仮面ライダージオウ 外伝 FUTURE大戦 作:ボルメテウスさん
黒い日蝕のような光が街路を沈ませる中、ソウゴは復活したジオウトリニティライドウォッチを握り締めていた。
掌の中にある重さは単なる道具の重さではなく、ゲイツとウォズが同じ時を選んだ証のように熱を持っていた。
黒緑に歪んだアナザーBLACK RXは、濁った赤い複眼を震わせながら、胸の黒い太陽を不気味に脈打たせている。
「太陽……三つ……光……敵……!」
「敵じゃないよ。これは、みんなで未来を守る力だ」
ソウゴはジオウトリニティライドウォッチをジクウドライバーへ装填し、ゲイツとウォズの気配を背中に感じた。
その瞬間、三人の力が光となって重なり、ソウゴの意識は時計の内側めいた空間へ引き込まれていく。
ゲイツは腕を組んだまま鋭く前を見据え、ウォズは逢魔降臨暦を閉じるような仕草で静かに頷いた。
「迷うな、ソウゴ。今のお前なら扱える」
「我が魔王、三つの時を束ねる瞬間です」
『ジオウトリニティ!』
『ジオウ!ゲイツ!ウォズ!』
『ライダータイム!』
『仮面ライダージオウ!』
『トリニティタイム!』
『三つの力!仮面ライダージオウ!ゲイツ!ウォズ!』
『トリニティ!トリニティ!』
三色の光がソウゴの身体へ集まり、ジオウ、ゲイツ、ウォズの意匠が一つの装甲として組み上がっていく。
黒い太陽が放つ逆光を押し返すように、仮面ライダージオウトリニティが街路の中心へ立った。
その姿を見たアナザーBLACK RXは、アナザーリボルケインを震える手で握り直し、青白い刃に黒赤いノイズを走らせた。
「光……うるさい……刺す……消す……!」
ジオウトリニティはサイキョージカンギレードを構え、正面から黒い刃へ踏み込んだ。
一合目の衝突で路面の破片が跳ね、三色の光と黒い日蝕光が火花のように散った。
アナザーBLACK RXは右半身の重装甲で押し返そうとするが、ジオウトリニティの腕はまるで三人分の力で支えられているように揺るがない。
「正面から来る。受けるな、押し返せ」
「右肩と胸の間です。黒い太陽へ繋がる歪みがあります」
「そこを止めれば、苦しみも止められるんだね」
三人の声が一つの身体の内側で重なり、ジオウトリニティの動きから迷いが消えた。
ソウゴの直感が踏み込みを決め、ゲイツの判断が反撃を弾き、ウォズの分析が斬る位置を一点へ絞る。
サイキョージカンギレードがアナザーリボルケインを押し下げ、返す刃で黒い太陽の近くへ鋭い斬撃を刻んだ。
「ぐ、ぁ……効いた……効いたぞ……!」
アナザーBLACK RXは大きく後退し、胸の黒い太陽が不安定に明滅した。
ジオウトリニティの単純な力は、これまでの攻撃とは桁が違い、怪物の変質を待たずに押し込んでいた。
だが次の瞬間、斬られた部位の肉が黒い液体のように震え、刃が通った傷口が流れて形を変え始めた。
「覚えた……次は……流れる……!」
ジオウトリニティが再び斬り込むと、左肩の傷が液体のように崩れ、刃は抵抗を失って滑り抜けた。
同時に重装甲化した右腕が唸りを上げ、サイキョージカンギレードごとジオウトリニティを押し返してくる。
最初は力で勝っていたはずの距離が、数合の打ち合いの間に少しずつ詰め返されていた。
「手数を増やすな。あいつは追いついてくる」
「変質が進むほど、こちらの選択肢が削られています」
「でも、止めないともっと苦しむ。だったら、止める一撃を作るしかない」
アナザーBLACK RXはアナザーリボルケインを鞭状に伸ばし、ジオウトリニティの足元を絡め取ろうとした。
ゲイツの判断で身体が跳び、ウォズの読みで刃の伸びる角度を外し、ソウゴの意思でそのまま前へ出る。
しかし黒い刃は一度切り払われた瞬間に形を変え、今度は槍のように鋭く伸びて脇腹を狙った。
「受けた……覚えた……返す……!」
ジオウトリニティは刃を弾いたが、衝撃が装甲の奥へ残り、三人の意識に同時に痛みが走った。
黒い太陽は受けた攻撃の情報を取り込み、次の反撃へ変換するように不気味な熱を増していく。
ソウゴは敵が強くなっているのではなく、痛みを置き場にできず怪物の形へ変えているのだと感じていた。
その様子を少し離れた位置から見ていたグラビティは、地面へ落ちる破片の速度まで観察していた。
アナザーBLACK RXが攻撃を受けた瞬間には必ず苦痛で動きが止まり、その後に肉体の質感が変わる。
即座に無効化しているのではなく、受け、痛み、覚え、変わるまでに細い隙間が存在していた。
「皆さん、変質は即時ではありません。痛みを受けてから変わるまでに遅れがあります」
グラビティの声が戦場を横切り、ジオウトリニティの内側で三人の意識が同時に反応した。
ガンナーは銃口を上げ、ウォッシュはペンキの色を選び直し、オイカケは足の向きを敵の背後へ変える。
