仮面ライダージオウ 外伝 FUTURE大戦 作:ボルメテウスさん
街灯の光が揺れた瞬間、巨影はためらいなく歩みを進め、重い足取りで通りの空気を押し潰していった。
ゲイツは距離を測りながら創華の立ち位置を横目で確認し、逃がすべき方向と戦うべき方向を同時に頭の中で切り分けた。
創華はさっきまでの敬語を保とうとしながらも、呼吸が浅くなっていくのを隠せず、砲身へ伸ばした手が途中で止まってしまう。
「模型、下がれ、今のままでは射線が死ぬし巻き込まれるぞ」
「む、無理です、足が、足が勝手に固まってしまって動きません」
彼女の返答は理屈ではなく生理であり、ゲイツはその違いを理解しつつも戦場の速度に引き戻されて舌打ちを飲み込んだ。
巨影が街灯へ踏み込み、ようやく輪郭が完全に露わになった瞬間、獣のような巨体は人間の倍以上の体格でこちらへ体重を預けてくる。
筋肉の隆起は装甲のように盛り上がり、長い腕の先で指が開閉するたびに、獲物を選ぶ感触が湿った音として漂った。
「アナザーアマゾンオメガか、こんな場所で出るには大きすぎるだろ」
ゲイツの呟きに返事をするように、怪物は咆哮とも呼べない低い息を吐き、路面へ拳を叩きつけて衝撃波を散らした。
跳ねた石片と砂埃が創華の足元へ飛び込み、彼女は反射で身を竦めたまま、視線だけを上げて巨体を見上げる。
「嫌だ、これ絶対に近づいてきます、撮影の作り物じゃないのに近づいてきます」
「落ち着け、恐怖は理解できるが、今は動け、動かないと死ぬ」
ゲイツは創華へ駆け寄りたいのに、通りの反対側で倒れた一般人が瓦礫の陰から呻いているのを見つけ、足を止めざるを得なかった。
怪物の一歩が近づくたびに退路が潰れていき、同時に避難させるべき人間の数も増えていくため、ゲイツの判断は遅れではなく責任として重くなる。
彼は一般人を庇う位置へ飛び込み、崩れた看板を持ち上げて通路を作りながら、創華の方角へ短い指示を投げる。
「模型、今は俺を見ろ、俺が合図したら変身して砲撃で止めろ」
「合図って、合図って何ですか、私は今それどころじゃないんです」
創華の声は半泣きで、怒鳴りたいのではなく助けて欲しいだけだと分かるほど震えていた。
その瞬間、アナザーアマゾンオメガは獲物を変えたように創華へ狙いを定め、長い腕を伸ばして砲身へ触れようとする。
鉄が軋む音が先に鳴り、触れられただけで砲身が歪み始めたことで、創華の呼吸は完全に止まり、身体が石のように硬直した。
「やめて、やめてください、私は戦闘員じゃなくて撮影係なんです」
ゲイツは一般人を背後へ押しやり、今度こそ創華へ跳ぼうとするが、怪物が蹴り飛ばした車体が転がってきて道を塞ぎ、距離が一気に断絶した。
彼の視界の端で創華が崩れ落ちかけ、砲撃も変身もできないまま獲物として固定されていくのが見える。
間に合わないという焦りが胸を焼き、ゲイツは唇を噛んで強引に障害物を越えようとした。
そのとき、路地の角から走り出てきた青年が、躊躇なく創華の前へ飛び込んで両腕を広げた。
青年の顔には状況の理解が追いついていない空白があるのに、身体だけが答えを知っているように迷いなく動いていた。
「危ない、そっちに立ってたら食われる、だから今はこっちだ」
「え、だ、誰ですか、あなた今のを見て、怖くないんですか」
「怖いに決まってるけど、怖いからって放っておけなかったんだ」
青年は創華の肩を抱いて引き寄せ、怪物の腕が届く寸前に彼女を半歩だけ横へずらし、その半歩で致命を外した。
アナザーアマゾンオメガの腕は路面へ叩きつけられ、亀裂が走って破片が跳ねるが、青年は痛みを堪えるように眉を寄せただけで逃げなかった。
創華は信じられないという顔で青年を見上げ、助かった事実よりも先に、助けに来た理由の方を理解できずにいる。
