仮面ライダージオウ 外伝 FUTURE大戦 作:ボルメテウスさん
エボルの召喚体が黒い粒子へ崩れた直後、交差点には勝利とは違う重さが残っていた。
浮いていた瓦礫はグラビティの制御で静かに降ろされ、壊れた街路だけが戦いの激しさを語っていた。
ソウゴはジオウⅡのまま剣を下ろしかけたが、胸の奥に刺さる違和感がそれを許さなかった。
「今の感じ……まだ終わってない。もっと大きい何かが来る気がする」
ガンナーは二丁拳銃を下ろさず、帽子の影から崩れたビルの向こうを睨んでいた。
オイカケもまた路面に残る歪んだ痕跡を追い、通常の敵とは違う重い気配を感じ取っていた。
グラビティは空へ目を向け、沈み始めた太陽の光が不自然に黒ずんでいくのを見逃さなかった。
「銃口を下ろすには早すぎたらしいな。今度の気配は、さっきの奴より陰が濃い」
「追跡反応が広がっている。一体じゃないようで、一つに集まっている感じだ」
「空間の歪みが沈みません。これは次の介入が始まっているのでしょう」
太陽が欠けたように黒く沈み、街の影が一斉に長く伸びた。
その逆光の中心から、黒緑に怪人化したライダーの影がゆっくりと歩いてくる。
BLACK RXの面影を残すシルエットは歪み、濁った赤い複眼には細かいひびが走っていた。
片方の触角は欠け、もう片方だけが異常に長く伸びて、闇の中で虫の脚のように揺れている。
胸には太陽ではなく、黒い日蝕のような円形のコアが脈打ち、ベルトの肉に埋まった器官が不気味に震えていた。
手元には杖に近い黒い武器が形成され、その先端から青白い刃が伸びたり縮んだりしている。
「ライダー……? ちがう……ちがう……オレが……RX……!」
ソウゴはその声に、敵意だけではなく苦しみが混じっていることを直感した。
それでも歩み寄る影は止まらず、黒い太陽の光を胸から漏らしてアナザーリボルケインを構えた。
「違うよ。そんな苦しそうな姿で、RXだなんて言わせない」
「太陽が……黒く、燃える……! ライダー……敵……光……壊す……!」
アナザーBLACK RXが腕を振ると、光刃が鞭のようにしなって街路を横薙ぎに裂いた。
ソウゴは未来視で軌道を読み、寸前で身を低くしてかわすが、刃の余波だけで路面が焦げる。
次の瞬間にはガンナーの銃弾が飛び、オイカケが側面へ走り、グラビティが重力で敵の足元を沈めていた。
「みんな、最初から全力でいこう。なんかいける気がするけど、油断したらまずい」
「なら、変わる前に撃ち抜く。悪いが、今回は様子見をする相手じゃない」
「逃げ道は俺が潰す。追いつける距離なら、絶対に逃がさない」
「動きを預かります。あなた方は決定打へ集中してください」
銃声が続き、ガンナーの弾丸が胸部と脚部へ正確に吸い込まれていった。
オイカケは弾道の隙間を縫って背後へ回り込み、敵の退路を潰すように斬撃を重ねる。
グラビティは右手を下ろし、アナザーBLACK RXの足元だけを重くして膝を路面へ沈ませた。
ソウゴはその一瞬を逃さず、ジオウⅡの未来視で見えた隙へ剣を叩き込んだ。
刃は肩口を裂き、黒緑の装甲の内側から濁った光と赤黒い火花が噴き出した。
アナザーBLACK RXは大きくよろめき、胸の黒いコアが痛みに反応するように激しく脈打った。
「ぐ、ぁ……効いた……効いたぞ……だから……次は……効かない……!」
傷口が震え、右肩から右腕へかけて黒鉄色の装甲が肥大していく。
銃撃で砕けたはずの箇所が硬化し、重力で沈んだ脚が逆に地面へ深く食い込んで安定した。
ソウゴはその変化を見て、強くなったというより、痛みを無理やり別の形へ変えたのだと理解する。
「今の、効いたから変わったんだ。攻撃を受けてから、体を作り替えてる」
「重い……硬い……痛みが……鉄になる……! もう……通らない……!」
ガンナーの次弾が右肩に命中したが、弾丸は重装甲に弾かれて火花だけを散らした。
グラビティがさらに重力圧をかけても、右脚は路面を割りながら耐え、巨腕が逆に振り上がる。
