転生者『虚飾の魔女』(なお中身)   作:白金の絹糸

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 過去編ではありますが、遂に原作の内容に入ってきました。




流魂街変死事件

 

 

 流魂街で変死事件が起きたらしい。服だけ残して跡形もなく消えたとか。

 調査を任されたのは我らが九番隊。

 知ってた。大体面倒事を押し付けられるのは九番隊なので。

 

 先遣隊として10人ぐらい出したのだが、消息を絶ってしまったので、念の為に私も隊長として現場に乗り出した。

 

「ね〜お腹すいたよ隊長〜〜! おはぎ食べたい〜!」

「そうですね。帰りにおはぎを買って帰りましょうか」

「やった〜!」

「甘やかすなや、隊長コラ」

 

 席官を含めて何人か連れてきたが、第三席の久南(ましろ)のおかげで賑やかだ。やっぱり元気な子がいると良い。

 拳西は何か言っているが、そんなにカリカリしない方が良いと思う。

 

「そういえば皆さん、一番隊の隊舎の近くに新しくできた和菓子屋さんを知っていますか? 先日元柳斎に呼び出された際に見つけたのですが、なかなかに品揃えの良さそうなお店でした」

「それって『かなと屋』ッスか?」

「ええ」

「自分、開店した時から目をつけてて、次の品評会に持っていくつもりだったッス!」

「そうでしたか。それでは楽しみにしておきましょう」

 

 烈が開催している生け花教室を参考にさせてもらって、九番隊では月1で自分で選んだお菓子を持ち寄る会を開いているので、雑談もお菓子に関する事が多くなる。

 

「拳西は次の持ち寄り会、どうするのですか? 特別顧問として朽木家の大婆様を呼んで高級菓子を用意する事も出来ますよ」

「品評会じゃねぇのかよ……つか、なんだ特別顧問って」

 

 会を開いているとは言っても、強制参加ではない。九番隊の中では、拳西は出席率が低い方だ。

 

「高級菓子!? 食べたい食べた〜〜い!」

「では、次の会は彼女も呼んでおきましょうか」

 

 別に護廷十三隊の隊士限定という訳でもないため、呼ぼうと思えば不老不死だって呼べる。

 

「うわああぁぁ!!」

 

 と、話していると悲鳴が聞こえてきた。

 

「虚だ!」

「でかいぞ!」

 

 虚がこちらに向かって来ていた。

 確かに大きい。10メートルはある。

 

 普段なら隊士のみんなに経験を積ませてあげるところだが、今はちょっとマズい。子供が追いかけられていた。

 

「シャリオ」

 

 白光一閃。虚は消滅した。

 

「転んで怪我をしたのですね。誰か、治癒ま……ではなく回道を掛けてあげてください」

 

 逃げていたのは男の子3人。その中でも一番逃げ遅れそうになっていた子は、転んで怪我をしていた。

 

「回道使える奴は本隊で待機してるだろ……この人員選んだのは隊長だぞ。しっかりしてくれ」

「……そうでしたね。では、私の方で」

 

 鬼道の一種である回道には、当然ながら私は才能がない。ただ、似たような事なら出来る。

 治癒魔法だ。普段、シャリオが便利過ぎてそれしか使っていないが、エキドナのサポートによって私は一応全ての魔法を使う事が出来る。

 

「これで大丈夫ですね。立てますか?」

「う、うん……」

「それは結構。では、他にも怖い虚がいるかもしれないので、2人と一緒に離れていてもらえますか?」

「うん……」

 

 ひとまずこれでオッケー。

 虚というより、変死事件があるから離れていてほしい訳だが、まぁ理由なんて何でも良いだろう。

 

「さて、ではそろそろ分かれてこの辺りを捜索してみましょうか」

 

 確かこの辺りだったし。変死事件があったっていうの。

 

「たいちょ〜〜! 見て見て! 死覇装!」

 

 と、その時白が持ってきたのは、先遣隊の人数と同じだけの死覇装だった。

 

 ▼△▼△▼△

 

 流魂街の住民だけでなく、死神までターゲットにしたという事は、いずれ瀞霊廷に狙いを移してくるかもしれない。なので、囮も兼ねて私たちは今晩はここに野営。

 という事になった。拳西に判断を任せたところ。

 

