仮面ライダージオウ 外伝 FUTURE大戦   作:ボルメテウスさん

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2033:(間章) 舞台裏

ウォズは繁華街の裏通りを歩きながら、路面に落ちる看板の影が不自然に揺れていることへ先に気づいた。

風向きが一定にならず、冷たい風だけが上から下へ流れ落ちるように通りを撫で、街の音から生活感を奪っていく。

彼は足を止めずに周囲を見渡し、避難導線と視界の死角を同時に測りながら、歴史の綻びがまた開いたと悟った。

 

頭上の雲が裂けるように動き、次の瞬間には黒い影が一直線に落下し、ビル風では説明できない風圧で地面へ迫る。

ウォズは空を見上げたまま、吐息をひとつだけ整え、感情より先に役割へ戻るように口元を歪めた。

「……またですか、スウォルツは本当に厄介な盤面を用意してくれますね」

 

影は着地の衝撃で粉塵を巻き上げ、その中心から翼を持つ異形のライダーが姿を現し、背中の羽根が刃物のように鳴った。

ウォズは一歩も退かず、懐からミライドウォッチを引き抜き、ビヨンドライバーへ繋ぐ動作を迷いなく始める。

だがイカロスは儀式を許さず、翼を振って風を刃へ変え、通り一帯の空気を握り潰すように押し寄せさせた。

 

風はただの突風ではなく、狙いを持った手のひらのようにウォズの指先だけを叩き、ミライドウォッチを路面へ弾き飛ばす。

硬いプラスチックの音が転がり、ウォズの視界の端でウォッチが排水溝の方へ跳ね、最悪の角度で消えかけた。

ウォズは追うより先に敵の軌道へ身体を差し込み、変身不能の現実を呑み込みながら、素手のまま立ち位置を変える。

 

「なるほど、私の祝辞を封じるとは、ずいぶんと礼儀の欠けた舞台装置のようです」

イカロスは返答を持たず、翼の先端を開閉させて風を圧へ変え、建物の隙間からウォズを押し潰す角度で突っ込んでくる。

その瞬間、ウォズの胸に薄い寒気が走り、恐怖というより「恐怖を作られる前兆」が肌の内側に貼り付く感覚が生まれた。

 

イカロスは人の感情を嗅ぐように、頭部の瞳を細めてこちらを値踏みし、逃げ道の少ない地点へ風の壁を立てる。

ウォズは壁際へ追い込まれながらも、声色を崩さず、敵の狙いが肉体より精神にあると読み取ってしまう。

「恐怖を吸うのなら、恐怖を見せなければよいのですが、こちらは変身不能でしてね」

 

イカロスの突進が来る。

羽根が盾にも刃にも変わり、前面へ展開した翼が壁のように迫り、風圧が骨の内側を揺さぶる。

ウォズは身を捻って受け流し、背中を路面へ擦りながらも立ち直り、次の一撃が致命角へ入る前に距離を詰めて軌道を潰す。

それでも敵の出力は増し、空気が重くなるほどに、周囲の人影がいないのに「誰かの怯え」が街に漂い始めた。

 

「スウォルツは、失われた可能性まで引きずり出し、こうして実体へ縫い付けたわけですか」

ウォズが言い終えるより早く、イカロスは回転しながら地面を削り、竜巻の芯を作って突っ込んでくる。

避ければ背後の店舗が裂け、受ければ骨ごと持っていかれる速度で、風と質量が同時に襲いかかる。

 

その刹那、横合いから水彩の飛沫のような光が飛び、竜巻の輪郭へ色を塗るようにぶつかって爆ぜた。

イカロスの突進が一拍だけ鈍り、風の芯が乱れ、ウォズの前から致命の角度が外れていく。

ウォズが視線を向けると、通りの端から小さな影が跳ね、まるで空中に道を描くように滑り込んできた。

 

小さな少女が笑いながら前へ出て、危険を恐れるより先に好奇心で戦場を測り、武器を構え直す。

「わたしはゆかりっていうの、よろしくお願いしますって言いたいけど今は止めるね!」

その明るさが場違いすぎて、ウォズは一瞬だけ台本を忘れたように瞬きし、次に自分の表情が揺れたことへ気づいてしまう。

 

