転生者『虚飾の魔女』(なお中身)   作:白金の絹糸

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旅禍襲来

 

 

 ギンが原稿をすっぽかしたという報せが入った。

 隊長クラスの取り立てには同じ隊長である私が行かなければならない。という事で三番隊の隊舎を訪れたのだが、聞けばギンは出かけているというので、たぶんそっちに行ったという証言を参考にして探しにいった。

 

 そうすると、警報が鳴り響いた。旅禍が現れたというのだ。

 旅禍とは、簡単にいえば尸魂界への侵入者だ。そうそう使われる表現ではないが、一応1000年前の滅却師にも当てはまったりする。

 

 偶然近くにいたし、またあんなのが攻めてきていたら困るので、警報が示した方向へ向かっていると、瀞霊門が落ちてきた。

 

「どのような状況ですか?」

「虚飾隊長……旅禍は瀞霊門の外側に落ちました」

「なるほど、この門は兕丹坊(じだんぼう)でしたね」

 

 近くにいたイズルに聞けば、そういう事らしい。耳をすませば、閉じた門の向こう側から戦闘音が聞こえてくる。

 ちょこちょことたまに旅禍は現れるが、ここ数百年は目立った被害も出てないし、一応見には来たものの、兕丹坊が撃退して終わりかな。

 

 ちなみにイズルは回道の才能があったので一度四番隊に移籍し、その後三番隊に移籍して今は副隊長になっている。恋次は十一番隊、六番隊へと移籍して副隊長になっているし、桃は枠が空いていないだけで三席ではあるものの実力的には副隊長……いや、実力だけなら隊長でもおかしくないぐらいのものを持っている。

 ちょっとこの世代優秀すぎるかも。

 

「あら?」

 

 なんて考えていたら、門が持ち上がっていく。

 

「ここは、私が相手をしましょうか。みなさん、下がってください」

 

 兕丹坊は巨人かと思うぐらい身体が大きくて、それ相応に強い。兕丹坊が負けて、しかもバカでかい瀞霊門を持ち上げて力尽くで通ろうというのだ。

 副隊長になったイズルならやれるかもしれないが、周りにいる他の隊士だと荷が重い。

 

「これはどういう事でしょうか?」

 

 と、思ったら門を持ち上げているのは門番のはずの兕丹坊だった。

 

「門を開けろと脅されているのですか?」

「あ……あぁ…………」

「旅禍の相手は私がしましょう。さあ、こちらへ」

『脅されたとしても、門番が敵を前に門を開けるのはどうかと思うけれどね』

 

 まぁね。せめて逃げるか隠れるかしてくれたら旅禍が門を開けようとする時間だけでも稼げるかもしれないし。

 とはいえ、兕丹坊が敵わないという事は、彼以上の怪力という可能性もあるし、どの道変わらないかもしれない。

 

「オラは……負げだんだ。負げだ門番が門を開げるのは……当だり前の事だべ……」

 

 あちゃー。これは良くない。

 というか、普段会った時は気さくに話してくるのに、全然様子が違うのは悪い事をしてるって分かってるよね? 

 

「そのような当たり前、私は聞いた事がないのですが…………困りましたね」

『敵を自ら招き入れるなんて、ただの裏切り者じゃないか』

 

 うーん、そう言われても仕方なし。

 この場にいるのが私だけならまだしも、他の隊士たちにもバッチリ見られている。ここで私が甘い対応をすると、こっちまでとばっちりが飛んでくる可能性もある。

 

「少し、頭を冷やしてもらいましょうか」

 

 不老不死がいたら良かったのになぁ。

 まぁ、身体大きいし、たぶん頑丈だろう。

 

 少しだけ、霊圧を解放する。

 

「シャリオ」

 

 兕丹坊の頬を掠めるように、光を放った。

 

「門を下ろしてもらえますか? これ以上は、私も少し本気にならなければなりません」

 

 退いてほしいなー、けど退かないんだろうなー。

 さっきのは脅しだったけど、ここまでやって、はい何もしませんだと示しがつかないし……。

 

 手のひらを兕丹坊に向けて、わざとらしく霊力を溜める。

 しかし、動かない。

 

「仕方がありませんね……」

 

