魔王様は義理の娘と冒険者になって旅に出ます   作:Revak

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第34話

 翌日の朝。黒風一行は泊まった宿の一階で朝食をとっていた。

 

「そういえばあのアイドルグループのライブ明日あるらしいけどどうする? 見てく?」

 

 宿の一階のビッフェでカレンがそう口を開いた。

 

「アイドルか……余は興味ないな」

 

 レイはそう発言する。

 前世も今生もアイドルという物に興味はない。SNSでアイドルに熱狂するファンは見たことあるが正直何がいいのかよくわかっていないのだ。

 

「私としては興味ありますね。歌で世界を平和に……というのは尊い考えです」

 

 エルミナはそう発言した。

 アイドルそこまで考えて歌っている訳ではないのではとレイとデヴォンは考えたが黙っておいた。

 

「まぁ急ぐ旅でもないしいいんじゃないか? 一日ぐらい滞在日数増やしても」

 

 デヴォンは肯定的な考えを示す。

 

「じゃあ今日は観光しよ! 明日はライブを見て明後日出発で!」

 

 全員了承し朝食を食べ終わると観光に出た。

 

 

 

 ■

 

「え~と、映ってるかな~? やっほー」

 

 とある場所。グラキエア公国のある国の地下深くで。

 一人の女──ミレイナが鏡を前に一人芝居をしていた。

 

 鏡は宝石の付いた高級な代物だ。勿論ただの鏡ではなく魔法道具(マジックアイテム)だ。

 名を通信の鏡(ミラーオブコミュニケーション)

 二枚セットの魔法道具(マジックアイテム)。全身鏡のサイズで宝石が付いている。

 映像付きの配信を双方向で行うテレビ電話のような物だ。

 一日二回五分まで使用可能。ちなみに製作コストが高いため非常に高価な物になる。

 

 ようやくつながったのか鏡に相手が映る。

 

 映ったのは女だ。

 アイスブルーの腰まで届く長髪にきりっとした水色の瞳。

 スレンダーな体型だが美しいと感じる体の形。

 顔つきは優し気な雰囲気を持つ美女だ。

 

「やっほーリュシアちゃーん。元気ー?」

『私は元気ですよ。それで……何用ですか。ミレイナ』

 

 リュシア=ネーヴェル。

 かつては歌姫として聖王国で活動していた存在であり有名な人物でもある。

 彼女がサタニストになったのにはいろいろとあるが今は置いておこう。

 

「えっとねー。貴女にとって忌々しき例のアイドルたちがあんたんとこの国に居るけどどうしてるかなーて」

 

 ミレイナは舌を出し可愛らしい顔をしながら問いかける。

 

『……Crystal Vividですか。確かに居ますね。惨たらしく殺してやりたい……と。私情でした。すみません。それが何か?』

「そいつらぶっ殺すのに手を貸してあげよーかなって」

『今貴女何処にいるんです?』

「ファロムにいるよー」

『ファロムって帝国の首都じゃないですか。其処から聖王国に来るまでどれだけかかると……』

「なので賢い私は人材派遣済みなのでした~今はエルミードにいるよ~」

『エルミード……グラキエア公国との国境の街ですね。丁度そこにCrystal Vividもいると……そのものの能力構成は?』

「悪魔召喚に特化した第五環魔法の使い手で~多数の悪魔の召喚が出来るよ~」

『その様な人材を隠し持っていたとは……貴女本当に何を企んでいるかわかりませんね』

「そんな~私はただみんなの為を思って……」

 

 およよよとミレイナはワザとらしい泣き方をしてリュシアを苛つかせる。同性のこういった行為に苛つくタイプである。

 

「んじゃあ私はこれで~じゃねー!」

 

 そして一方的に通信を切ってしまう。

 

「さてさて、これでサタニストの戦力は結構減って来るな~旨い事削ってよね、魔王様♡」

 

 

 ■

 

 

「デカい街だな」

 

