転生者『虚飾の魔女』(なお中身) 作:白金の絹糸
敬愛する隊長が去り、雛森桃は改めて敵を見る。
左目を覆う仮面の一部と思われる部分以外は普通の人間や死神のような姿。特に、手にしている刀。あれは斬魄刀だ。尚更、死神に見える要素が多い。
「せっかくの隊長だったというのに、逃げられてしまった」
斬魄刀を握る手に、無駄に力が入ってしまう。
隊長は逃げたんじゃない。お前なんか隊長が相手するまでもない。お前の相手は自分に任せて頂いたんだ。
「貴女を倒せば戻ってくるだろうか」
「やってみろ……!!」
不甲斐ない姿なんて見せられない。
ありったけの霊力を、鬼道に乗せた。
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到着した時、乱菊は既に膝をついていた。
「大丈夫ですか?」
「虚飾、隊長……」
「この場は私が引き受けましょう。織姫、乱菊と共に離れていてください」
「は、はい!」
近くに織姫もいた。やりづらいというのもあっただろう。
こういう時の戦力だから、ちゃんと仕事はさせてもらうとしよう。
「なんだァ? 次はお前が相手してくれんのか?」
「ええ。ただその前に、いくつか聞いても構いませんか?」
「ハッ、これから殺す相手にわざわざ語ってやるだけ無駄だろう」
パッと見た感じの印象は、すごい格好の大男。破面なのだろうが、虚という感じはしない。まぁ、胸に穴が空いているから虚ではあると思うのだが、グラサンみたいな装飾といい……って、アレもしかして虚の仮面の名残りみたいなヤツ?
『だろうね。仮面を剥ぐとはいっても、完全になくなるわけではないらしい』
へー、不思議。
と、そうだ。情報収集、情報収集。
「困りました。そうですね……私たちの言葉には冥土の土産というものがあります」
「冥土だァ?」
「ええ。簡単に言うと死んであの世に持っていくお土産ですね。物として持っていくのは難しいので、言葉として贈る事が多いのですよ」
「つまり、これから死ぬお前に土産として教えてほしいって事か?」
「そういう事です。随分と物分りが良いのですね。感動してしまいました。これまで虚とまともに意志の疎通が出来た事がありませんでしたから。出来るならば仲良くしたいところですね」
「そうだな……お前が俺を馬鹿にしているという事はよォく分かったぜ!」
あれー? 途中までいい感じだったのに。
破面大男が殴りかかってくる。
「シャリオ」
「ぐォオオオッッ……!!」
とりあえずシャリオを一発。
ギリアンかもヴァストローデかも分からないから、ある程度手加減はして撃ったが、どうなるか。
「ハァ……ハァ……ハァ…………やるじゃねぇか……」
あ、結構ボロボロだった。
「おや……なんというか、思っていたよりも、なのですね」
「ああ……思い出したぜ。お前が、藍染様が言ってた女だな……」
「破面となる事でどの程度サイズが変わるのか分からないのですが、もしやギリアンだったりするのでしょうか? もしそうなら、不思議なものですね。100メートルを超えるような大きさから、2メートルから3メートルほど。しかし、魂魄が圧縮されたにしては……」
「喋りすぎだぜ、女ァ……!!
「ボルカニカ……??」
あれー、聞き間違いかな?
ボルカニカに起きろとか言ったような……。
『あのボルカニカなわけがないだろう。普通に考えれば分かるだろうに』
いやだって。思うじゃん。一番最初に。
『仮に君の思う通りだったとしても、追い払えばいいじゃないか』
そういえば、エキドナが作ったシャリオを発射するミーティア『星杖』は龍に嫌がらせをするためのものでしたね。
というか、アル・シャリオならいけるにしてもこの辺り一帯が消し飛ぶから。
「斬魄刀を解放すれば戦闘能力は数倍! その程度の攻撃はもう効かねぇ!!」
変身し、なんか両腕がゴツくなった破面はどうするのかと思えば、その両腕で殴るでもなく、炎を放ってきた。
「エル・シャリオ」
周囲一帯を呑み込むぐらいの大きさの炎だ。こちらもそれを押し返すためにいい感じに範囲を絞ったエル・シャリオを放つ。
エル・シャリオは元々視界全面を消し飛ばすような広範囲技なので、実はこういう対範囲攻撃みたいな場面で使うのが結構合っていたりする。あとは多対一とか。普段は範囲を狭めて威力を上げて使ったりしているが。
「……あら?」
こちらとしては一応防御? みたいな意識でやったのだが……。そんなに威力出してないし……。
なんか普通に向こう側までいっちゃってない?
