「結婚してぇ!!!」
ドン! と女は自室で叫んだ。
部屋は広い。十二畳ほどの広さがある。
執務机と客人用のソファが二つと机が一つある。
本棚も六つあり全ての棚が重要書類や本で埋まっている。
叫んだ女は妙齢の女だ。
まだ歳若く二十代前半程度の女である。
薄い青い髪に青い瞳。腰まで届く長髪。
容姿端麗という言葉がこれ以上無い程に似合う容姿であり美術品の美のような気高さがある。
白い聖女服を着ている様は神聖さを感じさせる。
この国の聖女王リヴィアーナ・エル・セレスティアだ。
「それ私に言われても困るんですが」
そう返すのは身長百七十五センチほどの眼鏡をかけた男だ。
スーツを着た様は出来るサラリーマンと言った雰囲気が出ている。この国の宰相を務めている男だ。
「私もう二十二よ? 結婚してる年齢よ? なのに何で結婚できないの?」
この世界では基本十八ぐらいで結婚するのが基本である。
その為二十過ぎても結婚してないのは行き遅れ扱いになる。
「貴方の名声……ですかねぇ……」
「く、有能な我が身が憎い……!」
「それ他の人に言ったら殺されますよ」
リヴィアーナは第六環魔法まで使える優秀な信仰系
当然
かつてサタニストが悪魔召喚を行った際天使を召喚したり信仰系の魔法で戦うなど前線で戦っていった結果名声と力を彼女は得たのだ。
その結果他の貴族達は「そんな天上の御方と結婚など恐れ多い」と婚姻の話が辞退されて無くなったが。
貴族は政治をする者で戦う者ではない。レベルも五や十あっても政治や貴族の職業で埋まる為戦闘力は無い。
その為前線で戦うバトルウーマンと結婚しようという物過ぎはあまりいない。
居ても家の格が低くて王族であるリヴィアーナとは合わない者しかいないのだ。
なのでリヴィアーナは行き遅れ聖女王となっていた。
「何処かに私に会う男性いないかしら……」
「白銀級の方と結婚します?」
「確かにそれなら家の格も会うけど……誰がいます?」
「えー近場だとオレグ・フォン・エスケンかラグナ・パイルバーンですね」
「片方おっさんでもう片方はハーレム作ってるじゃないですか」
「なんで現実的にはラグナさんですかねぇ」
「ハーレムの一員になるのはちょっと……」
宰相が上げた二人は両方とも白銀級冒険者だ。
オレグはクロックハンマー王国で。ラグナはノルドレイン連邦で活動している冒険者である。
近場という割には結構遠い。
「それじゃあ最近話題の黒風の人とかどうですか? 男性が二人いて両者とも未婚らしいですよ」
「いいですね! 詳細は?」
「レイ・アーヴェルスとデヴォンという戦士と隠密のお二人ですね。聞いた話ではレイには娘がいるらしいですよ」
「じゃあ駄目じゃないですか」
「ですがデヴォンの方は結婚しているとか付き合いのある女性がいるという話は聞きませんね。まぁエルミナという仲間とすごく仲がいいらしいですが」
「それ私馬に蹴られません?」
「馬に蹴られたところで傷一つ付かないからいいでしょう」
「そう言う問題ではなくてよ」
「ですがそろそろ結婚した方が良いのも事実でしょう。何ならバルグラート帝国からお見合い持ってきましょうか?」
「帝国ですか……」
「ちなみにお勧めなのはローデル・センティア・モーゼス卿ですね」
「その人スケルトン型のアンデッドじゃないですか。生涯処女になるんですが」
「骨でもまぁなんか貫通ぐらいできるでしょう」
「いや王として子孫を残さないといけないんですが」
「そこはローデル卿に魔法か何かを使ってもらって……」
「魔法で妊娠だけするとかすごく嫌です。真剣に」
「じゃあ誰ならいいんですか」
「……やっぱり黄金級のデヴォン殿ですかね。将来有望というのを合わせればギリギリ格は会います」
決めました、とリヴィアーナは椅子を蹴って立ち上がった。
「黒風を城に招待するのです! そしてデヴォン──殿といい感じになりましょう!」
「出来るといいですね」
宰相は出来なさそうと無礼な事を言った。
リヴィアーナは宰相の顔を殴った。
「いたたた……そう言えば勇者様がお会いしたいようですよ」
「リナ様が? 一体何故?」
「さぁ。理由は私も……すでに客室に通しています」
「いやそれ早く言いなさいよ。何で言わなかったの」
「サプライズすると喜んでくれるかなって」
「子供か」
等と言い合いながらリヴィアーナと宰相は執務室を出て客室に向かう。
道中メイドや騎士に会いながら歩く事五分客室につく。
宰相がノックして「失礼します」と一言言ってから部屋に入る。
部屋に入った宰相が「聖女王陛下が入室します」という。
その後にリヴィアーナが入る。
客室は執務室の倍は広い。
バカでかいソファが二つにテーブルが一つ。
ソファには隣り合うように男女が座っている。
勇者リナと魔王レイだ。
「お久しぶりです勇者様。この度は城に出向いてくださりありがとうございます」
リヴィアーナは小さく頭を下げた。
この国というかこの大陸では一国の王より勇者の方が地位が上だ。
何せ世界を救った英雄と己の国を魔王に蹂躙されるしかなかった王族という大きな違いがあるのだ。
「失礼します」と一言言ってからリヴィアーナは向かい合うようにソファに座る。
「それでリナ様。わたくしに何の用でしょうか?」
リヴィアーナは鋭い目で問いかける。
勇者が態々やって来た、となれば相当に面倒な案件であるのは決まっている。下手したら胃が痛くなるかもしれない。
そしてその通りリナは面倒な事を告げに来たのだ。
