仮面ライダージオウ 外伝 FUTURE大戦   作:ボルメテウスさん

20 / 28
疾風の先に

ゲイツリバイブへの変身が完了すると同時に、街路の空気が一段だけ重く沈んだ。

剛烈の分厚い装甲が立ち上がる圧は、敵の巨体が放つ威圧に押し負けない。

ゲイツは焦らず、しかし一瞬も迷わず、ゆっくりと前へ歩き始めた。

 

眼前でアナザーアマゾンオメガが咆哮し、右腕を振り上げたまま叩き落とす。

空気が裂け、腕の軌道だけで風圧が通りの看板を弾き、瓦礫が跳ね上がった。

その一撃は質量そのものが凶器であり、避ければ背後の建物ごと押し潰される。

 

ゲイツは足を止めず、拳を握り込み、正面から受ける姿勢へ身体を沈めた。

巨腕が落ちる刹那、剛烈の胸部装甲が鈍く鳴り、衝撃が街路へ地鳴りとなって広がった。

それでもゲイツは揺れないまま踏み込みを維持し、衝撃を押し返すように受け止め切る。

 

「ゲイツさんっ!」

タンクの装甲の奥から、創華の声が思わず漏れた。

彼女の目には、あれが“耐えられる攻撃”ではなく“潰れる攻撃”に見えていた。

 

ゲイツは拳を解かず、視線だけを横へ向けて短く返す。

「騒ぐな、これぐらいで止まるか。」

声音は冷たくないのに、揺るぎが無いせいで命令のように響いた。

 

次の瞬間、ゲイツは受け止めた腕の下へ踏み込み、身体の芯から殴り返した。

剛烈の拳は重いのではなく、時間を圧縮した密度で叩き込まれる衝撃だった。

巨体が鈍い音を立てて宙へ浮き、アナザーアマゾンオメガは後方へ吹き飛ばされる。

路面を削りながら滑走し、コンクリ片を撒き散らし、停止するまでが一つの破壊だった。

 

「凄い……パワー……っ。」

タンクが呟く声には、驚きと同時に安心が混じっていた。

頼れる背中が一つ増えただけで、戦場の色が変わったと実感したのだ。

 

だがゲイツは、勝ったような空気を一切許さない。

敵の再生能力と巨体の圧は、まだこちらの勝ち筋を保証していない。

彼はすでにジクウドライバーへ指を掛け、ゲイツリバイブライドウォッチを回転させた。

 

『疾風!』

 

音声と同時に、剛烈の重厚な装甲が解けるように開き、黒と橙の塊がほどけていく。

装甲は軽量化のために再配置され、青い意匠が翼のような輪郭を作って身体へ馴染んだ。

同時にゲイツの体感時間が書き換わり、世界の速度が遅くなる錯覚が襲いかかる。

 

街灯の揺れがゆっくりと流れ、舞った粉塵が空中で静止したように見えた。

アナザーアマゾンオメガの呼吸すら間延びして聞こえ、咆哮が重く引き伸ばされる。

ゲイツはその“余白”に自分の一歩をねじ込み、距離を消すために走り出した。

 

「はぁっ!」

 

叫びが短く切れ、疾風の脚が路面を叩くたびに、残像だけが後ろへ置き去りになる。

ゲイツの手にはジカンジャックローが現れ、刃が光を引き裂きながら軌道を描いた。

そして次の瞬間には、斬撃が一つではなく連続の線としてアナザーアマゾンオメガを刻んでいく。

 

装甲の隙間へ刃が入り、肩口が裂け、胴へ走り、腕へ跳ね、斬撃が雨のように降り注ぐ。

巨体は遅れて反応し、振り回した腕が空を切り、切り裂かれた肉が後から弾けて血飛沫が散った。

それでも傷口は塞がり、裂け目が蠢いて埋まり、再生が追いつこうとする。

 

