宇宙人から好かれています 作:モブ地球人
「……! ……!」
どたどたと廊下を走り回る音が聞こえる。聞き取れないが何かを叫んでいるような声も聞こえる。非常に迷惑だが、これが俺の学校生活での日常だ。
「ごめんなさい、今日もお世話になります」
この騒動の原因、モモ・ベリア・デビルークはドアの前で軽くお辞儀をした後、俺の隣の椅子に腰を下ろす。
「毎回言ってるけど、あれどうにかならないか。モモのファンクラブなんだろ」
「こちらも毎回言っていますが、どうにもならないのでケイさんを頼っているんです。私が作りたくて作ったファンクラブではないですし……」
ある日突如俺のクラスに転校してきたモモ・ベリア・デビルーク。その美貌とスタイルの良さから転入初日にファンクラブができたとかなんとか。モモの言う通り、本人の意思とは関係なくできたファンクラブで、本人の意思を無視してモモを追い回しているんだ。モモのことを責めるのはお門違いだろう。
だがしかし、そのファンクラブのせいで平穏が奪われてしまったのだ。モモが隣の席なせいでファンクラブの奴らが邪魔だ。それが嫌で部室で昼休みを過ごすことにしたのに、ほぼ毎日モモがこの部室に逃げ込むようになったので、モモを捜索するファンクラブの奴らの足音と声で廊下がいつも騒がしい。鍵を閉めているので奴らが入ってくることはないが……。
「なんですか?」
「……いや、なんでも」
未だに信じられない話だが、モモは宇宙人で、どこかの国の王女様らしい。俺達地球人にはない、悪魔のような尻尾がモモが宇宙人であることを証明している。しかも尻尾からビームまで撃てちゃう。
一度でいいからこの尻尾を触ってみたいのだが、どうやらモモにとっては性感帯のようなものらしく、スケベだと言われ触らせてくれなかった。性感帯を無防備に露出しているのも相当スケベだと思うのだが。
「……また尻尾ですか。触るのはダメですからね」
「じゃあビーム撃ってるとこ見せてくれよ。一発だけでいいから」
そういうとモモは呆れたような表情を見せる。仕方ない、男っていうのはいくつになってもビームや合体や変形が大好きなのだ。ビームを見られるのなら見たいのが男だ。
モモの双子の姉だか妹だかのナナもクラスにいるのだが、生憎ナナとはそこまで仲良くない。むしろ警戒されていると言ってもよい。
「それも嫌です。ケイさんの前ではしたないところは見せたくありません」
「はしたなくない。かっこいいだろビーム」
「はぁ、やっぱりケイさんは変わっていますね。VMCの人達と違って下心は感じませんが、リトさんともまた違うタイプの方で……」
「まぁ、気持ちはわかるけど。だって、モモ可愛いし」
「……」
そう告げると、照れたモモは髪を指に巻き付ける。彼女の癖だ。照れた時、あるいは考え事や妄想をしている時、よくこれをしている。元がくせっ毛なのか、長時間考え事をした後は髪がくるくるになっている。
「意外と褒められ慣れてないのな」
「ケイさんとリトさんに褒められるのは特別なんですっ。……よければ今日の放課後、一緒に映画でも見に行きませんか? この前商店街の福引で映画館のペアチケットをいただいたのですが、一緒に行く方がいなくて……」
「結城先輩と行けばいいんじゃないの?」
「……」
「はいはい、分かってる、分かってるって」
ジトーとした顔つきで睨まれる。俺はそこまで鈍くない。相手が見つからないなんて全くの嘘で、俺と出かけるためのただの口実。それが恋愛感情なのかは分からないが、少なくとも慕ってくれているのは事実。
「折角なら明日にしない? 祝日だから時間あるし、映画以外にもいろいろ遊べるし。映画以外興味ないって言うなら今日映画見に行くだけでもいいけど」
「……いいんですか? 1日中付き合っていただきますよ?」
「いいよ。夜明け前からとかは勘弁だけど」
「そんなことしませんよ。どこもお店空いていませんし。……本当にいいんですね? やっぱりナシはナシですからね」
グイグイと距離を詰められる。近くで見るとやっぱり可愛いんだよな。あと良い匂いがする。しかもビームまで撃てる。なんてお得なんだ。
「ふふふ、丸一日……朝から晩まで……ふふふ……」
