転生者『虚飾の魔女』(なお中身)   作:白金の絹糸

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 今回、前話から結構時間が経過しています。



この世界でただ一人の

 

 私が護廷十三隊に入ってから百年過ぎて、二百年過ぎて。

 かなり護廷十三隊の面々も入れ替わった。ヒラの隊士はもちろんのこと、隊長たちも。

 滅却師との戦いほどの規模のものはそうそうないとはいえ、護廷十三隊は結構腕にものを言わせるような任務も多い。(ホロウ)退治なんかはモロにそれである。そのため引退した人もいるが、殉職した人もいた。

 

「紫音、あなたは不老不死に似てきましたね。その眼帯、見づらくはないのですか?」

「カッコいいのからいいじゃ! そんな事も分からないとは、そなたは馬鹿なのじゃ!」

「あまり他人に馬鹿などと言ってはいけませんよ……」

 

 畳の上を走り回っているのは、紫色の髪をツインテールにし、左目に眼帯を着けた見覚えのあり過ぎる風貌の幼女。

 朽木紫音。見たまんまではあるが、不老不死と黒羽の娘……ではなく孫である。

 

「オイ紫音、テメェ今日の素振りはしたのかよ?」

「げっ、素振り素振りとうるさいのじゃ! そんな事をしても強くはならんのじゃ! 婆様は馬鹿なのじゃ!」

「ハッ、なら強くなるために実戦形式でやってやるよ。誰か刃の付いた刀もってこい! 血祭りだァ!!」

「孫を血祭りにするとか頭がおかしいのじゃ──!!」

 

 それはそう。逃げていく紫音の背中を眺めながら、心の中で同意する。

 ちなみにであるが、不老不死と黒羽の間には3人の息子と2人の娘がいる。お盛んで大変結構な事だ。みんな六番隊で働いている。紫音はその中で長男の娘だ。

 

「仲の良いようで何よりです」

「カワイイだろ、アイツ。この前眼帯やったらずっと着けてるんだぜ」

「ええ」

 

 今さらではあるが、ここは朽木家の屋敷。朽木家に嫁入りしたので不老不死の家でもある。

 私も度々入り浸らせてもらっている。豪邸なので最初は気後れしたが、慣れたら自分の家のようにくつろがせて頂いている。家の人もみんな、もてなしてくれるし。 

 

「んで? 今日はどこ行くって?」

「たまには現世に行ってみようかと思いまして」

「現世ねェ……手続き面倒いだけで別に尸魂界(こっち)と変わんなくね?」

「今はそうかもしれませんが、あと数百年もすれば結構変わるはずですよ」

 

 最近というか、不老不死が正式に護廷十三隊を引退したあたりから恒例となっているお出かけ。デートと言い換えてもいい。

 親となって精神が成長したのか、刀を振り回す事以外にも興味を示すようになった不老不死を私が色々と連れ回したのが始まりだ。まぁ、いざ刀を握ったら舌を出して斬りかかるような癖がなくなった訳ではないが。

 

 ちなみに隊長女子組連盟のよしみとして八千流や抜雲斎を誘った事があるが、あの2人はノリが悪いので普通に断られた。

 

「手続きは私の方で済ませておきましたので」

「なら行くか」

 

 現世に行ってみようとは言ったが、ここ尸魂界(ソウル・ソサイエティ)と現世は別物だ。現世は私が前世で生きていたような、一般的に想像する普通の人間が生きている世界。尸魂界は霊的な存在が住む世界。現世で死んだ人間は尸魂界を訪れるが、尸魂界の住人同士で普通に子供を作ったりするので、天国のようなただの死後の世界という訳でもない。

 現世と尸魂界に虚圏(ウェコムンド)というもう1つの世界を合わせて三界というらしく、その3つ世界を魂魄はぐるぐると巡っているとか。その巡りのバランスを崩し、それは世界の崩壊へとつながるからと滅却師は危険視されたりしていたという訳だ。

 

「ええ、行きましょう」

 

 現世へ向かうためには色々と手続きが必要だが、その1つに限定霊印というものがある。護廷十三隊の副隊長以上が現世を訪れる際に付けられるもので、霊力を本来の2割程度まで制限する効果がある。

 現世の霊なるものに影響を与えないためらしいが、私は思った。ずっとコレ付けてたら自分で霊圧制御する必要ないんじゃ? 

