魔王様は義理の娘と冒険者になって旅に出ます   作:Revak

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第六話 カレンのとある一日

 

 はぁ、と魔王城に所属する異形種であるシャドウの男は溜息を吐いた。

 シャドウとは異形種の一つだ。人型の全身真っ黒な寿命の無い種族だ。種族特殊能力(スキル)として影の中に入る事が出来る。

 今の魔王城が行っている事業の一つに異形種の保護がある。

 といっても大したことではない。たまーにそこらで死にかけてる異形種等を見つけたら保護するというだけだ。頻度は低い。

 それにそのまま魔王城に所属する者も少ない。だいたいは人の国で暮らす。別に今の人の世界は異形種を拒んでいないのだから。

 その中でもこの男、ロペスという男は魔王城に属する事を選んだ変わり者の男だった。

 

 そんな彼に与えられた仕事は魔王の娘であるカレンの監視と護衛であった。

 

 なんでやねん、とロペスは呟いた。

 

 魔王の義理の娘カレン。彼女は強い。

 この世界でも有数なレベル三十を誇る魔法戦士。

 彼女に危害を加えられる者を探す方が難しいだろう。

 だが魔王は心配性で娘が何かあっては遅いと隠れた監視兼護衛としてロペスが選ばれた。

 かくいうロペスも隠密系に特化したシーフ、アサシンでありレベル二十二と高い。ただ隠密系の為カレンと戦えばまず負けるが。

 

(しかし年頃の娘を付きまとって監視するって……ストーカーじゃないのか?)

 

 そう思って更に溜息を零す。

 現在ロペスはカレン近くの人間の影の中に居る為ため息が聞こえることはない。

 影の中にいるのは幸いだった。幾らため息を吐いても聞こえる事は無いのだから。

 

 

 

 

 

 曇りなき空に輝く太陽の元カレンはルセクアの街を歩く。

 カレンは普段の武装を辞め、赤いワンピースに着替えている。だが指輪は着けたままだし蒼風の覇剣(アエロ・ドミニオン)も帯剣している。

 大通りを歩き、そこらにあった串焼きの屋台で串を買う。

 ダンジョンバッドの肉焼きだ。普通に美味い。尚お勧めの調理法は唐揚げである。

 

 カレンは肉をほおばり食し、串をゴミ箱に捨てる。

 

 さてどうしようか、とカレンは歩く。

 

 この街に観光名所らしい場所はない。何せ冒険者向けの街なのだからある訳がない。

 では何処に行こうか、となるがカレンは特に行きたい店が思いつかなかった。

 武器や防具屋は今の手持ちが最高品である為必要ないし、衣服も充分以上持っている。主にネレヴィアという魔王の支配下にある街で買った事がある。

 だがネレヴィアは寂れた街だ。もしかしたらルセクアの方が最新の衣服があるかもしれない。そう思い至ったカレンは服屋を探す事にする。

 

 歩いている途中、鼻につんとくる臭いを感じ足を止めた。

 

「ポーション屋か……」

 

 そこにあったのはポーション屋だ。

 

(そういえばポーションって持ってないな)

 

 今後も冒険者として活動するならポーションぐらい持っているべきだ、と考える。

 一様レイがモンクの特殊能力(スキル)で治癒が行えるが、それは微々たる量だ。第二環程度の治癒効果しかない。

 その点ポーションは最低でも第三環レベルの回復量を誇る。ポーションのが上だ。それに魔力回復のポーションも売って居るかもしれないと思った。

 

 カレンは店のドアを開け中に入る。

 

「おぉ……」

 

 中に入るとより一層薬草の臭いが強くなる。

 棚も置かれており棚にはポーションが所せましと置かれている。

 ポーションの瓶は試験管だ。コルク栓の蓋がある。

 赤色が体力回復のポーション。青色が魔力回復のポーション。緑色がスタミナ回復のポーションだ。

 ポーションにも魔法道具(マジックアイテム)と同じランクがありこの店では中級までのポーションが売っている。

 

 最低の下級ポーションでも第三環魔法の<生命の雫>(ライフドロップ)と同じだけの回復量がある。

 中級で第四環から第七環魔法程、上級となると第八環魔法の回復量を誇る。

 

 カレンは父から持っているお小遣いとして月五万セラある。

 ポーションは最低でも七百セラする為買うのに問題はない。

 

