転生者『虚飾の魔女』(なお中身)   作:白金の絹糸

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現世での実習

 

 

 霊術院の特別講師にも慣れ、最初は6年生だけだったのが、1年生から6年生まで全ての学年を担当する事になっていた。結構楽しいし、子供を見るのは癒されるので、担当する学年だけでなく、頻度も増やしていいかな、なんて思ったりもした。

 もしかして教師向いてるかな? 

 

『良い面だけ見て向いているなんて、浅はかとは正にこの事だね』

 

 分かってるわい。

 ブラックだって聞きますもんね。向いてないって分かってるよ。ちょっと思っただけだし。

 

「あ、虚飾隊長! 今日は特別講義ですか?」

「ええ。今日は4年生に。あなたはこれから実習ですか?」

「はい! 現世に一回生を連れて!」

 

 講義を終えて廊下を歩いていると、6年生の3人組に遭遇した。その中で先頭にいたのは、実は霊術院に入学する前から知っている少年……青年? 少年と青年の差って微妙だからどっちで呼んだら良いか分かんない。

 

「そうでしたか。気を付けてくださいね、修兵」

「はい! 気を付けます!」

 

 ツンツンな感じの黒髪に、頬には青い一筆書きの蝶みたいな入れ墨がある、その名は檜佐木修兵。入れ墨は私の髪の青い紐をイメージしているらしい。虚化事件の時に虚に襲われているところを助けたのが出会いで、卒業前から護廷十三隊への入隊が決まっている優秀な人材でもある。

 もちろん入隊先は九番隊。優秀な人材はいくらでもお待ちしています。

 

「私も午後から現世に遊びに行くので、もしかすると向こうで会うかもしれませんね」

「楽しみです!」

「あなたたちも、気を付けてくださいね?」

「「は、はい……!」」

 

 ▼△▼△▼△

 

 午前中に特別講義をして、午後はお休み。

 という事で現世である。

 

「なんか、かなり景色変わってきたなァ……」

「ええ。既に昭和も後半。最後の戦争から時間も経ちましたし、これからもどんどん成長していきますよ」

 

 もう1つ上から限定霊印を付けて義骸も用意して、現世へのお出かけ。現世にしかないものというのも多いし、来るごとに技術などが成長していっているので、毎回来るのが楽しみなのだ。

 

「んで、今日はどこ行くんだ?」

「カラオケ──ですね」

 

 そう、実は今回はいつもよりも楽しみ度が高かった。ついにカラオケが開発されたのだ。

 

「あー、あー……ふふ、楽しみですね。この声が活かせる曲があると良いのですが」

「浮かれすぎだろ……」

 

 という事でやってきましたカラオケ喫茶。

 まだカラオケボックスは普及していなかったのだ。

 

「意気揚々と来て何手間取ってんだ?」

「少し待ってください。私も触るのは初めてでして……」

 

 カラオケ喫茶自体は前世も行った事はなかったが、初めての場所を開拓するのも楽しみというもの。

 が、ここで問題発生。私が知っているカラオケと全然機械もシステムも違ったのだ。

 

「お嬢ちゃん、外国から来たのかい。入れ方わかる?」

「ええ、すみません。実はよく分からなくて」

「貸してみな? 曲はどうする?」

 

 心優しいおじ様のおかげで助かった。

 

 残念ながら、萌え萌え曲みたいなのはまだなかったが、私でも知っている前世基準で昔の曲はあったので、それを全力で振り付けをしたりしながら歌った。

 久しぶりだからか、めっちゃ楽しかった。

 

「いいぞー!」

「もう一曲もう一曲!」

 

 すると、周りのお客さんも巻き込んでの大盛況。声だけでなく、私は歌も上手かった。

 本当ならたぶんマナー違反なのだろうが、他の人たちに促されて、超有名曲を3曲ほど歌わせてもらった。

 

「オマエはしゃぎすぎだろ……」

「そうですか?」

「自覚ねェのかよ。他の奴らが見たらぶっ倒れるだろ、コレ」

 

 長らく当たり前になっていたが、くぎゅうボイスの本領が発揮出来たのではないだろうか。

 