 丸投げした訳ではない。上司として、拳西が他の隊に行ったり、あるいはどこかの隊の隊長をする事になったとしても大丈夫なように教育しているのだ。

 

 既に日も沈み、暗くなっていた。

 

「すみません。遅くなりました」

 

 本隊への連絡や、中央への連絡を任せていた隊士がそれぞれ戻って来てからしばらくして、技術者としての救援を十二番隊に頼みに行っていた東仙要が戻ってきた。

 

「お前随分と遅かったな」

「向こうも丁度忙しくしていたようで」

「そうか。いや、ご苦労だった」

 

 それを拳西が出迎えた。

 誰に頼もうか迷っていたら、要が立候補してくれたのだ。ご苦労である。

 

「隊長。少しよろしいでしょうか」

「はい?」

 

 私も労ってあげようとしたら、それに先んじて要が耳打ちしてきた。

 要は盲目の身でありながら頑張っているので、個人的に応援している。そのダサ……ではなく個性的な仮面はちょっと、うん、って感じだが、個性なので尊重しなければ。

 

「戻ってくる途中に五番隊の藍染副隊長から、虚飾隊長に伝えたい事があると」

「惣右介が?」

「今回の変死事件について、気付いた事があるようです。確証がある訳ではないので内密に、と」

「そうですか。分かりました」

 

 この場は拳西に任せても大丈夫だろうし、その話を聞きに行くか。惣右介が何に気付いたのかは知らないけど、こうして夜まで粘っても何もなかったから、何か情報があるなら欲しい。

 

「拳西。少しの間この場を任せます」

「どこか行くつもりか?」

「ええ。五番隊のところに。何か新しい情報があるかもしれませんので」

「何で五番隊に情報があるんだよ……」

 

 この場は拳西に任せて五番隊の隊舎へ向かって飛ぶ。飛行魔法だ。完璧な瞬歩は出来ないが、それっぽくやるドタバタ瞬歩に飛行魔法を混ぜ合わせると、かなりのスピードが出る。

 それでも本気の不老不死には追いつけないのは、私が遅いのか彼女が速過ぎるのか。瞬神とか言われているらしい夜一を簡単に捕まえていたのを見るに、後者な気はするが。

 

「副隊長はいらっしゃいますか?」

 

 そうして到着した五番隊隊舎。

 その辺の隊士に声を掛けると、待ち構えていたかのように五番隊の副隊長である藍染惣右介がすぐに現れた。

 メガネの優男。普段から真子に振り回されていそうな苦労人だ。

 

「わざわざすみません、虚飾隊長」

「構いませんよ。何か話があるとの事でしたね」

「まだ確証がある訳ではありません。場所を移しても構いませんか?」

「ええ」

 

 他の人には内緒で話したいらしい。要にも内容を言わなかったようだし、それほど他に知られたらやばい話なのだろうか。

 場所は隊舎の応接室に移る。

 

「現在九番隊が調査に出ている変死事件、これに十二番隊の浦原隊長が関わっている可能性があります」

「喜助が?」

 

 どんな話かと思えば、斜め上から来た。

 喜助がこの事件に関わっているなんて、全く想像もしていなかった。

 

「先日から発生している変死事件、その現場で浦原隊長を見たという者がいます」

「そうでしたか。しかし、それだけで関わっているというのは早計なのでは?」

「浦原隊長はその後に平子隊長が変死事件の話をした時、初耳だという態度を取りました。それだけでなく、聞くところによると九番隊の方にも隠しています。何かを企んでいるという可能性は十分考えられるでしょう」

「なるほど。確かに、隠す意味はないですね。むしろ、十二番隊の技術があるならば私たちよりも先に調査に乗り出してもおかしくないですし」

 

 確かに怪しい。

 エキドナ、どう思う? 

