仮面ライダージオウ 外伝 FUTURE大戦 作:ボルメテウスさん
スウォルツが消えた場所には、もう黒い裂け目も、アナザーライドウォッチの残骸も残っていなかった。
ただ、焼けた空気の名残だけが戦場に漂い、砕けた瓦礫の隙間を、遅れて戻ってきた風が静かに抜けていく。
フューチャージオウの装甲に宿っていた十一の紋章は一つずつ光を落とし、最後にはソウゴの手元に残るライドウォッチの中で、静かに時を刻み始めた。
ソウゴは変身を解き、掌に残った未来の重みを確かめるように、フューチャージオウライドウォッチを見つめた。
それはもう戦うためだけの力ではなく、未来から来た者達が、自分の意思で託してくれた証だった。
「終わったんだよね。今度こそ、本当に」
ゲイツは周囲を見渡し、まだ武器を下ろしきらないまま、空間の揺らぎを探っていた。
先ほどまで戦場を裂いていたアナザーワールドの気配も、スウォルツが残した圧も、今は跡形もなく薄れている。
「スウォルツの反応は消えた。タイムジャッカーの気配もない」
ウォズはスウォルツが最後に向けた視線を思い出しながら、ゆっくりと逢魔降臨暦を閉じた。
勝利を祝うべき場面だと分かっていても、歴史の中へ消えた男の言葉が、彼の胸に小さな棘のように残っていた。
「ええ。少なくとも、この戦いにおける黒幕は、歴史の中へ消えました」
グラビティは瓦礫の浮き沈みを見ながら、ゆっくりと手を下ろした。
乱れていた空間の重さが元へ戻り、戦場に散っていた未来の座標が、少しずつ本来の流れへ収まり始めている。
「空間の重さも戻っています。時空の歪みが閉じ始めていますね」
その言葉に応じるように、少し離れた場所でタイムマジーンが低い起動音を鳴らした。
ツクヨミが操作パネルを確認すると、乱れていた時代座標が、ひとつずつ安定した光へ変わっていく。
未来へ繋がる道が、ようやく帰るための形を取り戻したのだ。
「タイムマジーンの座標が安定してる。これなら、みんな元の未来へ帰れる」
ソウゴはその報告を聞き、安堵と寂しさが同時に胸へ広がるのを感じた。
戦いが終わったことは嬉しいはずなのに、共に戦った者達が自分の時代へ戻っていくと思うと、別の痛みが生まれてくる。
「そっか。みんな、帰れるようになったんだ」
ガンナーは銃をホルスターへ戻し、中折れ帽のつばを軽く押さえた。
その仕草はいつも通り素っ気ないが、戦場から完全に背を向けるには、ほんの少しだけ間があった。
「ようやくか。長居するつもりはなかったが、悪くない寄り道だった」
ジェットは空を見上げ、壊れたビルの向こうに戻り始めた青を目に焼きつけるように息を吐いた。
未来へ帰れば、この時代の空を見る機会は二度とないかもしれない。
「帰れるなら帰るさ。でも、この時代で見た空は忘れない」
カセキは砕けた路面に残る足跡を見下ろし、遠い過去と遠い未来が一つの場所で交わった不思議を噛みしめていた。
彼にとって、この時代は古いだけの場所ではなく、未来を支える骨のような時間になっていた。
「過去に来て、未来を守るとは不思議な体験だったな」
オイカケは周囲の痕跡を確認し、ようやく追跡を終えた者のように肩の力を抜いた。
追い続けるために来た未来のライダーは、最後に自分の帰る道を見つけている。
「追跡完了だ。あとは自分の時代へ戻るだけだな」
タンクはタイムマジーンを見上げ、安心したように笑った後で、少しだけ目を伏せた。
帰れることが嬉しくないわけではないが、この時代で得た勇気を置いていくようで、胸の奥が落ち着かなかった。
「帰れるのは嬉しいです。でも、少しだけ寂しいですね」
ウォッシュは戦場に残った色を見つめ、黒く濁っていた空気が少しずつ薄い朝の色へ戻っていくのを感じていた。
それぞれの未来が、本来の場所へ帰っていく光景は、洗い終えた絵筆から水が澄んでいく様子に似ていた。
「みんなの色が、ちゃんと自分の未来へ戻っていくんだね」
グラビティはソウゴへ向き直り、礼儀正しく頭を下げた。
その所作は戦場に立つ仮面ライダーのものというより、未来で多くの人を支えてきた支援者の姿に近かった。
「ご協力に感謝します。未来を支える仕事へ戻るとしましょう」
タイムマジーンの準備が進む間、未来ライダー達はソウゴの前に集まった。
大げさな別れの式ではなかったが、それぞれが自分の言葉を残すために、ほんの少しだけ時間を使った。
ソウゴは一人ずつ顔を見て、彼らの未来がもう自分の中にも刻まれていることを感じていた。
ガンナーは最初に口を開いた。
銃を抜かず、戦場で見せる鋭さを少しだけ和らげた声で、彼らしい忠告を置いていく。
「ソウゴ、次に撃つ時は迷うな。王様ってのは、撃つべき時を外さない奴だ」
「うん。ガンナーの力、ちゃんと覚えておく」
