転生者『虚飾の魔女』(なお中身)   作:白金の絹糸

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2人目の持ち主

 

 

 それは瀞霊廷通信を十二番隊に届けに行った時の話だ。

 

「マユリさま、本日の予定を……」

「……!!」

 

 涅マユリ。喜助が消えてから十二番隊の隊長になった男だが、私はちょっと苦手だ。小難しい話し方をするのもそうだし、雰囲気がマッドサイエンティストみたいな感じだし。

 意外にも瀞霊廷通信を愛読してくれているらしいので毎月届けに行くのだが、毎回一言二言交わすだけですぐに帰っていた。

 

 の、だが──。

 

「瀞霊廷通信ならその台の上にでも置いてくれれば──」

「見ない顔ですね。誰かのご令嬢でしょうか」

 

 瀞霊廷通信を手に持ったまま一瞬意識が飛びかけたが、なんとか戻ってきて平静を装う。

 

「君には関係のない──」

「虚飾パンドラと申します。よろしければ、あなたのお名前を聞いても?」

「無視をするんじゃないヨ」

 

 奇抜な格好でいつも目立っているマユリも今は眼中に入ってこない。

 だって、その少女の声。

 聞き間違えるはずもない。その声は、紛れもなくCV. くぎゅう。

 

「……眠七號(ねむりななごう)ともうします」

「素晴らしい……これほど感動したのは、初めての事かもしれません」

「おい──」

「お菓子はお好きですか? 最近できたカステラのお店があるのですが、一緒にどうでしょう?」

「えっと……あの」

 

 少女の手を取り、お菓子に誘う。

 何歳かは分からないが、恐らく1桁歳。誰についてきたのかも分からないが、マユリと一緒にいるよりは私とのいた方が保護者も安心だろう。幼子にこんなメカメカしいし、薬々しい? 場所は似合わないだろうし。

 

「保護者の方には後ほど、私の方から連絡しておきますので。ああ、どうぞ安心を。これでも私は護廷十三隊の九番隊隊長を務めている身ですから」

「勝手に話を進めるんじゃない。コレの保護者は私だ」

「おや、そうでしたか。確かに、あなたも声は良いですから納得といえば納得ですね」

「ようやくこちらを向いたか」

「ではお父様、お嬢様をお借りしますね?」

「おい、何を勝手に──」

 

 ▼△▼△▼△

 

 眠七號という名前、聞いた時に変な名前だとは思ったが、マユリが親なら納得だ。まぁ、その声の前には名前が変な事など些細な問題である。

 

「お口には合いましたか?」

「口のなかの水分が急速になくなっていくのを感じます」

「確かに、カステラを食べると口の中が乾燥しますね」

 

 なんやかんやとマユリを言いくるめて眠七號ちゃんをカステラのお店に連れてきた。

 美味しい美味しくない以前に口の中の水分が持っていかれた事が気になるらしい。食べた事ないって言っていたし、初めて食べたらそういう感想にもなるかもしれない。乾燥だけに。

 

「お茶もありますよ。抹茶は大丈夫ですか? 苦手であれば水もありますので」

「あの……どうしてわたしを?」

「簡単なお話です。あなたのその声」

「声……?」

「ええ。その声は至宝、世界の宝といっても良いでしょう。一声を聞いただけで、声を掛けずにはいられませんでした」

 

 今さらながら、やっている事も言っている事も普通に不審者だが、その辺りは隊長として身分が保証されているので許してほしいところ。

 

「そうですね。では、帰ったらマユリにこうしてみてください」

 

 初対面で長時間付き合わせるのも良くないかもしれないので、今日のところはお菓子だけ食べて解散とした。

 

 ▼△▼△▼△

 

 数日後。

 

「マユリさまから、この声について聞いてくるように言われました」

 

 次はいつ会いに行こうか考えていたら、むこうから来てくれた。

 