 レイは一人空の上でポツリと呟いた。

 エルミードは観光名所も特にない。しいて言えばそこそこ高い時計塔があるぐらいである。

 時計塔の時計は魔法道具(マジックアイテム)であり一時間ごとに周囲の人間に<安寧の抱擁>(トランキル・エンブレイス)を発動する効果を持っている。

 <安寧の抱擁>(トランキル・エンブレイス)は精神を癒す魔法だ。軽い疾患ならこの魔法で治る。

 といっても効果範囲は狭いので時計塔周辺に居ないと効果はないが。

 

 尚レイやカレンには意味のない魔法だ。精神干渉無効の指輪を付けている為<安寧の抱擁>(トランキル・エンブレイス)も精神干渉、攻撃判定になって無効化されてしまう。

 そのほかバードが使う支援の歌も精神干渉判定になって無効化するなど意外と欠点のある指輪だ。

 

 適当にレイは空の上を歩いていると歌声が聞こえてくる。

 はて何だろうかと歌声の方の地上へ降りる。

 

 場所は路地裏だ。人気のない場所である。

 入り組み過ぎてて人が寄りようのない場所であった。

 其処には薄い茶髪の美少女が居た。少し美少年ぽさがある女である。

 

「わ、お客さん?!」

 

 少女は驚きの声を上げた。

 

「いや何。空の散歩をしていたら歌声が聞こえてな。気になったので寄ったまでだ」

「そうですか……あ、私の歌聞きます? 今なら独り占め出来ますよ!」

 

 少女──名を花守日和は笑顔で言う。

 

「歌に興味はないからいらん」

「……え、あ、そうですか……」

 

 歌を歌う者、アイドルとして有名になっている自負があった日和は要らぬという台詞にしょんぼりした。

 

「……聞きたいが、其方は東雲皇国出身の者か?」

 

 レイは気になっていた事を問いかける。

 これで答えられなくても別に良いが喉に小骨が引っ掛かった程度の疑問は残るので問いかけたのだ。

 

「そうです! 私たちは東雲皇国から来ました!」

「東雲皇国は鎖国していたはず。何故来たか聞いても?」

「はい。東雲皇国は今お御代替わりしそうでして……次代の皇帝様が鎖国を解除して他国と交流を得ようという考えなので他国の情報収集と宣伝を兼ねてアイドルしてます!」

「あの国も変わったのか……」

 

 レイは思い出す。ギロニア&アロニスを操って戦った当時の皇女を。

 実に強い女だった。ギロニア&アロニスもレベル八十と非常に強い異形種だったのだが押し負けていた。

 流石に死体を回収されるのはまずいと思いレイのグレートジェネラルの特殊能力(スキル)で直接操作に変わり戦った。

 だが強かった。神器の天叢雲剣をもって戦う皇女は強く勇者に近い力を持っていた。

 当時攻めていた自身の軍全てを犠牲に四天王のギロニア&アロニスを撤退させる事しか出来なかったのだ。

 

 東雲皇国は鎖国してもそれが許されるだけの戦力を保持しているのだ。

 

 それが今になって外の世界に干渉しようとしている。戦争でも企てているのかと気になってしょうがない。

 

「次代の皇女様は他国と平和的に交易をおこないたいと考えているのでその一環で東雲皇国を知ってもらうためにアイドルしてます!」

 

 きらっ☆と星マークが出そうなピースを日和は浮かべる。

 アイドルってこういうものだったな、と何処か懐かしく思うレイは「そうか」と短く返す。

 

「おーい、日和。そろそろ打ち合わせの…………はぁ?!」

 

 路地裏から更に少女が出てくる。

 雪色の髪の美少女だ。特徴的なのは大きい胸だろう。

 スカート姿の恰好は美しく充分美人と言える。

 

 その女、雪代つむぎはレイの姿を見るなり素っ頓狂な声を上げた。

 果て何かあっただろうかとレイと日和が疑問に思うとつむぎは日和の手を引っ張って距離をとる。

 

