仮面ライダージオウ 外伝 FUTURE大戦 作:ボルメテウスさん
空が藍色に染まり始める頃、ソウゴ達はクジゴジ堂を後にした。彼らの目的は二つ──スウォルツの行方を探すことと、未来からの来訪者ジョニーから情報を引き出すことだ。
「二手に分かれよう」
ゲイツが提案した。
「俺とツクヨミは東側を調べる。ソウゴとウォズは南エリアを。ジョニーはどうする?」
ジョニーは少し考えてから言った。
「俺は……ソウゴについていく」
彼の視線はソウゴに向けられていた。
「了解」
ソウゴは頷き、ジョニーと共に歩き始めた。
「まずは街の様子を見て回ろうか」
南区の商店街を歩きながら、ソウゴは周囲に気を配っていた。スウォルツの痕跡を探す一方で、彼の心には別の疑問が渦巻いていた。
「我が魔王、何か気になるのかな?」
「あぁ、やっぱりウォズには気づいちゃった?実はジョニーに聞きたい事があってね」
「俺に?」
それに対して、ソウゴは頷く。
「ジョニーってさ、蓮太郎の事を知っているんでしょ?だから、教えて欲しくて」
「未来の仮面ライダーなのに、なんで過去の事に興味津々なんだ?」
その言葉に、ソウゴは苦笑する。
「確かに変かもね。でもさ、彼がライダーになってくれたって事は凄いと思うんだ」
ソウゴは思う。
神蔵蓮太郎は自分の人生に葛藤しながらも正義を選び取った一人だ。そんな人が未来で仮面ライダーとなっていることを考えると嬉しさを感じてしまう自分に気づく。
その為に。
「未来の事を聞かせて欲しいんだけど」
「・・・・・・いいぜ」
こうしてジョニーから未来の事を聞き始めた。
「シノビ……蓮太郎さんは強いぜ」
ジョニーはゆっくりと言葉を選ぶように話し始めた。夕日に照らされた顔には影ができていた。
力なき者を力の使い方を間違った者から守るためなら自らが傷付くことも厭わない、高潔で正義感の強い好漢。
そんな彼の背中を見て、ジョニーもまた力の使い方を学ぼうとしている。そしてその姿勢は確実に信頼を得る糧となっていた。彼と一緒に戦った仮面ライダー達も皆がその成長を認めていた。
その姿はまさに“正義の味方”だった。
「でもさ、君も見ていたでしょ?」
「何を?」
「未来は幾つも在る。俺達が選択しない限りは未来は続いていく」
その言葉の意味を噛み締める様に、ジョニーは頷く。
「じゃあその世界線でのアンタが見た未来とは全く違うってことか?」
そう言われるとソウゴは悩む。今までの話とは違う。未来が変わっているのは事実なのだ。そしてそれは良い変化だと思っている。
しかし本当にそれが正しいのか確信が持てないというのが本音だ。
このまま進んでいいのか不安なのだろうか?