「すごいなお嬢ちゃん。アイドルとしてやっていけるよ」

「本当ですか? 照れてしまいます」

「それにしても日本語上手だなぁ」

「たくさん勉強しました」

「いや、本当、日本人みたいだ」

 

 色白はもとより、白金の髪に青い瞳。普通に外国人に見えるだろう。話がややこしくなるので、わざわざ訂正したりはしない。

 

「君は歌わないのかい?」

「アタシの事はほっとけ。シッ、シッ」

「申し訳ありません。彼女は恥ずかしがり屋でして」

 

 たぶん知っている曲もなかっただろうし、あっても歌わなかったと思う。恥ずかしがり屋というタチではないが、周りにちょっとでも微妙な反応をされたら最低でも半殺しにして回りそうだ。

 かといって、私が歌った時のように盛り上がってもそんなに本人はノッてこなさそう。不老不死に歌わせるのは個室のカラオケボックスができてからになりそうだ。

 

 それからも何曲か歌って、カラオケ喫茶を出た。

 既に日が落ちていたので、どこかで夜ご飯を食べて帰るかという話になった。

 

 しかし、どこかの店に入る前に、急に大きな霊圧が現れた。

 

 ▼△▼△▼△

 

 ▼△▼△▼△

 

 雛森桃がその姿を初めて見たのは、授業に遅れそうになって真央霊術院の廊下を走っていた時だった。

 長く透き通った白金の髪。振り向いたその顔は、思わず一瞬呼吸が止まってしまうぐらい美しかった。死覇装の上に纏っていた白い衣装が護廷十三隊の隊長が着用する羽織だと気付いたのは、急いでいたはずなのにいつの間にか立ち止まっていて、それからさらに数秒が経ってからだった。

 どうして隊長がこんなところに? と疑問に思いながらも、授業にはしっかり遅刻した。

 

 そんな美しい隊長と一方的な再会は数日後だった。

 一回生を対象とした特別講義。現役の隊長を招いて護廷十三隊の歴史について学ぶというものだった。

 約950年前、護廷十三隊が創設された時から隊長をしていたという彼女は虚飾パンドラという名前だった。そんなにも前から生きているようには見えなかったが、聞けた話はとてもためになるものだった。

 

「あの、九番隊で欲しいのは、どんな人材ですか……?」

 

 講義の後半、時間が余ったとの事で質疑応答の時間が設けられた。

 生徒の1人が一番隊に入るにはどうすればいいか、という質問をした。答えとしては、死神の基本である斬拳走鬼を鍛えて真面目に勉学に励むこと、というありふれたもの。

 すかさず、桃は質問した。

 

「おや、九番隊ですか?」

 

 九番隊の隊長を前にして別の隊に入りたいと言うなんて失礼だ、などともっともらしく考えたわけではない。多少頭を過りはしたが、それよりもこの流れなら聞いても不自然じゃないと思ったのだ。

 

「そうですね……基本的には、先ほど言った一番隊と同様です。ただ、あえて九番隊というならば、事務作業が得意な方が来てくれると助かります。既に購読してくれている方もいるかもしれませんが、九番隊は毎月瀞霊廷通信を発行しています」

 

 初耳だった。瀞霊廷通信という存在自体は知っていたが、九番隊が発行しているというところまでは知らなかった。そもそも護廷十三隊が発行しているとも思っていなかった。

 

「とても嬉しい事なのですが、近頃は多くの方々に購読していただいているので、人手が必要なのです。そういう意味では、斬拳走鬼の中でも特に走が得意な方は配達員として優秀かもしれません。他にも、絵が得意な方もお待ちしています」

 

 ほとんど瀞霊廷通信関係だった。

 

「実は、そういう関係で予算を増やしていただいたので、九番隊は他の隊に比べて採用枠が少し多かったりします」

 

 ほとんどというか、一番隊と同様にというのはあってないようなものなので、全て瀞霊廷通信関係とも言える。今まで読んだ事はなかったが、興味が出てきた。

 

 他の教師の話では、次に彼女の特別講義があるのは二回生になってからだという事だった。

 少し残念に思いながらも、特別講義があった日から少しして、現世で魂葬の実習に初めて挑む日になった。現世へ引率してくれるのは、教師ではなく六回生の先輩だった。

 引率してくれる六回生は3人。その中でもリーダー格だったのは、虚飾隊長好きで有名な人だった。頬に髪紐を模した入れ墨を入れているだけでなく、既に九番隊への入隊が決まっていた。

