「ねぇ。今日は二人で別々の事しない?」
カレンはリアナとショッピングを楽しんだ翌日、冒険者ギルドでレイと話していた。
「……というと?」
「私はダンジョン探索するから、お父さんは街で依頼を受けないかって事。同じパーティだからって常に一緒に行動する訳じゃないでしょ?」
というのは建前で、カレンも一人で冒険がしたいのである。
せっかく外に出たというのに父が同行するのは年頃の娘として嫌なのである。
「ダンジョンは危険だぞ。トラップもある」
ビギナーズダンジョンにも当然トラップがある。
落とし穴だったり矢の罠だったり。
前はスティールヴェインのメルクが罠解除の
罠を探知する魔法をカレンは習得しているが解除する魔法をカレンは習得していない。物理的な罠なら攻撃魔法で破壊する事も出来るが。
「大丈夫! スティールヴェインの人たちとダンジョンに行くから!」
カレンはふふんと胸を張る。父が拒否するのは分かっていたので理由を用意しているのである。
既にリアナ経由でダンジョンに同行するのは話が付いているのだ。
「むぅ……ならばいいだろう」
そう言っておきながらレイはこっそり
相手は当然ロペスだ。彼にカレンの護衛を頼む。
「では、余は何か適当な依頼でも受けるとするか……」
「はーい! じゃあ行ってくるねー!」
カレンは意気揚々とギルドを出ていった。
レイは溜息を吐き、ドブ掃除の依頼書をとって受付へと進んだ。
■
「今日もよろしくお願いします、カレンさん」
スティールヴェインのリーダー、カズトがダンジョン入口前でカレンと話す。
「はい! 今日はボス討伐までお願いします!」
先日は昼飯を食べたら帰ったが今日は違う。最終層である第六層でボスを倒す予定なのだ。
「カレンが居れば、必ずあのボスを倒せます」
このダンジョンのボスは
名の通り巨大な黒い蛇であり、状態異常のブレスを持つ。
毒と移動速度低下のブレスの二種類を使うくせにそのブレスを見た目で判断するのは不可能といういやらしさを持つ。
鱗も硬く力を込めなければ鉄の剣では傷が付かないという強靭さを持つ。
このモンスターを相手にスティールヴェインは二度敗走している。
だがレベル三十のカレンにしてみれば雑魚モンスターだ。楽に倒せる。それに移動阻害と毒には指輪で耐性を付けているから問題ない。
それじゃあいこうか──という時にダンジョンからドタドタという音が聞こえてくる。
はてなんだろうか、と一行は止まっているとダンジョンから冒険者たちが出て来た。
彼らは必死の形相で走っておりもつれながら走っている者もいる。
「どうかしたんですか?」
カズトが走っている冒険者に話しかける。
「ああ?! スタンビードだ! モンスターが異常に湧いてきやがったんだよ!」
冒険者の男はそういうと振り返りもせず走り去ってしまった。
「スタンビードだって?! なんでこの街で?!」
スタンビードは本来放置されたダンジョンで起きる現象だ。
常に人が居てモンスターが狩られ続けているビギナーズダンジョンで起こる現象ではないはずだ。
「……どうしよう。このままだと街が……」
この街で最高レベルの冒険者は二十二の戦士だ。
だが彼は街の方に居る為このダンジョン前まで来るのに時間がかかるだろう。
それにレベル二十二では少々不安だ。数の暴力とはかくも偉大で格上を時に殺しうる。
確かに一対一ならばこのダンジョンで敵う者は居ないが囲んで叩かれれば死ぬときには死ぬ。
「……皆さんは街に戻って、私のお父さんを探して来てください」
「え、カレンはどうするつもり?」
リアナがそう尋ねる。
「私はここで出来得る限りモンスターを削ります」
「危険ですよ! そんなことしなくても、他の人に任せれば!」
「……不謹慎だけどね、私、興奮してるの」
カレンはそう微笑んだ。
「ダンジョンに起こった異常事態。それを前にする冒険者──なんて心躍る展開なのか、て。私は大丈夫。レベルも三十あるんだから」
カレンのレベル三十という言葉にスティールヴェインの一行は驚く。
薄々察しては居たが非常に高いレベルだ。国の将軍レベルである。
