仮面ライダージオウ 外伝 FUTURE大戦 作:ボルメテウスさん
市街地の夕暮れは、中途半端に明るい。
ビルの影が道路へ長く落ち、信号待ちの車列が遠くで唸っていた。歩きながら、視線だけを左右へ走らせる。
「さすがに未来からの仮面ライダーはすぐには見つからないと思うが」
その直後だった。
空間が縦に裂け、紫の膜が街路の真ん中へ垂れた。オーロラカーテン。見間違えるはずがない。
「あれは、まさかまたスウォルツの奴がダークライダーをっ」
歪みの奥から、黒い重装甲が一歩踏み出す。肩の武装、硬質な輪郭、無機質な立ち姿。ゲイツの目が細くなる。
「G3なのか? だが、黒い奴じゃっ」
名を確かめる間もなく、相手の右腕が持ち上がった。
銃口が向く。引き金。三連射。
火花がアスファルトを弾いた。ゲイツは左へ跳び、転がるように身を沈める。着地と同時にドライバーを腰へ押し当てた。
「ぐっ問答無用か! 変身!」
『ライダータイム!仮面ライダーゲイツ!』
赤い装甲が身体へ噛み合う。最後のプレートが胸を閉じた瞬間、ゲイツはもう地面を蹴っていた。
「はぁっ!」
真正面から間合いを詰める。
まず右のストレート。G4は首を半分だけずらし、拳を外す。
続けて左の肘。今度は前腕で受け流される。
さらに右足を振り上げ、胴へ蹴り込む。そこへ来ると分かっていたように、G4の膝が先に立っていた。
鈍い衝突音。
蹴りが止められる。
「ぐっ……!」
隙を逃さず、G4の銃床が脇腹へ叩き込まれた。
装甲が軋み、ゲイツの身体が半歩流れる。
だが下がらない。
すぐに踏み込み直し、今度は低い姿勢から腹へ拳を打つ。G4は下がらず、腰を引いて威力だけを外した。次の瞬間、空いた肩口へ肘打ちが飛んでくる。
「ぐっ、こいつ俺の動きを読めるのかっ」
距離を切りながら、G4の足運びを見る。
大振りではない。先に動いているわけでもない。
こちらの重心が乗る場所へ、先に答えを置いている。
再び撃ってくる。
二発。三発。
ゲイツは信号柱の陰へ滑り込み、柱を蹴って横へ飛ぶ。そのまま回転し、真上から踵を落とした。
G4は一歩だけ後ろへ引く。踵が空を裂く。
着地の瞬間を狙って、銃口が胸へ向いた。
ゲイツは腕で弾く。火花が散る。
近い。呼吸がぶつかる距離だ。
拳を放つ前に避けられる。
蹴りを出す前に潰される。
打ち終わりに、必ず反撃が返る。
「この感覚は、ソウゴのジオウⅡに似ているっ……まさか!」
G4の拳が真っ直ぐに飛ぶ。ゲイツは首を逸らして避けるが、二撃目がもう腹へ来ていた。
読まれている。そうとしか思えない正確さだ。
「未来を見ているとでも言うのかっ」
後退しながら、手がポケットへ触れる。
まだ沈黙したままのゲイツリバイヴライドウォッチ。冷たい。重い。
「こいつが使えればっ」
言い切る前に、G4が再び照準を上げた。
撃たれる。そう思った刹那――
火花が、G4の肩で爆ぜた。
装甲が揺れる。
発砲音は、一拍遅れて届いた。
「なんだっ、今のは」
ゲイツが振り返る。
道路の向こう、街灯の下に一人立っている。
ゲイツの視線の先、街灯の白い光が地面に広がる。その中心に、黒い影が一歩踏み出した。
足が地面を踏む。
それだけで、アスファルトが鈍く軋んだ。
肩は分厚く張り出し、装甲の輪郭は人型というより装甲車に近い。胸部は鋼板を重ねたような直線的な装甲で覆われ、中央には戦車砲塔を思わせる巨大な武装が据えられている。砲身は短く太い。飾りではない、実際に撃つための武器だと一目で分かる重みがあった。
全身の装甲は暗い軍用色。鈍い金属光沢が街灯の光をわずかに返すだけで、派手な輝きはない。その代わり、厚い。ひたすらに厚い。衝撃を受け止めるための塊のような装甲が、身体の各所を覆っている。
脚部は特に異様だった。
太い装甲の側面に、無限軌道が巻き付いている。金属の履帯がわずかに回転し、重い機械音を響かせる。人の脚というより、戦車の走行装置そのものが組み込まれているような構造だった。
一歩、前へ出る。
ギリ、と履帯がアスファルトを噛む。
その動きは速くない。だが、圧倒的に重い。突進すれば建物の壁すら押し潰しそうな質量が、そのまま人の形を取って歩いている。
右腕の武装がゆっくり持ち上がる。砲塔のような機構が僅かに回転し、照準が定まる。関節が動くたび、金属同士が擦れる重い音が響いた。
ゲイツは思わず息を飲む。
さっきまで戦っていたG4が精密な兵器なら、こちらは違う。
精密さではない。破壊力の塊。
戦場を押し潰すための機械。
「……まるで戦車だ」
その言葉の通りだった。
鉄の巨体は静かに立つだけで周囲の空気を圧し潰し、逃げ場を奪うような威圧感を放っている。歩くたび、履帯が地面を削り、鈍い音が街路に響いた。