「好きだな、妄想。……反応ないし」
教室でも時々妄想に耽っているが、俯いてブツブツと呟くその様子は実に不気味……率直に言うなら若干気持ち悪い。これがモモではなくあの校長であったなら即通報ものだ。……いや、そもそも道の真ん中だろうとパンツ一丁になったりするし、普通に校長は通報すべき案件かもしれない。
それはさておき、こうなったモモは自然と現実に戻ってくるのを待つしかない。のんびり昼飯でも食べていよう。ブツブツと少しうるさいが、ファンクラブの連中に比べたらはるかにマシだ。
「ふーん……ケイくん、モモちゃんとお出かけするんだー」
「はぁ……窓から入ってくるなって言ってるだろ。落ちたら危ないから」
「そんなへまはしないよ」
メア――もとい黒咲芽亜。同じくメアも同級生で、クラスでは俺の後ろに座っている。ちなみにこいつも宇宙人だ。ナナもヤミもいるし、うちのクラス宇宙人ばっかだな。しかもことごとく美少女。メアは正規の方法で入学したようだが、他の奴らは全員口を揃えて校長に直談判したと言う。ちゃんと身辺調査しろや。
よくわからんのだが、本人曰くメアは兵器らしく、髪を刃のように変身させたり、手からビームを撃てたりする。それから他人の精神に入り込んだり、肉体を乗っ取ったりできるらしい。俺もその被害者だ。
「それに、いっつも鍵がかかってて正面からは入れないもん。だったら窓から入るしかないよね」
「何がだったらなのか知らないが、鍵をかけないと鬱陶しいファンクラブが入ってきかねないからな」
メアはこうやってたまぁにここに遊びに来る。大体モモがいないときに来るのだが、今日は珍しい。
「何か用?」
「わたしも映画のチケットもらったからケイくんを誘いに来たんだけど、へーっ、モモちゃんと2人っきりで遊びに行くんだねー」
「そうだけど」
「へー、ふーん」
少し不機嫌そうに取り出したペアチケットを懐にしまうと、長い三つ編みの髪を未だ妄想中のモモの額に押し当てた。これだけで相手の精神に入れるらしい。
自意識過剰、調子乗んなカスと周りから言われそうだが、メアも俺のことを好いてくれている。そしてこちらは確実に恋愛感情だ。もう断言できる。週に1回くらいは我が家に無断侵入しては、まるで自分の家かのようにくつろいでやがる。そのまま絶対泊まってくし、風呂には乱入してくるし、俺の体を操って体を舐めさせられる。これが恋愛感情じゃないのなら俺はもう何も信じられない。
というかメアがこの話をナナにするせいで、ケダモノだのなんだのと俺がナナに警戒されてるんだからな。俺は何も悪くねぇ。メアが勝手に不法侵入して、メア自身の意志でやっていることだ。
「メアも一緒に行く?」
「一緒に……? ケイさん! 一体どういうことですか!?」
「別にいいだろ。デートならともかく、普通に出かけるだけなんだから」
「わ、私はデートだと思ってたのに……」
「モモの認識はどうであれ、俺はデートだとは思ってないから」
「うわっ、ケイくんさいてー……まぁわたしはモモちゃんと一緒でもいいけど。ケイくんとモモちゃんが2人っきりでお出かけするのは嫌だけど、3人で出かけるのは楽しいからね」
「ほら、メアはこう言ってるぞ?」
「…………ケイさんがそういうなら、明日は3人でお出かけしましょう」
しぶしぶ、本当にしぶしぶといった感じでモモが了承する。2人きりを望んでいたモモには本当に申し訳ないのだが、メアと2人きりで出かけるとあっちこっち歩き回って疲れるからな。モモにストッパー役になってもらおう。
「3人でお出かけ楽しみ~。ねぇねぇ、これって3Pって言うんだよね? 素敵!」
「ただ出かけるだけだから3Pではないな」
「本当に3Pになっちゃうかもよ。ねーモモちゃん?」
「メ、メアさん!」
うーん、メアはもう少し恥じらいというものを持ってほしい。
「あっ、そうだ。今日ケイくんのお家に遊びに行ってもいい? 折角お出かけするなら家から一緒にお出かけしようよー」
「ダメって言っても不法侵入してくるだろ」
「……えっと、一体どういう?」
「"ケイくんとお泊り"だよ、モモちゃん」
「………………はい?」
続くかもしれない。続かないかもしれない。
続くとしたら1年生メインのお話になる予定。