転生者『虚飾の魔女』(なお中身) 作:白金の絹糸
思えば、贅沢な日々だった。
流魂街出身の卑しい身分には不釣り合いな、幸せな日々だったのだ。
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転換点とても言うべき出来事は、朽木家に養子として引き取られたこと。
現当主の朽木白哉、その亡くなった妻と自身の顔が瓜二つだと使用人から聞かされていた。
「テメェがルキアか? 確かにアイツそっくりだわな。中身はどうか知らねェが」
朽木家の屋敷を使用人に案内されたその日。自室として与えられた部屋で1人座っていると、静寂を破るように戸が開かれた。
「無視か、オイ? テメェがルキアかって、聞いてるだろうが」
「……は、はい」
紫色の髪をツインテールにし、左目に眼帯をつけた少女。同年代ぐらいだろうかと、一体朽木家でどのような立場なのかを予想していると、首根っこを掴まれて外に連れ出されてしまった。
「あ、あの……?」
「霊術院に通ってたらしいな。実力見極めてやるよ。かかってこい。死ぬ気でな」
その日は、割と本気でボコボコにされた。足はガクガクになったし、頭にも大きなたんこぶができた。
かなり手加減していたらしいが、訳が分からなかった。
使用人から、あれは何代も前の朽木家当主の奥方だと聞かされ、ますます訳が分からなくなった。大婆様と呼ばれるような歳なのか、アレが。
「あ、あの……大婆様」
「あァ……?」
「どうして、その……そんなに若々しく」
さすがに気になった。
朽木家の者はみんな気にしていない様子だったが、どう考えても明らかにおかしい。成長には個人差があるとは言っても、最低でももう少し大人な感じというか、本人に言ったら殺されそうではあるが、もう少しぐらいは成長というか老いというか、しているはずなのだ。
「そういうモンだ」
「そういうもん……」
「家のヤツにはな、そう言ってる。そんなに気になるか?」
「それは、はい……」
「まァ……そーだな。誰にも言うんじゃねェぞ?」
「は、はい……」
「魔女との契約だ」
「魔女……?」
「順当にいけば、オマエがババアになって死ぬのも看取ってやるよ。あと、それ以上詮索すると殺す」
色々と気にはなったが、そんな事を言われてしまえば深入りは出来なかった。
「口数少なすぎて何が言いてェのか分かんねェんだよ、ボケが!!」
「ッ……何をする」
「”何をする”じゃねェよ。当主になってイキってんのか、ああン!?」
それから少しして、朽木家の当主であるはずの義兄が殴られている場面に遭遇した。
「もっと生意気に言ってこいや! なァ、ルキア!」
「は、はい!?」
「……食事係、今日ヤツの食事は作らなくとも良い」
「そういう事じゃねェだろうがよ!?」
またある日には、
「おールキア、菓子買いに行くからついてこい」
と、高級そうな菓子屋に連れ回され。
またまたある日には木刀でボコボコにされた。
そして、所属する事になった護廷十三隊の九番隊隊長である虚飾パンドラと対面する事になる。
「虚飾パンドラと申します。何度か、霊術院の講義でお会いしたことがありましたね」
多忙な隊長でありながら、霊術院の特別講師を兼任しているため、ルキアも何度か顔を合わせた事があった。
「しかし、入隊試験を受けさせずに入隊というのは、他の方にあまり良い印象は持たれないのでは?」
「だろ? このバカにもっと言ってやってくれや」
「莫迦ではない」
入隊試験に何とか合格し、無事に九番隊へと配属される事が決まった。
九番隊での仕事は、想像していたのと違ったものも多かった。
まずルキアが九番隊の中で配属されたのが、瀞霊廷通信部。九番隊の中でもかなりの人数が割かれているのが瀞霊廷通信部だ。細かく言えば、その中でも取材部、編集部、印刷部、配達部など分かれてはいたが、新人は自分に合った場所を見極めるために様々な部署を回るのが慣習だと先輩隊士から聞かされた。
ルキアが少し憂鬱に思ったのは、月に一度九番隊で開催される通称お菓子会、そこに特別顧問という名の大婆様が訪れる時の事だった。個人的な雑用として使われるのはまだ良いが、たまに、
「オマエら鍛えてやるよ。並べ」
などと言い始めるのだ。そして先頭に立たされるのはルキアである。
「大変だね、朽木さん……」
という先輩の言葉が身に沁みた。
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同じぐらいの時期に入隊した中で、最も出世しているのは雛森桃だった。
誰よりも長く、誰よりも厳しく鍛練する様子は、席官にすら尊敬されていた。
「始解するコツ? うーん……パンドラ様、あっ、虚飾隊長はね、斬魄刀とお話して仲良くなるのが良いって言ってたよ。隊長も、今は減ったけど最初の方は毎日話してたんだって」
「なるほど……」