ジェットは軽く笑い、背中の推進器を小さく鳴らした。
未来の空を飛ぶ彼らしく、別れの言葉も立ち止まるためのものではなかった。
「未来は止まらない。君も止まらないでくれ」
カセキは静かに頷き、古い時代と新しい時代を繋ぐように、重みのある声で言った。
「古いものも、新しいものも、同じ時の上に立っている」
オイカケはソウゴを真っ直ぐに見て、追跡者らしい短い言葉を投げた。
「逃げるなよ、常磐ソウゴ。自分で選んだ未来なら追い続けろ」
タンクは両手を握りしめ、まだ少し震えながらも、今度は目を逸らさなかった。
「怖くても進めるって、ソウゴさんに教わりました」
ウォッシュはソウゴの手元のフューチャージオウライドウォッチを見て、柔らかく笑った。
「未来が汚れたら、また描き直せばいいよ」
グラビティは最後に、穏やかな声で言葉を選んだ。
金や力では支えきれないものを、この時代で見た者としての言葉だった。
「あなたは、人の未来を部品にしない王でいてください」
ゲイツはその一連の言葉を聞き、呆れたようでいて、どこか誇らしげにソウゴを見た。
これほど多くの未来から背中を押される高校生など、普通なら考えられない。
「ずいぶん大勢に言われたな、ソウゴ」
「うん。なんか、王様って本当に大変なんだね」
ソウゴが苦笑すると、わずかに張り詰めていた空気が緩んだ。
しかし、すべてが終わったわけではないことを、ウォズだけは静かに感じ取っていた。
彼は逢魔降臨暦を開き、戦いで回復した歴史の頁を確認していく。
未来の歪みは閉じつつある。
スウォルツが生み出したアナザーライダーの残滓も消え、タイムジャッカーの気配もない。
だが、平成ライダーの歴史を揃えるための頁の中に、一つだけ空いたままの場所が残っていた。
「我が魔王、未来の歪みは閉じつつあります。ですが、まだ一つだけ頁が空白のままです」
ソウゴは未来ライダー達から視線を戻し、ウォズの表情を見た。
祝福者としてではなく、記録者として事実を告げる時の顔だった。
「空白って、どういうこと?」
「ドライブライドウォッチ。平成の歴史を揃えるうえで、未だ我々の手元にない力です」
その名前が出た瞬間、ゲイツの表情が鋭くなった。
大きな戦いが終わった直後に残された欠落は、ただの忘れ物とは思えなかった。
「タイムジャッカーはもういない。なら、誰がその欠落を作っている」
ツクヨミも操作パネルから顔を上げ、時空の反応を見つめ直した。
敵がいる時は分かりやすかった。
しかし今は、敵の気配がないのに、歴史の一部だけが揃っていない。
「敵がいないのに、歴史だけが揃っていない……?」
ウォズは静かに頷いた。
その声音は不穏さを煽るものではなく、次に進むべき道を示すものだった。
「だからこそ厄介なのです。これは攻撃ではなく、まだ回収されていない歴史の宿題と言うべきでしょう」
ソウゴはフューチャージオウライドウォッチを握り直した。
未来の戦いは終わった。
けれど、王様になるための道はまだ続いている。
「じゃあ、まだ終わってないんだね」
「戦いは終わった。だが、お前の道はまだ終わっていない」
ゲイツの言葉はいつものように厳しかったが、そこにはもう突き放す冷たさはなかった。
ソウゴは頷き、ドライブライドウォッチという未だ見ぬ欠落を、次に会いに行くべき歴史として受け止めた。
未来ライダー達も、その会話を聞いていた。
帰る前に新しい問題を知ってしまった彼らは、しかしそれを自分達が抱え込むのではなく、ソウゴへ託すように言葉を残していく。
「まだ仕事が残ってるなら、片付ければいい。お前なら撃ち抜けるだろ」
ガンナーの声に続き、ジェットが軽く親指を立てる。
「道が足りないなら飛べばいい。君はそういう王様だと思う」
カセキは穏やかに笑い、欠けた歴史を恐れるなと告げるように続けた。
「欠けた歴史も、見つければ骨になる」
オイカケはすでにタイムマジーンへ向かいながら、肩越しに言った。
「追うべきものがあるなら追え。逃がしたままにするな」
タンクは少し緊張した顔で、それでも今度は強く頷いた。
「大丈夫です。ソウゴさんなら、きっとできます」
ウォッシュは空に残る薄い色を見上げ、ドライブの欠落を一つの未完成の絵のように捉えていた。
「欠けてる色があるなら、探しに行けばいいだけだよ」
グラビティはタイムマジーンの入口で振り返り、最後に深く頭を下げた。
「未来はあなたを見ています。どうか、軽く扱わないでください」
ソウゴは一人一人の言葉を受け取り、胸の中でゆっくりと頷いた。
彼らから託された未来は、ここで終わる力ではない。
これから先、どの歴史と向き合う時も、自分の背中を支えてくれるものになる。
