテムに過ぎないが。
「今後も長距離移動するならバイクとかも買うか?」
「バイクはなんか怖くない?」
「怖いか? かっけぇと思うが」
「実際バイクは危ないぞ。事故ったら低レベルだとまず死ぬしな……レベル五十を超えていればまぁ死にはせんだろうが痛いだろうな」
「でしょ? やっぱ移動は車でしょ」
「けど今後も冒険者として活動すならキャンピングカーとか買いたいですね」
「それなら余が可搬の館を持っているからバギー買うだけでいいんじゃないか?」
「レイそんなの持ってんのか! すげぇな!」
等と雑談を交わしながら買い物をしていく。
最後に一行はカレンの要望でカメラ屋に寄っていく。
「色々あるんだね~」
店頭には多数のカメラが並ぶ。
単純にカメラの形が違うだけの物から込められている魔法が違うものもである。
そう言った違いの為の値段と形の違いである。
「これとかどうだ?」
デヴォンが興味深そうに一つのカメラを手に取ってみる。
形状はデジタルカメラ其の物だ。
写真を撮った後自動的に写真が生成される代物だ。欠点としては直ぐに生成がされるぐらいのものである。
「お、確かにいいね!」
カレンも手に取って触ってみる。
「お、カレンじゃないすか! カレンさんもカメラ買いに来たんすか?」
そこに華伯メイ子がやって来る。
何時もの女子のブレザーが巨大な胸によって押し上げられている。
その胸のデカさにデヴォンは一瞬息をのんでじっと見てしまうがエルミナの視線に気づいて目線を反らした。
レイは生殖器を無くしている関係上性欲が無いので胸を見ても"でっけぇな"と思うだけだ。やっぱ性欲あるかもしれない。
「メイ子も買いに来たの?」
「そうっす! これまではスマホでとってたんすけど形ある状態にしたくてカメラ見に来ました!」
メイ子の持つ神器のスマホはカメラ機能も当然ある。
その為これまではスマホで撮っていたが肝心の現像機能が無い。
写真立てに写真を入れる為に買いに来たのだ。
今のメイ子はまだ白金級だが家が買えるぐらいには稼いでいる。その為家を買って家具も揃えようとダンジョン攻略を頑張っているのである。
ネットスーパーで買う事も出来るがメイ子は家具は自分で見て触って確かめたい派なのである。
「うちはカメラあんまり詳しくないんすけどカレンはどうすか?」
「私も詳しくないなー。お父さんは?」
「少し前にクソ高いのを買っただけだな……これだ」
レイが一つのカメラをとって持ってくる。
「たっか! 十万もするんだ……」
普通のカメラは一万かそこらである。十倍の値段に流石のカレンとメイ子も驚く。
「うちの世界のカメラもいいのだとそれぐらいするっすね。凄い人だと三十万ぐらいするカメラ持ってる人も居ましたよ」
「たっか」
黒風一行は全員驚く。
カメラがある事には驚かないがその値段の高さに驚くのだ。
この世界では写真の紙の質の違いこそあるが写真の出来その物に違いはない。
現状写真が第二環の魔法しかないからだ。何れは第三環のより質の良い写真魔法も開発されるだろうが先の長い事である。
「ん-、これにしよ」
一行は十万ぐらいのカメラを買って店を出た。
「そう言えば皆さんはリュミナス聖王国に行くんすよね?」
「そうだけど……メイ子も来る?」
「いやー、うち宗教にはあんまりいいイメージなくて……ちょっと行く気にはなれないっすね」
メイ子の祖父は日本で起きた有名な地下鉄テロの被害者だ。
その為宗教その物に対し忌避感を抱いており宗教色が強い国に行く気にはなれない。
「けどクロックハンマー王国には一回行きたいんすよね。あそこ機械とかあるじゃないすか」
「あの国か……」
レイはかつて一回攻めに行った時を思い出す。
四天王のギロニア&アロニスと魔王レイが攻めに行った際は地下の王国だった。
アンドロイドの親玉のスカ〇ネットみたいなネオスフィア・コアが支配する国だ。
他国とは鎖国状態にあり入るのは非常に難しい国だ。
そもそも地下深くにあるので発見自体が難しいし地下という狭い空間もあって大軍を送るのも難しい立地の国だ。
その為一回攻めに行ったは良いが都市の守護者にギロニア&アロニスが吹っ飛ばされ魔王が出張ったが相性差の問題で撤退した記憶がある。
正面切って本気で戦えば勝てるだろうが相性的にそれは出来ないだろう。馬鹿正直に相手が戦ってくれるわけがない。
