宇宙人から好かれています 作:モブ地球人
鍋、それはパーティーのお供……たぶん。適当に具材を用意して、テーブルの真ん中にドーンと置いておけばそれっぽくなる。後片付けも比較的楽だ。具材の用意も適当な大きさに切っておくだけでいい。こんなに素晴らしい料理はそうそうない。問題は若干季節外れなところか。まだ夏だし。
「何それー」
キッチンで鍋の準備をしていると、いつの間にか後ろに立っていたメアが肩からひょこっと顔を出してくる。どうやら今入れた謎の液体が気になるようだ。
メアのお泊りという言葉に過剰反応していたモモだが、揉めに揉めた結果、今日はモモも我が家に泊まることになった。めんどくさいことになったが、決まってしまったものは仕方ない。3人分も飯を作るのは大変なので、今日は鍋にすることにしたのだ。
ちなみに、モモは今ホームステイ先にお泊りセットを取りに帰っている。メアのはすでに我が家に常備されているので、こうして準備中の俺にちょっかいを出してきているというわけだ。
「鍋の出汁の素。これ入れるだけでいい感じになるからおすすめだぞ」
「な、べ……?」
「食べたことない? ここら辺の野菜とか肉とかを突っ込んで、いい感じに煮込んで食べるのが鍋っていう料理だぞ。砂糖は入れるなよ」
「ふーん……いつもみたいな料理は作らないの? 唐揚げとか」
「だって3人分作るのめんどくさいし。だから準備が楽な鍋にした」
「一応モモちゃんって王族だよ? もっと豪華な料理にした方がいいんじゃないの?」
「モモ王女様のお気に召さなければ作るよ」
学校でも普通の弁当を食べているわけだし、高級食材しか食べられないということはないだろう。それにモモは優しい。ちゃんと美味しいものを出しておけば喜んでくれるだろう。
「……あっ、モモちゃんからメッセージ。『ナナに足止めされていて遅れてしまいます』だって」
「ふーん、ナナとしては行かせたくないんだろうな。了解って返しといて」
「はーい」
大方『あいつはケダモノだからやめとけ』みたいなことを言っているのだろう。よく2人で喧嘩しているところを見かけるが、なんだかんだいってモモのことを大事に思っているみたいだし、本当に心配してモモを引き留めているに違いない。
「ケイくんってナナちゃんと仲悪いの? 話してるところほとんど見たことないし」
「俺はナナのことは嫌いじゃないけど、ナナが俺のことを警戒してる感じ」
「えー、ケイくん良い人なのに……」
「メアが変な伝え方するからだよ。ペロペロが上手だとか、一晩中一緒にいたとか、そういうこと言うから俺がケダモノ扱いされて警戒されるんだ。実際はメアが勝手にやってることだから、むしろケダモノはメアの方なのに」
「好きな人とえっちぃことしたいっていうのはごく自然な欲求じゃないの?」
本当に疑問なのだろう、頭の上にはハテナが浮かんでいる。そしてさらっと好きな人とか言っているあたり気持ちを隠すつもりはないんだな、今更だけど。メアの気持ちを知っておきながら、告白されてないからと保留にしている俺は多分クソ野郎なのだろうな。まぁ今後も告白されるまでは保留するけど。
「メアの言うことはごもっともなんだけど、人間社会はめんどくさいんだ。本能がどうであれ、エロい話は公の場ではしないっていうマナーというかなんというかがあるんだ」
「ふーん……ケイくんもそういう欲がないわけじゃないんでしょ? 昨日も1人でシてたみたいだし」
「……してない」
「ケイくんの部屋からえっちぃ匂いしたもん。ケイくんの匂いなら何でも知ってるからね」
ちゃんと換気したはずなのに……あと言っていることが怖い。メアなら本当に知ってそうだからなおさら怖い。
「どんなことしてたのか、
「ダメー、見せませんー」
「あー、やっぱりしてたんだー」
しまった、嵌められた。というか俺がおバカすぎた。こんな漫画あるあるみたいな手に引っかかるなんて……くそぅ、むかつくぜ。勝ち誇ったようにニヤニヤするメアに腹が立つ。可愛いと思ってしまうことにも腹が立つ。
「……なんで、村雨せんぱいに似てる人なの?」
「ちょいちょい、見るなって言ったのに」
「村雨せんぱいに似た人でシてるの、なんで?」
「だって静ちゃん先輩可愛いし」
ぶっちゃけ好み。ナース姿とか、いいよね。優しいし、スタイルも良い。それに念力まで使えちゃう。もう言うことなし。一度念力の暴走で静ちゃん先輩の頬にキスしてしまったことは一生の秘密だ。照れ照れになる静ちゃん先輩はすごく可愛かったです。