マズい。マズい。
メノスだよね? どの階級かは知らないけど、メノス消し飛ばしちゃったじゃん。破面になったらパワーアップするんじゃないの?
あー、もう!
ボルカニカとか言い出すからぼーっとしてた! どうしてくれるんだよ、アイツ!
ボルカニカとか言うならせめてもっと威力出しとけよ!
最悪! 話通じそうだったのに!
『ただの君の不注意だね』
ちょっとぐらい味方になってくれても良くない!?
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ただの一つも、遂行しなかった命令はない。
「フム……しぶとさだけは評価しよう」
何があろうと隣にいられるように、鍛練を欠かした事はない。
「せめて卍解でも出来れば、と思いましたが」
だから、こんな状況は認められない。
「ハズレを引いてしまったようだ」
「……本当に」
任せると、そう言われたのだ。
「情けない。情けない。情けない、情けない、情けない。情けない情けない情けない情けない情けない────」
限定霊印下での戦闘だから。そんな言い訳通らない。
シュルシュルと、髪留めにしている『紫のリボン』を解く。
昔、入隊したばかりの頃に隊長からアドバイスをもらった事があった。
霊圧を大きくするためにはどうすれば良いか。その答えは、負荷を掛けること。
霊力の源である魄睡と、そのブースターである鎖結。死神の心臓とも呼ばれるこれらも一器官である事に変わりはない。負荷を掛ければ鍛えられる。
では、どうやって鍛えるか。斬拳走鬼を鍛えるだけでなく、霊圧そのものを鍛える方法。そもそも鎖結や魄睡に負荷を掛けるのはリスクが高く、推奨はされないし、負荷を掛けた結果死神としての道を断たれるという実験の報告はあっても、効率的な鍛え方などは少なくとも調べた限りでは見つからなかった。
当然といえば当然だ。例えば筋トレなら多少筋肉が傷付いたところで問題はないが、鎖結と魄睡は多少傷付いたという時点で死神としての能力に後遺症が現れる可能性だってある。
霊力をスッカラカンになるまで絞るというのを繰り返すぐらいしか思い浮かばなかった。
霊力は死神の力の源だ。霊力がゼロとなる事はすなわち死神としての死も同然。目盛りで言えば1ミリだけを残すような感覚で、ぎりぎりまで絞り上げるのを繰り返した。
当然ながら、生半可な覚悟で出来るものではなかった。けれど、地獄のような苦しみがあったとしても、やめる理由にはならなかった。
霊力と霊圧。
この鍛練で鍛えられたのは、どちらかといえば前者だった。
霊力は、例えるならばプールに貯めた水のようなもの。死神はその水の一部をホースなどで放出する。その水圧が霊圧だ。
霊力と霊圧はおおよそ紐付いているものなので、霊力が高い者は霊圧だって高いし、その逆も然りとなる。ただ、完全に同一のものではなく、独立した要素でもある。
だから同じだけの霊力を持っていても、その者によって霊圧の大小は変わる。
同じだけのプールの水があっても、ホースを取り付けた場合と高圧洗浄機を取り付けた場合では圧力など比べるべくもない。
『紫のリボン』というアイテムがある。
隊長からの贈り物。霊圧を抑え付けるものだと簡単に言われたが、正確には霊圧の最大値のようなものを下げるアイテムだ。例えば霊圧の最大出力が100の者がつけると最大出力が50になる、というように。
似たようなものに限定霊印があるが、限定霊印と違うのは、制限された最大出力を超えてからが本番だということ。先の例で言えば、見かけ上の最大出力が50になっていたとしても、死ぬほど頑張れば本来の100まで出力出来るのだ。
そうして死ぬほど頑張って出力100を維持出来るようになった状態で『紫のリボン』を解くと、出力最大値が上がっている事がある。上がっている事もあれば上がっていない事もある。上がらない時の方が多く、徒労に終わった事も数知れず。
けれど、やめる理由にはならなかった。
『はい。雛森桃様。ご用件をどうぞ』
