転生者『虚飾の魔女』(なお中身) 作:白金の絹糸
これから徐々にキャラ崩壊注意です(主に雛森)
「九番隊には慣れましたか?」
「は、はい! 先輩方もよくしてくれますので」
「それは良かったです」
今週は瀞霊廷通信の配達の日。印刷など本の用意自体はみんなにやってもらっているから、配達ぐらいはちゃんとやらせてもらっている。
ただ、一人で配達してもおもしろくないので、大体は一人九番隊の誰かを一緒に連れて行っている。今回の同行者は朽木ルキア。名字から分かる通り不老不死の家の者ではあるが、彼女の子孫という訳ではなく、現当主の白哉が義妹として養子にした少女だ。白哉から九番隊で面倒を見てほしいと頼まれて、ここに所属する事になったという経緯がある。
「瞬歩は得意ですか?」
「瞬歩、ですか……申し訳ありません。それほど得意というわけでは」
「謝らなくとも良いのですよ。ただの雑談なのですから」
少し前に亡くなってしまった白哉の奥さんの生き別れた妹らしく、それで養子として迎え入れたらしいが、本人にはその事を言っていないらしい。そのため、ルキアとしては訳も分からず貴族の養子にされたという状況。
色々と大変だと思うので、優しくしてあげている。
「やはり、瞬歩を重点的に鍛えるべきでしょうか」
「そうですね。何か一つ選ぶなら、私は瞬歩だと思います。そうすれば、万が一の際に逃げられる可能性も増えますので」
「逃げる、ですか……?」
「ええ。気に入りませんか?」
「いえ、そんな事は」
とはいえ、ルキアだけが特別という訳ではなく、大体の配達の同行者には九番隊に入ってあまり時間の経っていない者を選んでいる。やっぱり一度2人で雑談でもした方が私に対する取っ付きやすさみたいなものを感じてもらえるだろうし。
過保護なのか、白哉は入隊試験を飛ばしてルキアを入隊させようとしていたため、それを押さえてちゃんと入隊試験は受けさせた。だって、貴族特権でねじ込んだって事になったらやっかみを受けそうだし。そのおかげか、朽木家の者だという事に関しては、腫れ物みたいな事にはなっていない。たまに特別顧問としてお菓子持ち寄り会に来る不老不死が、良くも悪くも貴族らしくないところを見せまくっているというのもあると思う。
「元柳斎のような堅物は死んでも果たせという考え方をするかもしれませんが、私は出来るならば犠牲にはなってほしくないのです。仲間には、死ぬよりも生きていてほしいでしょう?」
「はい」
「それに、何も逃げるというのも負の側面しかない訳ではありません。もしも強大な敵に遭遇した時、自分では勝てないと思う敵に相対した時。立ち向かうのと逃げて情報を持ち帰るのでは、どちらの方が後の良い方向に繋がると思いますか?」
「それは、情報を持ち帰る方……です」
「その通りです。それに、戦って勝とうとすれば斬拳鬼と複数の項目に左右されますが、逃げるだけならば走一つで相手を上回ればそれで良い。命を賭して戦うという事自体は、私も否定しません。望むならば背を押しましょう。しかし、それだけが選択肢ではないという事も覚えておいてください」
「……はい!」
配達先に着くまでの間の雑談。
偉そうには言っているが、これまで色んな人に何度もやった使い回しトークデッキではある。ただ、こういう事ははじめの方に言っておかないと、何かあった時に無謀な特攻をしかねないので、チュートリアルみたいなものだ。犠牲なんてない方が良いに決まってるし。
「鬼道はどうですか?」
「鬼道には、それなりに自信があります」
「良いですね。では、破道だけでなく縛道も伸ばしてくださいね。特に、縛道の七十七である
一応地獄蝶や
「さて、十三番隊の隊舎が見えてきましたね。行きましょうか」
「はいっ、虚飾隊長!」
▼△▼△▼△
午前はルキアと配達し、食堂で昼食を摂ってから午後の配達。誰と行こうか考えていると、桃が立候補してきたので、彼女と行く事にした。まぁ、立候補というか、気付いたら背後に立っていたのだが。にっこり笑って。
普通にちょっと怖かったし。エキドナは気付いてたのに言わないし。
「そうだ、聞いてください虚飾隊長! 実は天挺空羅が出来るようになったんです! まだ安定はしていないんですけど」
「それは素晴らしいですね。九十番台まであと少しといったところでしょうか」
「そ、それは……はぃ、頑張ります……」
桃とは霊術院時代から少し交流があるが、びっくりするぐらい優秀な人材だ。席が空いていたからとはいえ、入隊してすぐなのにもう席官になっている。
「あっ、それと、始解も出来ました」
「さすがです。こうも早く始解に至るとなれば、卍解もすぐにしてしまうかもしれませんね」
「あぅ……頑張ります……」
私の場合が例外で、普通は始解するのも難しいらしい。何十年かかる事もザラにあるとか。当たり前のように始解したり卍解したりしてる隊長たちの方がおかしいレベルで。まぁ、私の場合は最初に触った時点で始解も卍解も出来る状態になってたから、例外中の例外なのだが。
「さて、それでは行きましょうか」
「はい! どうぞ!」
雑談しながら配達する分の瀞霊廷通信を纏めて、それを持ったまま、桃は少し体勢を低くした。
「では、失礼しますね」
私はその背中に乗った。
『数百年単位で年下の背中に乗るなんて、まるで介護のようだね』
おい、ライン越えか?