 

「各自地獄蝶は持ったな? 行くぞ!」

 

 さすがは数年ぶりに卒業を前にして護廷十三隊への入隊が決定しているというべきか、頼りになりそうだと、ひと目見て思った。

 

 実習は順調に進んでいた。

 同じ班になった阿散井恋次や吉良イヅルと共に、現世の霊たちに魂葬を行う。座学では学んでいても、実際にやるのは初めて。現世に来る前のそんな心配は、ほとんど無意味だったかのように順調だった。

 そして、そろそろ実習も終わりとなる、その時だった。

 

「全員、下がれ!!」

 

 檜佐木の号令、その直前に()()()()()()()()()が突如として現れた。

 声の方向を見れば、随分と大きい虚。桃の身長の何倍もの大きさで、教本で学んだ通常の虚ではなかった。それは巨大虚(ヒュージ・ホロウ)。間違っても霊術院生が戦える相手ではない。

 

「みんな、逃げて!」

 

 引率の六回生の中で唯一の女子、蟹沢が浅打を手に巨大虚へと向かう。しかし、振るわれたたったの一撃に沈む。

 それに続く、六回生最後の一人である青鹿。やはり、一撃で倒れ伏す。

 

「逃げろ一年坊!! 出来るだけ速く、出来るだけ遠くに!!」

 

 最後の砦として立ち向かうのは、檜佐木ただ一人。

 他の一回生が逃げ出すのを横目に、桃はもう一つの大きく禍々しい霊圧が現れたのを感じ取った。

 

「な、何をしているんだ雛森くん! 止まっちゃダメだ!」

 

 立ち止まる桃に、吉良が声を上げる。

 逃げろというのは分かる。たった今、さらにもう一つの霊圧が増えた。戦って勝てる訳ないなんて事も分かってる。

 でも。

 

「おい、雛森!」

「雛森くん!」

 

 怖い。虚なんて実際に見るのだって初めてだ。

 たぶん、まともな判断ではないのかもしれない。けれど、飛び出してしまったものはもう仕方ない。

 

「”君臨者よ”!」

 

 檜佐木は、先の二人と違ってまともに打ち合えていた。

 

「”血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ”!」

 

 だから、狙うのは他の二体、そのどちらか。

 詠唱を進め、狙いを定める。

 

「破道の三十一! 赤火砲(しゃっかほう)!!」

 

 斬拳走鬼の中でも特に自分が得意としている鬼道を放った。一回生の中で、一番と言っても差し支えない桃が放てる最強の破道。

 しかし。

 

「うそ……」

 

 煙の向こうからは、無傷の大虚。

 

「ボケッとすんな、雛森!」

 

 振るわれた鎌のような爪を、阿散井と吉良の刀が受け止める。

 

「もう一度だ! お前の鬼道なら……」

「無理、だよ……あれで、無傷なんて……」

 

 桃に出来る事はもうなかった。

 鬼道が効かない。斬術は阿散井と吉良に敵わず、その二人ですら攻撃を受け止めるのが精々。

 

「もう一体っ!?」

 

 吉良の視線の先にはもう一体の虚。阿散井と吉良の二人がかりで何とか受け切れたのだ。二人はそちらから手を離せない。桃一人ではもちろん受けられない。

 

「クソッ……!」

 

 死。

 嫌でも浮かぶ、その一文字。

 

「──シャリオ」

 

 直後。夜空に輝く流星のように、閃光が瞬いた。

 

「おーおー、ウジャウジャいやがる。コレ、やって良いのか?」

「どうでしょう。危なそうだったのでつい手を出してしまいましたが、実習中なら邪魔をしてはいけないかもしれません」

 

 見覚えのある姿。聞き覚えのある声。

 それは、今この瞬間、何よりも願っていた助けの手で。

 

「虚飾隊長! お願いします!」

「どうやら手を出して良かったようですね。好きに暴れて構いませんよ」

「ヘッ」

 

 檜佐木の声に応じて、もう一人の方の紫髪ツインテールの少女が無手で飛び出す。その拳は、一撃で巨大虚を消し飛ばした。

 