 

 名案だった。限定霊印の存在を知って少しして、私はずっと付けたままにする用の限定霊圧を付けてもらった。一応本来なら上の許可がいる解除も自分の意志で出来るようにして。

 それがあるからと色々と言ったりするのは面倒なので、現世に行く時には別途2個目の限定霊印を付ける事にしているが、何もしなくても平時に霊圧が他の隊長と同じぐらいに出来るのは便利だ。同じぐらいとは言ったものの、たぶん制御状態でも私の霊圧が一番高いが、まぁ、誤差だろう。

 

「そういえば、知っていますか? 二番隊の隊長がまた新しくなったのですが、見た目は女性なのに男性だったのです。女の子同士仲良くなれるかと思ったのですが、男性だとは知らず、気まずい空気になってしまいました」

 

 現世に向かう前に団子を買いに行くという流れになったので、歩いて団子屋さんに向かう。

 2人で歩く時の私の定位置は不老不死の背中。首に両腕を回して口を不老不死の耳元に寄せるような形。私の方が少し身長が低いので、足は浮いている。

 

「オマエ、女なら仲良くやれんのかよ?」

「現に、八千流や抜雲斎とは仲良くできていたでしょう?」

「何回か休みの日に茶に誘って全部断られてたじゃねェか」

「たまたま彼女たちがそういう気分ではなかったという事ですよ」

「そのクセに今はもう誘ってねェんだな?」

「……だって、断られたら嫌ですし」

 

 見る者が見れば分かると思うが、これは常時ASMRボイスをお届けするための体勢だ。不老不死が予想以上にこの声にハマってしまったのである。

 気持ちは分かる。ものすごく。

 

 ちなみに我もやりたいと黒羽が言ってきた事があって、やり方を教えたのだが、実践したところ「気色悪ィ事すんな、ボケが」と鼻っ柱にストレートをお見舞いされていた。痛そうだった。

 

「虚飾パンドラ様! お休みの中申し訳ございません! 緊急事態につき、至急出撃のご準備願います!」

 

 と、もう少しで団子屋さんだというところで黒服の人が膝を付いた体勢で私たちの行く手を阻んだ。裏廷隊という緊急の伝令などで走り回る部隊である。

 

「ああン? 誰が、どこに出撃するって?」

「詳しく説明して頂けますか?」

「はっ! 流魂街南80区にて推定最上級大虚(ヴァストローデ)が出現、十三番隊が出撃し同隊長逆骨才蔵(さかほね さいぞう)様の霊圧が消失、他十三番隊も壊滅いたしました。その後三番隊隊長厳原金勒(いづはら きんろく)様、五番隊隊長尾花弾児郎(おばな だんじろう)様が出撃し、お二方の霊圧も消失。全て、死亡が確認されております」

 

 才蔵も金勒も弾児郎も、私や不老不死と同じ護廷十三隊最初の隊長だ。どちらかといえば嫌な奴らではあったが、付き合いは長い。その強さも知ってる。

 それが、死んだ。

 

「アイツらがやられたのかよ。あのハゲは何してる。そういう時こそあのハゲの出番じゃねェのかよ。こっちはこれから現世に遊びに行くんだ、邪魔すんじゃねェ」

「山本元柳斎重國様は瀞霊廷の護りを固められるとのこと」

「んで、出向くのはコイツにやらせようってか? 巫山戯たハゲだ」

 