「あたしの周りに空間凍結をお願いします」
『松本乱菊様からの要請により、雛森桃様を中心として半径五百間の空間凍結を既に行っております。他の方々にも同様に──』
「よかった」
限定霊印下だ。伸びたのかどうかなんて分からない。
ただ、負荷が解かれた今、意識の全てを戦闘に回す事が出来る。
「縛道の九十九──
二つの黒い帯が十字に重なって、破面を地面に縫い付けた。
「何だ……これは」
「縛道の九十九──禁」
重ね掛ける。
「縛道の九十九──禁」
重ね掛ける。
「仕方がありませんね……
「縛道の九十九──禁」
重ね掛ける。
重ね掛ける。
重ね掛ける。
変身したって関係ない。破れるものなら破ってみろ。
「馬鹿な……」
「“千手の涯、届かざる闇の御手──”」
「“千手の涯、届かざる闇の御手──”」
「“千手の涯、届かざる闇の御手──”」
「“千手の涯、届かざる闇の御手──”」
「“千手の涯、届かざる闇の御手──”」
腹が立つ。
一瞬でも手間取ってしまった自分が情けない。
こんな程度の相手に虚仮にされるような軟弱さを見せてしまった事が、情けない。
今すぐに全身を掻きむしりたいぐらい、不快感が溢れ出す。
「破道の九十一──千手皎天汰炮」
「破道の九十一──千手皎天汰炮」
「破道の九十一──千手皎天汰炮」
「破道の九十一──千手皎天汰炮」
「破道の九十一──千手皎天汰炮」
前後左右上、あらゆる方向からの光の砲撃。
『みんな……限定解除下りたわよ!』
「…………」
宙から、その残骸を見下ろす。
「パンドラ様への侮辱は許さない」
許されざる大罪を犯した破面だったもの。
当然の報いだった。
○パンドラ主
リゼロオタクなのでボルカニカという単語に反応した。原作で色々とインパクトを残していたから仕方ない。
世界が崩壊するのは勘弁してほしいので、魂魄のバランスには気を使っている。恐らく護廷十三隊の中でもトップクラスに気にしている。どれぐらいで世界が崩壊するかは知らないが、知らないからこそメノスと戦う時は毎回殺さないように気を付けている。
一応現世に来る用に限定霊印は上から付けてきているし、観光用義骸(自前)に入ったままだったので、それが加減になっていたはず。
「範囲攻撃きたから範囲攻撃で応戦しただけだし。破面になるとパワーアップするとか聞いたのに、コレじゃ普通のギリアンと変わらんじゃん(逆ギレ。そもそも強さ的な意味でギリアンとアジューカスの違いが分かっていない)」
戦った事がある破面が最上級大虚の中でも厄介な方だったため、認識が少しズレている。
また、根本的に虚は知能が低いと思っているので、自然とナメた態度になりがち。
なお、パンドラ主はめっちゃ気にしているが、先遣隊の他メンバーは魂魄のバランスとか全く気にせず普通に倒している。
○雛森桃
霊圧が制限されている?火力が足りない?それなら通用するまで重ね掛ければ良いじゃない。
限定霊印で霊圧が本来の20%になっていたとしても、縛道の九十九✕4なら逃げられないように拘束出来るし、破道の九十一✕5ならさすがに倒せるはず。
敵にナメられる=自分の立場もナメられる=自分を副官にしているパンドラ主もナメられる、なのでナメられる事は許されない。
○エドラド・リオネス
パンドラ主の事を藍染が言っていた女などと言っていたが、藍染が何か命令した訳ではなく、ギンか東仙との雑談を聞いていただけ。
ボルカニカという単語を出してしまったために勢い余って倒されてしまった。
○シャウロン・クーファン
恐らく読者向けに色々と説明はしてくれていた。
○松本乱菊
パンドラ主にバトンタッチしたが、空間凍結や限定解除を申請して陰でサポートした。
○阿散井恋次
原作通り、限定解除してイールフォルト・グランツを撃破。
○涅ネム&虎徹勇音
防戦一方だったが、限定解除後はナキーム・グリンディーナを圧倒して撃破。意外にも連携力は高い。
前衛のネムと後衛の勇音。勇音は回復だけでなく遠距離攻撃も出来るため、相性は良い。