「……わかりました。なら──俺たちも残ります」
「んなっ……ちょ、ここは危険なのよ?!」
「既に走って行った冒険者たちが街にスタンビードの事を伝えるでしょう。そうなれば冒険者は呼び出されて戦う事になる。遅いか速いかです」
だが、冒険者として呼ばれると言っても大勢の冒険者と共に、だ。
今はたった五人しかいないのである。
辞めさせるべきだ、とカレンは思った。だがカズト達の目を見て本気なのだと悟る。
「はぁ……わかったわ。けど危険ならすぐ逃げるように!」
「はい! お願いします!」
一行は入り口から距離をとる。
「
カレンは召喚魔法を唱える。
カレンの近くの足元から青白く輝く魔法陣が出現する。
魔法陣からモンスターが出現する。
成木をそのまま鹿の形に成長させたような外見のモンスター。
名は
第三環魔法まで行使するモンスターでありレベルも二十四と高い。それが三体も出現する。
召喚魔法はより高位の魔法を使えば下位の魔法で召喚できるモンスターを多数召喚できる。
樹獣は第四環魔法で召喚できるモンスターだ。それを第五環魔法で召喚したため三体も召喚出来たのだ。
「来たわね」
せまいビギナーズダンジョンの入り口からモンスターたちが這い上がって来た。
出現したのはダンジョンバッドやゴブリン、ジャイアントセンチビートにスケルトンに狼に虎。
「まじかよ!」
メルクがそう叫んだ。
見ればこのダンジョンのボスであるはずの
スティールヴェインの面々では敗死するしかないモンスターだ。
「行くわよ!
カレンは向かってくるモンスター軍団に向かって魔法を唱える。
カレンの剣先から三つの火炎球が飛び、モンスター軍団にぶつかり爆発を起こす。
それだけでモンスターは死に絶え死体となる。
ここは既にダンジョンの外なのでドロップアイテムには成らない。
「はぁぁぁ!」
カレンが気合を入れながら突撃する。
「
ついでに支援魔法を全体に飛ばす。
それを
カレンはゴブリン五体に斬りかかりその首を跳ね飛ばす。
一対多の戦い等何度も経験している。アーリンドラとの戦闘訓練でアーリンドラが召喚したモンスターと戦った事等何度もある。
続いて樹獣も動き、果敢にモンスターたちに襲い掛かる。
樹獣も魔法を行使する。使うのは
第二環魔法であり足元から植物を生やし対象を拘束する魔法だ。
同じように樹獣も
拘束されたモンスターに対しスティールヴェインの面々も攻撃をする。
一体一体はスティールヴェインにとっても容易く倒せる敵だ。拘束されているとなれば脅威ではない。
「シャァァァ!」
だが問題はボスモンスターである
しかしカレンが瞬時に移動しその首を斬り飛ばした。
一体斬ったと思ったら次の瞬間には三体斬っている。
戦っている間もカレンは補助魔法で自分の能力を上げている。その状態となればレベル差が二十もあるモンスター等敵では無かった。
これならいける──スティールヴェインとカレンはそう思いモンスターたちに襲い掛かった。
■
時は少し遡る。
カレンがスティールヴェインと共にダンジョンに行った後、レイはドブ掃除の依頼を受けルセクアの大通りに居た。
「兄ちゃん悪いね、助かるよ」
「この程度雑作もない」
レイはスコップでドブから泥を救い、地面に置く。
泥のままだとかさばって重いので一旦放置して乾かしてから袋にいれてゴミとして捨てるのである。
その作業を何度もしているがレイに疲労や腰への負担などはない。不息の指輪と九十七のレベルを舐めてはいけない。
レイは雨天時の水はけ用の溝掃除をする。
雨が降った場合水路の調子が悪いと容易く水没してしまう為こうした定期的な掃除が必須なのである。
作業を十分程続けているとレイの耳に羽音が入る。
ばさばさ、といった羽ばたく音だ。
その音に何事かと顔を空に向ければそこには悪魔が居た。
「は?」
居たのは
人の肌を真っ黒にして角を生やし蝙蝠の翼を生やした悪魔である。サイズは人と同程度。
それ以外にも多数の悪魔が空を覆っていた。
空に居た
「ちっ」
レイは右手を銃の形にする。
人差し指の中身を
