「みんなー! 今日は私たちのライブに来てくれてありがとうー!」
翌日の昼過ぎ。黒風一行はステージ上で歌うアイドルグループcrystal Vividを見に来ていた。
三人とも可愛らしいアイドル衣装をしている。更には指輪も付けている。
アイドル衣装は
「じゃあ最初はTri-Flare Miracleから!」
そう言って歌を歌い始める。
「胸の奥で燃える 炎 が
そうして歌われる歌は質の良い歌だ。
聞いていて聞きこごちの良い歌であり聞く者を魅了する歌だ。
何気にバード、詩人のクラス
精神を安定化させる効果が入っている歌である。
バードとは歌を歌う事で様々な効果をもたらすクラスの事だ。
相手へのデバフから自分自身へのバフまでこなすクラスであり習熟した者は強力な効果を発揮できる。
その分単体戦闘力は低い方にならざる負えないクラスでもあるが。
歌は進む。
全員の持ち歌と三人の曲を歌った後。異変が起こった。
空から何かがステージ上に降って来たのだ。
「なんだ?!」
「襲撃か?!」
「これも演出か?!」
等と観客たちは騒ぎ出す。
ステージ上に落下した者は言いようも無い程の美しい美人だった。
アイスブルーの腰まで届く長髪にきりっとした水色の瞳。
スレンダーな体型だが美しいと感じる体の形。
顔つきは優し気な雰囲気を持つ美女だ。
彼女は真っ黒な鎧と真逆に真っ白な槍を手にしている。
黒い鎧は軽装鎧であり弱点だけ隠せばいいだろ見たいな形をしている。
真っ白な槍は馬上槍にも似たチャージランスである。
「何者だ!」
刀奈が距離をとり腰の短刀を握りながら問いかける。
その問いかけに返答は無かった。
「凍える夜を満たす 孤独な祈り」
落下した者──リュシアは唐突に歌を歌い始めた。
全員なんだ、と思えばすぐさま効果が出る。
真っ先に気づいたのはデヴォンだ。探知能力だけで言えば優れているデヴォンは観客が魅了の精神操作状態に入った事に気づいた。
遅れてレイも気づいた。
「──さぁ愛しい子供達。"殺し合いなさい"」
「なっ」
リュシアが命令を下す事によって歌を聞いた観客たち──百人を超える群衆が殺し合いを始める。
殆どは既による殺し合いだが中には護衛用の短剣を持っている者も居りそう言った者達による暴力が行われる。
「なんだと?!」
刀奈が混乱の叫び声をあげた。
その声に対しリュシアは微笑み返すと跳んで去って行ってしまう。
「ちょ、これどうする?!」
カレンが襲い掛かる群衆からよけつつ仲間に問いかける。
「どうするったって相手は一般人だぞ! 抵抗したら殺しちまう! エルミナ! 何か魔法を!」
「つ、使えますがこの人数を一度に解除する事は出来ません!」
エルミナは第五環の精神操作解除魔法の
その為百人も操られるこの場では使いようがない。
「──面倒だな」
レイは
これも精神系に分類されるが精神操作系はより上位の魔法によって下位の魔法効果は打ち消されるためレベル百のレイの<威圧>は群衆に通じる。
群衆もせいぜいがレベル三とか四程度の雑魚集団である。通じない訳がない。
<威圧>によって群衆は地面に這いつくばり行動が出来なくなる。
今回は意図的に効果範囲からアイドルグループのcrystal Vividを外している為日和たちに効果はない。
「よし! お父さんはこのまま<威圧>使っといて! エルミナは一人ずつ解除して! デヴォンはあの女を私と捜索! 行くわよ!」
パーティリーダーとしてカレンがそう叫び行動に移す。
「我々も動くぞ!」
釣られて刀奈もそう叫んだ。
「うちのライブ台無しにしやがって! 落とし前付けてやる!」
「うん! 絶対許せない!」
三人はそれぞれ短刀と銃弾のネックレスとブレスレッドを掲げた。
「「「魔装展開!」」」
魔装が展開される。
雪代つむぎは赤い鎧。胸が強調される形の鎧だ。
肩にはロケットランチャー砲が付いていおり腰にもついている。下半身はミニスカート状である。露出の多い鎧だ。
聖遺物級の魔装であり名は天羽々矢という。
鏡宮刀奈は青い鎧。手足が重要的に守られているがそれ以外の装甲は薄めである。レオタードである。
長い刀を持っている。足にも刀が付いており蹴りで斬撃ダメージを与えれる構造になっている。
骨喰藤四郎という聖遺物級の魔装だ。
花守日和は薄茶色の鎧である。手足の装甲は厚いがそれ以外は薄め。これもレオタード状だ。
天の逆矛というこれもまた聖遺物級の魔装である。
「散開!」
「「おうっ!」」
合図と共に三人は飛び去って行った。
魔装には基本能力として
「さてどうなるか……」
レイは威圧を維持したまま考える。