「私、足が動かなくて、変身もできなくて、それで、もう終わりだと思って」
「終わりにしたくないなら、まず息を吸って、次に一つだけやる事を決めよう」
「一つだけ、やる事、ですか」
「そうだ、今の君は全部をやろうとして全部が止まってる、だから一つだけでいい」
青年の言葉は戦術ではなく整理であり、その整理が創華の脳内の混乱を少しずつ解いて、手の震えを止める糸になった。
創華は深く息を吸い込み、砲撃の段取りを頭の中で一本の線へ作り直し、恐怖の塊を「今の作業」に分割して握り直す。
そこへ、瓦礫を跳び越えて近づいたゲイツが青年の姿を見つけ、正体の分からない存在に警戒を向けながらも声を叩きつけた。
瓦礫を跳び越える足音が割り込み、路地の角から一人の青年が飛び出してきた。
状況を理解していない表情なのに、身体だけが迷いなく答えへ向かっていた。
青年は創華の前へ滑り込み、両腕を広げて巨腕の軌道へ自分を差し出す。
「危ない、そこにいたら巻き込まれる、だから今はこっちに来い!」
アナザーアマゾンオメガの腕が叩きつけられ、路面が裂けて石片が雨のように跳ね上がった。
青年は痛みに眉を寄せながらも退かず、創華の肩を抱えて半歩だけ横へずらした。
致命の角度が外れた瞬間、創華の喉からようやく空気が漏れ、震えた呼吸が戻ってくる。
ゲイツはその横顔を見た瞬間、胸の奥で冷たい衝撃が跳ね上がった。
歴史に刻まれた顔が、今この戦場の最前線に立っている事実が理解できなかった。
驚きが声へ漏れそうになるのを噛み殺し、ゲイツは戦場の判断として叫ぶ。
「城戸真司だと……冗談だろ、こんな場所に出てくるな、今すぐ避難しろ!」
青年は振り返り、名前だけをぶつけられたような顔で、困ったように眉を寄せた。
「え、俺のこと知ってるのか、でも悪い、俺は……よく分からない」
返答の温度に嘘がなく、分からないという空白だけが真っ直ぐに残っていた。
ゲイツは青年の腕力や装備の無さを見て、戦力ではないと即断し、創華の方へも声を飛ばす。
「模型、そいつを連れて下がれ、一般人を戦場に置くわけにはいかない!」
創華はまだ震える膝を抱えたまま、青年の肩へ手を伸ばすが、指先が上手く動かない。
「私、足が動かなくて、変身もできなくて、それで……もう終わりだと思って」
青年は創華の目線へ合わせるように少し屈み、恐怖そのものを責めない言葉を選んだ。
「怖いのは当たり前だ、でも怖いからって放っておけないって思ったんだ」
その直球の言い方が、創華の胸の中で散らばった恐怖を少しずつ一つにまとめ直す。
ゲイツは「下がれ」と再度言いかけるが、怪物が体重を預けるように突進し、口数より先に刃を構えた。
アナザーアマゾンオメガの巨体は圧だけで空気を潰し、逃げ道の輪郭を消し去っていく。
一般人を避難させた直後で動線がまだ整わず、ゲイツは創華へ駆け戻る角度を失っていた。
だからこそ彼は、青年を生かすための判断として、強い声で押し返す。
「城戸、頼むから下がれ、今のお前がいる場所は死ぬ位置だ!」
青年は一瞬だけ息を呑むが、後ろへ退くのではなく、創華の前に立ち直るように踏み直した。
「下がったら、あの人がやられる、だから今は下がれない」
その言葉は英雄の宣言ではなく、助ける以外の選択肢を持たない人間の素朴な断言だった。
創華は青年の背中を見て、恐怖が消えないままでも、動く理由だけが心に残るのを感じる。
「私、戦うのが怖いです、でも……怖いままでもいいなら、やります」
青年は頷き、創華の手元へ視線を落とし、順番だけを渡すように言った。
「全部やろうとしなくていい、今は一つだけ決めよう、手を動かすことだ」
創華は深く息を吸い込み、段取りを撮影の手順へ置き換えるように、恐怖を作業へ分割して握り直した。
彼女の指がライドウォッチへ届いた瞬間、ゲイツのドライバーが微かに震え、別の共鳴音が空気を割った。
