転生者『虚飾の魔女』(なお中身) 作:白金の絹糸
「ネム、夏梨。さあ行きましょう」
今日も今日とてやる事はなし。
なので、カラオケである。
桃は何にせよついて来るから良いとして、ネムと夏梨の二人も一緒に。
「やっぱりカラオケの時はテンション高いよな。そんなに好きなの?」
「ええ、もちろんです。数百年も待ったぐらいですから」
「数百年ねぇ……」
そりゃね。テンションぐらい上がるというもの。最近の流行りの曲もチェックしてきた私に死角はない。
「ぁの……」
そうしてカラオケに向かっていた道中だ。一人の少女に声を掛けられた。
ジャージ姿の、金髪を短めのツインテールにしたその少女。恐る恐るといった様子で声を掛けてきた彼女の事を、私は知っている。
「あなたは……ひよ里」
「隊長、知り合いなんですか?」
「ええ。先に向かってもらえますか? 後で合流しますので」
「あたしは待ちます」
「少し大事な話をします。桃、あなたもネムと夏梨と一緒に向かっていてください」
「……はい」
渋々といった様子の桃も先にカラオケに向かわせ、夏梨からは「待ってるからなー」とありがたい言葉をもらった。
「さて。お久しぶりですね、ひよ里。お元気でしたか?」
「うちは……元気。虚飾隊長は?」
「私も元気にしていましたよ」
「…………」
「…………」
あっ、これ私の主導で会話進めていく感じなんだ。
「何か、用があったのではありませんか?」
猿柿ひよ里。
100年前の事件の時に虚化させられ、行方不明となっていた元十二番隊副隊長。喜助と一緒に消えたから、喜助が連れて逃げたのだとは思っていたが、どこに逃げたのかなんて知らないし、そもそもあの時喜助は治療を失敗したと言っていたから、もう死んでいるものだとも思っていた。
「用とかは、べつにないけど……見かけたから」
「そうでしたか。現世には一人で?」
「喜助に連れて来られて、他のみんなも一緒に」
「なるほど。あなたが無事で良かったです」
あの状態からどうやって助かったのかは知らないが、たぶん喜助が何とかしたのだろう。『崩玉』とか使って。
「なぁ……虚飾隊長は、うちの事どう思ってるん」
告白か何かかな?
という冗談は置いといて。
「ずっと心配していました」
「嘘や……藍染が裏切ってたの分かって手のひら回したんやろ。うちらの事は虚として処理するって」
「そんな事はありません。確かに、彼の裏切りが発覚し、その所業が明らかになった事であの事件の真相を知る事が出来ました。ですが、あなたの事を虚だと思った事はありません。そもそも私は四十六室の言う事に従うつもりもありませんでしたから」
あの時私も冤罪掛けられたし。結局あれも鏡花水月でどうにかしてたんだろうけども。
『君はあの時、虚化した六車拳西に対して虚である以上はこのままにしておけないと言っていなかったかい?』
それは放っておけないみたいな意味じゃん……? ほら、烈のところに連れて行こうとしてたし。
ちゃんと心配してたから!
「そんな事言うて、ほんまは……」
うーん、ネガティブ。
ひよ里ってこんな感じだったかな。あの事件は衝撃的だったから、性格も変わってしまうのかもしれない。
仕方ないので抱き締めてあげた。
桃ならどれだけ暴走していてもこれで収まるのだが。
「……ごめん」
あ、収まったっぽい。
それからも話してみれば、あの時虚化してしまった他の者も一緒に現世にいるらしく、そのアジトに案内してくれる事になった。
▼△▼△▼△
「嘘やろ、ひよ里!? お前何当たり前のように虚飾隊長連れて来とんねん!?」
「お久しぶりですね、みなさん」
「おう、お久しぶり……ちゃうやろ!?」
結界が張られた倉庫か何かの古い建物に案内されたかと思えば、その地下は外のように広く、青空すら広がっていた。
そこにいたのは、真子をはじめとする虚化事件で行方不明となった隊士たち。ジャージや制服など、現世に馴染んだ格好を身に纏い、私を歓迎してくれた。
「ええやろ、べつに……」
「ええ事あるかい! 抹殺対象や言うて俺らの事殺しにきてたらどないすんねん!」
「もう諦めろ。ここまで来られた時点でどうにも出来ねぇよ」
「そんな事はしませんが……」
なんか私の扱い酷くない? 何気に拳西も乗っかってるし。私直属の上司だったんだけど?
