仮面ライダージオウ 外伝 FUTURE大戦   作:ボルメテウスさん

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未来への王

アナザーBLACK RXを打ち砕いた余熱は、まだ街路のあちこちに残っていた。

黒い粒子は夜風に溶け、砕けたアナザーウォッチの破片も光を失っていたが、ソウゴの胸に残るざわめきだけは消えなかった。

勝ったはずなのに、勝利の先にある空気が重く、まるで誰かが戦場そのものを上から眺めているようだった。

 

その重さを破るように、交差点の奥でオーロラの幕が開いた。

そこから現れたスウォルツは、焦りも怒りも見せず、むしろ待ち望んでいた結末を迎えたように静かに歩いてくる。

彼の周囲には複数のアナザーライドウォッチが浮かび、倒されたはずの敵達の残滓が黒い光となって脈打っていた。

 

「お前たちは勝ったのではない。私のために力を選別しただけだ」

 

ソウゴはその言葉を聞き、疲労の残る身体で一歩前へ出た。

これまで守るために積み上げてきた戦いを、スウォルツの道具として語られることだけは許せなかった。

 

「そんな言い方、絶対に認めない。俺たちは誰かを守るために戦ってきたんだ」

 

ゲイツはソウゴの前へ半歩だけ出て、スウォルツの周囲に浮かぶウォッチを睨んだ。

ウォズもまた逢魔降臨暦を開かず、ただ冷えた視線でその異様な光景を見据えていた。

 

「挑発に乗るな、ソウゴ。あいつは今までの敵とは違う」

 

「我が魔王、この敵は過去の勝利さえ悪意の材料へ変えています」

 

スウォルツはアナザーディケイドライドウォッチを起動し、周囲に漂うアナザーライドウォッチを一斉に引き寄せた。

黒と赤の歪んだ装甲が全身を覆い、そこへ倒されたアナザーライダー達の力が墓標のように埋め込まれていく。

胸にはいくつものウォッチ状の器官が並び、肩や背中にはカード状の黒い装甲が広がり、裂け目のような扉が小さく開閉していた。

 

アナザーディケイドコンプリートとなったスウォルツは、軽く腕を振っただけで戦場の空間を歪ませた。

ガンナーの銃弾は撃ち出された瞬間に裂け目へ飲まれ、オイカケの追跡線は複数の痕跡へ分断されていく。

ウォッシュのペンキは歪んだ残滓に汚され、グラビティの重力制御も複数の時代の圧に乱されて、狙った場所へ届かなかった。

 

「常磐ソウゴ、お前の王の力を渡せ。お前の意見は求めん」

 

ジオウトリニティの力を残していたソウゴ達は、三人の意識を合わせて再び前へ出る。

サイキョージカンギレードが黒い裂け目を斬り払うが、そこへアナザーJの怨念じみた煤がまとわりつき、刃の勢いを削った。

さらにアナザーBLACK RX由来の変質が装甲を硬化させ、押し込むはずの一撃が途中で止められてしまう。

 

「俺たちの勝利を、そんなふうに使わせない」

 

「正面から押すな。どの力を使うか分からん」

 

「アナザーライダーの残滓が装甲に固定されています。攻撃のたびに別の歴史が噛み合ってくる」

 

ソウゴは押し返されながらも、まだ諦めていなかった。

平成ライダー達の歴史を束ねる力なら、この歪んだ完全形にも届くかもしれないと考え、グランドジオウライドウォッチを取り出す。

だがソウゴが力を込めても、ウォッチは沈黙したまま微かな光すら返さなかった。

 

「だったら、もっと大きな歴史の力で……!」

 

ゲイツがその手元を見て、険しい声で制止する。

ウォズもまた、開かない頁を前にした語り部のように、苦い表情をわずかに浮かべていた。

 

「ソウゴ、まさかグランドを使う気か」

 

「ですが、今の我が魔王にはまだその頁が開かれていないはずです」

 

グランドジオウライドウォッチは、アナザーディケイドコンプリートの歪みに阻まれたように沈黙していた。

それだけではなく、この戦いが平成の歴史だけではなく、まだ定まらない未来達によって作られた戦場であることも、ソウゴには何となく分かってしまった。

スウォルツはその沈黙を見下ろし、冷たく笑った。

 

「その力はまだお前のものではない。王の歴史すら閉じたまま、何を守るつもりだ」

 

ソウゴの手が一瞬だけ止まり、戦場の空気がさらに重く沈んだ。

その時、銃口を下げないままガンナーが前へ出て、低く乾いた声で言った。

 

「聞いていた話じゃ、グランドジオウはライダーの歴史を束ねる力なんだろう」

 

ソウゴが驚いて振り向くと、ガンナーは中折れ帽の影からスウォルツを睨んだまま続けた。

その声には焦りではなく、自由を奪われることへの静かな怒りが滲んでいた。

 

「なら、歴史が閉じているなら、未来を集めればいい」

 

「未来を集めるだと。そんなことが可能なのか」

 

「可能かどうかじゃない。今ここで、俺たちがそうすると決めるだけだ」

 

ガンナーは懐からブランクライドウォッチを取り出し、銃の力を込めるように指先で弾倉を弾いた。

その瞬間、空白だった盤面へ銃口と弾丸の紋章が浮かび、ウォッチは未来の光を帯び始める。

彼はそれを見て、報酬にも命令にも縛られない風来坊の笑みをわずかに浮かべた。

 

「スウォルツに勝手に呼ばれた未来でも、渡す相手くらい自分で決める」

 

その言葉に、未来から来たライダー達が次々と動いた。

ジェットは背中の推進光をブランクウォッチへ流し込み、空を切る青い軌跡を刻む。

カセキは古代生物の骨格を思わせる光を右腕から送り込み、失われた時代も未来を支える骨になると示した。

 