 もうこの際元柳斎がハゲで通っているのはどうでも良いけど、事態はかなり深刻らしい。あの元柳斎が守りに入るなんて相当な状況だ。

 お別れなんて言っている時間はないのかもしれない。しかし、長い付き合いの仲間が死んだと聞かされたのに、そこまで重く受け取っていない自分に驚く。

 今までだって、何度か仲間と死に別れた事はある。その度にまるで他人事のように感じられたのは、私が魔女因子の影響を受けているからだろうか。

 

「……ッ、オイ! 今戦ってるのは誰だ!」

「はっ、現在は少しでも瀞霊廷への到達を遅らせるため、朽木黒羽様率いる六番隊が……」

「やっぱりかよ、クソが!」

 

 次の瞬間、視界が移り変わる。不老不死の瞬歩だ。

 未だに万全の瞬歩が出来ない私は、大人しく掴まって運ばれるがまま。全力で走れば同じぐらいのスピードは出るが、ドタバタしていてこんなにスマートではない。実際、ここで並走しようとすると、風圧で近くの人を吹き飛ばしたりしてしまう可能性がある。

 

「アタシの斬魄刀は?」

「保管庫で大切に保管しています」

「鍵は」

「後で修理を頼んでおくので、破って構いませんよ」

 

 所有者のいなくなった斬魄刀の保管庫には当然ながら鍵を掛けているが、その鍵は隊首室に保管してある。隊首室へ行くのも手間だし、それを取るのもひと手間だ。

 不老不死の様子を見るに、急いだ方が良いだろう。私は霊圧感知が得意ではないから、めちゃくちゃ集中して大きい霊圧があるな、というのが分かるぐらいで、それが誰の霊圧かは分からない。戦いの様子も分からない。

 

「蹴破るから退きやがれ雑魚!」

「そんな様子だから紫音の言動がああなったのでは?」

「ウッセ」

 

 保管庫は九番隊の隊舎の近くに建てられたので、その近くを隊士が通る事もある。今もすぐ近くを九番隊の女子隊士が歩いていた。

 

「だ、誰……!? と、虚飾隊長!?」

「緊急事態なので、私の許可の下保管庫の扉を破ります。申し訳ありませんが、副隊長に修理をするように言っておいてもらえますか?」

「オマエだって自分で頼むって言ってた事部下に押し付けてるじゃねェか」

「うるさいですよ」

 

 入隊したばかりの子に頼むのは申し訳ないが、今は仕方ない。後で美味しいお菓子でも買って埋め合わせする。

 一応保管庫は頑丈な素材で作られていたが、不老不死の前では敵ではなく、呆気なく扉は破られる事となった。

 

 ▼△▼△▼△

 

 不老不死の背中に乗って、現場に急行する。

 近付くにつれて、複数の霊圧を判別出来るようになってきた。その内の1つは、かなり長い付き合いになる黒羽のもの。少し離れたところにもいくつか。六番隊の隊士だろう。

 

 到着した場所では、既に激しい戦いが繰り広げられた事によって人がいた形跡すら吹き飛んだ廃墟と呼べるような光景が広がっていた。

 

「不老不死!? 其方、なぜ来たのだ!」

「ウッセェ、ウッセェ。テメェがチンタラしてるから手伝いに来てやったんだろうがよ」

「それにその斬魄刀、まさか盗んできたのではあるまいな!?」

「盗んでねェつうの。元々アタシのだし。コイツの許可あるし」

「どうも」

 

 その場にいたのは初老に差し掛かったような見た目の朽木黒羽ただ一人。相対するのは、子供のようなサイズ感の(ホロウ)。今まで見た中でも異様なぐらい霊圧がデカい。

 

最上級大虚(ヴァストローデ)というやつだろうね』

 

 あ、エキドナ。久しぶりに出てきた。

 イマジナリー状態のエキドナは好きに出てきたり消えたり出来るらしいが、最近は代わり映えがなくて退屈だとかで引っ込んでいる事が多かった。

 隊首会とかの会議では出てきてもらって横でアドバイスしてもらってるけど。

 

