魔王様は義理の娘と冒険者になって旅に出ます   作:Revak

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第四話 初めてのお泊り

 

 カレンとレイはルセクア外の草原に来ていた。

 ちょっとした丘でもあり、ルセクアの街が見通せる。

 

「じゃあ薬草採取だ! お父さんも取ってね!」

「わかっている」

 

 という訳で二人はしゃがんで薬草を探す。

 ルミナ草の外見はちょっと特徴的だ。

 草の先端にちょっとしたふくらみがあるのと草全体が薄っすらと発光している。

 ただ発光していると言っても本当に薄っすらとであり昼間だと視力が良くないと分かりにくい。

 だが二人とも視力は良い方である為問題なく見分けられる。

 

 カレンとレイは二十分程ちまちま動きながら薬草を集める。

 

「おとーさん。私三十本程取れたけどそっちは?」

「……余は十七本程度だ」

 

 レイはちょっと不器用だった。

 最初の方採取する際力任せに取ろうとして途中で千切れたりそもそも見つけられない等の不幸でカレンの半分ちょっとしか取れなかったのである。

 と言ってもあと三本とれば依頼完了なのであまり問題はないが。

 

「そっか……あ」

 

 カレンは一度立ち上がり背を伸ばすとモンスターを見つける。

 はぐれた狼のモンスター、レッドウルフだ。

 名の通り赤い狼である。レベルは三程度と雑魚である。

 だが本来は群れるモンスターである為それが単独というのは警戒すべき事だ。

 力があって単独行動できるのならば脅威だし、何かあって群れが壊滅した直後などならこれ以上のモンスターが居る事になるからだ。

 カレンは探知系の特殊能力(スキル)を持っていない。

 だがカレンは呪文詠唱者(スペル・キャスター)だ。魔法を唱えれば探知も出来る。

 なんとカレンは第五環までの魔法を行使できるのだ。

 

<生命探知>(ライフ・ディテクション)

 

 唱えたのは第三環魔法だ。

 己の視力を魔法的に強化し生命を探知する魔法だ。

 探知範囲は己の視力に依存する上アンデッドなどの非生命も探知出来ないし生命が入る事が分かるだけで相手の種族もわからない魔法だが平原で使うには丁度いい魔法だろう。

 カレンは周囲を見渡すが自分たちとレッドウルフ以外に生命反応はない。

 

「おとーさん。モンスター退治してくるねー」

「気を付けてな」

 

 カレンはモンスターと戦った事はある。

 魔王城周辺の森で森の大蚯蚓(フォレストワーム)と戦ったことがあるしアーリンドラが魔法で召喚したモンスターと戦った事だってある。

 蒼風の覇剣(アエロ・ドミニオン)を抜きレッドウルフの前まで一瞬で移動。その首を跳ね飛ばした。

 レッドウルフは殺されたという事にも気づかず絶命した。

 

 レッドウルフの死体が転がる。

 

「これって解体するの?」

「狼の肉は堅くてまずい。放置でいいだろう」

 

 何処にでも沸くスカベンジャー、スライムによって死体は放置しても食われるだろう。

 運が悪ければアンデッド化して蘇る事もあるかもしれないがそんなことはそうそうない。放置してもいいだろう。

 

 その後カレンがルミナ草を見つけルセクアの街へと戻った。

 

 

 

 ■

 

「はい。ルミナ草五十本確認しました。依頼完了です。こちらが報酬金の千セラです」

 

 千セラというのは薬草採取には見合った報酬だ。

 だがこの報酬で暮らしていくのは地味に厳しい。

 百セラで一拍出来て一食二百セラ。一日の生活費にはなる。

 初心者冒険者が食っていけるだけはあるが武器や防具を揃えて戦っていけるかとなると微妙な所だ。

 鉄の剣がだいたい二千セラなので数日金を溜める必要があるだろう。

 

 カレンは報酬を受け取り、顔がだらしなくなる。

 

「初めて稼いだお金だ……!」

 

 カレンはこれまで仕事をしたことが無い。

 買い物ぐらいはお小遣いを貰って何度も行った事があるが、自分の手で金を稼ぐのは初めてである。

 

「あ、そうだ。お……お父さんにも上げるね」

 

 カレンは渡された二つの五百セラ硬貨の内一つをレイに渡す。

 

「いらんぞ」

 

 レイは魔王である為金持ちである。街一つに村九個を支配する支配者だ。

 となれば当然資産があるし、魔王軍全盛期に奪い取った金銀財宝の山がある。

 五百セラ等はした金である。

 

「お父さんも働いたんだから、ほら!」

 

 そう言ってカレンは無理矢理レイに五百セラ渡す。

 レイは渋々と受け取った。

 