「それでね、卍解も具象化と屈服って言われてるけど、隊長に言わせたらやっぱり仲良くなるのが一番良いらしくて。隊長は初めて浅打に触った時から始解も卍解も出来たらしいんだけど、その時にもう斬魄刀と仲良くなれたらしくて、すごいよね。あたしもこの前始解出来るようになったばっかりだから全然なんだけど、その話を聞いてから飛梅とは毎日お話するようにしてるんだ。あ、そうだ、今日隊長のことどこかで見た? ちょっと二人でお話したい事があったんだけど、見当たらなくて。おかしいよね、普段ならどこにいても霊圧感知に引っかかるのに。もしかして瀞霊廷の外に行ってるのかな? 瀞霊廷の外なら二つの跡地のどちらかかな……朽木さんは見た事ある? 昔隊長が本気を出した時の跡。大きな隕石を落としたんだって。実際に見てみたいけど、それってそれだけ緊急事態って事だから不謹慎だよね……でも見たいなぁ、近くで見たら巻き込まれるかな。でもちょっと巻き込まれたい……瞬歩の練習でたまに隊長を負ぶるんだけど、最近ね、たまにはあたしも負ぶってもらう側になってみたいなぁって思ってて。隊長の声って透き通る鈴みたいで、頭が蕩けそうになっちゃうんだけど、隊長の魅力は声だけじゃなくてね。たとえば隊長の髪の毛って、びっくりするぐらい艶があって、一本一本が宝石みたいで、その事を話したらこの前一本抜いてあたしにくれたからお守りに入れてて……」
「あ、あぁ……」
隊長の事を話し始めると止まらないのが玉に瑕、どころかちょっと怖いが、得られるものはあった。斬魄刀との対話、それは気合いを入れて行うものだという認識があったが、気楽に話しかけてみるというのもアリなのかもしれない。
それからしばらくして、始解する事が出来た。
「すごいよ、朽木さん! こんなに早く始解出来るなんて!」
目を掛けてくれていた先輩たちから祝福され、
「素晴らしいですね。おめでとうございます。あなたの日々の努力、私も目にしていました。最初の一歩かもしれませんが、それは大きな一歩です。傲ってはいけませんが、自信を持ってこれからも励んでください。ささやかなものですが、ここにおやつとして食べようと思っていたケーキがあります」
隊長からも祝いの言葉とケーキを貰い、
「やっとか。だが、始解しただけじゃ意味はねェ。鍛えてやるよ。解放してこい」
始解がゴールではないという事は分かっているものの、遠慮なくボコボコにしてきた大婆様には納得がいかなかった。
「……そうか」
義兄からは、相変わらずそんな一言ではあったが。
席官にはまだなれなかったが、それでも与えられた任務をこなしながら、充実した日々を過ごしていた。
それからしばらくして、隊長から提案された現世の駐在任務にルキアは一も二もなく頷いた。現世駐在の人員も、九番隊から多く出ているらしく、また嘘か真か駐在任務に選ばれるのは将来が有望な証だという噂も耳に入ってきていた。
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どうしてこんな事になってしまったのか。
『何か一つ選ぶなら、私は瞬歩だと思います』
そうアドバイスを貰っていたのに、歩法を疎かにしていた。
『オマエ、何か勘違いしてるんじゃねェか? 始解も卍解も、ンなもんは飾りだぞ。テメェが雑魚じゃ意味はねェ』
だというのに、斬術すら危機を乗り越えられるレベルにまで鍛えられてはいなかった。その言葉を理解しているつもりで、きっと心のどこかでは傲っていたのだろう。
あの時どうすれば良かったか。
後から考えればもっと良い手段はあったかもしれない。だが、あの時乗り越えられてもいずれ同じような事になっていたのだろう。
これはきっと、環境に甘え続けた愚か者の末路なのだから。
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「戯けるな」
「困りましたね……」
一応元柳斎に話してみたものの、結果はこの通り。取り付く島もないとはこの事だろう。
たぶん無理だとは思っていたものの、こうなってしまうと私に出来る事はほとんどない。他の隊長なら賛同してくれる者もいるかもしれないが、元柳斎のスタンスがこうである以上、無駄になる可能性が高い。
何度か面会には行っているものの、可哀想でちょっと見ていられない。私の時とは違って完全な冤罪ではないものの、必要以上な罰を受けさせられようとしているという点では同じようなものだ。
私からすれば盲目的に間違った判断にすら是とする、その姿勢こそ戯けていると思うのだが、頭の固い老人にはそれが分からないのだ。
既に処刑までの日数も発表されている。
「まったく、ままなりませんね……」
「──なにがままならないんだよ?」
「……!!」
現世で黄昏れていると、後ろから聞き覚えがあり過ぎる声が。
「夏梨! また会いましたね。その後、お変わりはありませんでしたか?」
「あたしは別になんもないよ」
「それは良かったです」