 それで、ヴァストローデ? って何だけっけ。

 

『まったく……。虚が数百数千と共食いを重ねて進化したのが大虚(メノスグランデ)だ。その大虚を三つに分類したのが、下から弱い順に最下級大虚(ギリアン)中級大虚(アジューカス)、そして最上級大虚(ヴァストローデ)最上級大虚(ヴァストローデ)ともなれば、数え切れないほどの大虚(メノス)を食らってきたはずさ。軽く数万は超える魂魄を取り込んでいるのだから、魂魄のバランスを考えれば倒す事は推奨されていないけれど』

 

 さすがは強欲の魔女。頼りになる。

 

「テメェは雑魚なんだから勝てないなら引っ込んでろ」

「何を言うか! 今まで時間を稼いでいたのは私だぞ!? そもそも雑魚とは言うが、其方は最近パンドラと遊んでばかりでまともに鍛錬など」

「んだと!?」

 

 ケンカップルというかケンカ夫婦? が言い合いを始めたので、一撃を撃ち込んでみる。

 

「シャリオ」

 

 一条の星の光。

 かなりの威力があるが、向こうも技をぶつけて相殺する事も出来なくはない。元柳斎なんかはただの刀の一振りでかき消したりしてくるし。

 

 しかし、顔を仮面で覆った少年のような虚は手を正面にかざしただけ。それだけでシャリオの光は消えた。

 

「オイオイ、冗談だろ?」

「奴は触れたものの霊子を霧散させる力を持っている。斬魄刀の能力はもちろん、触れられると身体も削り取られる。いや、触れられた場所から崩壊し、やがて全身が塵となって消えてしまう」

「そういうのは先に言えや!!」

「言う前に引っ込めなどと言ったのは其方だろう!?」

 

 そんなめちゃくちゃな……。

 触られたらアウトとなると、不老不死はもちろん近接戦闘しか頭にない者は相性が悪い。やられてしまった隊長二人も例に漏れず斬り合いしか脳がない脳筋だ。

 とは言っても、じゃあ遠距離が得意な私なら良い感じに戦えるかというと、今のように消されるから微妙。

 

 卍解した方が良いだろうか。

 魔法だけだと分が悪いが、卍解すれば色々とやりようはある。

 

「パンドラ、其方が来てくれて助かった。私では時間稼ぎが精々でな。其方の卍解の力を借りたい」

「ええ、私もそう考えていたところで……」

「奴の力は強大だが、無制限に霊子を霧散させる事が出来る訳ではない。其方の隕石ならば、奴が打ち消し切る前に倒せるはずだ」

「ああ……そちらですか」

「そちら?」

「いえ、こちらの話です」

 

 アル・シャリオなら倒せるらしい。まぁ、さすがにアル・シャリオで倒せないとなると『剣聖』とか『青き雷光』レベルになるので全力で逃げるのだが。

 

「バラバラッ! バラバラッ!」

 

 そんな鳴き声のようなものを発しながら、ビームのようなもの、虚閃(セロ)を放ってきた。

 

「エル・シャリオ」

 

 こちらも範囲を絞って威力を上げたエル・シャリオで応戦。虚閃(セロ)自体は普通のようで、エル・シャリオの光が簡単に押し返した。

 

「オマエもバラバラッ!」

 

 が、直後に背後から気配。

 

「気色悪ィんだよ、クソが!」

 

 私を背負ったままの不老不死が振り向きながら斬魄刀を振るう。

 

「無闇に斬魄刀を振るな! 塵にされるぞ!」

「先に言え!」

「霊子を霧散させると言ったであろうが!?」

 

 不老不死の斬魄刀が剣先から崩れていく。

 刀身が全て崩れてしまう前に、不老不死は自ら中ほどで斬魄刀を折った。折れた剣先は塵となって消えてしまったが、半分は崩壊せずに残った。

 

「エル・シャリオ」

 

 効かなくても間を作るぐらいは出来るかと放ってみるが、やはり気配が消える。その気配は少し離れた場所へ。

 