「ようこそおいでくださいました。昨日買ったばかりのお菓子がありますので、食べながらお話ししましょう」

 

 いつ誰が遊びに来ても良いように、私の隊首室にはお菓子を切らさないように置いている。

 

「つぶあん、こしあん、イチゴ。大福があるのですが、どれが良いですか? 全てでも構いませんよ」

「じゃあ、すべてもらいます。マユリさまから、取れるものはすべて取ってくるように言われました」

「マユリにお土産として持って帰っても構いませんよ」

 

 普通、お邪魔した先で出されたお菓子を全部持って帰るとかマナー違反もいいところだが、この場においてはマナー(そんなもの)なんてないのだ。

 

「さて。声について、でしたか」

「はい」

 

 大福を食べて一段落したところで本題へ。

 

「一般論として、世界には全く同じ顔の者が3人いると言われています。私はその方面には明るくありませんので詳しい事は分かりませんが、おそらくはそれぞれの顔の部位の大きさや形が一致する確率を考えるとそうなるのでしょう。もちろん、双子や三つ子、それらに類する例となると話は変わりますが」

 

 一般論とか言ったが、実際にどうなのかは分からない。ただ、ドッペルゲンガーみたいな話もあるし、ある意味ロマンがある話でもあるので良いとしよう。

 

「私は、これは声についても同じ事が言えると考えています。つまり、私と全く同じ声を持つ方がこの世界にあと2人」

 

 簡単に言うと、声版ドッペルゲンガー的な。まぁ、つい最近、彼女の声を聞いてから思い付いたものだが。

 メタ的に考えると、くぎゅうは超有名声優なのだからブリーチに出演していても全くおかしくないし、なんなら同じ作品内で掛け持ちをしている可能性だってある。

 

「あなたはその1人なのです」

「わたしの声が、虚飾隊長と同じということですか?」

「ええ、その通りです。自分の声だと分かりにくいかもしれませんが、私の声を聞いてどうですか? 私の乏しい語彙では表現するのが難しいのですが、鈴の音のような声、さしずめ魅惑の美声といったところでしょうか」

「は、はぁ……?」

「この声はあなたたちが朽木家の長老などとも呼ぶ不老不死も虜にするほどですから。あなたも、その声は大切にしなければなりませんよ」

 

 あと、これは個人的な願望だが、そのうち耳元でASMRしてほしい。自分では出来ないので。

 

「一度にたくさん話し過ぎましたね。今日のところはこのあたりにしておきましょうか。私はいつでもお待ちしていますので、気軽にお越しくださいね。ああ、好きなお菓子があれば次までに用意しておきますよ」

 

 という事で、今日のところはお開きとなった。

 1人で帰すのもアレなので、ちゃんと手を繋いで十二番隊の隊舎まで送り届けた。

 

 ▼△▼△▼△

 

 ▼△▼△▼△

 

「初代護廷十三隊の隊長を虜にする声か。興味深い」

 

 ▼△▼△▼△

 

 ▼△▼△▼△

 

「最近、マユリ様が眠七號と呼んでくれなくなりました」

「それは大変ですね。もしや、“おい”や“お前”などと呼ばれているのではありませんか? あなたがそれを気に入らないと言うならば、私の方からも抗議しておきましょう」

「マユリ様は私を眠七號ではなくネムと呼ぶようになりました」

「なるほど、そうでしたか」

 

 初めて会った日から数年。眠七號はすっかり幼女から少女に成長し、そしてマユリの命令もあって九番隊の隊首室に入り浸るようになっていた。

 マユリ的には私の何かしらを研究したいとか思っているのかもしれないが、私としては全然ウェルカムなので気にしていない。

 

「それは愛称というものですね。より親しみを込めた呼び方です。あなたが嫌ならばやめさせるべきですが、恐らくマユリはマユリなりに距離を詰めようとしているのでしょう」

「そうですか……」

 