精神侵入されていることをすっかり忘れてこんなことを考えてしまっていたため、メアに全て読まれてしまった。ものすごい顔をしながら横腹を殴られる。
「いたっ、痛いって。勝手に覗いておいてキレるな」
「なにそれ、なにそれ、なにそれ。村雨せんぱいにキスしたなんて聞いてない」
「だって言ってないし。というか誰にも言わないでって言われたし」
いくら頬にだったとはいえ、静ちゃん先輩からしたら知られたくなくて当然だよな。話なんてどこから広まるか分からんわけだし。静ちゃん先輩としても、意中の相手……かもしれない結城先輩だけには知られたくないだろう。まぁ覗かれたせいでメアにはバレてしまったわけだが。
「盗られちゃった、ケイくんのファーストキス……」
「そもそも初めてじゃないけど。彼女いたことあるし」
「は?」
「メアちゃんお口、お口が悪いですわよ」
激おこプンプン丸モードに突入したメアにより、体中に髪を巻き付けられて拘束され、吊るし上げられる。なるほど、恋する乙女の嫉妬は怖いな。
「答えて。いつ、誰と。それから今でも付き合ってるのかも」
「中学の時に同級生と。県外の高校に行ったから名前言ってもわかんないと思う。1ヵ月もしないで別れたから今はフリー」
その言葉に安心したのか、わずかに拘束が緩む。フリーでなければ、もっと言えば多少なりと好意がなければメアを自宅に泊めたりなんて絶対にしない。まぁそれはモモに対しても言えることなんだけど。
「静ちゃん先輩とも何もないよ。事故でしかなかったわけだし。記憶覗いて確かめてもいいぞ」
「……いい、ケイくんを信じる」
「ん、ありがとう」
地表に下ろされ、拘束から解放される。精神侵入で心を読まれていたからこそ、すんなり解放してもらえたのだろう。三つ編みを揺らし、どこか恥ずかしそうに、だが確かに嬉しそうな表情をするメアを見てそんなことを思う。
「紅茶飲んでもいい?」
「いいよ。後ろの棚にパック入ってるからそれ使って。砂糖も適当に使っていいから」
「はいはーい」
完全に機嫌が戻ったメアは鼻歌交じりに紅茶の準備を始める。やっぱりこういうところが可愛いんだよな。本人は知らないようだがメアに気のある奴も何人かいるし。『メアちゃんを賭けて勝負しろ』的な果たし状が靴箱に入っていた時は面白かったな。
心地よい鼻歌を聞きながら、こちらはこちらで鍋の準備を進める。モモは遅れてくるようなので、具材だけ切り分けておいて、モモが来てから鍋に具材を入れて煮込み始めればいいだろう。というわけで準備はこれでおっけー。
「お疲れー。はい、ケイくんの紅茶」
「さんきゅー」
メアから紅茶の入ったカップを受け取り、紅茶を少量口に含む。うむ……ちょっと甘いな。これは角砂糖20個くらい入ってるかな。
うちに来るとこうしてメアが紅茶を入れてくれる。本人の量よりも少ないが、大量の角砂糖を入れて。めちゃくちゃ甘党なメアに付き合っていたら、気づいたら俺も甘党になってしまった。というか味覚が壊れてしまったが正確かもしれない。角砂糖20個はヤバいです。たまにしか飲まないとはいえ、そのうちなんか病気になって死んでしまうのではないだろうか。
あとはモモが来るのを待つだけだし、テレビでも見てまったりしてるかぁ。ちょうど好きなバラエティ番組が始まる時間だ。録画してるからいつでも見られるとはいえ、リアルタイムで見た時の楽しみは別格。
「ケイくんいっつもこの番組見てるよね」
「だって面白いし。メアも好きだろ?」
「うん、好きー。特にこの芸人さん、いつ見ても面白いよねー」
「去年グランプリ取った人だしな」
2人で紅茶を飲んで、時折お菓子をつまみながら笑い合う。不法侵入してくるのは困るけど、こうしてメアと過ごす時間は好きなんだよな。恋愛感情じゃなくて友愛だけど。
『ピンポーン』
「あー、モモが来たかも。よっこいしょ」
「わたしが行ってくるから、ケイくんは座ってていいよ」
「そう? じゃあよろしく」
「はいはーい」
厚意に甘えて、モモの出迎えはメアに任せる。のんびりテレビを見て待っていると、玄関のドアが開いた音がしたしばらく後、どたどたと廊下を走る音が響いた。
「ケイさん! 元カノってどういうことですか!? 今すぐ説明してください!」
あー、めんどくさいことになったなぁ。メアに任せなければよかった……。
お静ちゃん好き。でもこの作品では多分ほとんど出てこない。