 

『どう思うも何も、今の状況では情報が不足していて判断はつかないね。浦原喜助を見たという目撃情報もどこまで正確かは分からない。ただ、黒だという事も十分に考えられる。警戒するに越した事はないだろう』

 

「分かりました。他には何かありますか?」

「ああ、すみません。今分かっているのはそれぐらいで」

「謝らなくて良いのですよ。貴重な話を聞かせていただきました。ちょうど十二番隊の隊士を呼んでいるので、それとなく観察しておきましょう」

「お願いします」

 

 一応前線を抜け出してきた状況であるため、長居する訳にはいかない。早々に立ち上がる。

 

『それにしても、どうして隊長である平子真子ではなく、副隊長の藍染惣右介がこの話を持ってきたのだろうね』

 

 あ、確かに。

 

「そういえば、真子はどうしましたか?」

「平子隊長は間が悪く留守にしていまして。代わりに伝えさせてもらいました」

「そうでしたか。それでは失礼しますね? 貴重な情報をありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。お気を付けて」

 

 と、今度こそ現場に戻ろうとしたところで、警報が鳴り響いた。

 

『緊急招集! 緊急招集! 各隊隊長は即時一番隊舎に集合願います!』

 

 全隊長の招集。相当な緊急事態でなければそんな事にはならない。こんな事、何百年か前の霊子分解大虚の時にもなかったのに。

 まぁ、あれは私は休日中で出遅れた感もあったし、既に緊急招集した後だったのかもしれないけど。

 

『九番隊に異常発生! 九番隊副隊長、六車拳西の霊圧反応消失!』

 

 九番隊。拳西がやられた? 

 拳西はあれで卍解も出来てどこかの隊長をやっていてもおかしくない男だ。それがやられるなんて、そんなに強い敵が出てきたのだろうか。

 

「困りましたね……さすがに瀞霊廷に落とす訳にはいきませんし」

 

 例の最上級大虚(ヴァストローデ)並の敵が出てきた場合、アル・シャリオの出番の可能性があるが、人がいなくなった流魂街ならともかく、瀞霊廷は人を退けるのは難しい。

 

「落とす?」

「いえ、こちらの話です。ひとまず、今の放送は聞かなかった事にして私は現場に戻ります」

 

 ただ、魂魄のバランス的に大虚は倒したくない。比較的弱い個体は勝手に虚圏(ウェコムンド)に帰ってくれたりするのだが、強いやつは帰ってくれなかったりするし。

 少しぐらいならオル・シャマクの封印とかで拘束出来なくもないが、相手が魔女因子を持っていない以上完全な封印にはならない。そもそも永続的に封印出来たとしてどこに置いておくんだという話でもあるし。

 最終手段としてアル・シャマクで異界に飛ばすという案もあるが、いつかアル・シャマクを使った時に中から出てきたりしたら最悪なので、これもあんまりやりたくない。

 どうしたものか。

 

 ▼△▼△▼△

 

 現場に戻ってきた。

 予想はしていたが、九番隊の隊士たちの遺体が転がっていた。

 

『妙だね。どれも鋭利な武器によって付けられたような傷がある』

 

 虚じゃない感じ……もしかして喜助の仕業? 

 

『そこまでは分からない。ただ、人為的なものであるのはほとんど確定だろうね』

 

 さて、と。

 本当は早く弔ってやりたいが、今はこの近くに2つの霊圧がある。隊長レベルでないと正直誰の霊圧とか判別出来ないぐらい、私の霊圧感知はよわよわなので誰かは分からないが、片方は虚っぽい感じもする。

 やっぱり虚の仕業だろうか? 

 

 霊圧の元へと急ぐ。

 そこにいたのは、ひよ里だった。そして、相対しているのは虚。

 

「大丈夫ですか、ひよ里?」

「虚飾、隊長……?」

「1人でよく頑張りましたね。あとは任せてください」

 

 霊圧の大きさ的に大虚かな。

 とりあえずは様子見……。

 

「待って!!」

 

 と、虚に手を向けたところで背に庇うひよ里に裾を引っ張られた。

 

「拳西なんや……!」

「なんですって……?」

 

 普通に虚ではあるが、振り向いてその目を見れば、真剣そのもの。

 まさか、本当に? 

 

『来ているよ。前を向いた方が良い』

「おべっ」

 

 え? と前を向いた瞬間、顔一面に衝撃。続いて首がもげるような感覚と共に身体が浮いた。

 

「虚飾隊長──!!」

 

 地面でバウンド、バウンド。

 

「────ッ!?」

 

 イッッタッッ!!?? 

 は、鼻!! 鼻が!! 

 

『大げさだね。権能で元に戻せるだろうに』

 

 み、見間違い見間違い──!! 