「……多分だけどね」
「どうして自信がないんだ?」
その問いにはっきりと答える事ができない。
それ故の曖昧な表現であったが、それでも否定しなかった事が嬉しかったようだ。安堵したように息を吐いていた。
彼なりに色々と思う所があるんだろうなと想像ができた。
路地裏から漂う異臭にソウゴの足が止まった。ジョニーが警戒して前方を睨む。
「……何だこれ?」
ソウゴは眉をひそめた。嗅ぎ覚えのある匂い――血液と獣臭が混ざったような不快感が鼻腔を刺激する。足元の水溜まりに黒っぽい塊が溶け出している。胃袋が縮む感触に思わず唾を飲み込んだ。
路地の奥から湿った足音が響く。闇の中に赤く光る二つの目が浮かび上がった。異様な生物感と人間の気配が同居する歪さに背筋が粟立つ。
「我が魔王!」
ウォズの警告と同時に影が躍り出た。
筋肉質の胴体に爬虫類を思わせる鱗が浮かび、赤黒い斑点が脈打っている。牙が並ぶ口からは血の滴りが落ち、地面に染みを作る。鎖骨あたりに刻まれた《AMAZON α》の文字が嘲笑うように浮かび上がっていた。
「……アルファ」
ソウゴの指が震える。アナザーアマゾンアルファ。未来から現れたライダーを歪めた化け物。体内で血液が逆流するような圧迫感。心臓が破裂しそうに拍動する。
「人を食べた後みたいだな」
ジョニーの声が冷静に響く。だがソウゴの額に冷や汗が滲んだ。喉がカラカラに干上がる感覚。呼吸が浅くなり息苦しさを覚える。
「ウォズ!みんなを安全なところまで誘導してあげて!」
ソウゴは振り返らず命じた。恐怖に支配されず冷静を保とうとする自分の鼓動がやたら喧しい。掌の汗を拭おうとして諦めるとウォズが頷いて駆け出す気配だけが背中に届く。
「おい大丈夫か?」
ジョニーの低い声。顔を上げると彼の瞳には恐れより決意の方が濃い。「怖けりゃ下がってろ」と続くはずだった台詞を遮るようにソウゴは胸を張った。
「問題ないよ。ここで止まったら全て無駄になるから」
自分に言い聞かせる言葉だった。膝の震えはまだ収まらない。しかしそれ以上に使命感が燃え上がる。ここで怯んだら守るべきものが消えてしまうという恐怖に比べたら些細なことだ。
「やるしかないよね」
ソウゴの拳が固くなる。アナザーアマゾンアルファの口腔から滴る血痕が路地に落ちた。生臭い風が鼻を刺す。
まず動いたのはジョニーだった。腰のガンナードライバーがカチリと音を立てて展開する。革製のポーチから取り出したのは銀色の弾丸。
ジョニーの親指が弾丸の側面にあるセーフティリングを解除する。乾いた金属音が響く。まるで拳銃のスライドを引くように慣れた手つきだ。
『セット・アップ』
短く呟きながら弾倉へ装填。カートリッジ内部で回転式シリンダーが静かに嵌まる。トリガー部分が小さな液晶画面へ変化し《ACCESS》の文字が浮かび上がる。青白いホログラフィック表示が夜の街灯に反射する。
指先で確認するように液晶を滑らせるとエンブレムが展開。複雑な電子音が波紋状に広がっていく。ドライバーの中枢に設置されたエネルギータンクから微量の蒸気とともにオイル臭が漏れ出る。
ジョニーが躊躇なくトリガーボタンを押し込んだ。
カチャン!と鈍い打撃音とともにドライバー中央から小型マガジンユニットが射出され空中に放り出される。回転しながら飛び交う中でその輪郭は次第に複雑なパーツ群へ変貌していく。
「……変身」
ジョニーの低く抑えた声と同期するように弾丸型パーツ群がジョニーの身体へ吸い寄せられる。最初に胸部アーマーへ接合し次々に四肢へ配置されていく。その度にパチン!パチン!と軽快なプラスチックの音が鳴る。
最後にテンガロンハット状のヘッドユニットが収束するとき銀色の光柱が天へと伸びていく。金属フレームの結合部が火花を散らしながら正確な位置へ固定されていく。全体像は西部劇のガンマン然としているがそのスーツは精密な機械兵装そのものである。
全工程わずか三秒。無駄なく確実な武装展開だ。
「俺はガンナー。ウェポンライダーシステム適合者」
仮面ライダーガンナーへと変身する。
続いてソウゴ。
アナザーアマゾンアルファが咆哮と共に床タイルを蹴り上げ突進する寸前だった。
(負けるわけにはいかない……!)