アナザーBLACK RXの右拳が叩きつけられ、重い衝撃で包囲の形が一気に崩された。
「さっきの弾がもう通らない。厄介どころか、撃つたびに硬くなるぞ」
「苦痛を材料にして、肉体を更新しています。攻撃が情報として利用されている」
「強くなってるんじゃない。無理やり耐えて、壊れながら進んでるんだ」
オイカケが背後から拘束しようとした瞬間、今度は左半身が黒い水のように揺れた。
ジオウⅡの斬撃で裂けた左肩が溶け、切断面が液体になって刃を受け流していく。
ガンナーの貫通弾も左脇を抜けたが、肉を穿つ手応えはなく、ただ濁った液体の中を通過しただけだった。
「溶ける……骨が、流れる……でも……逃げられる……!」
オイカケの腕から、アナザーBLACK RXの左半身がぬるりと抜け出した。
半透明に揺れる装甲の奥から青黒い光が漏れ、形を保っているのか崩れているのか分からない。
右半身は硬く、左半身は流れるという矛盾した姿が、戦場の常識を一気に奪っていく。
「掴めない。追いついても、そこに形がない」
「右は硬い、左は抜ける。まるで撃つたびに的が変わる」
「でも、ずっと痛がってる。あいつは無敵になってるわけじゃない」
ソウゴの言葉が終わるより早く、アナザーリボルケインの先端が黒い光を吸い始めた。
これまで受けた銃撃の熱、ジオウⅡの斬撃の光、グラビティの重力圧で生じた歪みまで、濁った渦へ混ざっていく。
アナザーBLACK RXはうめきながら武器を振り上げ、覚えた痛みをそのまま返すように光弾を放った。
「受けた……覚えた……返す……!」
黒い光弾は一度沈んだ後に跳ね、未来視で避けたソウゴの先へ回り込んできた。
ガンナーは銃撃で撃ち落とそうとしたが、光弾は銃弾の熱を飲み込んでさらに膨れ上がった。
グラビティは重力で軌道を落とすが、落ちた光は路面を這って再び跳ね、三人をまとめて吹き飛ばした。
ソウゴは転がりながら体勢を整え、ジオウⅡの視界の奥で次々に増える危険の線を見た。
未来が見えているのに、相手が変わるたびに見えた未来の意味まで変わってしまう。
攻撃すれば覚えられ、止まれば黒い太陽がさらに膨らみ、街そのものが飲まれていく。
「未来が見えても、変わった後の攻撃までは追いきれない」
「攻撃の情報を渡しすぎています。これ以上は適応が進むでしょう」
アナザーBLACK RXの胸の黒い太陽が一段強く発光し、右半身の装甲と左半身の液状化がさらに広がった。
装甲と肉体の境目は崩れ、もはやライダーの姿よりも、痛みによって形を保つ怪物に近づいている。
そしてアナザーリボルケインの刃が槍のように伸び、ソウゴの胸元へ向けられた。
「刺す……光を、流す……! 中から……壊す……!」
ソウゴは未来視で、その刃を受けた自分の内部が黒い光に歪められる光景を見た。
避けようとしても、避けた先へ液状の左腕が絡みつく未来が見える。
剣を構え直した瞬間、赤と青の残光が横から割り込んだ。
「ソウゴ、下がれ。今の刺突を受ければ終わる」
ゲイツリバイブが疾風の速度でソウゴを弾き出し、剛烈の重さで槍の軌道を受け止めた。
完全には止め切れず、装甲の表面に黒い光が食い込むが、致命の角度だけは外れている。
ゲイツは歯を食いしばり、剛烈の腕で刃を押し返しながら低く唸った。
「来てくれたんだ、ゲイツ。助かったよ」
「勘違いするな。お前が倒れるのは許さん」
別方向から、ウォズとウォッシュが駆けつけた。
ウォズは黒い日蝕を背負う敵を見て、祝辞を口にする余裕を初めて飲み込んだ。
ウォッシュは敵の色を見つめ、強さではなく痛みだけが積み上がっていることに顔を曇らせた。
「我が魔王を黒き日蝕へ捧げるわけにはいかない。どうやら祝辞より先に、警告が必要な局面のようです」
「あれ、強い色じゃないよ。痛い色が増えてるだけだよ」
「なるほど。強化ではなく、崩壊を伴う適応ですか」
ゲイツはアナザーリボルケインの刃を弾き、ソウゴの横へ立った。