 

「……フゥ…………」

 

 あー……最悪。

 ただでさえ、かわいい部下たちが亡くなったっていうのに。過去最低レベルで気分が悪い。

 

『霊圧を引っ込めたままにするからそうなるんだよ』

 

 仕方ないでしょうが。頑張って引っ込めるようにしてから、癖になってるんだから。引っ込めた状態が自然になってるから、わざわざ意識してやらないと霊圧飛び出ないし。

 こう、ドバっと蛇口を回す感じで。一回全開にしたら、また意識して蛇口を回さないと全開のままだし。

 

「仕方がありませんね…………」

 

 霊圧全開。

 

「──エル・シャマク」

 

 精神と肉体を切り離す陰魔法。

 虚が地面に倒れた。

 

「だ、大丈夫なんか、虚飾隊長……? モロに食ろうてたけど……」

「ええ…………大丈夫ですよ」

『確かに服は死覇装だし、入れ墨も同じものだ。とはいえ、それにしても興味深い。死神が虚になるなんて話はこれまで聞いた事がない』

 

 ひよ里がこちらの心配をしてくれているのを余所に、イマジナリーエキドナは拳西だという虚のそばにしゃがみ込んで観察している。

 

「しかし、どうしましょうか。これが拳西だとしても、虚である以上はこのままにしておけません」

「それは……けど……!」

 

 とは言ってみるものの、私も好き好んで拳西を亡き者にしたい訳ではない。これが拳西ならの話だし、そもそも虚になっている時点で死んでいる感はあるが。

 どう思う? 

 

『現世では死後魂魄になって始めて虚となる。ただ、死神が虚になったとするなら、元々魂魄だったものが虚になった訳だ。こちらは魂魄が変化しただけと考える事も出来る。魂魄が消滅する訳でもない。そういう意味では、死んではいないと言えるかもしれないね』

 

 うーん。戻せそう? 

 

『前例がない以上断言は出来ないけれど、通常の虚の例を考えるに難しいだろうね』

 

 だよね……。

 

「烈のところに連れていきましょうか?」

 

 私は権能を使う以外でなんとかする方法は思い付かないが、烈ならなんとか出来る可能性もゼロではないかもしれない。人体改造とかで。

 

「げほっ……げほっ……」

「大丈夫ですか?」

「ごぼっ……」

 

 見れば、ひよ里は嘔吐していた。

 口からは白い吐瀉物……吐瀉物? こんなに白一色な事があるだろうか。

 

『なるほど、これか』

 

 勝手に納得しないで? 

 と、文句を言う前に叡智の書を胸の前に動かす。直後、ガキンッと金属音。ひよ里の斬魄刀と衝突した音だ。

 普段ひとりでに私の周囲を浮かんでいるこの書は、一応斬魄刀だからこうして私の意思で動かせるし、相手の斬魄刀と打ち合う事も出来なくない。

 ただ、今の問題はそんな事ではなく。急にひよ里が襲ってきたということ。

 その答えは、彼女の顔にあった。

 

「虚の仮面……」

「オオオオオオ──ッ!!」

 

 白い虚の仮面。不気味なそれが、顔に貼り付いていた。

 

「エル・シャマク」

 

 魔法で身体の制御を失わせる。

 

 これで確定だろうか。死神が虚になるという現象。さっきまでは拳西に似た虚という可能性もなくはなかったが、こうして実際にその瞬間を見てしまった以上は否定出来ない。

 

「ムラク」

 

 拳西とひよ里、2人の重力を軽減させ、宙に浮かせる。普通に抱えるのはちょっと体格的に難しいので、浮かせた状態でそれぞれの死覇装の袖を掴んだ。これで運びやすくなった。

 

「……?」

 

 今気付いたが、近くに大きい霊圧がいくつかある。

 その大半は虚っぽい気配なのだが……。ちょっと覗いてみるか。

 もしかしたら死神が虚になっているかもしれないし。

 

「あれは……」

 

 そこで倒れていたのは、死覇装を纏い顔には白い仮面を貼り付けた、恐らく死神が虚になったもの。

 そして、十二番隊隊長の喜助と鬼道衆大鬼道長の握菱鉄裁。

 

「そこを動かないでください」

「ッ!? 虚飾、隊長……」

「喜助、鉄裁。この虚になってしまうような現象について、あなたたちは何か知っているようですね?」

 

 鉄裁は知らないが、喜助は惣右介からの情報にあった怪しい人物。こんなのほとんど黒じゃん。

 

「ひよ里サンに、六車副隊長まで……鉄裁サン!」

「承知! ──空間転移!」

 

 直後、視界が途中の映像を切り取ったかのように変わった。

 

 空間転移って言ったよね。鬼道の空間転移って禁術じゃなかったっけ? 