黒髪でCV.くぎゅうの少女、黒崎夏梨。少し前に運命といえる出会いを果たしたのだ。
「探したよ。どこ探しても見つからなかったから」
「おや、私に会いたいと思ってくれたのですか? 嬉しいです」
「そういうんじゃなくて……まぁいいや。聞きたい事があったんだ」
「なんでしょう?」
この前はなし崩し的に別れてしまったから、こうして会いたいと思ってくれるのは嬉しいものだ。理由はどうあれとして。
「黒い着物みたいなの着てる人について教えて」
「そうですね、一言で説明するのは難しいですが……ルキアの後任は確か善之助でしたか。少し待って頂いても構いませんか? 実際に見た方が早いでしょう」
私は伝令神機で一つ、連絡を入れた。
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「これは虚飾隊長! わざわざこの車谷善之助の仕事っぷりを見ていただけるとは! 光栄でありますな、はい!」
「なにこのオッサン」
「彼はこの街の虚……先日の化け物の退治を仕事の1つとしている者です。善之助、こちらは黒崎夏梨。私の友人です」
夏梨も一応霊力を持っているし、3人も集まれば虚が寄ってきやすくなるだろう。
と、思ってはみたものの、全然虚は現れなかった。
「仕方がありませんね。そういう日もあります。代わりにカラオケにでも行きましょうか」
なので、善之助とは別れてカラオケに行く事にした。もちろんお金は私が出した。
「前もカラオケとか言ってたけどさ、そんなにカラオケ好きなの?」
「ええ、好きですよ。この声を気軽に活かせる場所として、これ以上のものはそう多くないでしょう」
「声、ねぇ……」
「あなたの声も素晴らしいものです。ご両親に感謝しなくてはなりませんよ」
カラオケからの帰り道、手を繋いで歩く。最初は渋られたが、霊力を感じるための訓練という事にして納得してもらった。
ネムがまだ小さかった頃を思い出す。マユリには嫌がられたが、必要経費だった。
「確か、この辺りでしたか」
「そこを右」
既に日も沈みかけ。しかし、暗くなる前には帰す事が出来た。最低限、大人としての役目は果たせるだろう。
と、思っていたのだが。
「テメェは……!」
「おや?」
突然、敵意の篭もったような声が飛んできた。
声が聞こえた方に顔を向けてみると、そこにはいつぞやに見たオレンジ頭の青年が。
「あなたは確か、ルキアの……」
「夏梨から離れろ!!」
「ど、どうしたんだよ一兄……? パンドラはべつに悪い奴じゃ……」
まぁ確かに、彼にとっては私は良い印象ではないだろう。引くぐらいボコボコにしていた不老不死の仲間だし、最後に霊力を奪ったのは私だ。この反応も当然と言えるかもしれない。
一応、夏梨の手を離しておく。
「心配しなくても、夏梨に危害を加える気はありませんよ」
「なんでここにいやがる……!」
「少し、空気を吸いにきたといったところでしょうか」
「ルキアはどうしたんだよ……!」
「尸魂界で元気に暮らしている……そう言えれば良かったのですが」
どれぐらいの交流があったのかは分からないが、向こうからすればよく分からない奴が急に友達を連れ去っていったという感じだろうか。
「彼女は処刑が決まりました」
「ッ……!!」
「本来なら、それほど重い罪ではないはずなのですが…………しかし、あなたは巻き込まれただけですから。夢だったと思って、全て忘れるべきでしょうね」
ずっともう一度来るのを待っていたりしたら可哀想だし。
「さて、今日のところは失礼しましょうか。夏梨、また遊びましょう」
「待てッ……!」
息抜きは出来たので、私は穿界門を開き、尸魂界に戻った。
○パンドラ主
ルキア処刑について思うところはあるが、特に出来る事はない。とりあえず様子見の構え。一応他の隊長たちにも相談はしている。
○朽木ルキア
海燕殿関連もなく、九番隊でも他の隊士たちと仲良くやっていたし、不老不死のおかげで朽木家でもそこまで疎外感はなかった。ただ、当たり前のようにボコボコにしてくるのは本当にやめてほしいと思っている。普通に怖いし、鍛えてやるなどとは言っているが、全然鍛えられたような感覚はない。菓子屋などに連れて行ってくれるのは嬉しい。
しかし、その分幸せすぎたとネガティブになって処刑を受け入れている。
不老不死に声をかけられた時には、その段階では今からボコボコにされる可能性があるため、毎回ビクッとなる。
○雛森桃
九番隊第三席。色々とヤバい領域に足を突っ込んでいる。隊首室のパンドラ主お泊り用布団の横に自分のお泊り用布団を置いている。(ただし、お泊りする事になっても使う事はほとんどない。パンドラ主の布団を使うため)
褒めて伸ばし過ぎた結果。
○黒崎一護
大体は原作通り進んでいる。予めルキアは処刑の可能性があると浦原喜助から聞かされていたので、修行も原作通り行なっていた。
ただし、石田雨竜との共闘イベントを不老不死によってキャンセルされてしまっている。