アナザーBLACK RXは胸を押さえるようにうめき、次の変化へ向かう途中の不安定な姿を晒していた。
「つまり、その隙間を撃ち抜けってことだな」
「固まる前に、色で止めればいいんだね」
「変わる前の一瞬を追う。それなら俺の役目だ」
「みんなが作ってくれる一瞬を、俺たちが決める」
ガンナーの銃弾が先に走り、右肩、左膝、武器を持つ手首へ正確に突き刺さった。
弾丸は倒すためではなく、動作の継ぎ目を縫い止めるために撃たれていた。
アナザーBLACK RXの右腕が硬化しようとした瞬間、関節部だけが遅れ、重い武器がわずかに下がる。
「撃ち抜くんじゃない。動きを縫い止める」
ウォッシュはその隙へ飛び込み、黒く流れようとした左半身へ鮮やかなペンキを叩きつけた。
ペンキは固めるのではなく、液状化しようとする流れの向きを乱し、逃げるはずの形を絡ませる。
アナザーBLACK RXの左腕は溶けながらも抜け出せず、色の重なりに足を取られるように揺れた。
「逃げる色をぐちゃぐちゃにするよ」
オイカケはその背後へ先回りし、敵が液状化で逃げるはずだった方向へ立ちはだかった。
彼は追いつくのではなく、逃げる未来を先に踏み潰すように位置を取っていた。
アナザーBLACK RXが背後へ流れようとした瞬間、その進路はすでに塞がれていた。
「逃げ道は追い越した。もう後ろには行かせない」
アナザーBLACK RXがもがき、黒い太陽の光を膨らませようとする。
その瞬間、グラビティが両手を広げ、敵の四肢と胸へ別々の重力をかけた。
右腕は地面へ沈み、左腕は横へ引かれ、両脚は逆方向へ縫い止められ、胸の黒い太陽だけが一点で固定される。
「ここで預かります。変わるための余白ごと、重力で止める」
「重い……流れない……変わる……変われない……!」
グラビティの白い複眼が揺れ、足元の路面が重力負荷で亀裂を増やした。
それでも彼は制御を緩めず、敵の痛みが新しい形へ変わるための時間そのものを押さえ込む。
アナザーリボルケインへ流れ込むはずだった黒い光も、胸のコアで詰まり、武器の刃が不安定に震えるだけだった。
「あなたの痛みを否定はしません。ですが、その痛みで誰かを壊させるわけにはいきません」
グラビティは歯を食いしばり、拘束の限界を悟りながらも右手をジオウトリニティへ向けた。
その一瞬だけ、アナザーBLACK RXは完全に動けなかった。
三人の時が重なる一撃を通すための、一度きりの道が開いた。
「ジオウトリニティ、今です」
ジオウトリニティはサイキョージカンギレードを握り直し、黒い太陽へ向けて踏み出した。
クロックオブザラウンドの中で、ソウゴ、ゲイツ、ウォズの視線が同じ一点に重なる。
攻撃の目的は敵を壊すことではなく、苦しみを力へ変え続ける黒い太陽を止めることだった。
「終わらせるよ。これ以上、苦しみを力に変えさせない」
「一点だけ狙え。余計な攻撃はするな」
「黒き太陽に抗う三つの時、その結末をここに刻みましょう」
『トリニティタイムブレーク!』
三色の光がサイキョージカンギレードへ集まり、一本の軌道になって黒い太陽へ向かう。
アナザーBLACK RXは攻撃を覚えようとして胸を震わせるが、変質へ移る時間はグラビティによって奪われていた。
刃は黒い太陽の中心を貫き、肉に埋まっていたアナザーウォッチ状の器官へ亀裂を走らせる。
「効いた……覚え……られない……太陽……消える……!」
黒い光が割れ、右半身の重装甲がひび割れ、左半身の液状化も形を保てなくなった。
アナザーBLACK RXは立っていることすらできず、崩れかけた身体で空を見上げた。
濁った複眼の奥に、一瞬だけ敵意ではない迷いの色が浮かぶ。
「オレは……RX……? 太陽……どこだ……」
「もう苦しまなくていい。ここで止めるから」
「終わらせる。それが今できる救いだ」
「黒き日蝕は退き、時は次の朝へ進む」
三つの光が内部を走り抜け、アナザーBLACK RXの身体は黒い粒子となって弾けた。
胸の黒い太陽は完全に砕け、アナザーウォッチ状の器官も細かな破片になって消えていく。
街に落ちていた黒い逆光が薄れ、沈んでいた太陽の色がようやく戻り始めた。
ジオウトリニティの光が静かに収まり、ソウゴたちは変身を解いた。
グラビティは膝をつきかけながらも、周囲の瓦礫を最後まで安全な位置へ降ろしていた。
ガンナーは銃を下げ、ウォッシュは消えた場所の色を見つめ、オイカケは敵の反応が完全に途切れたことを確認する。
「俺一人じゃ無理でも、みんなとなら本当にいけたね」
「気がするだけで済ませるな。次も勝つぞ」
ウォズは逢魔降臨暦を静かに開き、今生まれた歴史をそこへ刻むように指先でページを撫でた。
それは既に書かれていた未来ではなく、三人と仲間たちが選び取った新しい一行だった。