 エル・シャリオが範囲を狭めて威力を上げられるように、逆にシャリオの範囲を広げて威力を下げる事も出来る。

 ちょっとだけ痛い目を見てもらおうかと、ギリギリまで溜めていると、1つの影が飛び出してきた。

 

「おや、あなたは」

 

 大刀の一振りを、浮かんでいる叡智の書で受ける。

 飛び出してきたのは、特徴的なオレンジ頭。

 

「また会ったな……! この野郎!」

「霊力は失ったものだと思っていたのですが……どうしてここに?」

「取り返しにきたんだよ! ルキアをな!」

「なるほど……」

 

 斬魄刀を押し返し、少し下がる。

 そして。

 

 ぱちぱちぱち、と。手を叩く。

 

「素晴らしい……愛、ですね」

「は、はぁ……!?」

 

 どうやったのかは知らないが、ルキアを取り戻すためにここまでやってきた。それは、まさしく愛のなせる行動ではないか。

 これには心の中のパンドラ様もニッコリ。

 

「名前を聞かせてくれますか?」

「……黒崎一護」

「それでは一護。あなたに敬意を表し、全力で相手をしましょう」

 

 手のひらを一護に向ける。

 

「離れろ一護!! 死ぬぞ!!」

 

 少し離れた場所から覗くのは、この場に似つかわしくない黒猫。結構前に行方が分からなくなった夜一だ。

 夜一が一緒にいたなら尸魂界に来れた理由もなんとなく分かる。

 

「──エル・シャリオ」

 

 範囲を絞って威力を上げたものではなく、デフォルトの視界全面に放射状に光を放つエル・シャリオ。多少手加減はしているものの、後で元柳斎辺りに文句を付けられても面倒なので、ある程度の格は保てるように放った。

 恨みはないし、なんならルキアを助けたいと思っている同士でもあるのだが、この程度でやられていてはどの道ルキアを助けるなんて不可能だ。

 最悪夜一が何とかしてくれるだろうし。

 

 わざと土煙が上がるように地面も削るように放った。

 

「……跡形もなく、消えてしまったようですね」

 

 消滅してしまった可能性もなくはないが、たぶん上手く逃げてくれただろう。正面から跳ね返してくるだけの力はないらしい。まぁ、現世の人間にそんな力そうそうあってたまるかという話ではあるが。

 

「虚飾隊長……さっきのは」

 

 一度隊舎に戻ろうと歩いていると、特徴的な赤髪に声をかけられた。

 

「どうやら、ルキアを助けに来たようですね」

 

 ゴーグルかサングラスかで半分ぐらい隠れてはいるが、それを取ったらかなり厳つい眉毛入れ墨を入れている恋次だ。

 

「ルキアを……」

 

 それだけ言い残して、恋次はどこかへ消えた。

 

 ▼△▼△▼△

 

 緊急で隊首会を開くという召集があった。

 

「遅い。何をしておった」

 

 そして、着いて早々に責められる私。既に他の隊長たちは到着していた。

 

「申し訳ありません。原稿を期限通りに提出していただけない方がいまして。その方を探していたので遅くなってしまいました」

「あァ……もしかしてボクの事ですの? そら、すんません」

 

 そもそも遅れたのはギンを探していたからだ。私は悪くない。

 

「それでは聞こうかの。虚飾が取り逃がした旅禍について」

 

 改めて、元柳斎が言った事で場の空気が引き締まった。

 元柳斎は正面に、他の隊長たちは左右にそれぞれ列を作るようにして並んでいる。私は全員からの視線を受ける真ん中に。

 

「オレンジ色の髪に死覇装の青年でした。名前を聞いたところ、黒崎一護と」

 

 私が言えるのはこれぐらいだ。実際、あの時見聞きした情報といえばこれぐらい。夜一がいたが、あれはただの黒猫かもしれないし、他に仲間がいたっぽかったような気もするものの、ちゃんとは見ていない。

 というか、逃げた事もうバレてるんだ。

 

「……? 以上ですよ?」

「…………。頭は残念じゃが、虚飾の実力は皆の知る通り」

「自己紹介でしょうか?」

 

 脳筋で腕っぷしだけが取り柄の元柳斎が自分の事を言い出したのかと思った。

 

「つまり、最低限コイツから逃げるだけの実力はあるって事だな」

「どこまで信じられるか分かったものではないがネ。どうせ余所見でもしていたのだろう」

 

 更木の剣八とマユリの援護射撃……援護? 