 

『そうだね。使用すると厳罰があったはずだ』

 

 禁術とかカッコイイからちゃんと把握しているのだ。

 便利なのに使ったら厳罰とか可哀想。私のはそういう制限がないから助かる。まぁ、公には知られていないはずだから当然と言えば当然だけども。

 とはいえ、今は喜助の方だ。

 

「知っている事について、話してもらえますか?」

「それよりも先にひよ里サンと六車副隊長を。今は時間が惜しい」

「…………」

 

 なんか、やりづらい。

 

「これを使ってひよ里サンたちを治療します」

 

 そう言って喜助が見せてきたのは、何かの球体。

 

「名を『崩玉』。死神と虚の境界を瞬時に破壊・創造する物質です」

 

 それで虚と切り離すみたいな事だろうか。

 というか、こんなの絶対黒じゃん。なに、死神と虚をくっつけたり離したりする実験でもやってたってこと? 黒幕すぎない? 

 

 今さらながら周りを見渡してみれば、十二番隊の隊舎だと分かる。分かるが、なんかメカメカしい。桐生が隊長の時と随分様子が違う。

 と、ぼんやり眺めてはみたものの。私に出来る事は何もない。

 

 駄目で元々みたいなところはあるが、その説明が嘘でないなら一番可能性はありそうだ。まぁ、黒幕っぽいのに素直に治すかと言われると困るが。

 一応証拠みたいなところは押さえたし、一度九番隊に戻るとしよう。隊長にもなると発言力は結構強いし、証言がそのまま証拠として使われる事も少なくない。最悪逃げたら指名手配みたいな事をすれば良いだろうし。

 

 ▼△▼△▼△

 

 残っていた別働隊に遺体を回収して隊舎へ戻るように促し、先行して隊舎に戻った。

 死神の虚化という現象の衝撃が大きかったが、その前に九番隊の隊士がたくさん亡くなってしまったのだ。拳西という副隊長不在は痛いは痛いが、こちらの方がよほど重要だ。

 

「虚飾隊長! どこ行ってたんですか!」

「すみません。不測の事態が重なっていまして」

 

 隊舎では、ちょっとした騒ぎになっていた。

 五番隊の隊舎で聞いた警報はこちらでもあったらしい。しかし、勝手には動けないという事で、隊舎に残った組は集まって議論していたとか。

 

「隊葬の準備をお願いします」

「それは、六車副隊長の……ですか?」

「いいえ。前線に出ていた隊士たちのものです。これから、遺体が運ばれてきます」

「一体、何が……」

「まだ私にも何が何だか。分かり次第、お知らせします」

 

 居残り組の席官の女の子に隊葬の準備をお願いする。私は私で隊士が殉職した時の手続きを進めなければならない。

 

 隊首室に戻り、書類を作る。いつもなら拳西がやってくれるから、慣れない。

 九番隊は優秀な人材が多いから、隊葬の準備に関しては任せっきりで大丈夫だ。私は書類に集中すれば良い。

 

 もう夜中だ。眠り眼をこすりながら書き上げていると、ドタバタと騒がしい音が部屋の外から聞こえてきた。

 

「た、隊長!」

「どうしましたか?」

 

 普段ならノックをするのに、それを飛ばしていきなり隊首室の扉が開く。見られて困るような事をしていた訳ではないから、別に構わないといえば構わないが。

 

「九番隊隊長、虚飾パンドラ様。中央四十六室より強制捕縛命令が出されております。ご同行願います」

 

 全身が黒ずくめの集団がなだれ込んでくる。

 死神の格好も黒ずくめではあるが、それとは違って印象としては忍者のような格好。隠密機動だ。

 

 いや、それよりも。

 

「何かの間違いではありませんか?」

 

 私は捕まるような事はしていない。

 

「斬魄刀はこの場に置いていただく」

 

 無視……? 

 これ、どうしたらいい? 