「未来は止まらない。だったら、君を乗せて進むだけだ」

 

「古いものだって、未来を支える骨になれる」

 

オイカケは追跡の軌跡をウォッチへ刻み、逃げる歴史すら追い詰める意志を宿した。

タンクは震える手でブランクウォッチを握り、それでも砲撃の光を込めてソウゴへ向かって強く頷いた。

ウォッシュは絵具の色を流し込み、汚れた未来を洗って描き直すように、光の路をウォッチの中へ描いた。

 

「逃げ道は追う。未来が逃げても、最後は捕まえる」

 

「怖いですけど、ここで撃たない方がもっと怖いです」

 

「ぐちゃぐちゃの未来なら、ちゃんと洗って描き直せばいいよ」

 

グラビティは小さな重力の輪を掌に作り、それを圧縮してブランクウォッチへ沈めた。

その光は派手ではないが、未来を支えるための重さとして、確かに盤面の奥で回り始める。

 

「未来を支える重さなら、私も預けましょう」

 

その七つの光に呼応するように、空間の奥でさらに四つの未来の記録が震えた。

シノビの力は風を切るマフラーのような残像となり、クイズの力は問いと答えのパネルのように光る。

キカイの力は規則正しい機械の鼓動としてウォッチの構造を支え、ギンガの力は星環のように広がって、すべての未来の光を一つの軌道へまとめていく。

 

ウォズはその光景を見て、いつものように即座に祝辞を放つことができなかった。

それは本に記された歴史ではなく、ここに集った未来のライダー達が自分の意思で選び取った瞬間だった。

 

「これは……正しき歴史の頁にはない。しかし、確かに彼らが選び取った未来です」

 

十一のブランクライドウォッチが、それぞれ異なる光をまとってソウゴの周囲へ集まっていく。

ガンナーは最初のウォッチを投げ、ソウゴはそれを両手で受け止めた。

続いてジェット、カセキ、オイカケ、タンク、ウォッシュ、グラビティの力が次々に渡され、さらにシノビ、クイズ、キカイ、ギンガの記録が光として加わっていく。

 

「みんな……本当に俺に渡していいの」

 

ガンナーは短く笑い、まるで当たり前のことを言うように肩をすくめた。

その言葉は乱暴に聞こえるのに、不思議とソウゴの迷いを軽くしていった。

 

「渡すかどうかは俺たちが決める。王様なら、黙って受け取れ」

 

ゲイツもまた、ソウゴの横でスウォルツを睨んだまま背中を押した。

その声には厳しさがあったが、そこにはもう疑いではなく信頼だけがあった。

 

「ソウゴ、迷うな。ここで受け取らなければ、あいつに未来を奪われる」

 

ウォズは一歩前へ出て、集まった未来の光を歴史の外から見つめた。

これが支配によって集められた力ではないことを、彼は誰よりもはっきり感じ取っていた。

 

「我が魔王、これは支配された未来ではありません。託された未来です」

 

十一のウォッチはソウゴの周囲を回り、互いの色を消し合うことなく噛み合っていった。

スウォルツの装甲に貼り付いたアナザーウォッチ達が濁った痛みの塊だったのに対し、こちらの光はそれぞれの個性を残したまま、時計の歯車のように整っていく。

やがて沈黙していたグランドジオウライドウォッチに似た輪郭が、未来の光を受けて新しい姿へ再構成された。

 

銀白と青紫の層が重なり、透明なギアが内部で多層に回る。

表面にはガンナー、ジェット、カセキ、オイカケ、タンク、ウォッシュ、グラビティの意匠が順に浮かび、さらにシノビ、クイズ、キカイ、ギンガの記録が環状に並んだ。

それは過去の歴史を背負う王冠ではなく、まだ定まらない未来達が自分の意思で託した、新しい王のためのライドウォッチだった。

 

「これが……みんなの未来の力」

 

スウォルツはその光を見て、不快そうに目を細めた。

奪って集めた力と、託されて集まった力が、同じ集合でありながらまったく違う意味を持つことを理解したからだ。

 

「未来を集めたところで、それも私の器へ入るだけだ」

 

「違うな。お前が奪った力と、俺たちが託した力を一緒にするな」

 

「奪われた未来は重く沈みます。ですが、託された未来は支える力になる」

 

「これはぐちゃぐちゃじゃないよ。ちゃんとみんなの色が残ってる」

 

ウォズはそこでようやく、祝辞の形を選んだ。

それは既にある歴史を読み上げる声ではなく、今この場で生まれた未来を認める声だった。

 

「祝え。過去の歴史ではなく、未来の意思が我が魔王へ集う瞬間である」

 

ソウゴはフューチャージオウライドウォッチを握り締め、アナザーディケイドコンプリートと向かい合った。

その光は黒い裂け目を押し返し、未来ライダー達の紋章が空中へ並んで、ソウゴの背に見えない翼のような輝きを作る。

スウォルツはわずかに顎を上げ、まだ自分の器が上回ると信じる冷たい笑みを浮かべた。

 

「俺はみんなの未来を、部品なんかにさせない」

 

「行け、ソウゴ。今度は未来の力であいつを止めろ」

 

「我が魔王、新たなる時の姿を示す時です」

 

「よかろう。その未来ごと、私が奪ってやる」

 

フューチャージオウライドウォッチは、ソウゴの掌の中で強く輝いた。

奪って集めた力をまとうアナザーディケイドコンプリートと、託されて集まった未来を握るソウゴが真正面から向かい合う。

次の瞬間、まだ誰も知らない未来の王の姿が、黒い裂け目の前で開かれようとしていた。

 

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