ゲイツは刃を止めず、再生の速度と自分の速度を比較するように斬り続けた。

だが決定的な手応えが無いまま、刃先は肉を裂けても“核”へ届かない。

胸の奥、埋め込まれたアナザーライドウォッチの位置だけが、厚い再生層に守られている。

 

「……再生を突破しなければ、決定打にはならないか。」

ゲイツは息を吐き、斬撃の密度を上げながらも、勝ち方を冷静に組み替え始めた。

疾風で刻み続けても、相手は時間をかければ戻るだけで、最終的に押し潰される危険がある。

 

その瞬間、タンクの履帯が低く唸り、創華が砲身を向け直して前へ進み出た。

彼女の声はまだ震えているのに、さっきの硬直とは違い、恐怖を抱えたままでも進む意思があった。

 

「私に、任せてください。」

 

ゲイツは振り返らないまま視線だけをタンクへ寄せ、言葉の真意を測る。

創華の言葉は勇敢さの誇示ではなく、戦場で役割を引き受ける覚悟の宣言だった。

彼女は敵の核へ届く前に、再生そのものを止める手段を持っているのかもしれない。

 

ゲイツは斬撃の隙間で距離を保ち、タンクが射線を引ける角度を作りながら返した。

「……言ったな、なら証明しろ。」

 

一拍の静寂が落ち、砲身が巨体へ照準を合わせる。

創華は呼吸を整え、撮影現場で段取りを守る時みたいに、手順を頭の中で復唱していた。

恐怖は消えないが、恐怖のせいで手順を捨てないと決めた顔になっている。

 

ゲイツは疾風の速度で敵の視線を自分へ固定し、攻撃の初動を潰す位置へ回り込んだ。

アナザーアマゾンオメガの腕が振り上がるたびに、ゲイツは斬撃で関節の動きを刻み、動作を鈍らせる。

それは倒すための斬りではなく、止めるための斬りであり、勝ち筋をタンクへ渡すための布石だった。

 

「来い、俺が止める、だからお前は貫け。」

ゲイツの言葉は創華への命令ではなく、共同作業の合図として短く鋭い。

 

タンクの履帯がさらに唸り、重砲がわずかに角度を変え、巨体の中心線へ狙いを定めていく。

創華の声が装甲の奥から響き、震えを含みながらも、今度は逃げない強さが混ざっていた。

 

「はい、射線、通します……だから、絶対に生きて帰りましょう!」

 

ゲイツは再び駆け、疾風の軌跡で巨体の正面へ踊り込み、視界と注意を完全に奪った。

アナザーアマゾンオメガの咆哮が遅れて響き、腕が振り下ろされる刹那、ゲイツは刃で受け流し、身体を捻って懐へ潜る。

そして次の一歩で、敵の動きが止まる瞬間だけを作り出し、タンクが撃つための“止まった世界”を戦場に生み出した。

 

その止まった一瞬へ、砲撃の閃光が入る。

 

ゲイツは疾風のまま踏み込み、世界の粘度をさらに薄くするように間合いを詰めた。

アナザーアマゾンオメガの巨体が腕を振り上げるより早く、関節の動きだけを削る斬撃が走る。

切り裂くためではなく止めるための角度で、肩、肘、手首へ刃が滑り込み、巨腕の軌道が途中で噛み合わなくなる。

咆哮が遅れて響き、怒りの反射が遅れるその一拍を、ゲイツは逃さず奪い続けた。

 

巨体が踏み込もうとしても、足首へ走る切先が重心の移動を許さず、全身の動作が一瞬ずつ詰まっていく。

再生が追いかけてくるが、再生した瞬間にまた同じ箇所を切り直され、動きだけが封じ込められていく。

アナザーアマゾンオメガは力で押し潰すしかなくなり、だがその力を振るう前に速度で縫い止められていた。

 