「よう言うわ。自分もこの前ビビってたくせに」
「そら急に霊圧垂れ流して何か探してたらビビるやろ!」
リサが言っているのは、恐らくルキアを探していた時の事だろう。ルキアからも分かりやすいようにしていたのが意図せず真子たちを怖がらせる結果になっていたらしい。
まぁ、そんな事言われても困るのだが。だって、こんな近くにいるとか知らんし。
「パンドラ!? なんでこんなとこに」
「あなたこそ、どうしてここに? 何か彼らと接点が?」
「……虚化の練習だよ。アンタも見た事あるだろ? 俺の中に虚がいるのを」
「ああ、白哉と戦っていた時のアレですか」
普通に一護もいた。
「しかし、虚化ですか。確かにあの時は冷静さを失っている様子でしたし、抑える練習はして損はないかもしれませんね。いざという時に暴走してしまっては困りますから」
「ちゃう、ちゃう。抑える練習やなくて、使いこなす練習や」
「使いこなす?」
どういう条件で虚化するとかは知らないが、確かに抑える練習はしておいた方が良いかもと考えていたら、横から真子が割り込んできた。
「その前にもう虚飾隊長は遊びに来たって事でええんか?」
「そうですね。その認識で問題ありませんよ」
「そか。まぁ、ええわ。俺らは今
「ヴァイザード」
「ま、実際に見た方が早いやろ。一護、見したり」
平子の言葉に頷くように、一護は顔に手を翳した。
すると、白い仮面がその顔に出現する。
「もう暴走したりしねぇ」
「なるほど。確かにコントロールして戦闘に活かせるようになれば便利ですね」
「そうや、せっかくやし虚飾隊長相手したってや」
「はぁ!?」
「一回戦った事あるんやろ?」
「……戦ったっつてもだいぶ手加減してたんだろ?」
「そうですね。あの時、私とあなたの目的は一致していましたから。軽く相手をするのは構いませんが、ここは暴れても大丈夫な場所なのですか?」
「ハッチが結界張ってるから多少は問題ないわ。何重かにして外には霊圧も漏れんように……」
あっ、ちょっとマズいかも……。
「ッ!! 結界が……破られマシタ」
「なんやて!?」
あちゃー。やっぱり来ちゃったか。
まぁ、現世で急に霊圧が消えたりしたら様子見に来るよね。
「隊長……? こんなところで何をしてるんですか……?」
「紹介しましょう。今の九番隊副隊長を務めている雛森桃です」
「なんでただの副隊長がハッチの結界破れんねん!?」
「彼女は優秀ですから」
ハッチと呼ばれたのは有昭田鉢玄。鬼道衆で副鬼道長を務めていた男だ。真子たちと共に虚化事件に巻き込まれていたのである。
「あの結界はワタシが仮面化してから独自に創り出した術……死神の鬼道で解くことは不可能なハズ……」
「知らないなら解析すれば良いだけです」
「そんな簡単に……」
鬼道衆副鬼道長といえば、鬼道衆のナンバー2だ。そんな人物が新しく作った結界を簡単に解析されれば驚くのも無理はない。
ただ、桃は『青いリボン』とか『紫のリボン』に書き込んだ術式も解析して色々やってるのを知ってるから、新しい鬼道の一つや二つ簡単に解析しても私は驚かない。だってリボンの術式はリゼロ世界の、つまり異世界産のものなのだから、たかがとか言ったらアレだが、ただの鬼道の延長線上のものとは全然違うだろうし。
「桃も迎えに来た事ですし、今日のところは失礼しましょうか。ネムや夏梨も待っているでしょうし。桃、戻りますよ」
「はいっ、隊長!」
「かき回すだけかき回して帰るんかいな。勘弁してや、心臓に悪いんやから」
「──何ですか? 隊長に文句でもあるんですか?」
「うお!? なんや!?」
どうどう。
とりあえず今日のところは顔合わせみたいな感じで。
「ひよ里。今度はお菓子でも持ってきますね」
「ああ、うん……楽しみにしとくわ」
「えー、ずるーい! あたしも!」
「ええ、全員の分を持ってきますよ」
拳西の後ろに隠れていた白にも返答しつつ、そのアジトを後にした。
私と彼らがまだ友好的な感じだったから大事にならずに済んだ。これで私に敵対的な態度をとっているのを見られたら桃が暴れていたかもしれない。危ない、危ない。
▼△▼△▼△
カラオケはしっかり楽しみ、その帰り道。
「そういえば、大切な話があると山本総隊長が言っていました」
なんてネムが言うので、彼女が寝泊まりしている宿に寄った。
なんかめっちゃデカいモニターが設置されていた。身長よりも全然大きい。
ネムがどこかへ連絡を入れ、それから待つ事少し。
「ようやくか。待ちくたびれたわい」
「申し訳ありません。大切な用事があり、連絡が遅れました」
画面の向こうには元柳斎が映された。
ネムは謝っている。カラオケをそんなに大切だと思ってくれていたとは。
「何か話があると聞きましたが」
「そうじゃ」
「ホテルの夕食の時間があるので、手短に話してもらえると助かります」
「…………。藍染の目的が分かった」
「そうでしたか」
確かに何のためにあんな事をしたのかは気になっていた。
ルキアの処刑周りの事は『崩玉』を手に入れるためとしても、そもそも何のために『崩玉』がほしかったのか、とか。破面を仲間にするにしても、仲間にして何がしたいのか、とか。
単純に尸魂界に戦争を仕掛けたい戦闘狂みたいな考えで事を起こした可能性もなくはなかったが。
「朽木がしゃしゃり出てきよったせいで少し遅れたが、大霊書回廊で発見したのじゃ。『崩玉』関連の資料以外で唯一既読記録が付いていたものをな」
「白哉がですか? 彼はそのような和を乱す事はしないように見えますが」
「違う。奴じゃ」
「ああ、不老不死ですか。興味があったのかもしれませんね。普段は立ち入りが禁止されていますから」
不老不死は元々四十六室に殴り込むって言ってたし、殴る対象がいなくなったから、とりあえず行くだけ行ってみたとかそういう感じかな?
