仮面ライダージオウ 外伝 FUTURE大戦   作:ボルメテウスさん

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2077 復元

街灯の端が届かない場所で、列が動いた。

人の形をした“壁”が、無言のまま行く手を塞ぐ。

 

カセキは一歩踏み出し、拳を上げ――止まった。

 

「……どけ。頼むから、どけよ……!」

 

声は強く出したつもりだったのに、喉が掠れていた。

目の前の感染者は、焦点の合わない眼でこちらを見ている。見ているのに、見えていない。

 

「……生きてるじゃねぇか……」

 

拳が震える。

殴れば砕ける。道は開く。けれど、それは“救う”じゃない。

 

ウォズが、横で低く告げる。

 

「……迷うのは当然です」

 

「当然で済むか……! 俺は、化石を研究してきたんだぞ。死んだものを相手にしてきたんだ。

なのに……目の前の“生きてる人間”を、俺の手で――」

 

言葉が詰まる。

飲み込んだ唾が、妙に冷たい。

 

その瞬間、湿った“カチ、カチ”が近づき、闇が動いた。

触手が、まるで考えを読んだみたいに襲いかかってくる。

 

「ッ……来る!」

 

カセキが踏み込む。地面が沈み、触手の軌道がわずかにズレる。

だが、ズレた先に“人間”がいる。

 

「……っ、やめろ!」

 

触手の一本が感染者の背へ刺さる。

刺さった瞬間、感染者の姿勢が整う。目が“揃う”。足音が“揃う”。

 

カセキは歯を食いしばる。

 

「……ふざけるな……! 人を……部品みたいに……!」

 

ウォズの視線が、感染者たちの動きを追う。感情を切り離した観察――のはずが、言葉には僅かな硬さが混じった。

 

「……見てください。刺されるたびに、揃っていく」

 

「揃う……? 何がだ!」

 

「瞬き。首の角度。歩幅。――意思ではありません。“命令”です」

 

カセキは息を呑む。

命令。そんな言葉が、人間の列に当てはまるのが、最悪に気持ち悪い。

 

闇の奥で、影がこちらを“向いた”。視線ではない。方向が合う。

列も一斉に、同じ角度で首を傾ける。

 

カセキの声が、怒りと恐怖の間で揺れる。

 

「……あいつが……やってるのか」

 

ウォズが短く言う。

 

「見ている限りでは間違いないだろう」

 

その言葉の意味を噛み砕く前に、触手が再び二本、同時に襲う。

一本はカセキの胸へ、もう一本はウォズの喉元へ。

 

カセキが踏み込み、ウォズが半歩で外す。

避けたはずなのに、粘液の飛沫が感染者の頬を濡らし、皮膚がわずかに変色する。

 

カセキの声が、かすれる。

 

「……避けるだけで、増えるのかよ……!」

 

ウォズが答える。淡々としているのに、残酷に正確だ。

 

「はい。ここは“戦えば戦うほど救えなくなる”場所です」

 

「……そんなの……! じゃあ俺は、どうすりゃいい!

殴れない! どけとも言えない! でも、放っとけば――」

 

言葉の先を、触手が奪う。

闇の影が触手を広げ、列が前へ。空気が狭くなる。呼吸が削られる。

 

ウォズは、カセキの装甲――その噛み合いを見た。

肉体を退避させ、仮の身体に置き換える“定義の書き換え”。

 

刺されるたび同期が強まる。

命令回線が太くなる。

なら――別の回線で上書きするしかない。

 

ウォズの目が、決まる。

 

「……方法はあります」

 

カセキが振り向く。怒鳴りたいのに、声が出ない。

 

「……本当に、助けられるのか……? 今からでも……?」

 

ウォズは即答しない。即答できないからこそ、誠実に聞こえる。

 

「救う“可能性”を作れます。……確実ではないが」

 

「それでもいい……! 生きて帰せるなら――」

 

「“人を変える”ことになります」

 

カセキの呼吸が止まる。

その一言が、拳を止めたときと同じ重さで胸に落ちる。

 

「……人を……変える……」

 

ウォズは淡々と、しかし逃げずに言う。

 

その手にあるミライドウォッチを見せる

 

「キカイの力。ナノツールを放出し、セミヒューマノイズ化させる。

その状態で、異物として侵入したものを……抜き取る」

 

カセキの声が震える。怒りでも、恐怖でも、祈りでもある。

 

「戻れるのか……? 元に……」

 

ウォズは目を逸らさない。

 

「保証はできませんし、確実ではない。むしろ失敗する可能性がある」

 

感染者の列が、また一歩進む。

“カチ、カチ”が心拍に重なる。

 

カセキは拳を握り直した。

殴れない相手を前に、殴るためではない拳を作る。

 

「……分かった。俺が時間を稼ぐ。

お前は……その“可能性”を形にしろ。今ここで……!」

 

ウォズが小さく頷く。

 

「えぇ、勿論」

 

闇の影が、触手をうねらせる。

救うための選択が、戦いの始まりになる。

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