「速いですね。そのまま放っても避けられそうですし、どうしましょうか」

「手に触らなけりゃイイんだろ。なら手を避けて斬るだけだ」

「どうやってアル・シャリオを当てるかという話なのですが……」

 

 この子はすぐに脳筋みたいな事を考える。そりゃ、それが出来たらそれが一番だろうけども。たぶんもう試しただろうし。

 

 ヴィータとかいける? 重力を増幅させるみたいなやつ。

 

『ボクを誰だと思っているんだい? それぐらい、当然出来るとも。というか、君の知っている魔法程度、全て使えるように網羅しているさ』

 

 じゃあそれで。

 

「バラバラにするッ!」

「来るのは分かってんだよ、ボケが!」

 

 先ほどのように背後に現れた虚に不老不死が斬魄刀を振るう。

 

「エル・ヴィータ」

 

 当時に魔法を発動。対象に掛かる重力を増幅させる魔法だ。スピードタイプならかなり効くはず。

 

「らァッ!!」

 

 たとえ僅かでも鈍った動きで相手出来るほど不老不死は甘くない。

 虚の両腕が飛んだ。

 

「エル・シャマク」

 

 ついでに意識と肉体を切り離しておく。

 

「何したんだ、オマエ?」

「身体を重くして、それから意識と肉体を切り離しました。もう何も出来ないでしょう」

「オマエそんな事出来んのかよ……怖ェ怖ェ」

 

 虚特有の超速再生でたった今斬られた腕が再生していくが、エル・シャマクを掛けたのでもう動けないはずだ。さすがはシャマクさん。

 

『最初からそうしておけばよかったと思うのはボクだけかな?』

 

 だまらっしゃい。ちょっと忘れてただけでしょうが。

 

「まァ……これなら後は斬るだけ──」

 

 そう言った、不老不死の折れた斬魄刀の刃が虚の仮面部分に当てられようとした瞬間の事だ。

 

 ──パリッ

 

 仮面にヒビが入った。

 まだ刃は当たっていないのに。

 

 ──パリッパリッ

 

 仮面が剥がれていく。

 霊圧が、膨らんでいく。

 

「アアアァァァァッッ!!」

 

 異様なその変化に距離を取る。

 

「なんだ、ありゃ」

「私も初めて見る……なんなのだ、あれは」

 

 相変わらず私は背中に乗ったままだが、不老不死と黒羽はどちらもあの変化を知らないらしい。当然私も知らないが。

 

 エキドナ知ってる? 

 

『ごく稀に仮面の剥がれた個体がいるという話はある。普通の虚よりも強力な力を持つ傾向にあるそうだ。以前に山本元柳斎と卯ノ花八千流が話していただろう? ボクが聞いているという事は、当然君もその場で聞いていたという事だよ?』

 

 全然記憶に残ってない……。

 

「どうやら仮面が剥がれてより強力となった虚がいるようです。あれもその一種という事でしょう」

「よく知ってんな、珍しい」

「こういうものは普通、其方が一番知らないものだと思っていたのだが」

「失礼ではありませんか……?」

 

 普段よく言い合いをしているくせに、こういう時に限って仲良く失礼な事を言ってくる。

 良いんだけどね? べつに。

 

 なんで急に仮面が剥がれたのかは知らないが、パワーアップしたからといって、エル・シャマクで意識を切り離している以上そこまで警戒する必要もない気がする。確かに霊圧はデカくなったけど。

 

『待つんだ。エル・シャマクの効果が弾かれた』

「え?」

 

 次の瞬間、姿がより人間に近付いた虚が虚閃(セロ)を放ってきた。

 

「エル・シャリオッ!」

 

 とっさに正確に合わせられたのは褒められるべきだと思う。

 

「馬鹿野郎ッ! 避けろッ!」

 

 ただ、さっきのように相殺は出来なかっただけで。

 

 ▼△▼△▼△

 