まるで、人の形をした重戦車。
仮面ライダータンクが、ゆっくりと銃口をG4へ向けた。
G4の銃口が再び持ち上がる。
ゲイツへ向けられていた照準が、ゆっくりと横へ移った。
新たに現れた重装甲のライダー――タンク。
履帯が軋む音が一歩ごとに鳴る。
逃げる様子はない。むしろ、真正面からG4の射線へ踏み込んでくる。
G4が先に撃った。
乾いた連射。
弾丸が一直線に走り、タンクの胸部装甲へ叩き込まれる。
火花が散る。
だが、止まらない。
弾丸が装甲を叩くたび金属音が響くが、タンクはそのまま進む。
履帯が回転し、アスファルトを削りながら距離を詰める。
右腕の武装が持ち上がった。
砲塔のような機構がわずかに回転し、G4へ照準を固定する。
次の瞬間、砲撃。
轟音が市街地を震わせる。
衝撃波が空気を押し潰し、爆発がG4の足元で弾けた。
G4が横へ跳ぶ。
だが爆風で体勢が崩れる。
タンクは止まらない。
履帯が回り続ける。
照準が揺れない。
二発目。
砲撃が地面を抉る。
G4の退路を削るように爆発が並ぶ。
ゲイツが目を見張る。
「……動きを止めている?」
そう。
タンクは当てに行っていない。
逃げ道を撃っている。
G4が次の一歩を踏み出す場所へ、先に爆発が置かれる。
結果、G4の動きが鈍る。
その瞬間。
G4の肩部装備が開いた。
巨大な砲身がせり上がる。
重い金属音。
ギガント。
照準がタンクへ固定される。
ゲイツが叫ぶ。
「危ない!」
発射。
轟音。
砲弾が一直線に飛ぶ。
タンクは避けない。
履帯を強く回し、身体ごと横へ滑らせる。
砲弾が地面へ突き刺さり、爆発が道路を抉る。
衝撃波が街路を揺らした。
煙の向こう。
タンクの砲塔が、すでに次の照準を合わせている。
「負けませんよ……!」
砲撃。
G4のギガントが火を吹く。
爆発と砲撃が交差する。
金属片が空へ舞う。
衝撃波がビルの窓を震わせる。
ゲイツは思わず腕で顔を庇った。
戦車と重兵装ライダー。
二つの兵器が、市街地の真ん中で正面から撃ち合っていた。
履帯が唸る。
ギガントが再装填される。
砲塔が回る。
火花と煙の中、重装甲同士の撃ち合いが続いていた。
爆煙が市街地に広がる。
タンクの砲撃とG4のギガントがぶつかり合い、アスファルトが抉れ、信号柱が軋んだ。衝撃波で空気が震える。
履帯が唸る。
タンクはその場から退かない。重装甲の巨体が砲塔を回し、再び照準を合わせる。
「此れから援護射撃を行います!」
轟音。
砲撃が地面を穿つ。
G4が横へ跳ぶ。だが逃げ切れない。爆発はわざと退路へ置かれている。進む場所が削られ、動きが狭められていく。
ゲイツは数歩離れた場所で、その戦場を見ていた。
砲撃の衝撃で揺れる街路。煙の向こうで、G4がギガントを再び構える。
「情況は分からないが、今だな!」
ドライバーを掴み、腰へ叩きつける。
『ライダータイム!仮面ライダーゲイツ!』
赤い装甲が噛み合う。
変身の光が消える前に、ゲイツは地面を蹴った。
煙の中へ突っ込む。
ウォッチを回す。
『アーマータイム!アギト!』
金色の装甲が重なり、拳に力が宿る。
ゲイツは一直線にG4へ踏み込んだ。
「お前がG3に似ているならば、これで!」
拳を振るう。
G4は一瞬早く反応する。銃床を振り上げ、ゲイツの拳を弾く。続けて肘を突き出す。
だがゲイツは止まらない。
腕で受け、踏み込みを強める。
胸へ肩をぶつけ、G4の体勢を崩す。
「ふんっ!」
装甲がぶつかり、金属音が響く。
G4は後ろへ滑り、距離を取ろうとする。
ギガントの砲身が持ち上がる。
だがその瞬間。
轟音。
タンクの砲撃が、G4の退路へ爆ぜた。
爆炎が壁のように広がる。
逃げ道がない。
ゲイツが構える。
アギトアーマーの足が沈み、力が溜まる。
「これで、終わらせる」
ドライバーを叩く。
『フィニッシュタイム!』
装甲が光り、時間の波紋が広がる。
『グランドタイムバースト』
ゲイツが跳ぶ。
空中で身体をひねり、足を振り下ろす。
赤と金の光が一直線に落ちる。
G4が迎撃に腕を上げる。
だが同時に――
タンクの砲撃が再び炸裂した。
爆風がG4の体勢を崩す。
次の瞬間。
ライダーキックが胸部へ叩き込まれた。
衝撃。
装甲が火花を散らし、G4の身体が吹き飛ぶ。
アスファルトを削りながら滑り、爆発が遅れて弾けた。
煙が広がる。
ゲイツが着地する。
アギトアーマーの装甲が静かに光を失う。
少し離れた場所で、タンクの履帯がゆっくり止まった。
砲塔がG4の落下地点へ向いたまま、静止する。
重い沈黙が市街地に落ちる。
ゲイツは煙の奥を見据え、低く呟いた。
「まだ終わっていないだろう……」
爆煙の向こうで、黒い影がわずかに動いた。