「面倒なんでぶっちゃけるわ。横に居るこの男は魔王その人よ。二百年前に私が倒したはずのね」
「はい?」
「魔王レイ・アーヴェルスだ。よろしく」
「???」
リヴィアーナの頭の中ははてなで埋まった。何を言っているんだろうか、と。
というかその名は先程話題になった黒風の一員の事ではないか、と。
「勇者様、それはどのような意味でしょうか?」
混乱するリヴィアーナを他所に宰相が問いかける。
「言ったままの意味よ。魔王は生きていて、冒険者をしてるところを私が捕まえたって訳」
「それは……何故魔王を殺さないのですか!」
リヴィアーナは思わず立ち上がりながら叫んだ。
魔王とは邪悪の権化だ。それを何故討たないという当然の疑問を発する。
「私は勇者として悪を打ち滅ぼして来た。だけど同時にこうも思うの。『悪を倒すだけでいいのか』ってね。だから私は魔王を殺さずに償いをさせる道を選んだの」
「……確かに経典によれば悪にも償いの機会を与えるべきとありますが……」
この国でも犯罪者に対し刑罰を与える。
と言っても時代の流れには逆らえずむち打ちなどの刑罰は無く刑務作業をさせるだけだが。
だがそれも限度があり、連続殺人犯等は普通に処刑する。魔王ともなれば相当の数殺しているだろう。
ならば死という償いをさせるべきだとリヴィアーナは考える。
「だからこれは私の身勝手でもあるわ。まぁ悪を生かそうなんて言う考えは罰せられるだろうけど……何よりもこれは女神様たちの考えよ」
「……そう言われると反対出来ないじゃないですか」
女神セラ達八大神はレイと邪神の契約を知っている。
だから殺しという逃げをさせず償いをさせる道を選んだのだ。だからリナもそれに従っている。
そして信仰心があついリヴィアーナとしては神々が決めた事と言われると何も言えなくなってしまう。
「だからまぁ、魔王の生存を知ってもらおうと思って」
「……知ったところで何をすればいいのでしょうか?」
「まずは魔王が奪った財を元の国に返させようと思うわ」
「おい聞いてないぞ」
「今言ったからね」
「……昔は財宝の管理してたが今はもう管理は雑にしてるぞ。金貨の山を返せと言われても困るが」
「そこは国宝クラスの
「……それなら受け入れよう」
「
聖者の杯とは聖遺物級の
効果は周囲の人間の治癒、回復と死者の蘇生である。
「まぁ魔王城の宝物庫を探せばあるだろう。近いうちに返しに来る」
「……お願いしますね、魔王」
リヴィアーナはジロリと魔王を睨む。
一応パフォーマンスとして魔王を恨んでますよ、という振りはするが内心はそこまで思わない。
と言っても既に二百年前の事だからだ。当事者ではないのである。
だからかつて魔王による悪逆があった、と言われても「へー」としか思わない。二百年前の人物相手に憎悪を抱けと言う方が無理がある。
なので別に魔王生存はそこまで気にする事ではない。
聖者の杯はかつて奪われたという話を祖母から聞いていたので返してもらえるなら貰っとくか程度の発言であった。
「それと暫くは私魔王の監視に動くから余り動けなくなるから気を付けて」
「それは……わかりました。人員の方考えさせてもらいますね」
その後も細々とした話をしてこの会談は一旦終わりを迎えた。
■
リヴィアーナは興奮していた。うきうきしていたのだ。まるで猿のようだが猿ではない。
今日は待ちに待った黒風との茶会である。
リヴィアーナは王城の庭園で優雅に紅茶を嗜みながら黒風が来るのを待っていた。
そしてしばし待つことでメイドが黒風を連れてやって来る。
立ち上がって歓迎はしない。国王と冒険者では地位が違うのだ。と言っても黄金級ともなれば多少は忖度するぐらいの事はするが。
メイドに連れられた黒風は三人だけだ。
リーダーのカレン。シーカーのデヴォン。ヒーラーのエルミナである。
リヴィアーナはエルミナを見て固まった。何で天使いるねん、と。
リヴィアーナは咄嗟に宰相の方を見たら宰相はグッと親指を立てた。知ってるなら教えろやとリヴィアーナは怒った。
「し、失礼します」
カレンは緊張しながら椅子に座ってテーブルに着く。他の者達も椅子に座った。
「そう緊張しなくとも結構です。お呼びたてしたのはこちらですから、多少の無礼も気にしないでください」
「そ、そうですか……」
そう言われてもカレンは緊張が解けない。
以前ヴァルターと会った時もそうだが地位の高い人間相手に緊張するのは庶民のサガである。
同じ庶民の癖にデヴォンは余り緊張してないが。
「まずは自己紹介をしましょう。私はリヴィアーナ・エル・セレスティアです……レベルはそうですね、三十八です」
「か、カレン・アーヴェルスです。レベルは五十五です」
「デヴォンだ。レベルは五十一」
「エルミナですレベルは五十八です」
その後も四人と宰相は談笑を続ける。
途中からカレンも緊張が解けて会話を続ける。
「それで、アークティスはどのように倒したのですか?」
「アークティスは事前にバフ魔法をもれるだけもって──」
和気あいあいとした談笑だ。
一国の王と冒険者の会話ではないがリヴィアーナの狙いはそこだ。
リヴィアーナは名声が強い。そのために何しても「さすがは聖女王様!」と言われることがある。
そのため対処は自分にかかっている好印象を下げ「意外と大したことなかったな」と思わせないといけない。
雲の上の人間に人間は欲情しない。そのためにあなたと私は同じ人間ですよ、と思わせないといけないのだ。
この後めちゃくちゃ会話した。