 極端な話、『虚飾の権能』がある私はどんな怪我を負ったとしても問題ない。即死するような攻撃を受けてもなかった事に出来るのだ。泣き叫びたいぐらい痛い怪我を負っても、すぐになかった事にすれば身体は元通り。

 だから、エル・シャリオの光を貫いた細く圧縮された虚閃(セロ)が黒羽へ向かい、それを庇った不老不死と一緒にお腹を貫かれても問題はない。

 

「何故だ……何故私を庇った……!」

「言わねェと……分かんねェかよ……馬鹿が」

 

 そう、私は問題ないのだ。

 でも、不老不死はそうではない。

 

 虚閃(セロ)自体は、拳ほどの太さしかなかった。まともに食らったとしても、それぐらいの傷の大きさならそのまま戦闘を続行していただろう。

 にも関わらず、不老不死が倒れ伏しているのはその傷口がボロボロと広がり続けているからだ。

 

虚閃(セロ)に霊子を分解する性質が付与されていたようだ』

 

 そんなの、見たら分かる。

 

「私は、其方を守るために……!」

「耳元で……ウルセェ……」

 

 なんだろう、この気持ち。 

 今までだって何回も死を見送ってきた。他人事のような感覚であったとしても、何も思わなかった訳じゃない。つい昨日まで話していた相手がいなくなるのは寂しい。

 でも、それが自然の摂理だからか。そういうものだと、一歩引いた傍観者のように見ていた。

 

 なのに、今この瞬間は。

 嫌だ。失いたくない。

 漫画の世界の住人。たとえ創作物だとしても、この世界に来て初めてできた親友だから。

 

『何を迷っているんだい? 君の権能があれば、こんな事はなかった事に出来るだろう?』

 

 そうだ。『虚飾の権能』があれば、その死をなかった事にするなんて簡単だ。

 けれど、今まで他人に対しては権能を使ってこなかった。冗談めかして、何かあっても後で記憶を消せば良いやなんて考えた事もあったが、実行に移した事はなかった。

 他人に権能を使うなんて事を、本当にしても良いのか。そんな葛藤はずっとあった。

 多少認識を弄るぐらいなら、その人のその後の人生にほとんど影響はない。しかし、死をなかった事にするなんて、そんな運命を捻じ曲げるような事をしても良いものなのか。

 

 権能が事が知れ渡ったら面倒になるとか、色々と他にも理由はある。ただ、そのほとんどはそもそも権能を以ってすれば解決出来る話で、結局のところは私のエゴの話になる。

 あるいは、他人の運命を好き勝手に弄るようになってしまえば、人ではなくなってしまうような。

 

「私が奴を引きつける。其方はここから離れ、卍解で私ごと奴を討て。頼んだぞ」

 

 不老不死は塵となって消えてしまった。

 最期に言葉を交わす事も出来なかった。

 こちらに背を向けた、黒羽が一体どんな顔をしていたのかも分からない。

 

『どうするんだい? ボクは、くだらない事に囚われて大切な物を手放すのは愚かだと思うけれどね』

 

 うん。そうだね。

 

 昔、魔女因子がどうとか、魔女の感性がどうとか言っていた気がするけれど、こうして数百年過ごしてきて、たぶん私の感性は魔女に毒されたりはしていないと思う。

 ただちょっと、部外者感というか、カッコよく言えば世界に対する疎外感みたいな。

 ただそれだけの。

 

 何でも好き勝手に出来るから、自分以外に使う事はなかった。

 それを使ってまで手元に置いておきたいものもなかったから、自分以外に使う事はなかった。

 

 本当に好き勝手に使うようになったら、本当の魔女になってしまうかもしれないけれど。一人ぐらい、いいだろう。

 だって、この世界に来て右も左も分からない時に出会った、たった一人の親友だから。

 

 権能を行使する。

 初めて、自分以外に対して。

 

「なん……だ……?」

 