 受付から微笑ましいものを見る目で見られ、酒場に居た冒険者たちからは妙なものを見る目で見られる。

 カレンの言った"お父さん"という言葉に反応しているのである。

 父同伴の冒険者など珍しいにも程がある。零という訳ではないが。

 だがカレンとレイは似てもいない。義理の親子だろうかと勘繰る。

 

「この後はどうする?」

 

 時刻は夕方に成るころだ。

 

「今日は依頼を受けるのはここまでで、宿屋にいこ?」

魔王城(うち)に帰らなくていいのか?」

 

 レイは転移門の鍵(ゲートキー)という魔法道具(マジックアイテム)を持っている。

 一日四回まで第九環魔法である<転移門>(ゲート)を誰でも使える魔法道具(マジックアイテム)だ。

 

「冒険者は宿に泊まる者でしょ? なら宿にいかなきゃ!」

「そういうものか……」

「宿屋でしたらブロンズハート亭が銅級冒険者の方にはお勧めですよ」

 

 その言葉にレイは苦い顔をする。

 初心者向けという事は安い宿だ。つまり、客層が悪く店主のガラも悪い店という事である。安さには相応の理由があるのだ。

 そんなところに娘を泊まらせてたまるかという思いとけど娘がやりたいことだしな……という思いがせめぎ合う。

 

「じゃあそこに泊ります。いこ、お父さん」

「……あぁ」

 

 取りあえず何かあったら相手をぶっ殺せばいいか。そう考えたレイはカレンと共に冒険者ギルドを出ていった。

 

 

 冒険者ギルドを出て十分程歩いたところにその宿はある。

 二階建ての木造建築ではるが、少々ぼろい宿だ。扉が少し欠けている。

 カレンは冒険者らしい宿だと興奮しながらドアを開けて入りレイも入る。

 

 一階部分は酒場となっており、冒険者たちがたむろしている。

 店の奥にはカウンターがあり禿げた男の店主がグラスを拭いている。

 

 冒険者たちは入って来たカレンとレイをまじまじと見つめる。その視線には値踏みしてやろうという気概があった。

 レイは煩わしく思い皆殺しにしてやろうかと思ったが娘の前なので辞めておくことにした。

 

 カレンとレイが奥に進み店主の男に話しかける。

 

「一泊泊まりたいんですけどいいですか?」

 

 じろり、と店主はカレンとレイを睨む。

 カレンは冒険者の宿らしい店主だと興奮しレイは冷めた目で店主を見る。

 

「……宿だな。四人部屋で一拍百セラだ」

「四人部屋……一人部屋はありませんか?」

「そんなのはないな。二人部屋ならあるぞ。三百セラだ」

「二人部屋か……」

 

 うーん、とカレンはうねる。

 父親と同じ部屋で寝ることに年頃の娘なので羞恥心を覚えてしまうのだ。

 だが二人部屋しかないなら仕方がない事である。

 

「わかりました、二人部屋でお願いします」

「わかった。三百セラだ。飯は別料金で二百セラだがどうする?」

「ここで食べていきます」

「わかった。用意するから適当に座ってろ」

 

 カレンとレイはカウンターではなくテーブル席に移ろうとする。

 だがカレンがあるテーブルの隣を移動しようとした時、足を出してくる冒険者が居た。

 店主と同じように禿げているのか剃っているのかどちらかは分からないがとにかく髪が無く、皮鎧を着た鉄級の冒険者だ。

 カレンは気づかず足を蹴ってしまう。

 

「あ、ごめんなさい」

 

 蹴った事で気づいたカレンは謝罪の言葉を口にする。

 

「おいおいいてぇじゃねぇか。こりゃ慰謝料貰わねぇとな」

 

 げへへ、と冒険者は下品な笑みを浮かべる。

 そのことにレイがぶち切れ寸前になるがカレンが諫める。

 

「すいません。お金を渡す事は出来ません。それでは」

 

 カレンはきっとした態度で乗り切ろうとするが冒険者はそれが気にくわない。

 

「お前女だろう? 女ならちょっと俺と一晩──」

 

 それ以上先の台詞を男が言う事は出来なかった。鬼の形相のレイが男の頭を掴み上げたのである。

 男の身長は百六十七かそこら。レイは百九十二センチ。身長差も圧倒的である。レイが男を掴み上げた。

 

「いでででででぇ!」

 

 レイは手に力を入れる。万力の如く男の頭を掴む。

 

「ちょっとお父さん、やめて!」

 

 カレンはこのままだと父が人を殺してしまうと判断し強く諫める。

 カレンはレイが人を殺すところを見たことが無い、という訳ではない。教育の一環としてレイがそこらに居た山賊を殺した所を見に行かされた事がある。

 だがこの男は山賊でも盗賊でも無ければ冒険者だ。しかも自分よりランクが上の冒険者である。下手に殺せば牢獄にぶち込まれるだろう。牢獄ぐらい容易く打ち破れるが。

 