赤い光と深い紺の光が重なり、龍騎とナイトの気配が同時に走ったように見えた。
その反応に引きずられるように、破損して沈黙していたゲイツリバイブのライドウォッチが明滅を始める。
割れていた亀裂が光の糸で縫い合わされ、欠けた縁が元の形を思い出したように戻っていった。
「これは」
瓦礫の影で揺れる赤と紺の光を見て、ゲイツは一瞬だけ戦場の音を遠ざけた。
龍騎とナイトのライドウォッチが、同じ拍で脈打つように共鳴しているのが分かった。
掌の中では、破損して沈黙していたゲイツリバイブが、まるで息を吹き返すように明滅していた。
「……城戸真司、お前が“ここにいる”だけで反応が変わるのか。」
「俺は、よく分からないけど……今は、あの人を守りたいだけだ。」
ゲイツは真司の返答が作り物ではないと悟り、だからこそ現象の説明を“本人の意志”に寄せないと決めた。
この共鳴は奇跡ではなく、条件が揃った結果としての現象でなければ、戦場で信用できないからだ。
「龍騎とナイトは、サバイブで烈火と疾風へ跳ねる。」
「二つの強化は似た位相を持つから、同時に鳴ると基準になる。」
「壊れた装置は材料が足りないんじゃない、基準がズレて噛み合わないだけだ。」
ゲイツはアナザーアマゾンオメガの巨体を睨み、衝撃と圧の戦い方を頭の中で組み替える。
剛烈で受けて踏み込み、最短でアナザーウォッチの位置へ拳を通すしか勝ち筋はない。
しかし剛烈へ到達するには、修復が“最後まで完了する瞬間”を逃してはいけなかった。
ひび割れたウォッチの亀裂が、赤い光の糸で縫われるように閉じていき、欠けた縁が元の形へ戻っていく。
その修復の動きは、火花の派手さではなく、時計の歯車が噛み合う静かな確かさで進んでいた。
その言葉が終わる前に、ゲイツはジクウドライバーへリバイブウォッチを叩き込み、回転の動作へ入った。
周囲の空気が一段重くなる感覚が走り、時間そのものが圧縮されるように音の輪郭が尖っていく。
『ライダータイム!』
『仮面ライダーゲイツ!』
『リ~バ~イ~ブ 剛烈!剛烈!』
変身の宣告と同時に、巨大な機械仕掛けの砂時計が虚空からせり上がり、ゲイツの身体を中心に据える。
分厚いバンドのような機構が左右から巻き付き、装甲の輪郭が時計仕掛けみたいに噛み合って固定されていく。
剛烈の色は熱を帯びた橙に寄り、同じゲイツのシルエットなのに、全体の印象が一気に重くなる。
胸元には砂時計を思わせる赤いラインが縦に通り、心臓の位置へ“圧縮された力”が流れ込む感覚が走った。
肩と胸の装甲は明らかに厚く、鋭さよりも圧力で相手を押し返す構造が前面に出ている。
腕部は特に重量感が強く、前腕の装甲が拳の軌道を支えるように張り出して、殴るための形をしていた。
顔面は多層のガードが重なったように見え、視界のフレームが狭くなる代わりに“耐えるための堅さ”が増している。
仮面ライダーゲイツリバイブ剛烈が路上に立った瞬間、アナザーアマゾンオメガの圧が一段軽く錯覚した。
それは敵が弱くなったのではなく、こちらの“受け止める器”が変わったことで、恐怖の見え方が変化しただけだ。
創華は砲身へ手を戻し、震えを抱えたままでも射線を組み直し、支援の形を会話で固める。
「ゲイツさん、今度は私が止めます、だから守るなら前に出てください。」
ゲイツは拳を握り、胸の赤いラインが脈打つのを感じながら、決意を短い言葉に圧縮した。
「この力は守るために使う、誰もこれ以上、恐怖で動けなくさせない。」
「俺が受けて、俺が押し返す、そして俺が終わらせる。」
剛烈の足が一歩踏み込むだけで路面が沈み、重さがそのまま前進の説得力として積み上がっていく。
ゲイツは巨体の懐へ入る角度を選び、守るための一撃を成立させるために、迷いの時間を切り捨てた。