 

『ひとまずついて行ったらどうだい? 話を聞かない限りはどうにも出来ないさ。それに、何かあったら権能を使えば良い』

 

 頼りにならないんだから。

 というか、斬魄刀置いていけって言われてるけど、これどうなるの? エキドナって叡智の書からあんまり離れられないんでしょ? 

 

『この機会に試すのも良いだろう。思えば離れられる距離を検証した事はなかったからね』

 

 呑気か。

 

 まぁ、いいや。まずは話を聞いてから考えよう。まだなんで捕まるのかも分かってないし。何も悪い事はしてないから勘違いだと思うけど。

 

 ▼△▼△▼△

 

 正直そんなに関わる機会もないから、どんな人たちで構成されているのかはあんまり知らなかったけど。

 

「私は一体なぜここに連れてこられたのでしょうか」

「発言許可を与えたかね? 貴様は査問のために呼ばれたのだ。回答以外は発言するべきではない」

「そうでしたか。しかし、何も分からなければ答えるものもないと思うのですが……」

「貴様、私の言葉を聞いているのか? 弁えよと言っている」

「これは失礼をしました。…………。申し訳ありませんが、お名前を伺っても?」

「誰か此奴の口を塞げ!」

「口を塞がれると何も答えられないのですが……」

 

 話を聞いてくれない頑固老人の気配しかしない。ここに連れてこられた理由ぐらい教えてくれても良いのでは? 

 襖みたいなのに隠れて顔も見えないし。

 

「……十二の上刻頃、君はどこにいた?」

「十二の上刻…………申し訳ありません。時間を見ていなかったので、その時どこにいたかは……」

 

 時間とか言われてもいちいち見てなかったし。

 エキドナなら分かるかもしれないけど、今エキドナいないから分からないんだよなぁ。

 

「ええい! 時間などどうでも良い! ここまでの貴様の行動を順序立てて説明せよ!」

「今日の行動……いえ、もう昨日ですね。昨日の朝は、白に叩き起こされたところから。実は一昨日、朽木家にお邪魔した際に夜ふかしをしてしまいまして。恥ずかしい限りですが、寝坊をしてしまったのです。しかし助かったのは、たまたま隊首室で寝ていたという事ですね。帰るのが面倒になった時のために、布団一式を持ち込んでいるのですが、そのおかげで仮眠していただけだと誤魔化す事が出来ました」

「くだらぬ事を話すでない!!」

「貴様、我らを侮辱しておるな!?」

「誰がそんな事を話せと言った!」

 

 えぇ……。行動を順番に話せって言うから恥ずかしい事も話したのに。朝の話はしてない? いやでも、今日の一連の行動というか作戦? は朝からやってたし。

 エキドナいないせいで全然話がスムーズに進まない。

 

「もうよい! 貴様は浦原喜助らと共に虚化の実験をしていた」

「はい……? それは誤解です。私はただその現場に居合わせたに過ぎません。むしろ、私も副隊長である拳西が被害者となってしまい、困っているところで」

「もうよいと言った筈だ。貴様は郛外区(ふがいく)にて九番隊副隊長を始めとする複数の隊長格に対して虚化の実験を行った」

 

 冤罪……。

 全然話聞いてくれないし。どうすれば良いんだろうか、これ。

 

「ご報告申し上げます! 九番隊隊首室から虚化の研究と思しき痕跡が発見されました!」

 

 と、対応に困っていると隠密機動の者がそんな事を言いながら現れた。

 絶対嘘じゃんか。もしかして嵌められた? 

 虚化の実験なんかする訳ないし、そもそも私の頭じゃしたくても出来ないし。

 

「決まりじゃな」

「あの、何かの間違いかと思うのですが……」

「九番隊隊長、虚飾パンドラ。禁忌事象研究及び行使・儕輩(せいはい)欺瞞重致傷の罪により、霊力全剥奪の上、現世に永久追放とする」

 

 えっと、何の何の何……? 聖杯って言った……? 