相手の目的はなんだ、と。
ライブを滅茶苦茶にしたいだけの一般通過キチガイの可能性もあるが相手は少し調べれば東雲皇国の者だと分かる。下手しなくとも国一つ敵に回すような相手だ。
その為ただのキチガイであるという可能性は低いだろう。
可能性として高いのはこのライブを滅茶苦茶にするのは陽動で他に何か大きい事をやらかすつもりという事。
──瞬間爆炎が上がった。
耳に響く重低音と大爆発。
ほうら始まった。レイは溜息をついた。
■
すたっと、リュシアは広間に着地した。
空から降りてきた美少女を前に広間に居た数十人は混乱する。今日は何かこんなイベントあっただろうか、と。
呑気な物だが仕方がない。基本空からくるモンスター等の対策は万全なのだ。
モンスター対策に信仰系の魔法によるモンスター除けの結界に魔力系の物理障壁の結界。最後に対空砲がありそれらを運用する冒険者が街の防衛力として基本雇われている。
その為街中というのは基本安全だ。勿論悪意ある犯罪者等はどうしようもないが。
その為彼らはこれを何かのイベントなのだろうと考えてしまった。白昼堂々悪人が空からやってくるなどないだろう、と。
「凍える 夜を満たす」
リュシアは唐突に歌い出す。
リュシア=ネーヴェルは
<魅了の声>という代物だ。効果としては第三環相応の精神操作魔法と同じ威力を持つ。
正し声その物に乗っている為声を聞いた者全てに効果が発揮される。
この声というのは録音された声や拡張期などを通した声でさえ判定が入るという凶悪な代物だ。
強力な
第三環程度なら割とレベルによってレジスト出来るのだ。
だが使う相手が一般人となれば強力な効果を発揮する。
歌声によって周囲の人間を支配下の置こうとした瞬間──空から降って来た拳によってそれは遮られた。
拳をリュシアは槍で防ぐ。拳の正体は花守日和だ。
花守日和の戦闘スタイルはグラップラーだったのだ。
「せやぁ!」
日和は無茶な体勢から蹴りを繰り出すもそれも防がれる。
日和は一旦距離をとる。
「また来たのね。ライブのお客さんは放置していいのかしら?」
「今は善意の協力者の方がどうにかしてくれています! ですので……貴女を止めに来ました!」
日和はそう堂々と宣言する。その台詞と顔にリュシアは舌打ちをした。
「止めに来た? なら私の正体を知って諦めるがいい。私はリュシア=ネーヴェル。
「サタニスト! 魔王復活を目論む秘密結社!」
その言葉に日和は警戒を強め拳を構える。
つい先日までは要注意団体だったサタニストだが先日魔王と遭遇したことで警戒度は一段下がっている。
魔王が己の復活の為に何かしていると思っていたが当の魔王は生きていて娘と冒険者なんかしているのだ。
無論魔王の台詞が嘘であるという可能性もあるがそこまで疑い出したらキリがないので一応真実としている。
だが十二過徒の実力は確かだ。日和たちcrystal Vividと同じ白金級の力を持つとされているのだ。
更に優れた者は白銀級の力を持つとも言われている。それを考えれば警戒をして損はない。
「リュシアって……去年まで有名だった歌姫じゃないか!」
群衆の一人がそう声を上げた。
そう。リュシアはかつてこの聖王国で歌姫として知られていた。
そんな彼女がサタニストになったのは訳が当然ある。
名が売れて、公演も行って、ライブも順調。
だが彼女は一人だった。
結果、彼女は悪人の手に捕まった。
所詮は歌を歌えるだけの一般人だったのだ、リュシアは。だから悪人たちの手で貶められ弄ばれた。
だから彼女は力を求め、そこにサタニストがやって来た。
サタニストは彼女に聖遺物級の魔装である
それから一年かけて復讐を成した。
そして他のサタニスト同様今の世界を終わらせるため魔王復活を目論み始めたのだ。
「さぁ死になさい。魔王様の為に屍晒しなさい」
リュシアは歌いながら突撃した。群衆の声を無視して。
何も演出の為に歌っている訳ではない。これも
優れたバードやアイドルは歌を歌う事で幾つかの効果を付与する事が出来る。
その能力の一つにステータス上昇がある。
これはバフ魔法のような割合上昇ではなく固定値の上昇効果を持つ。歌が続く間効果は続くのだ。
だからこそバードは歌を歌った方が強い。
そこにリュシアが一年の戦闘で得た戦闘系のクラスの力。実力は白金相当と言っていいだろう。
リュシアの槍と日和の拳が交差する。
「 砕けた“心”の欠片を 抱きしめて歌うの」
歌を歌う。その様は何処か辛そうにも見える。
日和はレイと同じグラップラーだがその力は天と地ほどの差がある。
レイならば既に終わっている戦闘もまだ続く。