「ありがとう。みんなに貰った未来、ちゃんと持っていくよ」
タイムマジーンが起動し、未来へ繋がる光が開いた。
それぞれの時代ごとに色の違う光が重なり、戦場だった場所を、静かな出発の場へ変えていく。
ガンナーが最後に帽子を上げ、ジェットが空へ向けて手を振り、カセキとオイカケがそれぞれの未来へ歩き出す。
タンクは何度か振り返りながらも、最後には自分の足でタイムマジーンへ乗り込んだ。
ウォッシュはソウゴへ大きく手を振り、グラビティは礼儀正しく一礼してから光の向こうへ進んだ。
「また会えるかな」
ソウゴの声は、別れを惜しむというより、未来へ向かって投げた小さな願いだった。
ガンナーは振り返らず、しかし確かに聞こえる声で答えた。
「未来に用があるなら、そのうちな」
ウォッシュが光の奥で笑い、色の残像を揺らした。
「会いたくなったら、きっと色で分かるよ」
グラビティは最後に一度だけ振り向いた。
「再会があるなら、その時は援助ではなく対等な協力として」
タンクは少しだけ涙ぐみながら、けれど笑顔で手を振った。
「さようなら、じゃなくて、またいつか、ですね」
タイムマジーンの光が閉じる。
未来ライダー達の姿は、それぞれの時代へ戻っていった。
戦場に残ったのは、ソウゴ、ゲイツ、ツクヨミ、ウォズ、そして静かに時を刻むフューチャージオウライドウォッチだけだった。
「行ったか。騒がしい連中だった」
ゲイツはそう言いながらも、完全に嫌そうな顔ではなかった。
ツクヨミは光が消えた空を見上げ、少しだけ安心したように息を吐く。
「でも、みんな帰れてよかった」
ウォズは逢魔降臨暦を閉じ、未来が本来の流れへ戻り始めたことを静かに受け止めた。
「未来は未来へ、時は本来の流れへ戻り始めました」
ソウゴは手元のフューチャージオウライドウォッチを見てから、まだ空白のまま残るドライブライドウォッチの頁へ意識を向けた。
スウォルツもタイムジャッカーもいない。
それでも、まだ会いに行かなければならない歴史がある。
「ドライブライドウォッチか。まだ、会いに行かなきゃいけない人がいるんだね」
ゲイツは隣に立ち、いつものように現実的な警戒を忘れなかった。
「気を抜くな。タイムジャッカーがいなくても、歴史の歪みが消えたとは限らん」
ツクヨミは静かに頷き、これまでの事件とは違う何かが始まろうとしていることを感じ取っていた。
「でも、今度は誰かに操られた事件じゃないかもしれない」
ウォズは二人の言葉を聞き、ゆっくりと本の表紙を撫でた。
そこに記されるべき次の物語は、まだ今ここで語るべきものではない。
「ええ。ゆえに、これは次なる物語です」
ソウゴは空を見上げ、少しだけ笑った。
大きな戦いが終わっても、王様への道は終わらない。
むしろ、誰かに奪われた未来ではなく、自分で選ぶ未来へ進むために、ここからまた歩き出すのだ。
「じゃあ、行こう。まだ揃ってないなら、ちゃんと探しに行かないと」
ウォズはその背を見届け、逢魔降臨暦を静かに閉じた。
本を閉じる音が、未来ライダー達との戦いの終わりを告げるように、穏やかに響いた。
そして彼は、読者に語りかけるような調子で、いつもの微笑をわずかに戻した。
「さて、これからの物語に関しては、また別の機会に」
空にはもう、未来ライダー達の光は残っていなかった。
ただソウゴの手元で、フューチャージオウライドウォッチが静かに時を刻んでいる。
そしてその隣には、未だ埋まらないドライブライドウォッチの空白が、次なる物語への扉として残されていた。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
今回は、映画『Over Quartzer』へ至るまでのIFルートをテーマに、未来から来た仮面ライダー達とソウゴ達の戦いを書かせてもらいました。
本編とは違う未来、本来なら交わらないはずのライダー達、そしてスウォルツが仕掛けたアナザーライダー達の事件。
それらを通して描きたかったのは、誰かに奪われ、都合よく組み込まれる未来ではなく、自分の意思で託し、選び取る未来でした。
フューチャージオウは、その象徴として生まれたIFフォームです。
グランドジオウが平成ライダーの歴史を背負う姿なら、フューチャージオウは未確定の未来を背負う姿として、ソウゴに託された可能性を形にしました。
長く続いた未来ライダー編はここで一区切りとなりますが、物語の中ではまだドライブライドウォッチが揃っていません。
戦いは終わっても、ソウゴ達の旅はまだ少しだけ続きます。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
そして、これからの物語に関しては、また別の機会に。