都市にはレベル四十代のアンドロイド軍団が居る。それと正面切って戦うぐらいは出来るが全員聖遺物級の魔装を装備している。
遠距離からの爆撃に特化されれば流石に対処が出来ない。逃げるぐらいなら容易だが倒す速度が足りずにリソース差で負ける。
更にはレベル八十五と公表されている戦闘特化のアンドロイドも居るのだ。しかも奴らはデスぺナ無しで死亡直後に復活する。無限湧きの軍団である。誰が勝てるというのか。
無論何もかも殴り捨てて本気でやるとなればアーリンドラの無環魔法でも使えば逆転の手はあるだろうが。
「やっぱギャルとしてプリクラとか撮っておきたいんすよね」
「プリクラ? なにそれ?」
「加工できる写真の事っすよ。出来れば赤焔の翼の人たちとも行きたいっすね~」
「じゃあリュミナス聖王国から帰ったらいく?」
「それもいいっすけど、まずは家を買って貯金を作ってからっすね! 何時まで働けるかわからないんで貯金はマジ大事っす!」
「先の事考えてるんだね……私も貯金とかした方がいいのかなぁ」
「うちは孫三代渡ってまで豪遊できる貯金があるから気にしなくともいいぞ」
レイは真顔でそう言う。
魔王城には略奪して手にした
「いや親の年金当てにするヒキニートじゃないんすから働かないと駄目っすよ」
そこにメイ子がダメ出しをする。
レイにもわかりやすい突っ込みにレイは「そうか……」としょんぼりした。
「んじゃあうちはこれで! お見送り行くんで聖王国行く日教えてくださいねー!」
そうしてメイ子と別れた。
■
それから数日が経った。
エルフェリアの公共ターミナルだ。
非常に広い駅だ。列車が六本乗れるようになっている。
国外までの便が出ている駅の一つでありここからリュミナス聖王国まで行ける。
黒風と赤焔の翼、そしてメイ子一行は列車前に集まっていた。
既に切符を買い席も買っている。後は乗り込むだけだ。
「カレンさん。必ずや私達も凍てつく王廟のボスを倒して見せますわ~!」
おーほっほっほ! とメアリーが笑う。
「ライバルとしては私が一歩リードだね! 負けないよ!」
カレンはそう胸を張る。
「今度クロックハンマー王国行くときは家も連れてってくださいね!」
とはメイ子の言だ。
「寂しくなるのぉ」
そういい影からぬるりと美女が出てくる。
頭からは狐の耳が出て尻からは狐の尻尾が出ている。顔はきりっとした目つきの美人であり腰まで届く長い金髪に赤い瞳。
胸は豊満で大きく、腰はすらっと細く。ケツはでかい。
衣服はノースリーブにへそ出し。腰から前から垂らした布が付いている。
まごう事無きNINJAフクスだ。
「うわ師匠も来たのかよ!」
「暫く
およよ、とフクスは分かりやすくウソ泣きする。
「まぁという訳で、じゃあね、みんな!」
そして黒風一行は列車に乗り込みリュミナス聖王国へと旅立った。
■
移動は全て列車である。
移動時間は約十二時間と列車に乗る中凄く暇である。
なので各々時間を潰す道具を持って来ていた。
本だったりUNOやトランプ、オセロ等のゲームだ。
これらの娯楽も賢王が齎した物だ。
道中四人でゲームをする。
だがやっていれば何れ飽きていき、沈黙が流れる。
「駅弁いかがっすか~」
そこにやる気の無さそうな駅員が歩いて来る。
「駅弁か……そう言えばもう十二時だな」
レイが右手に付けた腕時計で時間を確認する。
この腕時計は最近買った
名を
今は単に時間の確認用にしか使ってない為魔法は込めていない。
「すいませーん! 駅弁見せてくださーい!」
カレンが手を上げ駅員にこっちに来るよう願う。
「はーい」
駅員はやはりやる気のない声と共にやって来る。
「色々あるねー」
駅弁の種類は様々だ。
黒毛和牛のステーキ弁当に刺身弁当。味噌カツ弁当なんてものもある。
レイは刺身弁当をとって他の者は好きな物を買った。
「ありがとうございやしたー」
駅員はやはりやる気のない声と共に去って行った。
各々食事をとり、ゴミはまた来たやる気のない駅員に回収して貰った。
■
それから数時間経って一行は今回の目的地であるエルミードに辿り着いた。
エルミードは国境の街であり大した発展もしていない街だ。
特徴を一つ上げるとすれば大きなステージが一つあるぐらいである。
「やっとついた~」
カレンたちは列車から降りて肩をほぐした。