 

 うーん、どうしたら良いですかねコレ。というか、1つ気になったんだけど、霊力全剥奪とかされたら権能ってどうなるんだろうか。魔女因子由来なら霊力とは別のところからきてるから大丈夫かもしれないけど、もし権能が使えなくなったら困る。

 

 困った。

 ここからお話してひっくり返せる気がしない。

 

 ……仕方ないか。

 

「もし……『何か勘違いをしている』のではありませんか?」

 

 しているのでは、というか本当に勘違いしているのだが。

 

「『私は虚化事件を目撃した証人として、ここに来た』。そうでしょう?」

「……そうだ。目撃した事柄について、早く話さぬか!」

 

 一件落着。

 まぁ、仕方ないよね? だって本当に勘違いだし。さすがに冤罪をそのまま受け入れるつもりはない。

 ちょっと勘違いするぐらいで人の運命は変わらないだろうし、許してもらおう。

 

 ▼△▼△▼△

 

「虚飾パンドラ様! 何故ここに!」

「貴女様は捕縛され、連行された筈!」

「おや?」

 

 証言を終えて物々しい中央四十六室から隊舎に戻る道すがら、隠密機動と遭遇した。喜助と鉄裁を捕縛した状態の。

 

「ええ。まったくひどい目にあってしまいました。それもこれも、喜助の実験の協力者などと勘違いされてしまったせいですが……」

「待ってください、虚飾隊長! アナタは一体……!」

「喜助。拳西は治りましたか?」

「それは……スイマセン」

「そうですか。それは残念です。ああ、そうそう。『私が虚化に関わったというのは勘違い』ですので」

 

 ▼△▼△▼△

 

「あン? オマエ捕まってたんじゃねェのかよ?」

「おや、こんな時間にどうしたのですか?」

「テメェが捕まったっつうから見に来てやったんだろうがよ!」

 

 喜助たちを連れた隠密機動とすれ違ってすぐに今度は紫髪のツインテールのよく知った姿と遭遇した。

 

「まったくひどい目にあってしまいました。慰めてください」

「その割には普通に歩いて出てきたな?」

「ええ。どうにも話が通じそうになかったので、魔女らしく権能を使ってしまいました」

 

 言いながら、その背中に覆いかぶさるように乗る。

 眠いし疲れた。

 

「寝んなや、オイ。向こうから裏廷隊来たぞ。斬ってもいいのか?」

「いい訳ないでしょう。馬鹿ですか……」

 

 その後も、本当に疲れた。

 隊舎に戻ってから誤解だったという説明をして。また隠密機動が来たから『誤解だった』と説明をして。あの話の聞かなさから、全然情報共有を出来ていない四十六室に文句を言いながら二番隊に突撃して丸々『誤解だった』と説明して。

 本当に。

 浦原喜助、許すまじ。

 

 

 





 ○パンドラ主
 元々そんなに賢くはないが、そこまでアホではない。転生してから、心の奥底に最悪権能あるしという意識があるので、無意識の内に色々と思考放棄している面がある。困ったら答えてくれるエキドナの影響もある。
 副隊長の拳西と三席の白、それに加えて席官を含む多くの隊士を虚化事件で失った。普通に喜助が犯人だと思っている。
 権能を濫用するつもりはないが、最近は多少忘れさせたり勘違いにしたりするぐらいなら使う事もある。
 当たり前のように鏡花水月の完全催眠にかかっているが、例の如く限定霊印による霊圧制限のせい。限定解除すれば霊圧差によって完全催眠は解けるが、完全催眠の存在を知らないため、わざわざ限定霊印を解除する事がない。藍染本人によるネタばらしが先か、何かの拍子に限定解除するのが先か。
 ちなみにイマジナリーエキドナはパンドラ主の知覚を介して情報を取り入れているため、パンドラ主同様に完全催眠下にある。

 ○浦原喜助
 パンドラ主に藍染の事を伝え損ねる痛恨のミス。伝えられていたら未来が変わっていた可能性がある。しかし、苦し紛れの嘘と思われる可能性も十分にある。
 原作通り、夜一の手助けによって鉄裁や虚化した隊長格らと共に現世へ向かった。

 ○東仙要
 いずれ脅威になり得るパンドラ主を監視するために九番隊に所属している。
 実力的には同レベルとされている元柳斎ではなくパンドラ主を監視対象にしているのは能力(シャリオ)がただの炎よりも複雑そうかつ、取り入りやすそうだから。
 
 ○藍染惣右介
 東仙要に命じてパンドラ主を現場から遠ざけた。パンドラ主と会話したのは偽物。
 この機にパンドラ主を排除しようとしたが、何故か失敗した。

 

 
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