そも槍と拳というリーチ差のある相手は辛いものがある。
更にはバードやアイドルのクラスを得ている関係上グラップラーとしては未熟もいい所。<超衝撃波>などの範囲攻撃
だから地道に拳で戦うしかない。
そこにリュシアの歌によるデバフも入るのだ。辛い戦いになるのは仕方がないだろう。
「陽だまりの中でそっと芽吹いた夢!」
そこに抵抗せんと日和も歌を歌う。
日和も本文はアイドルだ。歌を歌って戦うのである。
これで相手にデバフを与えつつ自分にバフを付与できる。これでイーブンと言ったところだろうか。
日和は<六連撃>の
リュシアはどうにか槍で防ぐので精一杯だ。
そこから更に拳と槍が衝突し合う。
気づけば群衆たちは逃げていっていた。
当然だ。街中で突然殺し合いが行われれば逃げるに決まっている。
攻防が続く。槍と拳という槍が圧倒的に有利だがここで戦闘経験の差が出た。
リュシアはたった一年しか戦っていない。それだけで白金級相応になれた時点で才能は高いが実戦経験不足だ。
日和は東雲皇国で戦ってきたしこの大陸に来てからも冒険者を兼業し戦ってきたのだ。実戦経験の有無は強い差となる。
一瞬、リュシアがぐらついた。
そこに日和は蹴りを入れる。
「ぐっ!」
思ったより強い蹴りによってリュシアは蹴り飛ばされる。
「はぁぁぁぁぁ!」
止めを刺さんと日和は拳に力を入れて殴打しようとする。
だがそこに何者かが挟み込まれた。
割って入って来たのは──悪魔だった。
美人の女の姿。山羊の角に蝙蝠の翼。サキュバスという低位の悪魔であった。
「なっ!」
拳がサキュバスに命中しサキュバスが倒され光の粒子となって消える。召喚されたモンスター特有の現象だ。
「ふふ、来るのが遅いのよ」
日和が気づけば周囲には悪魔たちが居た。
「貴女が血気盛ん過ぎるんですよ。もう少し考えて戦ってくれませんか?」
そう言いながら男が現れる。
身長は百六十五センチ程度だろう。黒髪黒目の男で眼鏡をかけている。
白衣を纏った様は何処か医者にも見える。
「私に指図する気?」
「まさか。上司である十二過徒の一人にその様な事は……ただ部下として忠言しただけですよ」
「ならいいわ、サーモリル」
「仰せのままに」とサーモリルと呼ばれた男は恭しく敬礼をする。
「二対一……」
厄介だ、と日和は考える。
日和の戦闘能力はそこまで高くない。レベルは三十五程度だ。
ギリギリリュシアより高い程度だがそのレベルの大半はアイドル等の職業で埋められている。
戦闘能力は低い方と言わざる負えないだろう。無論バードやアイドルの力でバフデバフをばら撒きつつ戦えばそこまで戦えないという訳ではない。
だが相手もアイドルだ。同じバフとデバフを使ってくる以上能力値の差は殆ど出なくなる。
そこに支援魔法を使える
「──大丈夫! 貫く!」
日和はそう叫んで拳を構えなおした。
如何に不利な状況だろうが問題ない。戦えはするのだからと。
「いい心構えね。死ぬと良いわ──」
「ちょーと待ったぁー!」
空からズドン、と何かが落下してきた。
「私も混ぜてもらうわよ!」
そう声高々に叫ぶのはデヴォンを抱えたカレンだ。
カレンはデヴォンを置くと剣を抜いて構える。
前まで使っていた
「さぁ、行くわよ!」
「お願いします! 知らない人!」
臨時でパーティを組み戦う。
日和とリュシアは歌いながら衝突する。戦う相手は同じだ。
「
サーモリルは魔法を唱える。
呼び出されたのは三十五レベルの悪魔である剣の悪魔だ。
二メートルの人型の悪魔。顔つきは凶暴な悪鬼其の物。両手には大剣を持っている。
頭からは山羊の角が生え背中には蝙蝠の翼が生えている男の悪魔である。
「行きなさい」
サーモリルがそう命令を下すと同時に幾つかのバフを魔法を唱える。
カレンは堂々と氷帝剣で受ける。
怒涛の攻めを見せる剣の悪魔に対し冷静に対処する。
カレンのレベルをもってすれば一気に倒すのは簡単だが何かしらの切り札が無いとも限らない。だからここは慎重を期して一手一手詰めていく。
剣の悪魔の怒涛の攻めに対しカレンは剣で防ぐ。
レベル差は圧倒的だ。相手にバフが盛られていようと二十レベルの差があればどうしようもない。
攻撃を避けながらカレンはサーモリルを観察する。
バフ魔法をかけた後は何もする気配がない。攻撃魔法を唱える事も無く戦いを見ている。
カレンはリュシアと日和の戦いを見るがその戦いは一進一退だった。攻める日和に対し守るリュシア。
お互いに歌を歌いながらバフデバフをばら撒いている。カレンにはバフもデバフも通じないが。
(とっとと終わらせるが吉!)