 

「それは偏見ではありませんか? 確かに突然の事ではありましたが……」

「悪いのは耳だったかネ? 貴様のせいでネムがおかしくなったのを忘れた訳ではない筈だヨ」

「自分の声に自信を持っただけでしょう? あれが本来の姿ですよ」

 

 小さい時から声を褒め続けて、声に自信を持つように仕向けて、ASMRの使い手に育て上げただけだ。くぎゅうボイスを持っているのだから、あれこそが正しい姿だといえる。

 

「して、旅禍への対応を……」

 

 と、改めて元柳斎が切り出したところで警報が鳴り響いた。

 

『侵入者発見! 侵入者発見! 各隊守護配置について下さい!』

「どうやら、旅禍が見つかったようですね。作戦でも考えましょうか? それとも先に向かいましょうか?」

 

 とはいえ練るほどの作戦もないだろうけども。

 一護側の事を考えるなら、ここで適当に作戦でも練っていた方が助かるだろうが、元柳斎はどう出るか。

 

「致し方ない。隊首会はひとまず解散じゃ。各員、守護配置。無闇に動くでないぞ」

 

 どっちでもなかった。

 

「剣八は既に向かったようですが……」

 

 ただ、それを聞く前に剣八は飛び出して行った。

 これはダメかも分からんね。

 

 ▼△▼△▼△

 

 ▼△▼△▼△

 

「あの、やっぱりぼく帰っても良いですか?」

 

 護廷十三隊四番隊第七席、山田花太郎は絶賛不運に見舞われていた。

 旅禍が瀞霊廷に侵入したという報せが入り、出動したは良いものの、特に役に立つ訳でもなく件の旅禍に人質に取られてしまったのだ。不幸中の幸いだったのは、その旅禍が無闇に人質を傷付けるような者たちではなかったこと。

 そして、一番隊の牢に入れられていた朽木ルキア、四番隊としてその清掃係を命じられた花太郎は彼女の口から旅禍の1人である黒崎一護についての話を聞いていたということたった。

 

「まぁ、道は教えてもらったし帰ってくれても良いんだけどよ」

 

 もはや他人ではなくなったルキアを助けようとする旅禍と花太郎は、言ってしまえば利害が一致していたのだ。ゆえに、処刑の日が近付き一番隊の牢から彼女が輸送された懺罪宮(せんざいきゅう)への抜け道を案内していたのだが、雑談の中で色々とマズい事態が発覚した。

 

「急にどうしたの? 花太郎くん」

「虚飾隊長に喧嘩を売った人たちと一緒にいるのはちょっと……」

 

 旅禍の1人である井上織姫が顔を覗き込んでくるが、少し距離を取りつつ答える。

 

「虚飾……あのパンドラとかいう奴か?」

「そうです。虚飾隊長にはファンが多いですから、虚飾隊長を敵に回すと護廷十三隊の少なくとも半分は敵に回すと思った方が良いですよ」

「それ、そもそも今は全部敵みたいなもんだし、あんま関係なくねーか?」

「何というか、質というか密度というか、そういうのが違うんですよ!」

 

 実際問題、旅禍である彼らにとっては護廷十三隊全てが敵というのは間違いではないが、そうは言っても一人ひとりの意識がみんな全身全霊で旅禍を殺そうなどと考えている訳ではない。隊長格ならともかく、下っ端など命令されたから出動するという者がほとんどだろう。席官である花太郎ですらそうだった。

 しかし虚飾パンドラ、彼女に喧嘩を売ったとなると話が変わってくる。 

 

「いいですか? 虚飾隊長には、言い方はちょっとアレですが濃いファンが多いんです。他の隊長は怖いところもあるんですけど、虚飾隊長はどんな時も優しいですし、可愛い……とか言ったら失礼ですけど。それに、何の取り柄もないようなぼくの名前も覚えてくれていましたし……ともかく、変な事をすると冗談抜きで殺されます」

 

 それほど濃くはないと自認している花太郎ですら、霊術院時代に班員がどこにいるか分からなくなって迷っているところを助けてもらって、一目惚れしそうになったのだ。それから時間が経って、四番隊に所属してから九番隊主催のお菓子会に参加した際に名前を覚えてくれていたのも嬉しかった。何冊も出版されている写真集の内の一冊だけ買った事もある。