 本当になんだ、と疑問に思ったレイは聴力をこっそり特殊能力(スキル)で強化して内緒話を始めた二人の会話を盗み聞きする。

 

「(馬鹿ッ何考えてんだ! 相手は要調査対象の魔王じゃないか!)」

 

 その台詞にレイは思考が止まった。何でこいつは自分が魔王であると知ってるねん、と。

 

「(えっそうなの?!)」

 

 日和は知らなかったのか本心から驚いている。前後情報が気になる所だ。

 

「(二百年前にうちに攻めてきた魔王の所在を掴むのも仕事だって霞月(かづき)様に写真見せられただろ! 忘れたのか!)」

「(わ、忘れてないよ! ただごく普通の人にしか見えなかったから……)」

 

 二百年前にも写真の魔法事態はあった。

 ただ今のようにカメラの魔法道具(マジックアイテム)は無かったがそれでも貴族などが撮ろうと思えばとれる程度にはあった。

 更に二百年前のレイは次元追跡無効のネックレスを持っていない。その為情報系魔法で探知ぐらいは楽に出来る。

 勿論レベル差によるレジストぐらいは出来るが特化型に探知ぐらいは楽にされてしまう。

 当時の東雲皇国にもそういった情報系に特化した呪文詠唱者(スペル・キャスター)が居たのだろう。

 

 さて面倒なことになった、とレイは考える。

 恐らくは魔王が倒されたという情報を出国時は知らなかったのだろうが国の外に出た途端「魔王? 二百年前に死んだよ」とあっさり告げられたに違いない。

 その為まぁ居るかもしれないな程度で探してた相手がいた訳で混乱するのも無理ない。

 

 面倒だし殺すか、という考えが一瞬脳裏に過る。

 だが知名度の高いアイドルグループが他殺されたとなれば話題になる。

 高位の情報系魔法を使う者は未来視や過去視を行う事さえ可能となる為完全犯罪というのは成立しにくい。といっても過去視も未来視も第八環魔法からなのでまずいないが。

 それでも絶対ではない。死体を捕食して消すにしても痕跡一つから情報系魔法で探知される可能性は高い。

 

「おい其方ら。余が魔王であるというのを知ってるらしいな」

 

 面倒になって来たレイは包む隠さず話す事にした。

 

「え、聞こえてた?!」

 

 日和はそう驚く。

 その言葉に雪代つむぎは胸の弾丸を模したネックレスを握る。

 

「魔装を使っても構わんが、その瞬間的と見なして殺すぞ。其方らと余の力の差ぐらいこれでわかるだろう」

 

 レイは特殊能力(スキル)<威圧>を使う。

 この特殊能力(スキル)は自分のレベル半分以下の対象を行動不能にする特殊能力(スキル)だ。

 正し精神干渉系に分類されるため精神操作に対し耐性を持つ装備を持っていたり<精神防御>(プロテクション・マインド)一つで防御される。

 更にレベル半分以下、最大でも五十レベルまでにしか効かないという微妙特殊能力(スキル)だ。

 だがそれでも二人に効果は抜群で行動不能となる。

 

 すぐさま<威圧>を解除する。

 

「これでわかっただろう。余は平穏に暮らしたい。余の事をどう本国に報告しようが自由だが攻めてくるなら返り討ちにするぞ」

 

 二百年前は敗走したが本体であるレイが出張れば勝ち目ぐらいはあった。

 そこから更に二百年経っているのだ。当時の皇女は死んでいるしそれ以上に強い者が産まれている可能性等低い。

 その為再度攻めに行けば今度は結果は逆転するだろう。

 

「……待て。まだ一つ聞きたいことがある」

 

 つむぎは強い目でレイを睨みながら問いかける。

 