不老不死の背中に乗ってるところを見られて、あたしもしたいですって言われただけなのだが? 瞬歩の練習だって言うから手伝ってあげてるだけなのだが?
『君こそ瞬歩の練習をした方が良いんじゃないかい?』
だまらっしゃい。人には得意不得意があるんですぅ。
『逆に何が得意なのか聞きたいところだけれど』
「行きます!」
トコトコと屋外まで歩き、そして視界が流れ移る。
不老不死ほどではないが、立派な瞬歩だ。私のようにドタバタしていない。
「着きました!」
そうして到着したのは八番隊の隊舎。
「素晴らしい瞬歩ですね。よく鍛錬しているのが伝わってきます」
「あっ……う、嬉しいです……」
「人一倍頑張っている事は分かっていますから。おうえん、しています……」
「はひっ……」
まぁ、ちょっと甘やかしている自覚はあるが、多少甘やかすぐらいでは足りないぐらい努力してるのは知っているので。
あの真面目人間である要をして、やり過ぎと言われるぐらい仕事も鍛錬も欠かした事がないのだ。こっちとしては助かるのだが、心配になる時もある。
「おや、虚飾隊長。瀞霊廷通信の配達かい?」
と、門の向こうから出てきたのは、八番隊の隊長である春水だ。
隊長羽織の上に女物の着物を着ていて、頭には笠を被っているという特殊なファッション。結構前に、元柳斎にみっともなく着崩すのはやめろみたいな事を言われた事があるが、じゃあアレは良いのかと引き合いに出したら黙認された過去があるので、思うところはない。プラスマイナスゼロ的な意味で。
「ええ。今月分です」
「ありがとうね。毎月楽しみにしてるんだ」
「そう言っていただけると嬉しいですね。原稿が遅れさえしなければ文句もありません」
「それはごめんよ。仕事が忙しくてね?」
「そうでしたか。では、七緒が言っていた仕事を放り出して女を口説いていたというのは嘘だったのですね?」
「いやぁ〜、あはは……」
春水はすぐに女を口説くらしい。七緒情報によると。生憎と私は口説かれた事はないが。
べつに仕事をサボるぐらいは私も部下に仕事投げたりするし文句を言うつもりはないが、原稿の提出期限を守ってくれないのは原稿回収係の子が困るからやめてほしいところだ。渋ってくるような者には私が取り立てに行くが、さすがに全部私が回収しにいくのは物理的に無理だし。
「では次に行きましょうか。帰ったら、よしよししてあげますね?」
「ふぁい……」
「ほどほどにしてあげなよ……?」
それから少しして、午後の配達は終わった。
▼△▼△▼△
翌日、朝。
一日では配達は終わらないので今日も配達だ。
「今日の配達先は貴族の方々ですが、あなたは大丈夫ですか?」
「はい? 別に大丈夫だと思いますけど」
「それなら良いのです。貴族と因縁のある方もいますから」
今日の同行者は桃やルキアと霊術院で同期の阿散井恋次だ。赤髪だけでも結構目立つが、眉毛の上にギザギザの入れ墨があってとても目立つ。入れ墨をしている人はたまにいるが、ファッションとか以前に痛そうという感想が先にくる。
だって、何回も針みたいなの刺すんでしょ? 一回刀で斬られるだけでもめちゃくちゃ痛いのに。刀と針では違うとはいえだ。痛そう。
「そういえば、恋次。あなたはルキアと何か気まずい事になっているようですね?」
「気まず……そういう訳じゃ」
「無理に聞こうとは思いませんから、安心してください。少し気になっただけですから」
同じ同期の桃や、他にも吉良イズルとは普通に仲が良いみたいだが、ルキアとはよそよそしい感じになっているのを目にした事があった。まぁ、ルキアは白哉が霊術院での6年間を待たずして卒業させたとか言っていたし、ちゃんと6年間学んだ後に再会したりしたら気まずいかもしれないけれども。
「話は変わりますが、あなたも随分と頑張っているようですね。席官になる日もそう遠くないかもしれません。よしよししましょうか?」
「いや、俺は雛森じゃないんで」