その顔は焦ってはいないが、敵へ向ける警戒だけはこれまで以上に鋭い。
ゲイツリバイブの力でも、迂闊な攻撃は相手へ新しい耐性を与えるだけだと分かっていた。
「迂闊に撃つな。あいつは攻撃を覚える」
「でも、止まってても街が壊される。何もしないままじゃ、みんなを守れない」
「戦わねばならず、戦えば相手を完成させる。実に悪趣味な歴史の罠ですね」
アナザーBLACK RXはよろめきながらも立ち上がり、黒い太陽の光をさらに強くした。
右半身は重い鎧のように膨れ、左半身は流れる影のように揺れ、どちらも元の形を失い続けている。
苦しみの声は街路に響き、敵であるはずの姿に、ソウゴは一瞬だけ胸を締めつけられた。
「壊れる……強くなる……まだ……まだ、死ねない……!」
ソウゴはジオウⅡライドウォッチへ手を添え、黒い太陽を真正面から見据えた。
倒すだけではなく、止めるために戦うのだと、王になりたい自分の願いをもう一度確かめる。
その隣でゲイツが短く息を吐き、ウォズが逢魔降臨暦を胸元で押さえた。
「俺は最低最悪じゃない。最高最善の魔王になる」
「なら迷うな。守ると決めたなら、最後まで守れ」
「我が魔王、ここで問われているのは敵を砕く力ではありません。何を背負って時を進めるかです」
ソウゴは二人の声を聞き、ようやく自分一人で抱え込もうとしていた重さを手放せた気がした。
ゲイツが隣にいて、ウォズが後ろにいて、それぞれが違う時を背負ってここへ立っている。
その事実が、黒い太陽の闇に対して、細くても確かな光の線を作っていた。
「俺一人じゃ無理でも、みんなとならいける気がする」
その言葉に応えるように、ソウゴのジオウⅡライドウォッチが強く光った。
ゲイツのゲイツリバイブライドウォッチからは赤と青の残光が走り、ウォズのミライドウォッチが緑の光で応じた。
三つの光は空中で重なり、ソウゴの手元にあった破損したジオウトリニティライドウォッチへ流れ込んでいく。
「これ……壊れてたはずなのに。みんなの力に反応してる」
「まさか、俺たちの力が呼び戻しているのか」
「ジオウ、ゲイツ、ウォズ。三つの時が一つへ重なるならば、それは正しき歴史の頁にない答えとなる」
亀裂が光の糸で縫われ、沈黙していた内部の意匠が再び回り始めた。
黒い太陽の光が押し返されるように揺れ、ソウゴの手の中で三つの力が新しい形を取り戻していく。
ジオウトリニティライドウォッチは完全に復活し、確かな重さと温度を持ってソウゴの掌に収まった。
ウォズはその瞬間、ようやく祝福の言葉を選び取った。
それは予定された歴史を読む声ではなく、この場で生まれた可能性を認める声だった。
「祝え!新たなる歴史の一ページである!」
ゲイツはソウゴを見ず、黒い太陽の方だけを睨みながら言った。
だがその言葉には、かつての敵意ではなく、隣で戦う者への信頼が込められていた。
「ソウゴ、迷うな。今のお前なら扱える」
「うん。俺一人じゃ無理でも、三人ならいける気がする」
「我が魔王、三つの時を束ねる瞬間です」
アナザーBLACK RXは黒い太陽を背負い、アナザーリボルケインを震える手で構えた。
その複眼は割れたまま濁っていたが、三つの光に反応するように赤く揺らいでいる。
苦痛と怒りと混乱が混ざった声が、黒い逆光の中から絞り出された。
「太陽……三つ……光……敵……!」
ソウゴはジオウトリニティライドウォッチを握り、ゲイツとウォズの気配を左右に感じながら一歩前へ出た。
黒い太陽が街を飲もうとしても、ここには三人の時が重なっている。
その重なりこそが、未来を守るための切札になった。
「敵じゃない。これは、みんなで未来を守る力だ」
ゲイツが構え、ウォズが静かに頷き、三つの光がソウゴの前で夜明けのように広がった。
黒い日蝕を背負うアナザーBLACK RXと、三つの時を束ねるソウゴたちが向かい合う。
次の瞬間に始まる戦いは、ただ敵を倒すだけでは終わらない運命の決戦になるはずだった。