イカロスは少女へ向けて風を絞り、恐怖を引き出すように圧を集中させるが、少女は足元に滑る道を描いて逃げずに踏み込む。

ローラーが路面を噛む音が軽快に響き、彼女は翼の死角へ回り込み、色の弾を散らして風の流れを撹乱した。

ウォズはその動きが偶然ではなく、危険を嗅ぎ分けた上での最適解だと理解し、彼女が未来由来の戦闘感覚を持つと判断する。

 

「君は一体、どこの未来の仮面ライダーなのですか、私は資料に君の名を見つけていません。」

「わたしは仮面ライダーウォッシュで、きれいにして帰るのが好きなの、だから壊すのはやめてね!」

会話の最中にもイカロスの風は鋭さを増し、恐怖を増幅するように街角の空気を冷やし、ウォズの背筋へ見えない針を刺す。

 

ウォズは変身できない現実を受け入れ、だからこそ戦い方を切り替え、祝辞の代わりに戦況整理を言葉で刻み始めた。

「よいでしょう、私が動けぬなら、私の役目は歴史の意味づけではなく、君の勝ち筋を言語化することです」

彼は落ちていったミライドウォッチの方向を一瞬だけ見てから、イカロスの翼の可動域と風の癖を読み、少女へ短く指示を投げる。

 

「風の芯を崩せば突進は鈍ります、ならば翼の付け根を狙い、色で流れを汚していきなさい」

ゆかりは大きく頷き、返事の代わりにローラーで軌道を描き、空中へ道を延ばして翼の上を駆け抜けた。

イカロスは苛立ちを咆哮へ変え、恐怖を吸おうとして風を濃くするが、濃くなったぶんだけ流れが見え、ウォズの読みが当たっていく。

 

戦場は加速し、少女の軌道は線になり、風は刃になり、ウォズの言葉はそのすべてを結ぶ糸として張り詰める。

そしてウォズは、落ちたミライドウォッチを取り戻す隙を作るため、次の一手を組み立てながら、静かに口角を上げた。

 

ビルの谷間を抜ける風が、妙に冷たく粘ついていた。

ウォズは足を止めず、視線だけで空の流れを追っていた。

気配が一段だけ濃くなり、街の音が押し潰されていく。

 

影が落ちる。

落下ではない。

風に乗って滑空し、角度を変えて迫ってくる。

 

「……来ましたか」

 

仮面ライダーイカロスが、路地の入口に降りた。

翼が開き、羽根が刃のように光を裂く。

その足元に、丸い風の輪が生まれた。

車輪のような渦が回り、路面を蹴らずに加速する。

 

初手から速い。

直進ではない。

電柱を回り、看板を舐め、壁面へ跳ねる。

密集地形を、迷いなく噛み砕いていく。

 

ウォズがミライドウォッチへ手を伸ばす。

その瞬間に風が刺さり、指先だけを叩いた。

ウォッチが弾かれ、排水溝へ転がっていく。

変身の道が、一本で折られた。

 

「厄介ですね」

 

イカロスは翼を一度しならせ、風を鞭に変える。

見えない衝撃が街路を走り、コンクリ片が跳ねた。

その風が、感情を撫でるように冷えてくる。

恐怖だけを選び取るように、胸の奥へ触れてきた。

 

そこへ、ローラーの音が短く滑り込む。

ゆかりが空中に“路”を引き、角を切って入ってきた。

仮面の下にあるだろう幼い笑顔が先に出て、身体が迷いなく後から続く。

ウォズが一瞬だけ戸惑い、すぐに立ち位置を下げる。

今の彼は、守られる側へ回るしかない。

 

イカロスが旋回し、ゆかりへ風輪を投げる。

車輪状の渦が、地面を削りながら迫った。

ゆかりの路が揺れ、足裏の感覚が軽く浮く。

速度を維持すれば切断され、止まれば飲まれる。

 

ゆかりは路を短く切り、壁へ逃げた。

そのまま看板の裏へ潜り、風の芯を外す。

衝撃が背中を掠め、肋が軋むように響く。

 

「痛いけど…いける!」

 

イカロスは追い切らない。

翼を広げ、風を“面”にして押し付けてくる。

逃げ道が狭まり、息が薄くなっていく。

恐怖が膨れ、脚が一瞬だけ止まりそうになる。

 