「そうですか。どうしてそんなに頑張るのか、聞いても構いませんか? 他の雑務もある中で、大変でしょう?」
「そりゃあ、まぁ……大変といえば大変ですけど。ただでさえ、あの時隊長が助けに来てくれなきゃ死んでたんだ。こんなんじゃ、とても届かねぇ」
どうやら恋次は誰か目標でもいるらしい。
成績優秀だったから取ったのだが、強くなりたいというのが大きいならちょっと可哀想な事をしてしまったかもしれない。ウチの隊は他の隊に比べると鍛錬に使える時間が少ないかもしれないし、そもそも隊長である私が武闘派でもない。
「よろしければ、十一番隊辺りを紹介しましょうか?」
「……? そりゃ、どういう……」
「あなたも知っているかもしれませんが、少し前に桃やイズルのような回道の才能がある方を四番隊に派遣したのです。戦闘ならば、十一番隊がいつもやっている事ですし、一度そこに身を置いてみるのも勉強になるかもしれません」
まぁ、私は普通に嫌だが。
「なんでそこまで……というか、そんな事簡単に出来るんですか?」
「四番隊は普段私が烈の無茶振りを受けていますから、多少の融通を利かせるのは難しくありません。十一番隊はやちるに頼めば大抵の事は何とかなります」
「そ、そっスか……」
烈は何かと私に押し付けてくるから、その借りを返させる形で頼めば大体の頼み事は通せる。やちるに関しても、女性死神協会の資金を作ったという点を評価……してくれているのかはわからないものの、頼み事は大体聞いてくれるから、十一番隊にちょっとの間お世話になるぐらいはたぶん出来る。
「見えてきましたね。一つ目の配達先、朽木家です」
「げっ!?」
▼△▼△▼△
一通りの配達を終えて、一段落。
隊首室でお菓子を食べていると、修兵が一人で訪れてきた。
「おや、どうしましたか?」
「今、お話良いですか」
「ええ、構いませんよ。一緒に食べますか?」
なんだか暗い顔をしている。一緒に食べるかと煎餅を差し出してみたものの、受け取られる気配がない。
「隊長……」
「はい?」
「俺を……席官の座から外して下さい……!」
正面に来たかと思えば急に頭を下げてそんな事を言い出した。
「突然ですね。何かありましたか?」
席官になれば給料も良くなるし、名誉もある。特殊な事情がある場合を除いて、席官になりたくないなんて言う者はいない。
「昨日の演習、俺は部下に怪我をさせました」
「誰にでもミスはあるものです。死なせてしまった訳でもないのでしょう? 私もよくミスはしますし、気にし過ぎるのも良くありませんよ?」
というか、たぶん言い方的にそんな重傷になった訳でもなさそうだし、そんな事で席官を辞められたら困る。
「違うんです。アレはミスでも不注意でもない……俺は怖かったんです……! 昔、隊長に助けてもらった実習で傷を負って……あれ以来刀を抜く度、敵に向かう度、気持ちが半歩下がってしまう……!」
修兵が入隊する少し前、現世での実習で巨大虚に襲われているところを偶然助けた事があった。あの時、引率していた六回生は怪我を負っていた。
確かに一度怪我をしたら怖いだろうし、というか感覚が麻痺しているだけで怪我をしなくてもあんな大きい虚に立ち向かうのなんて普通に怖いだろう。
「虚飾隊長、俺は……戦いが怖い……!」
うーん、気持ちは分かる。とはいえ、それを言ってもむしろ逆効果になりそうな気もする。私も元柳斎が自分も怖いとか言い出したらブチ切れる自信あるし。
「そうですね。少し、昔話をしましょうか」
とりあえず、修兵をソファーに座るように誘導。
「昔、護廷十三隊が創設されたばかりの頃。それはもう、荒くれ者ばかりでして。特に当時の隊長が最も悪質で、襲撃される事も珍しくありませんでした」
「襲撃……? 同じ隊長にですか……?」
「ええ。訳も分からず隊長に任命されたかと思えば、斬魄刀を手に追いかけ回され。それを撃退すれば、今度は元柳斎が斬りかかってきました」
「総隊長が……?」
今の元柳斎を見たら想像もつかないかもしれないが、事実だし。黒歴史かもしれないけども、こっちは大分困らされたので。