 かわいいなんて柄ではないだろうし、そのセンスは全く分からないが、マユリなりに父親をしようと頑張っていると思えば可愛く見えてくる気がしないでもない。

 なんて考えていると、ダダダーッと廊下を走る足音。

 

「ドラドラ〜! 次に出す写真集考えたよ! あたしとドラドラの2人で写るの!」

「それは良いですね」

 

 バッと扉を開けたのは、予想通りやちる。やちるもやちるで結構ウチに来るので、最近は隊首室の幼女率がかなり高かった。

 

「あっ! また誘惑の練習? あたしもやるー!」

 

 と、やちるは私の背中に飛び乗ってきた。眠七號の隣に。

 そう。普通に喋っていたが、ずっと私は耳元でくぎゅうボイスを堪能しながら会話していたのだ。ある程度仲良くなった段階で生ASMRを教え込んだのである。

 天国とはまさにこの事で、自分越しでも楽しめるとは言っても、やっぱり音の伝わり方とかがあるから、やっぱり他の人にやってもらう方が良い。

 ついでに興味を示したやちるにも教えた。結果は芳しくなかったが。

 

「なんの話してたの?」

「マユリが名前で呼んでくれないという話をしていました。とはいえ、どうやら愛称で呼ぶようになったという事のようですが」

「そうなんだー、どんなの?」

「ネム、らしいですよ」

「ネムネムだもんねー」

 

 まぁ、そうだ。

 やちるは私をドラドラ、不老不死をふしりんなど人をあだ名で呼ぶ事が多い。会うことが多い眠七號の事も例の如くネムネムとあだ名で呼んでいた訳だ。

 たぶん、やちるがそう呼ぶ事自体気にしていなかったのだろうし、当の本人が眠七號という名前を気に入っている様子だったので私はそう呼んでいたが、どちらかというとネムという呼び名の方がかわいいので、本人が気に入ってくれたら私もそう呼びたい。

 

「一度、マユリと話してみると良いですよ。もしかすると、彼も勇気を出してそう呼び始めたのかもしれません。あなたもマユリ様ではなく、お父様と呼んでみるのはどうですか?」

「お父様、ですか……?」

「ええ。あなたにとってマユリは父親でしょう?」

 

 正確にいえばマユリの子供ではなく、マユリの遺伝子か何かを使った人造人間? 的な存在らしいが、細かい事は良いだろう。私からすると、親を名前+様で呼ぶって変だし。

 

「……そうしてみます」

「あっ! そういえばここに来る前に卯ノ花さんがドラドラのこと探してたよ!」

 

 右からくぎゅうボイスのささやき声。左から元気な大声。

 温度差がすごい。まぁでも、悪い感じはしない。これが“整う”って事なのかな? あんまりサウナとか行った事なかったから知らないけど。

 

 





 ○パンドラ主
 ネムという釘○ボイス仲間を見つけてほくほく。保護しなければならないと考えている。なんなら、自分を第2の保護者ぐらいには思っている。
 近頃、ネムにやちるという幼女2人を両手それぞれに手を繋いでいるところが散見されていた。
 今さらではあるが、声フェチ。

 ○眠七號(なむりななごう)/涅ネム
 マユリの被造死神計画によって生み出された人造死神。今はまだ原作時点ほどは成長しておらず、女児から少女あたりの姿。
 パンドラ主に褒められまくったので、自分の声には自信がある。

 ○涅マユリ
 パンドラ主が大げさなほど褒め称えるネムの声について色々と調べたが、結局特に何もなかった。特別な力でもあるのかと期待したマユリはキレた。
 パンドラ主がASMRを教えた事でネムはマユリの耳元でもささやくようになったし、謎にお父様とか言い出した。マユリはキレた。

 ○草鹿やちる
 パンドラ主がASMRを教えたが、よく理解しておらず、他人の耳元で大声を出すようになった。更木剣八からはパンドラ主へ文句が入った。

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