 また回復系以外にも状態異常治癒、一定レベルまでの毒の治癒ポーションや疫病治癒のポーションも売っている。

 

 さてどうするか。ポーションに消費期限等は無いので買っておいて損はない。

 どうせなら中級ポーションでも買おうかとカレンは悩む。

 

 そこにドアが開き、新しい客が入って来る。

 

「カレンさん! カレンさんもポーションを買いに?」

 

 入って来た客はリアナだ。彼女は長い木の杖にローブを着た冒険者スタイルで来ている。

 

「リアナさん、そうなの、念のために買っておいた方がいいかなって」

「さんは要らないですよ、年齢も同じぐらいでしょう? 確かに治癒魔法が使えないパーティだとポーションは必需品ですからね」

 

 うんうんとリアナは頷く。

 スティールヴェインの一党も治癒魔法使いが居ない。その為回復手段は持っておく必要がある。

 それに呪文詠唱者(スペル・キャスター)であるリアナは魔法で魔力も消費する為魔力回復の手段を持っておくべきだ。

 

「そうだ、リアナ……は今日暇? よかったら一緒にお店見て回らない?」

「私も今日は装備品とか見て回る予定だったので時間空いてます! 一緒に見て回りましょう!」

 

 カレンとリアナは意気投合し、ショッピングを開始した。

 

 

 

 ■

 

 

 

 魔王崇拝者(サタニスト)、と呼ばれる邪教がある。

 二百年前に倒された魔王を崇拝する邪教団であり、その発足は百年前になる。

 規模は大きく幹部も十二人いるという大組織だ。

 

 そんな彼ら、あるいは彼女らはルセクアの街の共同墓地の奥に隠れ家を持っていた。

 

 ルセクアの街には共同墓地がある。

 洋風の墓であり、遺体は棺ごと土に埋められる。

 だが土地にも限りがある為多くなってくると古い棺を引っ張り出して<消去>(イレイズ)の魔法で遺体を消し容量を増やす。

 

 サタニストの拠点はボブという死者の墓石を押す事で地下への階段が現れ、地下へと進む事で彼らの拠点の一つに辿り着ける。

 

 その広間で男たちがぶつぶつと呪文を唱えていた。

 

 そこそこの広さの広場だ。

 大きめの公園程度の広さを持ち、床には紫色の幾何学模様の魔法陣が描かれており壁には人の頭蓋骨の灯りがある。

 

 サタニストの目的は一つ。魔王の復活だ。

 

 魔王を蘇らせ、世界を再び魔王の支配下に置く──それこそが彼らの目的だ。

 

 その一つの目標の為に共同で動く……という事はない。

 ある幹部は魔法的手段を持って。ある幹部は錬金的手段で。ある幹部は邪悪な儀式をすることで。各々の方法で魔王を復活させようと企んでいる。

 彼らに共通するのはある種の破滅願望だ。魔王の力によって世界が滅んで欲しいという願いだ。

 ……といっても彼らの願いはある種徒労だ。だって魔王であるレイは死んでなどいない、今日も元気に娘に着いて考えている。

 だから彼らの企みに意味は無い。だが、やる事には悪意があった。何が何でも魔王を復活させようという意欲が。

 

「はーい。今日も元気にやってるぅ~?」

 

 邪悪な儀式の場には相応しくない、女の猫なで声が響いた。

 その声によって呪文を唱える声が止まり、黒いローブを被っていた者達は入り口にいる者に視線を向ける。

 

 そこに居たのはグラマスな体をした女だ。

 ボブカットの金髪赤目の女であり、ボン! キュボンな女性的魅力にあふれている女だ。

 当然顔も美しく、猫を思わせる可愛らしい顔立ちをしている。

 

「……何用だ、ミレイナ」

 

 ミレイナと呼ばれた女はにんまりと笑った。

 

「幹部の一人として~、最近色々と見て回ってるんだ~」

「我らは同格のはず。見て回る必要などないだろう」

「あるんだなぁ、これが。それに、カイン君のしようとしてることに協力してあげようとしてるんだよ~?」

 

 カイン=ベリアル。

 黒髪黒目の優男だ。

 ルセクアの街を拠点に活動を行うサタニストである。

 主な内容は生贄を捧げる事による魔王復活の計画実行。

 この計画は妙な感じに成功しつつある。

 変な魔法発動条件と合致したか、あるいはカイン事態が知らない固有(ユニーク)特殊能力(スキル)でも持っていたのか、カインが儀式をすることで悪魔を召喚する事に成功してしまったのだ。