骨の弾丸を形成し肉を破裂させることで火薬とする。
人差し指の先に穴をあけることで銃とする。
重低音と共に骨の弾丸が放たれる。
骨の弾丸は
「さて、何が起こっているのやら……」
召喚された
召喚されたモンスター特有の現象だ。召喚モンスターは死ぬとこうして死体を一切残さず消える。
そして悪魔は基本召喚されることでしか出現しないモンスターだ。つまりこの悪魔たちを召喚した術者がいる。
面倒だし見なかったことにしてカレンの元まで走るか。レイはそう思った。
だが同時にこの事態を起こした奴を放置すればカレンに被害が及ぶかもしれないと思い至った。
はぁ、とレイは溜息を吐いた。
「すまんが仕事は放置するぞ」
「あ、ああ。モンスターが出て来たんだ、仕方がない。あんたも気を付けな!」
依頼主の男はそうレイに言う。
レイは指揮関係の
それと同時にジャンプ。屋根の上まで跳躍し屋根の上に立つ。
そしてダッシュ。悪魔たちに向かって襲い掛かる。
『アーリンドラ。今すぐ余の元に転移してこい。悪魔を召喚する魔法を使った者が居る。そいつの探知をしろ』
突然の念話にアーリンドラは驚きつつ了承の返答をする。
その間もレイは悪魔を倒す。
どんどん悪魔を倒して周る。
そのほかの悪魔も倒して周る。
刹那の速度でルセクアの街を縦横無尽に駆け回る。
街に冒険者や衛兵の姿はない。ほとんどがスタンビードの方への対処に向かってしまったのだ。
だからこそレイ一人で無双劇が出来ている。ほとんどの悪魔はレベル十にも満たない雑魚だ。
気づけばレイの隣にはアーリンドラが居た。
「
「わかった」
会話は簡潔にしアーリンドラの案内の元レイは屋根の上を走る。
アーリンドラは
今はアーリンドラに合わせて二百キロで移動する。
移動しながらもレイは悪魔を倒していく。
だがうち洩らしが多少は出てしまう。
レイが行く前に悪魔が人を殺していたり、建物内に召喚されるなどで悪魔による被害が出てしまう。
何処の誰とも知らない奴らが死のうがレイはどうでもいいが今この場合は別だ。
人が死ねばそれは相手の目的が達成するという事であり相手の目的が不明な今は避けるべき事態だ。
内心舌打ちをしていると街の中央あたりにある噴水前広場に辿り着く。
広場には男が一人立っている。
歳は二十代後半程度。
黒髪黒目の優男だ。紫色のローブを纏っている。
その男──カイン=ベリアルの前にレイは着地する。
「貴様が主犯か?」
レイはそうカインを睨みつける。
「──あぁ、主犯だとも。私こそは十二
「……魔王?」
はて、こんなやつを部下にしていただろうか、とレイは考える。
魔王軍全盛の時代、多数の種族を部下にした。その中には人間も当然含まれている。
だが幾ら記憶を引っ張り出してもこの男は記憶に該当しない。
「で、何でこんなことをしたんだ?」
「決まっている。魔王様を復活させ、世界を再び魔王様の支配下に置く為にだ!」
「…………えぇ」
レイは驚愕し、呆れた。何を言っているんだこいつは、と。
魔王である自分は生きている。そして自分は世界征服なんていう面倒なことをもう一度するつもりはない。
つまりこの男は的外れにも程がある事を考えているのだ。
「まぁいい。死ね」
「はっ。貴様なんぞの攻撃で──」
レイは目にも見えぬ速度で急接近する。
刹那とはまさにこのこと。レイは相手が何かをする暇もなく近づき腹を殴り飛ばす。
ノックバック。カインは吹き飛ばされ、家屋の壁にぶつかって止まった。
家の壁は砕け瓦礫と成りカインが瓦礫の下敷きとなった。
「む」
だがレイは手ごたえに違和感を感じた。
「ば、ばけものめ……」
その違和感は正しく。瓦礫の中から無事なカインが出て来た。
本来ならあり得ない事だ。レイの攻撃はどれだけ手加減しても相手が即死するに相応しいダメージを叩き出せる。
それでも生きているという事は何かタネがあるという事だ。
「タリスマンか何かか?」
タリスマンとは所持するだけで効果を発揮する消耗品型の
呪いを代わりに受けたりクリティカルヒットを代わりに受けてくれたりする。