「それで、目的とは?」
「『王鍵』」
「ああ……面倒ですね」
『王鍵』は霊王宮への道を開く鍵。霊王宮、つまりは零番隊が守護する場所。
絶っっっ対に関わりたくない。
「今からでも虚圏に乗り込んで潰してきましょうか」
「どうやって乗り込むつもりじゃ。今、浦原喜助にそのための道を作らせておる。暫し待て」
「『王鍵』がどこにあるのか、どういうものかも知りませんが、そうして待っている間に彼が霊王宮に乗り込んだらどうするのですか? 零番隊からの文句を全てあなたが受けてくれるというならば構いませんが。私は彼らと関わりたくありません」
「安心せい。涅からの報告によれば、封印を解かれた『崩玉』は強い睡眠状態にあり、如何なる手段を用いようとも完全覚醒までは四月は掛かるという事じゃ。『崩玉』が覚醒しない限りは藍染も手駒を揃えられん」
「その割には現世へ襲撃を仕掛けてきましたが」
「手薄である事を悟られんようにするためじゃろう」
「そうですか」
誰にも言ってないから、転移で今すぐにでも虚圏に攻め込める事を知らないのだろうが、まぁ、4ヶ月の猶予があると言うなら待ってもいい。
何かあったら元柳斎に押し付けるし。というか、いつの間に喜助に接触してたんだろうか。どうでも良いけども。
「決戦は冬。奴が動くのは手駒が揃ってからじゃろう」
「分かりました。では、ひとまず私は現世での警戒を続けるとしましょう。また何かあれば教えてください」
「待て。話は終わっておらん」
「まだ何かあるのですか?」
夜ご飯の時間があるから手短にしてほしいのだが、さらに続いた話によると、どうやら『王鍵』の作り方に問題があるらしい。
『王鍵』を作るのに必要なのは、十万の魂魄と半径一霊里の重霊地。簡単に言うと『王鍵』を作るとこの空座町が丸々消滅するらしい。それは困る。阻止するから関係ないけど。
▼△▼△▼△
元柳斎の報告から時間も経って、最初の破面襲撃から2ヶ月弱。
突然現世に数十単位の大虚が現れた。
一体一体は大した強さではなく、私でなくとも撃退するのは難しくなかった。問題だったのは、その数と場所。まるで嫌がらせのようにバラバラの位置に現れ、私たちは一護や仮面の軍勢組も総出で対応する事態となった。
結果、規模に対して被害としては軽微。
一般人の中で怪我人は出ても、確認出来た限り犠牲は出なかった。理想的なぐらい被害を最小限にする事が出来た。大虚たちが積極的に侵攻するのではなく、どちらかと言うと及び腰であるような印象だった事も要因としてあっただろう。
一体何をしたいのか分からなかったが、その後入った報告で見事にしてやられた事を悟った。
尸魂界の九番隊訓練所でルキアと共に訓練していたという織姫が、大虚襲撃の報を受けて現世に戻ってくる途中、攫われたか殺されてしまったのだ。
○パンドラ主
原作とは違った、質より量作戦で見事に出し抜かれた。
零番隊とは関わりたくない。特に腹黒性悪ハゲ坊主。修多羅千手丸か曳舟桐生なら関わってあげてもいい。
○猿柿ひよ里
基本的に死神は嫌いだが、自分の元隊長であり母親のように慕っていた曳舟桐生と同じぐらいパンドラ主の事は慕っていたため、パンドラ主に対しては未練に似た感情があった。これまでも何度か現世で見かけていたが、もしかすると上の命令通り殺されるかもしれないので、声はかけなかった。
藍染の悪行が知れ渡ったため、一か八か声をかけた。
○仮面の軍勢
約100年振りの再会以降、普通にパンドラ主が顔を出しにくるようになったため、突発的な大虚襲撃にも協力して対応する事が出来た。
○藍染惣右介
ウルキオラが原作通りの面子を連れて作戦を実行しようとしていたため、メンバーと作戦を変えさせた。
○ルピ・アンテノール
原作通り十刃になったが、残念ながら出番がなくなった。
○井上織姫
原作のような猶予はなく、そのまま直接虚圏に連れて行かれた。