掌に握りしめたライドウォッチが、カチッと小気味よい音が響く。同時に右手でベルト本体を抱え込み反時計周りに勢いよく回転させた。
「変身」『ライダータイム!仮面ライダージオウ!』
全身を包む音階のような電子音。
それと共に、ソウゴはジオウへと変身する。
路地の照明が粉々に砕け散り、金属片が雨のように降り注ぐ。ソウゴの指がジカンギレードのトリガーにかかり、ガンナーが両手の銃口を赤い鱗の怪物へ向ける。
「止まれッ!」
銃口が閃光を放つ。弾丸が空気を灼きながらアナザーアマゾンアルファの脚部へ命中するが——
『グオォォ……?』
歪んだ獣のような呻きと共に怪物は一瞥もくれなかった。瞳孔の細い双眸は彼らを素通りし、さらに奥へと這いずり進もうとしている。
「無視かよ……」
ソウゴが歯噛みする。
路地の壁に赤い爪痕が刻まれていく。鱗の隙間から蒸気のような熱気を漏らしながら怪物は進む。
その軌道の先——倒壊した廃ビルの陰には悲鳴を上げる人々が蹲っていた。中には女子供の姿も見える。
「畜生ッ!」
ソウゴは瞬時に壁を蹴って跳躍し、ジカンギレードを水平に薙ぎ払う。
ガキン!と鈍い衝撃音。
巨体を無理やり横へ弾き飛ばした。だが——
『ヒィ……アァ……ッ!』
アナザーアマゾンアルファは数メートル吹き飛んだ先でコンクリートに罅を入れながら回転し、すぐさま立ち直った。破壊された壁材が爆発のような土埃を巻き上げる。
その間も奴は人々の方へ向きを変え続けている。牙列の間から泡立つ涎が垂れ落ちるたびにアスファルトに焦げ跡ができた。明らかに"食料"を求めていた。
「喰う事しか頭に無いのか……」
ガンナーが舌打ちと共に跳躍し、真上から掃射を浴びせる。弾幕の中、怪物は逆方向へ跳び退いて壁面を削り取りながら避ける。その動きにはまるで痛みを感じていないような余裕があった。
ソウゴは胸を押さえるようにして叫んだ。
「ウォズ!他の住人の避難は!?」
『ほぼ完了している。だが……まだ一人逃げ遅れているようだ』
通信越しの返答が途切れると同時に——
ギャアアアアンッ!
鉄筋の束が破裂音を立てて粉砕され、コンクリートの破片が礫となって降り注ぐ。その中心でアナザーアマゾンアルファが吼えた。腹部の皮膚が盛り上がり赤い模様が脈打つように輝きを増している。
「来るぞッ!」
ソウゴとガンナーが同時に回避動作に入る。次の瞬間——
路地全体が震動し、崩落した建物から瓦礫の山が雪崩のように流れ込んできた。土煙の向こうで赤い影が宙返りしながら旋回。獲物の匂いを辿るような動きにゾッとする。
二人は互いの死角を補うように移動しながら射撃を繰り返すが、怪物は傷一つ負っていない。
『ゴルァァァッ!』
アナザーアマゾンアルファの咆哮が路地裏に木霊した。ビルの一隅が盛大にひしゃげ、鉄骨が蛇のように歪んでいく。その破壊力は最早災害級だった。
瓦礫の影から悲鳴が上がった。逃げ遅れた市民が転倒し、そこへアナザーアマゾンアルファの爪が伸びる――!
「間に合えッ!」
ソウゴが全力で跳ぶ。しかし距離が足りない。怪物の鉤爪が無防備な女性へ迫り――
「危ない!」
鋭い叱咤と共に黒い影が疾走した。
次の瞬間、轟音と共に怪物の攻撃からその市助け助けた人物は――。
「誰だ……?」
ソウゴの視線の先に立つのはスーツ姿の青年だった。整えられた髪。険しい眼差し。
「蓮太郎……?」
しかし目の前の彼は未来から来た仮面ライダーシノビではないか――そんな直感が走った。