恐らく使われたのはダメージ肩代わりのタリスマンか何かだとレイは判断する。
そして事実それは正しくカインは一定以上のダメージを受けた場合に発動する
その効果が発動しタリスマンは砕け、代わりに死を回避した訳だ。
「くっ
カインは悪魔召喚の魔法を唱える。
カインが使える最大の環魔法だ。
赤い魔法陣が現れ魔法陣から悪魔が出現する。
呼び出されたのは
三メートルの巨体を持つ悪魔だ。黒い肌に一つ目の顔を持ち、口から牙が生えている。
背中には蝙蝠の翼を持ち、人の頭蓋骨が付いた戦鎚を持っている。
レベルも二十四と非常に高い。この世界基準ならば街一つ滅ぼしうる悪魔だ。
だが、たかがその程度である。
レイは
それだけで
「……は?」
あり得ないものを見た用な目をカインはする。
事実彼の常識ではあり得ない事だ。白銀級でもないただの銅級の冒険者の拳一つで
カイン=ベリアルは元は農夫の出身である。
よくある村の、よくある暮らしをしていた。
日々の暮らしは貧しくとも、懸命に生きて来た。
幼少の頃、カインは親戚のおじさんと共に街に行く事が出来た。
偶々、そう偶々カインだけが村を出ていったのだ。
街でカインは少ないお小遣いで土産を買い、姉と母に渡そう、なんて考えて。
そして村に戻れば──そこは廃村とかなっていた。
家々の壁は破壊され、火によって焼け落ちて、畑は無惨に荒らされていて。
後で聞けば、盗賊団が村を襲撃したのだとわかった。
泣き叫びながら家に入れば、そこにあったのは──
──言いようも無い程に慮辱された母と姉の死体があった。
見るに堪えないとは正にこのことで、その光景を見たカインは吐しゃ物を撒き散らした。
何でこんなことになったのだろう。自分一人村から出たのが悪かったのか。
──違う。
こんな世界が悪いんだ。人が人を殺す。モンスターが蔓延り命の危機が日常なこの世界が。
だから、この世界を一度リセットしなければならない。それをするには絶対的な力が──魔王という力の象徴が必要だ。
この日、カインは生れ直した。これが、カイン=ベリアルの過去。
「まだだ……まだ、終われない!」
カインは己の
レイの<肉体操作>等の分かりやすすぎる場合は別として。
カインの
贄を捧げることで己の望むモンスターを召喚するという物だ。
そして贄を捧げるというのは割と大雑把でも通ってしまう。自分が直接的か間接的に殺した場合それは贄として認められる。
レイが
その数だけでも相当数に上り、生贄を捧げたに相応しい。
「サモン・デビル!」
カインは手を翳し
赤い魔法陣が現れ、悪魔が呼び出される。
「こいつは……」
現れたのは正しく悪魔、という外見の悪魔だった。
頭部は山羊の物。体は人間。背中からは蝙蝠の翼が生えている。
下半身は揺らめき影のように蠢ている。
(確か第七環魔法で召喚できる悪魔だな。名は確か……なんだっけ)
レイは覚えてないが名前はヴェルミドという悪魔だ。
精神干渉系の魔法を得意とする悪魔であり、対策を積んでいない場合高レベルでも面倒な悪魔である。
だがレイは精神干渉無効の指輪を装備しているので何の脅威でもない。
「オオオオォ……
ヴェルミドが魔法を行使する。
使うのは第五環魔法の
これは込めた魔力量によって威力が変化する魔法でありレベル八十代ともなると城壁を消し飛ばす程の力を発揮する。
ただヴェルミドのレベルは四十九であり精々が城門を砕く程度の威力しかもたない。
レイは片手で光線を弾き防御する。
「死ね」
レイは手のひらをヴェルミドに向ける。
手の内側を<肉体操作>の
骨のライフル弾を形成し筒を作り、骨を放つ。
まるでライフルのように腕を使い、骨の弾丸を放つ。
高速過ぎて傍目からはレーザーのようにしか見えない一撃はヴェルミドの頭部に命中し一発でヴェルミドのHPを全損させ、消滅させた。
光の粒子となってヴェルミドは消え、骨の弾丸が地に落ちた。
「馬鹿な……ありえ──」
レイは間抜けな事を呟いているカインに近づきその胸を貫いた。
心臓を破壊し、カインを絶命させる。
「おか……おねぇ……」
そうしてカインは愚かな男として、その一生を終えた。