「彼らは、言ってしまえば頭のおかしい集団でしたので、今の護廷十三隊は大変過ごしやすくて助かっています」
「そ、そうですか……」
「戦う事が怖いと感じるのは普通の事です。私からすれば、あなたのように普通の感性の方がいてくれる事は、とても嬉しい事なのですよ」
本当に、最近の護廷十三隊は常識人が増えて本当に良かった。本当に。
「それは言い換えれば、人の気持ちが分かるという事です。護廷といっても、護るのは場所だけではないでしょう? それに、何も感じなくなってしまえばそれは獣と同じ。あなたは今のままで良いのです」
実際問題、護廷十三隊って人を護ったりもするのだから、人の気持ちが分かった方が良いに決まっている。アイツらは護るというよりも侵略する方が似合ってるような連中ばっかりだったし。
「しかし、今のままでは足が竦んで困るというのも分かります。それには良い解決方法がありますよ」
「それは……?」
「自信をつける事です。誰にも負けないという自信をつける事が出来れば、怖さなんて感じないでしょう? 私がそうだったのですから、あなたにも出来るはずです」
「隊長が……?」
「ええ。私も、初めて虚に遭遇した時はみっともなく逃げ回ったものです。その時には既に斬魄刀を手にしていたにも関わらず。その事に比べれば、幼い頃に襲われていながら立ち向かえた、あなたは強い」
ちょっとヨイショし過ぎたかもしれないが、まぁ、私は褒めて伸ばすタイプなので。
「卍解を習得してみるのはどうでしょう。そうすれば大抵のものは怖くなくなるのではありませんか?」
「卍解をって、そんな簡単に」
「本気で辞めたいと言うならば止めはしませんが、一度考えてみてください。卍解に関しては、その気があるなら他の隊長の誰かに声をかけてみましょう。私が助言出来れば良かったのですが、最初に斬魄刀に触った時点で卍解出来た私には何も参考に出来る事はないでしょうし」
「最初に触っ……え?」
という事で、修兵の席官辞退は引き留め完了。
普段仕事をたくさんやってくれているから、たまのメンタルケアぐらいドンと来いである。
○パンドラ主
部下は褒めて伸ばすタイプ。
○朽木ルキア
白哉の図らいによって九番隊に所属。パンドラ主が一応ちゃんとした手続きを通したので、周囲から貴族の道楽と思われる事はなく過ごせている。たまに九番隊を訪れる不老不死が朽木家への印象を和らげているという面もある。不老不死自身は貴族である事を笠に着たりはしないが、それはそれとして立ち振る舞いのガラが悪いので、朽木家の人苦労してそう……と思われている。
○雛森桃
パンドラ主の前ではかろうじて取り繕えているつもりでいる限界オタク。パンドラ主の褒めて伸ばす方針が噛み合ってすくすくと成長している。斬術は他隊との合同訓練でも隊長格に挑みまくって伸ばし、白打はちょっと控えめではあるものの、瞬歩は走り込みならぬ瞬歩込み?を欠かさず、鬼道はパンドラ主が鬼道衆と繋げてくれたので劇的に伸びた。回道も四番隊に繋げてくれたのでめっちゃ伸びた。
霊圧の伸ばし方に試行錯誤していたらパンドラ主から、そういうのは負荷かけたら伸びるんじゃない?(意訳)というアドバイスをもらったので、毎日スッカラカンになるまで霊力を絞りまくっている。
○阿散井恋次
最終目標は朽木白哉を超える事だが、ひとまずどうすれば良いか分からず、特に希望を出さなかったら九番隊の所属になった。そうすると意図せずルキアと再会し、気まずい感じになった。パンドラ主に十一番隊を紹介され、その縁で近く十一番隊に移籍する事になる。
○檜佐木修兵
東仙とはちょっと違う感じになったが、パンドラ主におだてられてもう少し頑張ろうとなった。隊長も最初は怖かったんだ、と一瞬親近感が湧いたのも束の間、初めて斬魄刀に触った時から卍解出来ると聞いて頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。