「いいぞ」

「ありがとう。最近活発に動いてるらしい魔王崇拝者(サタニスト)はあんたの手駒じゃないのか?」

「サタニストか……あれは知らん。勝手に余を崇めてるだけの連中だ。余も見つけ次第処分している。そのことについて余に文句を言われても困るな。勝手に湧いてきた害虫だあんなもん」

「……そうか。それがわかればいい。じゃあな……もう会う事はないだろうな」

「いや明日のライブ見に行くから会う事になるぞ」

「明日来るんかい! あんたアイドル好きなのか?!」

「余じゃなくて娘が見に行こうと言ってな」

「娘もいるんかい! ……えぇと、じゃあまたな!」

 

 そう言うと二人は走り去っていってしまった。

 

「面倒なことになりそうだな……」

 

 レイははぁ、とため息を吐いた。

 

 

 ■

 

 

 

 影を走る。

<隠密>の特殊能力(スキル)は極めれば存在感を極限まで消す事が出来る。この特殊能力(スキル)を使えば全裸で腹踊りしていても誰にも気づかれずに済むのだ。

 更に上位の<忍び>の特殊能力(スキル)ともなれば相手の顔面に放屁しても気づかれることはない。

<忍び>の特殊能力(スキル)は自分の足音や臭いまで隠す事が出来る上位の隠密特殊能力(スキル)なのだ。

 

 デヴォンは一人エルミードの街中を走る。

 全くもって知らない街中を高速で移動するというのは非常に危うい行為だ。

 誰かにぶつかるだろうし壁にあたるかもしれない。

 だがそういった危険な事をするのが忍びであるとフクスから教えられた。

 

 全くもって知らない街の知らない城へ侵入し情報を得るのも忍びの仕事である、と。

 

 だからこそ忍びとして技量を高めたいデヴォンは街を走る。走って走って走り続ける。

 障害物にぶつからないようにし人にもぶつからないよう慎重にだけど大胆に走っていく。

 同時に<地図作成>の特殊能力(スキル)で脳内地図を埋めていく。

 脳内で地図を作る特殊能力(スキル)だが練度とレベルに応じて高精度な地図が作れる特殊能力(スキル)だ。

 

「うし……こんなもんかな」

 

 デヴォンは適当な家の屋根の上で独り言を呟いた。

 街のマッピングは終わった。

 

 己の修行を兼ねているこの走りは割と楽しい部類に入る。

 さてこれからどうしようか、とデヴォンは考え屋根の上から街を見下ろす。

 丁度そこは孤児院だったらしく多数の子供が庭で遊んでいる。

 其処には何故かエルミナの姿もあった。

 

 デヴォンは屋根の上から飛び降りてエルミナの背後に立つ。

<忍び>を解除し話しかけた。

 

「ようエルミナ。何してんだ?」

「デヴォンですか……いえ。この街の子供達と親睦を深めていただけですよ」

 

「すげー忍者だ!」

「アイエエエNINJA?! NINJAなんで?!」

 

 デヴォンの姿を見た子供たちが騒ぎ出す。

 

 忍者というのは割とよく知られている職業でもある。

 子供向けの絵本に忍者が登場するのだ。

 内容は忍者が悪鬼をバッタバッタとなぎ倒す話である。忍者なのに忍んでいない内容だが。

 

「おーう、忍法影分身の術!」

 

 デヴォンは特殊能力(スキル)<忍法・影分身の術>を使う。

 三人に増えたデヴォンが子供達と絡む。

 

「マジもんの忍者だー!」

「すげぇー!」

 

 キャッキャッと子供たちが笑う。

 

「子供はいいですね……無邪気で、健気で、可愛いです」

「そうだな……」

 

 デヴォンは昔を懐かしむように同意する。

 

「私はそろそろ帰ろうと思います。デヴォンはどうしますか?」

「んじゃあ俺も帰ろうかな。やる事もねぇーしな」

 

 子供たちに別れの挨拶をしてデヴォンとエルミナの二人は孤児院から出ていった。

 二人は宿へと帰って行った。

 ──その光景を見られているとも知らずに。

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