全員肉体的疲労とは無縁ではあるが精神的にしたいのである。
通路に行くとそこで国外から来た者はパスポートを見せる事になっている。
そこで全員パスポートと渡航税を払って街中に入る。
「もう暗いね~」
時刻は二十時。夜の八時だ。
魔法の灯りが街を照らしているがそれでも薄暗いと言わざる負えない。
「何か歌声が聞こえないか?」
そこでデヴォンがそう言う。
「確かに聞こえるな」
この中では二番目に耳が良いレイが返答する。
「行って見ましょ」
カレンがワクワクを隠せないといった感じで賛同し行くことになった。初めての国外でワクワクしているのである。
この世界では三百年前に文字統一がされた為何処の国の文字もわかるしこの世界に生まれた者は言霊の加護を持っている為知性ある相手となら会話が問題なく出来る。
その為国外特有の言葉がわからなくて詰むといった事はない。
その為呑気に歌声の方へ行く。
歌声に釣られていった先にはステージがあった。そこそこの広さのステージだ。
ステージ前には夜遅くだというのに人だかりがあり、ステージ上には三人のアイドルが居た。
この世界にもアイドルという職業はある。歌劇団のような物だ。
更にはクラスとしてのアイドルもあり戦うアイドルというのも少ないながらいる。
レイの目から見て壇上に居る三人のアイドルはそんな戦うタイプのアイドルに見えた。
見せ筋肉ではなく戦っていった結果着いた筋肉がアイドル衣装の上からでも見える。
「ぶっとばすぜ、この運命さえ! 胸のガトリング 火を噴かせ、撃ち抜け未来!」
ステージ上では美少女三人が歌を歌っている。全員フリフリの衣装を着ている。
一人は雪色の短髪の美少女。眼の色は紫色をしている。
身長は百五十三センチ程。大きな胸が特徴的だ。この三人組の中では一番デカい。
アイドルらしいフリフリの衣装を着ている。
胸からは弾丸をモチーフにしているのだろうネックレスを下げている。
もう一人は水色の長髪を持つ美少女。きりっとした目が特徴的だ。
身長は百五十六センチ程。スレンダーな体型をしている。
腰には短刀を下げている。アイドルらしくない。
最後の一人は薄い茶色の短髪の美少女だ。少し美少年ぽさがあるがれっきとした女である。
身長は百五十五センチ程である。胸はそこそこある方でケツはでかい。
右腕に赤いブレスレッドを付けている。
レイは各々が付けているアクセサリーに注目した。
何処かで見たことあるのだ。東雲皇国で見た事ある一品である。
(思い出した。あれ全部俺が攻めた時に使われた魔装じゃねぇか!)
ぽん、と手を叩きレイは思い出した。
配下のギロニア&アロニスを操って戦っていた時に戦っていた奴がそんな装備をしていたのを思い出したのだ。
という事はこのアイドルたちは東雲皇国の者か? と疑問を抱く。
歌は続く。雪色の髪の女がセンターになって歌い続け、ついに歌い終わった。
「みんなー! 来てくれてありがとー!」
水色の長髪の女がそう叫ぶ。
「明後日にまたライブするから、その時も来てねー!」
その言葉に観客たちがわーわー叫ぶ。大歓声だ。
どうやら大分人気なアイドルらしいと黒風一行は思い知る。
アイドル達は去って行った。
「あのーすみません。さっきのアイドルの人たちは誰ですか?」
カレンが去ろうとしていた観客の一人に問いかけた。
「知らないのか?
「ああ、聞いたことありますね。確かついこの間までは公国で活動していた冒険者チームのはずです」
エルミナが思い出した、と手を叩く。
「確かアイドル業も兼任していたはずですね。全員東雲皇国出身者だったはずです」
「外国に来てまでアイドルしてるんだ……」
すげーとカレンは放心する。
レイはよくもそんな面倒な事出来るなと感心する。
「名前は確か、雪色の髪の子が雪代つむぎで水色の髪が鏡宮
「詳しいなデヴォン」
「まぁ一応有名どころの冒険者ぐらいは覚えておこうって思ってな」
「実際強いの? ただのアイドルっぽいけど……」
「全員聖遺物級の魔装の所持者でバードとしても鍛えてあるからバフとデバフばら撒きながら戦うスタイルらしいぜ。戦いながら歌う姿は見ほれる程だとか」
「色物アイドルだな……」
アイドル名を教えてくれた男に感謝しつつ一行は今日の宿へと向かう。
雑談を交わしながら宿に行き一泊した。