 なかった事にする。

 運命を捻じ曲げ、その死すらも。

 

「おはようございます。身体の調子はどうですか?」

「どうしたもこうしたも……アタシはさっき死んだはずだろ」

「ええ。だから、なかった事にしました」

「はァ……?」

「あなたの死を、なかった事にしました」

 

 地面に座り込んだ形の不老不死は、状況を掴めずにいる。

 

「改めて、名乗りましょう。私はパンドラ。『虚飾の魔女』パンドラ。『虚飾の権能』を以って、事象を捻じ曲げる者」

「魔女……? 権能……? 何を言ってやがる……」

「詳しい話は後で。まずはアレを片付けるとしましょう」

 

 陰魔法で空間転移、出来るよね? 

 

『本当は条件付きだけど、何とかしよう。それなりに霊力を持っていかれる、というのは今更だね』

 

 それで言ったら絶対アル・シャリオの方が霊力コスト重いだろうし。

 

「──アル・シャリオ」

 

 星を落とす。

 さすがにこれで倒せないなんて事はないだろう。これで倒せないとなると、逃げるか権能全開でいくしかなくなる。

 

「オイ……! 黒羽ごとやるつもりか……!?」

「いえ。直前まで引き付けてもらうだけですよ。さあ、手を」

 

 黒羽ごとというか、このままだと普通に私たちも巻き込まれる。

 

 不老不死の手を取り、少し待機。ちょっと手を握るのが早かったかもしれない。

 

「いきますよ」

 

 エキドナ、転移。黒羽のところに。

 

『まったく、君は人使いが荒い』

「黒羽のそばに転移します。すぐに離れるので、彼の手を」

 

 視界が切り替わる。

 注文通り、黒羽が戦っているすぐそばに。

 

「なっ!? 不老不死!? これは幻か!?」

「つべこべ言ってねェで掴め!」

 

 もう落ちてくる星はすぐこそまで迫っていた。

 黒羽が不老不死の手を掴んだのを見て、再び転移。先ほどよりもずっと遠くに。

 

 直後、星の最期の光が炸裂した。

 あの虚が暴れた事で周囲に人が残っていないのは確認していたし、近くに残っていた隊士も星を見て退避したのは確認していたが、極力被害は減らすために今回もムラクで軽くはしていた。とはいえ炸裂する光は健在だ。

 あの虚の霊圧は消えた。

 

 ▼△▼△▼△ 

 

「それで? 魔女とかなんとか言ってたのは何だったんだよ」

「言葉の通りですよ。この身は『虚飾の魔女』。ここより異なる世界に存在した魔女の一人です」

「分っかんねェのが増えたぞ、オイ。異なる世界ってなんだよ。現世とか虚圏(ウェコムンド)をややこしい言い方してるワケじゃねェだろうな?」

「ええ。三界のどれでもない、文字通り異世界から来たのが私です。実は、あなたと初めて会ったあの時は、この世界に来てすぐの事だったのですよ」

 

 ところ変わって朽木家の屋敷、不老不死の部屋。

 運命を捻じ曲げてしまったのだ。もう言える事は全て言ってしまえと、私は不老不死に打ち明けた。

 

「アタシを生き返らせたのも、その異なる世界の力ってヤツか?」

「その通りです。とはいえ権能を持つ者は一握りですし、『虚飾の権能』を持つのはこの身だけですから、誰でもあのような芸当が出来るという訳ではありませんが」

「その『虚飾の権能』ってのは? 虚飾家に伝わる秘術みてェなもんか?」

「いえ。虚飾は肩書きのようなもので、一族の名という訳ではありません。便宜上名字として名乗っているだけで、私の真名を言うならただのパンドラですね」

「オマエ家名ないのか。朽木家(ウチ)来るか? 養子とかで」

「それには及びません。その代わりに、私と契約してくれませんか?」

「契約だ?」

「ええ」

 

 実は下心がない訳ではない。

 ただ契約、と言ってもリゼロ原作のエキドナのような腹黒契約ではない。

 