面倒になって来た判断しカレンは氷帝剣で剣の悪魔を横一文字にぶった切った。
悪魔は光の粒子となって消えていく。
瞬間サーモリルは懐から杖を取り出す。
禍々しい杖だ。黒い手が幾つも重なり赤い宝玉を掴む形をしている。
「
サーモリルは杖から魔法を行使する。
「んなっ」
唐突に使われた第十環魔法にカレンは驚愕する。自分でも使えない魔法の極致だ。
世界でも有数の人間しか使えないはずの最上位魔法を使うサーモリルに警戒が強まる。
赤い魔法陣から悪魔が現れる。
黒い体には赤いラインがあり赤く輝き脈打っている。
顔つきは恐ろしいが優れていると言えるだろう。恐怖の中に美がある。
黒い一対の角に蝙蝠の翼に蜥蜴の尻尾。
レベル七十の悪魔
カレンより格上の相手である。
カレンは慢心を捨てバフ系
<肉体向上><肉体超向上><真・肉体超向上>
使った途端
何かしらの
氷帝剣はダメージを与えるか剣に触れた相手に冷気ダメージを与える。といってもダメージ量は僅かな物だが
「せやぁ!」
カレンは<超斬撃>で
(浅い!)
だが斬れたのは薄皮一枚だけ。大したダメージには成らない。
カレンは<受け流し>の
格上相手には基本勝てないのがこの世界だ。絶対に勝てない相手だからこそ格上というのである。
だが例外がある。それは神器のような超級の
カレンは氷帝剣が持つ
瞬間、世界が灰色に染まる。世界の時が止まった。
世界の時間停止こそがこの剣が持つ能力だ。
といっても時間停止事態はそう珍しい物じゃない。第八環魔法に
その為カレンもレイも時間停止対策はちゃんと積んでいる。
だがこの時間停止魔法は欠点がありこの魔法の効果時間中は他者に一切の干渉が出来ないのだ。
時間停止して相手を一方的に殴る、と言うのが出来ないのである。
だが氷帝剣は違う。この剣の<時間凍結>は相手に干渉が出来るのだ。更には普通の時間停止対策を突破できる。
これこそ神器が成せるチートという奴であった。
その分欠点もあり一日三回までしか使えず止められる時間も五秒だけ。
しかし五秒もあれば充分である。
「おんどりゃぁぁぁ!」
カレンは幾つかの
<黒嵐の剣舞><蒼閃・縦雲><
止まった時間が動き出した。
だが死なない。レベル七十ともなればこの程度では死にはしない。
「ナイスデヴォン!」
首を刎ねたのはデヴォンだ。
<忍び>に<奇襲>の
最大火力五十倍、デヴォンが使えば三十倍の火力によるダメージとカレンが与えたダメージが重なっていたのだ。
「かはっ!」
そこにリュシアも飛ばされてくる。
「これは……これは……」
サーモリルは冷や汗を流す。
自分の奥の手の悪魔も倒され上司のリュシアは瀕死一歩手前。ほぼ敗北同然の状況だ。
「ぶっ飛ばすぜ!」
空から声が響いた。
声の主は赤い鎧を着た雪代つむぎだ。
両手に銃を握り腰の砲台からもミサイルを放った。
リュシアとサーモリルに直撃し爆炎を上げた。
「つむぎちゃん! ほかはどうなってる?!」
「刀奈とま──レイさんが出現した悪魔を掃討して回っている!」
「これは……撤退するしかないでしょう」
煙の中からダメージを受けたリュシアとサーモリルが出てくる。
「逃がすとでも?」
カレンは剣を構える。
相手を逃がす様な愚を犯すつもりはない。この場で殺しておくべきだ。
「……頼むわ、サーモリル」
「えぇ。それでは──」
カレンが突撃しサーモリルの首を刎ねようとする。
「
だがそれよりも早く転移魔法で逃げられた。
カレンの剣は空振り虚空を切るだけに終わった。
「ちっ……面倒なことになったわね」
はぁ、とカレンは溜息をついた。