仮面ライダージオウ 外伝 FUTURE大戦   作:ボルメテウスさん

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鬼怪盗追いかけ

舗道に落ちた街灯の影を踏みながら、歩みはゆっくりだった。人通りは少なく、風に揺れた看板がかすかに鳴る。立ち止まり、周囲を見渡す。胸の奥に引っかかった違和感だけが、妙に重かった。

 

「……何かいるよな」

 

背後の空気が揺れた。反射的に地面を蹴り、前へ跳ぶ。次の瞬間、さっきまで立っていた場所を黒い影が横切った。着地しながら振り返ると、そこにいたのは見覚えのないダークライダー。肩をすくめ、小さく息を吐く。

 

「またかぁ……」

 

腰に手を伸ばし、いつもの感触を探す。指先が空を切った。ポケットの中をまさぐるが、軽いまま。首を傾げた瞬間、相手がゆっくりと手を掲げた。光る二つのウォッチ。見慣れた形が、無言でこちらを嘲る。

 

「それ、俺のなんだけど」

 

返事の代わりに、仮面の奥が笑った気がした。次の瞬間、影は地面を蹴り、路地へと駆け出す。

 

「待てって!」

 

走りながら取り出したライドストライカーのウォッチが膨らみ、金属音を響かせてバイクへ変わる。跨ると同時にスロットルを捻る。エンジンの唸りが狭い街路に反響した。前方ではルパンが建物の壁を蹴り、屋根から屋根へと跳び移っていく。

 

「俺のウォッチ、返してよぉ……」

 

追いつけそうで、届かない距離。視界の端で影が揺れた。空気が震え、雷のような音が一瞬だけ耳を刺す。

 

『鬼コワ!鬼ツヨ!鬼マッハ!!仮面ライダーオイカケ!』

 

「……え?」

 

横を閃光が走り抜けた。黒い装甲、一本角の鬼の面。赤と黄の警告色が尾を引き、路面に火花を散らす。迷いなく前へ。視線はただ一つ、逃げる背中だけを射抜いている。

 

「そっちは俺の獲物だ」

 

短い声が風に溶けた。ルパンが振り返り、ウォッチを揺らして見せる。追跡者は速度をさらに上げ、足元から雷光が弾けた。ソウゴはアクセルを踏み込み、二つの背中を追う。

 

街の景色が流れ、看板の文字が線になる。バイクの振動が腕に伝わるたび、胸の奥がざわついた。知らないライダー。追う者と、狩る者。その間を走りながら、視線だけは前から離さない。

 

遠くで再び雷鳴が鳴った。逃げ場を探すようにルパンが進路を変える。オイカケの足音が地面を裂く。三つの影が夜の路地へ吸い込まれていく。次の角を曲がる瞬間、風の中にわずかな焦げた匂いが混じった。追跡はまだ終わらない。速度だけが、静かな街の空気を切り裂き続けていた。

 

壁面を蹴る乾いた音が、狭い路地に反響していた。ルパンは屋根の縁を掴み、そのまま軽く身体を引き上げる。下では黒い影が一直線に走り抜けていく。鬼の面をつけたライダーは、視線を一度も逸らさない。

 

「へぇ……追ってくるのか」

 

屋上の縁を蹴り、次の建物へ跳ぶ。空気が裂け、コートの裾が大きく揺れた。下の道ではオイカケが障害物を縫うように走る。ゴミ箱を踏み台にし、標識をかすめ、距離がじわりと詰まる。高低差があるはずなのに、気配は背後に迫っていた。

 

ルパンはビルの上へ駆け上がり、振り返る。路地の先に立ちはだかる高い壁。迂回すれば時間を稼げるはずだった。だが、黒い影は減速しない。地面を蹴った瞬間、身体が垂直に走り出す。靴底がコンクリートを叩き、火花が散った。

 

「……マジかよ」

 

壁面を滑るように駆け上がり、鬼のライダーはあっという間に屋上へ到達する。着地の衝撃が空気を震わせた。間合いを詰められたルパンは、わずかに肩を揺らしながら次のビルへ跳び移る。

 

「お逃げなさい」

 

低い声が背中に刺さる。振り返った瞬間、オイカケが宙で一回転した。赤と黄のラインが雷の尾のように軌跡を描く。

 

「お前は鬼の手の中」『追跡必殺!鬼ライトニング!』

 

オイカケの指がドライバーの縁をなぞった。金属が噛み合う小さな音がして、足元の空気が張りつめる。屋上の縁に立つルパンは、肩を揺らしながらウォッチをちらつかせた。

 

低く落ちた声に、ルパンが笑う。次の瞬間、身を翻して逃げた。靴裏が砂利を弾き、影が隣のビルへ跳ぶ。

 

「おいおい、鬼さん本気じゃん」

 

追いかける黒い影は迷わない。オイカケはドライバーを叩き、動き出した。地面を蹴った瞬間、加速が一段深くなる。風が装甲の隙間を鳴らし、赤と黄のラインが夜を切った。

 

真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ。逃げる背中だけが視界の中心に据わる。

 

ルパンが次の足場に着地する刹那、オイカケの脚が上がった。踵から青白い電光が迸り、空気が焦げる匂いを立てる。

 

「はぁぁぁ!」

 

蹴りが腹部にめり込んだ。衝撃が夜の静けさを破って、ルパンの身体が光の粒へほどける。

 

「っ——!」

 

爆ぜるような音とともに影が散り、残ったのは宙を舞う二つのライドウォッチだけだった。月明かりを受けて回転し、落下の軌道を描く。

 

オイカケの手が伸びる。迷いなく掴み取ると、金属の冷たさが掌に残った。

 

「おぉ、すげぇ!」

 

屋上の端からバイクの音が近づき、ソウゴが滑り込むように停まった。息が少し上がっている。視線がウォッチに吸い寄せられ、指先が空を掴みかけて止まる。

 

オイカケは鬼の面を向けたまま、短く首を傾げた。

 

「……これは、お前のか?」

 

答えを待つ間が短い。返事を聞くより先に、ウォッチを軽く放った。金属が弧を描き、ソウゴの胸元へ飛ぶ。

 

慌てて受け止めた指が、縁を確かめるように撫でる。息がひとつ落ちた。

 

「助かった。……君は?」

 

鬼のライダーは一拍置き、バックルを外した。装甲が退き、夜風がその隙間に入り込む。現れたのは黒いスーツにサングラス、柔らかい物腰の青年だった。表情は読みにくいのに、立ち姿だけはやけに丁寧だ。

 

「鬼走 天涯。ハンターだ」

 

名前を告げる声は淡々としていた。屋上の縁でネクタイが少し揺れる。ソウゴはウォッチを握り直し、相手の足元から視線を上げた。

 

「ハンター……?」

 

天涯は視線を外さず、街の方角を一度だけ見た。遠くのどこかで、また別の気配がひそかに蠢いているような、そんな間が落ちる。

 

「逃げるものが増えてる。……追う側も、足りない」

 

短い言葉が夜に沈んだ。ソウゴは返す言葉を探し、口を開きかける。だが、屋上のコンクリートに残った焦げ跡が目に入って、喉が一度鳴った。

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