 その為カインは己の儀式を進めれば最高位の悪魔、つまり魔王を復活召喚出来ると思い込んでしまっているのだ。

 

「協力だと? 何をしようと言うんだ?」

「んふー、それはね。これ」

 

 ミレイナは懐から結晶を取り出す。

 手のひらサイズの黄色い四角い結晶だ。青く輝いている。

 

「それは……中位魔法封じの結晶(ミディアムマジック・クリスタル)ではないか。そんな高い物を何故お前が持っている?」

 

 魔法封じの結晶とは名の通り魔法が込められている魔法道具(マジックアイテム)だ。

 下位、中位、上位の三種あり三段づつ込められる魔法の環位が決まっている。

 青色が下級、黄色が中位で赤色が上位だ。

 ミレイナが持っているのは中位、第七環魔法まで込められる一品だ。

 本来魔法を使うには呪文詠唱者(スペル・キャスター)のクラスにつく必要があるが魔法封じの結晶は誰でも使えるという一品である。

 似たアイテムに巻物(スクロール)短杖(ワンド)があるがこれらはその魔法が使えないと使用できない。

 その為非常に高価であり中位ともなると大屋敷が買える程になる。

 

「そうだよー。込められている魔法は<下位悪魔(サモン・サボーディネイトデーモン)軍勢召喚>(・レギオン)。レベル十から二十までの悪魔を大量に召喚する事が出来るって訳」

「第七環魔法だと? どうやってその魔法を込めた……いや。聞くのはよそう。どうせろくでもない理由なんだろうからな」

 

 人類が使える魔法は大雑把に第六環魔法が限界だとされているがこれは誤りだ。

 白銀級冒険者等は第七環魔法を普通に使ったりするが、これは使われる側に知識が余りないのが原因だ。

 そもそも一般人に第七環とか第一環魔法とかの差がよくわからないのである。

 

「そう。これに加え君が元から計画してたスタンビードを合わせれば……生贄も充分足りるんじゃない?」

 

 スタンビードとはダンジョンの反乱現象だ。

 何処から出来て何処へ行くのかわからないダンジョンは放置しすぎると中に湧いたモンスターが餌や土地を求めダンジョンからはい出てくる。

 時にそれは災害となり街一つ滅ぼす事となるのも珍しくない。その為人はダンジョン近くに街を作り定期的に飼っているのだ。

 そのスタンビードを人為的に起こす方法はカインは持っている。

 

「……それだけ尽くす理由はなんだ? 何故協力する?」

 

 信じられない、と言った目でカインはミレイナに尋ねる。

 サタニストたちは一応組織の体を保っているが、実態は寄り合い所帯の様なモノだ。

 幹部同士で取引等をし、自分にとって力を得る。

 そもそもトップ、頭と成る者が居ない為皆好き勝手やっているのだ。

 だからこそ、急に援助をし始めたミレイナが気味が悪い。

 

「理由は何でもいいじゃん。ねぇ」

 

 ミレイナは目を赤く光らせた。

 その光を見つめてしまったカインはまどろんだ。

 

「そうか……そうだな。では我々は動くための準備に入る。ではな」

「はーい。じゃあねぇ~」

 

 ミレイナは階段を上がって出ていく。

 

 固有(ユニーク)特殊能力(スキル)、という物がある。

 これは人間や亜人種、異形種誰でも生まれ持った時に持っている事がある異能だ。

 百人に一人程度の割合で固有(ユニーク)特殊能力(スキル)を持って生まれた者が現れる。

 明日の天気を八割の確率で当てる物や作物の成長を三日早める異能等がある。

 その中でもミレイナは<魅了の魔眼>という固有(ユニーク)特殊能力(スキル)を持っている。

 効果としては強く第五環魔法相応の威力がある。

 だが精神系の攻撃に分類されるため精神防御の魔法<精神防御>(プロテクション・マインド)等で防げてしまう程度の物だ。

 しかしカインは精神操作対策の装備を持っておらず通じてしまったという訳だ。

 

「さぁて、どうなるかな? 勇者様が来る前にこの都市を落とせればいいんだけどね~」

 

 ミレイナはスキップでもしそうな機嫌のよさで墓地から出ていった。

 

 

 

 

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