「考えてみれば、あの大きさの虚は院生には荷が重いかもしれませんね。もう大丈夫です。あとは彼女が片付けてくれますから、泣かなくても良いのですよ」

 

 頭に置かれた手のひらから感じる体温。鈴を転がしたような声に、安心して力が抜ける。

 

「オラァッ!!」

「あなたたちも災難でしたね。おや、怪我をしている方がいるようですね。誰か、回道が使える方はいませんか?」

 

 白金の髪をなびかせながら、倒れる六回生の二人の元へと歩み寄る。

 

「応急処置だけしておきましょうか」

「オイ、片付いたぞ」

「さすが、早いですね」

「限定霊印と義骸のやりづらさに素手ってのを合わせても準備運動程度だな」

 

 紫髪の人が戻ってきた。周りを見渡すと、既に虚の姿はない。あんな短時間で全て倒してしまったらしい。

 

 そして、颯爽と駆け付けてくれた彼女たちは、虚を倒し傷を癒やして去っていった。

 

 ▼△▼△▼△

 

 あの一件以降、桃は卒業後九番隊に入ると決めた。

 得意な鬼道だけでなく斬拳走鬼まんべんなく、特に瞬歩を重点的に鍛え、元々得意だった絵も練習して腕前を磨いた。

 一度、色んな意味で先輩である檜佐木を見習って入れ墨を入れる事を考えたが、彼を尊敬していると勘違いされると困るので却下した。あの美しい髪のように、自分の髪を白金に染める事も考えたが、似合わないと周囲に止められ。着こなしを真似して肩を出してみたら、教師に怒られた。

 

 瀞霊廷通信も定期購読を始めた。

 表紙には、振り向き様に微笑む女神のような写真が使われていて、まず驚いた。表紙をめくるとそこから数頁にも写真が掲載されていた。別途写真が纏められている写真集があると知り、すぐに購入した。

 霊術院生が九番隊から購入した書籍は、纏めて係の者が受け取り、購入者はその係の者から受け取るという形になっていたが、配達を隊長が直々にしていると聞き、桃はその係に立候補した。もちろん希望者は他にもいたが、話し合って穏便に譲ってもらった。

 同じくその係であった檜佐木とそこで再会。無言で握手を交わした。

 

 瀞霊廷通信は毎月複数冊を購入し、表紙や巻頭の写真を切り抜いて部屋に飾り。女性死神協会というところから等身大ポスターが発売され、先着順で直筆のサインが付くとなった時には授業をサボって手に入れた。

 後で怒られるのは怖かったが、示し合わせる事もなく共に並んだ檜佐木と励まし合った。

 

 檜佐木が卒業してからも、九番隊に入るための努力は欠かさなかった。毎月、配達してくれる彼女との触れ合いが、限界以上に自分を奮い立たせた。そのおかげで六回生になる頃には、斬拳走鬼全ての項目で主席。座学に実習、あらゆる面で一番を取った。

 

 どこを見られても恥ずかしくない成績を引っ提げ、桃は無事に九番隊へと配属される事が決定した。

 

 

 





 ○パンドラ主
 実はカラオケが発明されるのをめちゃくちゃ楽しみにしていた。

 ○檜佐木修兵
 パンドラ主のファン。命を救われた時から、九番隊に入る事を目標にやってきた。頬には69ではなく、青色の一筆書きの蝶のような入れ墨が入っている。

 ○雛森桃
 パンドラ主の光に脳を焼かれてしまった。虚はほとんど不老不死が倒したが、パンドラ主の最初の一撃以外目に入っていない。パンドラ主の前では冷静を装っているが、限界オタクのようになっている姿が度々目撃されている。部屋にはパンドラグッズが溢れ、自分で作ったパンドラぬいぐるみと一緒に寝ている。霊術院卒業後は九番隊に所属。
 ちなみに阿散井恋次と吉良イヅルも九番隊所属に。

 ○藍染惣右介
 裏で色々とやっていた人。わざと霊圧を撒き散らす巨大虚を現世に放った。想定外だったのは、そのほとんどを不老不死が倒してしまったこと。一撃だけではあるが、シャリオのサンプルを集める事が出来たため、最低限の目的は達成した。
 
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