その間にタンクは、すでに撃つ準備を終えていた。

履帯が低く唸り、装甲の継ぎ目が次々に展開し、外板が開くたびに砲口が顔を出す。

ひとつではない、ふたつでもない、無数の砲台が身体の各所から立ち上がり、街路の空気が火薬の匂いを待ち始める。

 

「ゲイツさん!」

その呼びかけは合図であり、同時に「撃ちます」という宣言だった。

 

ゲイツは返事をするより早く、息を詰めて身体を引いた。

「っ!」

短い声だけが漏れ、次の瞬間には疾風の残像がその場から消えていた。

 

タンクの砲台が一斉に唸り、火花が線になって空へ走った。

直後に轟音が重なり、無数の砲弾が一斉射として放たれ、巨体の周囲へ雨のように降り注ぐ。

爆発の光が通りを白く塗りつぶし、衝撃波が窓ガラスを震わせ、破片が風に舞い上がった。

 

アナザーアマゾンオメガの巨体が爆炎に押し上げられ、重力を忘れたように宙へ浮く。

質量があるはずなのに、砲撃の連打がそれを上回り、巨体は空中で姿勢を崩したまま舞い上がった。

再生が追いつく前に次の爆発が重なり、肉と装甲の境目が裂け、動作の芯が完全に折られていく。

 

爆煙の縁で、ゲイツは冷静にジカンジャックローを構え直した。

狙うべきは肉ではなく核であり、核へ届かせるための切り札は一撃で終わる速度と貫通力だった。

ゲイツは手元のナイトサバイブライドウォッチを掴み、ためらいなくジカンジャックローへ装填する。

 

『ジカンジャック!疾風!スーパーつめ連斬!』

 

音声と同時に刃が変形し、刃先は鋭い楔のような形を取り、全体が矢のようなシルエットへ収束した。

武器が武器であることをやめ、撃ち出すための弾体へ変わった瞬間、ゲイツの体感時間がさらに細く研ぎ澄まされる。

空中で煽られる爆煙の粒が止まり、砲弾の残光が一本の線として残り、巨体の落下がゆっくりと始まる。

 

ゲイツはその“遅い落下”へ向かって、ミサイルのように突っ込んでいった。

疾風の青い軌跡が地面から跳ね上がり、街路の真ん中に一本の稲妻が走る。

 

「はぁ!」

 

叫びと同時に、ジカンジャックローが唸り、連斬の衝撃が一点へ集中する。

ゲイツは空中へ飛び上がり、巨体の胸元へ狙いを定め、再生が最も厚く守る場所へ強引に刃を通した。

連続の斬撃が一つの槍になるように収束し、肉を裂き、装甲を割り、最後に脈打つ異物へ辿り着く。

 

刃がアナザーウォッチへ噛み込んだ瞬間、嫌な振動が全身へ返ってきた。

時間の歪みが破裂するような音がして、光が一瞬だけ内側へ吸い込まれ、次の瞬間に外へ吐き出された。

アナザーアマゾンオメガの巨体は、宙で一拍止まり、そして爆散した。

 

爆炎が花のように広がり、破片が黒い雨として落ち、街路へ焼けた匂いが叩きつけられる。

ゲイツは空中で姿勢を整え、着地の瞬間に路面を蹴って衝撃を逃がし、そのまま数歩だけ滑って止まった。

 

「ゲイツさんっ!」

タンクが履帯を回し、爆煙の向こうから駆け寄ってくる。

創華の声には、撃てたことへの安堵と、倒せたことへの確信が混ざっていた。

 

ゲイツは振り返り、呼吸の乱れを一度だけ飲み込み、短く言葉を落とした。

「……よくやった。」

 

その一言に、タンクの装甲の奥で創華が少しだけ息を漏らし、嬉しそうに頷いた気配が伝わる。

勝利の余韻が立ち上がるより先に、ゲイツの視線はもう次の異常へ向いていた。

爆煙の向こうに残った“鏡が割れたような感触”が、事件は終わっていないと告げていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。