『失礼な』

「私は権能によって老いる事もなければ死ぬ事もありません。今この瞬間は、あなたも権能の影響下にいるので同じ状況です」

 

 そう、不老不死の死をなかった事にしたあの瞬間から、ずっと『虚飾の権能』の影響下に置いている。だから、不老不死は老いる事もなければ、仮に死んでもすぐになかった事になる。文字通り不老不死という事だ。

 

「契約というのは、このまま私と共に永い時を過ごしてくれませんか、という話です」

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)の住人は、現世の人間に比べて寿命がかなり長い。それこそ数百年単位で生きている者も普通にいる。だが、それでも寿命はあるので、権能で実質無限に生きられる私は置いていかれてしまう。

 それは寂しい。ずっと一緒に過ごしてくれる人がほしいと思ったのだ。

 だから、なんとしても頷いてほしい。そのための説得も色々と考えてきた。

 

「死ななくなるとは言っても、死ぬ事が出来なくなる訳ではありません。権能の影響を外せば、元通りになります」

「ああ、分かった。いいぜ」

「ですから…………はい……?」

 

 迷っていても、多少渋っていても、押す文句は考えてきた。なのに、その返事はびっくりするほど呆気ない。

 

「なにが“はい……? ”だ。オマエが言い出したんだろ?」

「本当に良いのですか……?」

「良いも何もあるかよ。そもそもアタシはあの時死んでんだ。しかも、老いもしなくて死なねェって? そりゃ、つまり、不老不死って事だ。これ以上に相応しい事もそうねェだろうよ」

 

 言ってしまえば一世一代の告白のようなものだ。

 それが受け入れられた。その事に安堵する。

 

「んで? どうすりゃいいんだ、契約って」

「何もする必要はありません。ただ、約束してくれれば。でも、そうですね。指切りでもしましょうか」

「指切りィ!? テメッ、永遠の命の代わりに指を差し出せってか!?」

「はい……? いえ、あの……本当に指を切る訳ないではありませんか。馬鹿なのですか?」

「オマエが指切るとか言ったんだろうが!!」

 

 後で確認すると、まだこの時代は約束をする時の指切りが浸透していないらしかった。

 





 ○名もなき(たぶんあるけど名乗らなかった)最上級大虚
 触れたものの霊子を分解する力を持つ最上級大虚。スピードタイプでもあるので、接近戦をメインとする者は分が悪いし、遠距離タイプもそのスピードで近付かれると分が悪い。
 途中で破面化し、霊子分解の効果付きの虚閃を放てるようになった。
 パンドラ主のアル・シャリオを相殺出来ずに消滅。放置していたら割とマズい事になっていたであろう虚。能力的にバラガンと似てるとか言ってはいけない。

 ○朽木黒羽
 六番隊隊長。元々産休に入った不老不死の代理を務めていたが、「最近平和で暇」と産休からの流れで不老不死がそのまま引退したので正式に就任した。
 卍解修得済。防御特化の卍解なので今回の虚に対して一人で持ちこたえられた。
 一人称は我から私に変えた。

 ○パンドラ主
 普段休日中は朽木家に入り浸っており、不老不死と遊んでいる。霊圧を垂れ流さないように、常に限定霊印を付けている。それでも並の隊長より霊圧は上だが、何もしないよりも霊圧を抑えやすい。
 今回戦闘中にエル・シャマクが弾かれたが、これは限定霊印による霊圧制限のせい。限定解除をしていれば普通に完封出来た。とはいえ不老不死との契約の事を考えると結果オーライ。
 これまで他人に権能を使った事がなかったが、不老不死に対しては遠慮せず全力で使っていく事に決めた。

 ○朽木不老不死
 色々あって魔女の契約者となり、文字通り不老不死となった。
 普段はパンドラ主と遊ぶか、子供や孫を鍛えるか、パンドラ主の影として暇つぶしに虚狩りをしたりしている。 
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