「ちっ……命拾いしたな」

 

 レイは手を離すと冒険者の男が地面に落ちる。

 男は真っ青な顔で宿屋から逃げ出した。

 

 レイは鼻を鳴らし、適当なテーブルの席に座る。カレンも同じように座った。

 

 二人の目を見る目が変わった。変なものではなく同業者への視線になったのだ。

 

 あの冒険者は何もいちゃもんをつけたり本当にカレンと一発ヤる為に話しかけた訳ではない。値踏みの為に絡んだのだ。

 戦闘技能の有無。心意気について知る為だ。

 もし相手が強かったりすればパーティを組み仲良くやれるかもしれないし、弱すぎたりこの程度で怯む程度なら邪魔なので冒険者を辞めさせるために。

 結果としては少々ヤバい、だろう。絡まれた程度で人を殺そうとする父親等物騒にも程がある。

 

「ほら、飯だ」

「ありがとうございます」

 

 店主がスープとパンのセットを渡す。

 スープにはミートボールと少々の野菜が入っている。

 パンは黒パンで硬い。スープに浸して食べる様だ。

 いただきます、とカレンとレイは食事を始める。

 二人とも不息の指輪で食事等要らないがそれでも人間である以上人間らしい暮らしをするために食事をとる。

 

(不味いな)

 

 レイの感想はこれだった。

 普段魔王城で食べる食材は第五環魔法<材料創造>(クリエイト・イングリーディエント)が込められたダグザの大釜というアイテムで作れた食材を使う。

 魔力を消費する事で特殊な効果の無いアイテムを製造できるアイテムだ。

 基本魔王城の食材はアーリンドラがダグザの大釜を使って食材を作っている。

 それを料理長のクブールが調理する。

 クブールは特殊な特殊能力(スキル)を持っており食材の質を上げ、食した物に特殊な効果を与える事が出来る能力を持つ。

 

 だがカレンは冒険者としての食事に興奮しているのと元より好き嫌いしてはいけないという教育の元多少変な食べ物も食べさせられている為気にせず食事を続ける。

 レイは美味いもんが好きだが娘に食育しといて親がスキキライするのはどうなんだ、という考えの元文句を言わずに食事をする。

 

 ごちそうさまでした、と食事を終えた二人は食器を店主に渡す。

 

「これが部屋の鍵だ。部屋は二階の奥だ」

「ありがとうございます」

 

 カレンは粗末な出来の鍵を受け取るとカウンター横の階段を登っていく。レイもついて行った。

 

 

 

 暫くしてから、冒険者たちがカレンとレイに着いて話し始める。

 

「あの男、武器も持ってないのに強そうだよな」

「モンクとかグラップラーじゃないのか?」

 

 モンクというのは僧兵の事であり生命力の操作特殊能力(スキル)を持つ職業の事だ。彼ら彼女らは素手で戦う。

 

「だろうなぁ。男を一人片手で持ち上げてるんだぜ?」

「あの女の鎧全部魔法道具(マジックアイテム)じゃなかったか? 金持ってんなぁ」

「面は良いよな。パーティ組めねぇかな」

「まだ銅のお前じゃ無理だろ」

「んだと」

 

 等など、冒険者たちは話し合うのだった。

 

 

 

 ■

 

 

「これが部屋か……」

 

 レイはこんなのが宿屋なのか、と落胆の溜息を零した。

 部屋は八畳ほどの広さだ。

 左右の壁端には簡素な作りのベッドが置かれている。

 ベッドは一応マットレスはあるが布団が無い。それに木製であるが今にも崩れそうな不安感がある。

 

 落胆するレイに対しカレンはこれぞ冒険者の宿だ、と興奮する。

 

 カレンはベッドの端に腰かける。

 

「明日に着いてはなそー」

「わかった」

 

 レイも同じようにベッドに腰かける。向かい合う形になった。

 

「明日も薬草採取の依頼を受けるのか?」

「ん-、他の依頼受けようかなって。資金面の問題はない訳だし」

 

 銅級が受けられる依頼にドブ掃除やゴミ掃除がある。

 それらの依頼でも報酬金は貰えるし、ギルドからの評価も上がるだろう。

 むしろそう言った依頼を受けず一つの依頼を受け続ける方が問題があるだろう。

 

「だが……あまりお勧めできる仕事ではないぞ」

 

 ドブ掃除なんかは臭い汚いの仕事だ。貰える報酬金も少ない。

 

「いいの。私がやりたいから」

「そうか……ならばよい」

 

 その後も二人は話し続けた。冒険者としてどう生きるか──

 

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