イカロスの瞳が、そこを狙ってくる。

恐怖を吸い上げ、力へ混ぜる動きが見えた。

路の輪郭が滲み、ローラーが空を噛み損ねる。

一度の失速が、即座に捕食へ繋がる距離だ。

 

「くっ…!」

 

ゆかりは歯を食いしばり、視線を翼へ固定した。

風は翼から生まれ、翼が軽いほど回転が速い。

ならば重くする。

重くして、回転を殺す。

 

彼女はグラフティシューターを構える。

狙いは胴ではない。

翼の付け根と羽根の重なり目だけだ。

 

「ぬるぬるにする!」

 

インク弾が飛ぶ。

一発では足りない。

風が散らす。

だから近づく。

 

ゆかりは路を壁へ繋ぎ、縦に走った。

窓枠を踏み、鉄骨を蹴り、背面へ回り込む。

イカロスが振り返るより早く、二射目を翼へ叩く。

黒い染みが羽根に残り、風の膜が一瞬だけ乱れた。

 

イカロスが風圧で払う。

ゆかりの身体が浮き、路がほどけかける。

空中で足裏が迷い、胃が落ちる感覚が来た。

このまま落ちれば、次の風輪で終わる。

 

だが彼女は、落下を“加速”へ変えた。

路を短く描き、落ちる角度を斜めへ変える。

着地と同時にローラーが噛み、速度が戻る。

 

「当てるまでやる!」

 

三射目。

四射目。

今度は羽根の先端へ散らす。

インクが乾く前に、さらに重ねる。

羽根が重くなり、開閉が遅れる。

 

イカロスは苛立ち、突進を選ぶ。

風輪を足元で肥大化させ、体当たりの速度へ変えた。

狭い路地が震え、壁の広告が裂ける。

初見殺しの圧が、真正面から迫ってくる。

 

ゆかりの呼吸が詰まる。

恐怖がまた吸われ、頭が白くなる。

けれど彼女は、目だけは逸らさなかった。

 

「怖い…でも、守る!」

 

背後にはウォズがいる。

一般人が角を曲がって逃げる姿も見えた。

ここで退けば、風が街へ放たれる。

だから彼女は、避けるのではなく崩す。

 

突進の直前、翼が大きく開く。

その瞬間だけ、羽根の面積が最大になる。

重くした翼が、そこを弱点に変える。

 

ゆかりは路を低く描き、地面すれすれを滑った。

突進の下へ潜り、上へ向けてインクを撃つ。

翼の内側に塗料がべったり乗り、羽根が鈍く垂れた。

風輪が歪み、突進の芯が一瞬だけ逸れる。

 

「今だよ!」

 

ウォズが短く叫び、身を低くして瓦礫の陰へ入る。

ゆかりは跳ねる。

路を空中へ引き、回転で距離を稼ぐ。

足裏のローラーが唸り、加速の熱がふくらはぎへ溜まる。

 

イカロスが翼を立て直そうとする。

だが重さが戻らない。

羽根が開き切らず、風がまとまらない。

再生や修復の兆しはあるが、間に合う速度ではない。

 

ゆかりは一拍だけ呼吸を整えた。

胸が痛い。

脚も震える。

それでも路は消えていない。

 

「これで終わり!」

 

彼女はローラーを強く踏み、回転の勢いを蹴撃へ集めた。

カラーインフィキサ。

跳び回し蹴りが、翼の付け根へ叩き込まれる。

重くなった翼が逃げられず、衝撃が芯へ通った。

イカロスの姿勢が崩れ、風輪が砕ける。

 

次の瞬間、イカロスは地面へ叩き落とされた。

風が途切れ、街の音が戻った。

決着ははっきりしていた。

 

ゆかりは着地する。

膝が笑い、足首が熱く痛む。

路が揺れ、空中の線がほどけて消えていく。

勝ったのに、身体は軽くならない。

 

「だいじょうぶ?」

「へいき…ちょっとだけ、こわいの残ってる」

 

恐怖を吸われた余韻が、胸の内側に薄く残る。

ウォズは排水溝へ目をやり、まだ回収できないミライドウォッチを確認した。

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