 しかし、そんなものは序の口も序の口だ。特に濃いファンが集まっている九番隊なんてその比ではない。噂では、席官クラスになると虚飾隊長の写真集はもちろん、表紙や数頁に渡って写真がある瀞霊廷通信から何から何まで蒐集するのが当たり前らしい。

 さらに、その中でも特に特にヤバいと言われているのが。

 

「特に、雛森三席の前で虚飾隊長に狼藉を働くと死ぬよりも酷い目に遭わされるという噂です」

 

 雛森桃。若くして九番隊の第三席にまでなった才女であり、鬼道の達人である。鬼道においては既にどの隊長をも凌いでいるとの噂であり、鬼道衆の重要な役職に誘われた事があるなんて話も。

 ただ、ヤバいというのは実力だけではない。陰で虚飾狂いなどと呼ばれる事もある彼女はそれはもう凄まじく、美人ではあるし仕事も出来るらしいのだが、花太郎としては近付きにくかった。

 

「三席って隊長の下の下だろ? そんなに怖いか?」

「甘い! 甘いですよ! 九番隊は優秀な人材が集まりやすくて、雛森三席はもちろん、檜佐木四席も他の隊なら副隊長は確実だって言われてるんです!」

 

 隊風から、戦闘において最も秀でるのは十一番隊だという見方が強いが、上位席官で比べれば九番隊も負けていないと花太郎は思っている。

 

「そもそも一護、おぬしが生きているのは奇跡のようなものじゃぞ。奴が本当に本気になっておったなら、儂ら諸共消し飛んでいてもおかしくなかったのじゃ。そこのところを忘れるな。そういう油断が命取りになる」

「わ、分かったよ」

 

 と、黒猫が注意すると一護はあっさりと頷いた。

 自分の時との違いに花太郎は納得がいかなかった。

 

 ▼△▼△▼△

 

 帰っても良いかと聞きはしたものの、抜け道である地下水道でさようならというのもさすがにアレなので、ひとまず地上に出て、ある程度のところまで案内したら別れようと花太郎は考えていた。

 しかし、地上に出てすぐに六番隊副隊長である阿散井恋次と一護が戦闘となり、辛勝したもののその戦闘によって負傷した一護を治療するために再び地下水道に降りる事になった。

 

「必ず治します」

 

 四番隊としての誇りを懸けて、何としても治す。

 そのために、花太郎は懐から『青いリボン』を取り出し、一護の首に巻く。

 

「それは何じゃ?」

「『青いリボン』です。虚飾隊長が開発した回道の治癒効果を高めるリボンで、霊力を込めると効果を発揮します。量産は出来ないみたいで席官しか持っていませんが」

 

 そして、治療に入ろうと気を引き締めた花太郎に影が掛かった。

 

「あたしも手伝うよ」

 

 織姫が手をかざす。

 

 それから治療が始まったが、そのほとんどが織姫によって行われてしまい、花太郎は居心地が悪くなった。

 

 

 





 ○パンドラ主
 頭はともかく、実力は元柳斎と変わらないと周囲から評価されている。ただし、元柳斎は自分が一番強いと思ってるし、パンドラ主も本気を出したら元柳斎なんかけちょんけちょんに出来ると思っている。
 昔、この世界でミーティアを再現出来ないかと思い付き、エキドナの知恵を借りて『青いリボン』を作った。リゼロ原作に登場するミーティアよりもかなり単純な構造にも関わらず思ったより大変だったので、四番隊の席官分とちょっと余分だけ作って、もういいやと思って辞めた。実は不老不死に強請られて『紫のリボン』という別のアイテムも作った事もある。
 他人の名前は印象に残る者しか覚えていないが、名前を忘れてもエキドナが教えてくれるため問題なし。

 ○旅禍一行
 パンドラ主の攻撃から何とか逃げ延び、その後は分断される事もなく瀞霊廷内に侵入し、原作の一護が辿ったような出来事を辿っていく。志波空鶴、志波岩鷲との接触イベントはなくなった。
 メンバーは一護、夜一、織姫、茶渡。それと人質役の花太郎。

 ○雛森桃
 本人がいないところで盛られていく褒めて伸ばされ過ぎた人。なんで三席なんだ?と色んな者から思われている。副隊長があまり目立つ事をしないため余計に思われている。



 
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